猫のひたいほどの裏庭におりたら、ブロック塀に、またトカゲが現れました。
日影から日向へ。日向へ出るとトカゲは止まり、そのまま日光浴でもするように動かなくなりました。
先日表にいたトカゲかしら? 裏に移動したのかな? それともここにはトカゲが何匹もいる?(ブルッ!)
足元にふと目をやると、ローズマリーに、キアゲハが逆さになっていました。
手をのばせば届くところです。美しい羽でした。顔を近づけても飛び立ちません。日がだいぶのぼってきてはいますが、まだ夢うつつなのでしょうか。枝に止まったままでした。
わたしはトカゲとキアゲハを交互に見ました。どちらもじっとしていました。
トカゲも蝶も、もう“しるし”ではないでしょう。
ただ庭に昆虫がいただけのこと。だって、ここにはバッタもアリもいる。
でも。
「……おばあちゃん?」
わたしは見えない空間に声をかけました。第六感も霊感もないけれど、それでも、そこに何もいないのは分かっていました。
「ありがとう。わたしは大丈夫だから。元気でね」
ただ、思いたかったのです。こじつけでもかまわないから。
――おばあちゃんが最後のあいさつに来た、と。
その日、用事があって実家に行きました。
勝手口にまわろうとすると、地面を、そこでもトカゲが走っていました。
家の外壁の、高いところには、セミのぬけがらがついていました。
よくあること。
実家でもトカゲは5年に1度は見かけるし、セミのぬけがらなんて、毎年見ている。
もちろん、勝手に想像をふくらませているのは分かっています。
それでもいい。私は信じたかった。
――おばあちゃんは、羽化したのだ――と。
体をぬぎすて、知人へのあいさつも終わり、次の世界へ行く準備ができましたよと。
もうそろそろ、本当にさよならですよと。
そう伝えに来たと。
空は梅雨も明け、ひたすらに青く、夏本番の暑さがやってきていました。
来週は、祖母の四十九日の法要です。
日影から日向へ。日向へ出るとトカゲは止まり、そのまま日光浴でもするように動かなくなりました。
先日表にいたトカゲかしら? 裏に移動したのかな? それともここにはトカゲが何匹もいる?(ブルッ!)
足元にふと目をやると、ローズマリーに、キアゲハが逆さになっていました。
手をのばせば届くところです。美しい羽でした。顔を近づけても飛び立ちません。日がだいぶのぼってきてはいますが、まだ夢うつつなのでしょうか。枝に止まったままでした。
わたしはトカゲとキアゲハを交互に見ました。どちらもじっとしていました。
トカゲも蝶も、もう“しるし”ではないでしょう。
ただ庭に昆虫がいただけのこと。だって、ここにはバッタもアリもいる。
でも。
「……おばあちゃん?」
わたしは見えない空間に声をかけました。第六感も霊感もないけれど、それでも、そこに何もいないのは分かっていました。
「ありがとう。わたしは大丈夫だから。元気でね」
ただ、思いたかったのです。こじつけでもかまわないから。
――おばあちゃんが最後のあいさつに来た、と。
その日、用事があって実家に行きました。
勝手口にまわろうとすると、地面を、そこでもトカゲが走っていました。
家の外壁の、高いところには、セミのぬけがらがついていました。
よくあること。
実家でもトカゲは5年に1度は見かけるし、セミのぬけがらなんて、毎年見ている。
もちろん、勝手に想像をふくらませているのは分かっています。
それでもいい。私は信じたかった。
――おばあちゃんは、羽化したのだ――と。
体をぬぎすて、知人へのあいさつも終わり、次の世界へ行く準備ができましたよと。
もうそろそろ、本当にさよならですよと。
そう伝えに来たと。
空は梅雨も明け、ひたすらに青く、夏本番の暑さがやってきていました。
来週は、祖母の四十九日の法要です。