Myselves

言葉と音楽に隠された魔法を探して放浪中。
そんな『自分自身』たちの旅の様子は?

【SS】La liberte

2011-10-05 03:05:26 | Weblog
調子に乗ってみた。


※注意※
『レ・ミゼラブル』が好きな方は読まない方がいいかも……






――?×アンジョルラス

『La liberte』

雨が降っていた。
僕は家路を急いでいた。
もうじきこの国は変わる。
父である民衆。
母である祖国。
恋人である自由を、この腕に抱きしめるために力を貸してくれ――


不意に呼び止められた。


「お兄さん、一晩泊めてくれない?」


振り返る。

茶色い長い髪に緑の瞳、形の良い唇、細い手足――

娼婦の類か。

「断る」

素っ気なく言った。悪いがそういうのは余所でやってくれ。

「もちろんタダで、とは言わないからさ。……ね?」

なおも彼女は追いすがる。
僕は彼女を観察した。

――彼女のような女性も、自由に生きる権利があるはずではないか?

不意にそう思った。第一、ここで本当に断ったりしたらセーヌ川に身を投げそうだ。

――僕は人殺しじゃない。

「……来いよ」
「……え」
「ついてこいと言ってるんだ」
彼女が小走りに側に寄る。
僕は彼女に傘をさしかけた。彼女はびっくりしたように言った。
「いいよ、あんたが濡れちゃう」
「女性を濡らすわけにはいかないだろう」
「……優しいんだね」
「当たり前のことだ」
美しさなどまったく興味はないが、彼女の肌の肌理の細かさは目を引いた。ちゃんと湯に浸かれば、魅力的といえないこともないだろう。
僕は傘を彼女に渡していつものペースで歩き出した。後ろから彼女が追ってくる。

アパルトマンにつく。ABC友の会の仲間内でも僕の家を知ってるのはほんの一握りだ。なぜ彼女を連れてきたのだろう?
今更自分の行動が謎だった。
「お帰りなさい、ムッシュウ・アンジョルラス」
門番が言う。僕は無言で鍵を受け取ると、彼女を促して階段を上った。
2階の部屋が、僕の部屋だった。大学の本やらノート、読みさしの新聞やらが辺りに散らばっている。けして綺麗とは言えないが、長椅子の上なら1人寝れそうだ。
続き部屋の奥の寝室を指した。
「君は寝室を使え、マドモアゼル。僕はここの長椅子で寝る」
「でも、それじゃああたしが一方的に……」
「女を抱く趣味はない」
「――じゃあ、男にならいいの?」
「男に? 何をバカなことを」
思わず鼻で笑う。男に身体を触らせたことなど、あるものか。
男も女も愛したことはない。そういう意味では。仲間として、なら、愛したことはある。

彼女が僕を見据えた。

「施しを受けに来たわけじゃないわ。あたしには売り物があるんだ」

「……ほう」

見るともなしに彼女の方を見る。彼女はコートを脱いで、ついでシャツとドロワーズを脱いだ。シュミーズ姿になると、男とは違う身体の線が露わになる。肌理の細かさが際立っていた。そのほかにも“売り物”といったら……情報、か?
僕が何もしないのを見て取ると、何を勘違いしたのか彼女はシュミーズも脱いだ。ショーツも外す。
生まれたままの格好で立つ彼女は、それなりに女性らしい身体つきをしていた。僕には興味がないが、いいと思う男もいるだろう。
ふいと僕は視線を逸らした。

「ベッドを使え」

「あんたは」

「長椅子で寝る」

「でも」

「異論は認めない」

そう言って彼女を寝室に押し込めると、ばたんとドアを閉めた。
『何するんだよ』
ドアの向こう側で声がする。
「もう寝ろよ。疲れてるんだろ」
疲れてるのはお互い様だ。僕も考えることがたくさんある。
『それじゃ、あたしがここに来た意味がないだろ――?』
「ここに来た意味?」
『あたしはね、施しを受けに来たんじゃないんだよ。そこまで落ちぶれちゃいない。ここを開けて。あんたの望むようにさせてあげるからさ』
「……僕の望むように?」
彼女が僕の望みを叶えてくれるというのだろうか?
『いくらでも抱かせてあげる。なんだったらパリの街の裏情報でも流そうか。警察がどんな動きをしてるかとか』
「……」
警察の動き……
『ブラックリストに載ってる名前を聞いたことがあるよ』
ブラックリストに載った名前……
「それは……信頼できるのか?」
『それはあんた次第だね。少なくとも、情報をくれたやつはつてをたどれば当局に行き着くといっていたよ』
「……」
『それとも、学生たちのグループが何をしてるのか、知りたい?』
「……マドモアゼル」
『何』
「君を信じていい保証はどこにある?」
『それは……ない。けど、』
「……わかった」
下手に何か言われるより信憑性があった。
寝室に入る。
「君の話を聞こう。おいで」
「でも」
彼女が躊躇った。そこで彼女が服を着てないことに気付いた。
彼女の話を真剣に聞くことを示すために、僕も裸になった。何一つ、偽らざる姿。
「こうしたら恥ずかしくないだろう。来いよ」
「でも」
彼女は両手で前を隠した。女性は色々複雑だな。
「何もしない。君の話を聞くだけだ」
僕は先にベッドに横になり、片腕を横に伸ばした。腕の下に彼女が滑り込んでくる。腕枕をしているような状況になった。こんなことは生まれて初めてだ。

気になることを訊いてみた。
「……それで。ブラックリストに載ってるというのは?」
「何人かいるけど最有力はジャンヌだね。奴の下には頭も良いし行動力のある連中が揃ってる」
「……へえ……」
ジャンヌか。覚えておこう。話し合いが必要になるかもしれない。
「ブラックリストには名前がないけどABCの友の会っていうとこがあって、そこが鍵を握ってるんじゃないかとあたしは思ってるんだよね」
不意に、僕らの秘密結社の名前が出てドキッとした。
「そんな有名じゃないところ……どうして知った?」
動揺を悟られただろうか?
「ちょっとしたつてがあってね。で、天使さん、あんたはどっちの人間なの?」
彼女の瞳をのぞき込む。緑の瞳に僕の瞳が映っているのが見えた。
彼女が目を閉じて唇を寄せてきた。

その唇は、あたたかく、柔らかく、優しく、甘かった。

ばっと彼女の身体を離した。
「君は……何者だ?」
僕は混乱していた。今のは……
「なんでもないよ。ただの女。ときどきこうして男を喜ばせてあげるけど」
彼女はそう言って僕の胸に手を這わせた。
「よせ」
体温の違う手に戸惑いを覚える。
彼女が僕の胸に唇を寄せた。紅い華が咲く。
「……ん……」
自分のものとは思えない声が漏れる。彼女は余裕の笑みを浮かべた。
「あたしに任せて」
「任せ、られるか。オカシくなりそうだ」
「慰めてあげるから、さ?」
胸に舌が這わされる。先端の飾りも舐められ、愛撫される。
「……っ!」
唇を噛んで声が漏れ出るのを堪えた。
「ねえ、あんたの声、もっと聞かせてよ」
彼女はそう言って僕の手を取った。
「あっためたげる」
そしてそれを自分の両乳房に片手ずつ乗せ、その上に自分の手を重ねた。手がゆっくり動かされる。彼女の胸はあたたかい。
彼女の手が伸ばされ、僕が、人間の男である象徴に触れた。
「やめろ」
「やめない。どうしてほしい?」
「触るな」
「じゃあ……」
それが口に含まれる。
「……っ!」
先端、中部、根元。ゆっくり、丁寧に舐められる。舐められたところから熱を発しているようだ。血液が集中するような、不思議な感覚。
「あんた、初めて?」
先の方を舐めながら彼女が問うた。
僕はそれに答えなかったが、彼女はそれを答えだと理解してまた丁寧に舐めだした。
僕のそれが次第に主張を始める。自分の身体なのに、初めて見るような気がした。それは何かを求めて躍動している――


「やめろ」


僕は彼女に告げた。この身体の熱を、感情の高ぶりを、どうしたらいいかわからない。
彼女は僕自身にキスをして口を離した。
僕は彼女の緑の瞳を見た。孤独が映っていた。
その瞬間、すべてを理解した。


「抱かれたいのか?」


彼女は答えない。

「もう一度訊く。
 ――抱かれたいのか?」

「……女を抱いたことがあるっていうの、天使さま?」
「僕は天使じゃない」
「じゃあ男? それともあんたのことだから抱かれる方かな」

彼女の身体をベッドに押し付ける。そして――柔らかそうな胸に唇を落とした。手を伸ばして彼女の胸をまさぐる。冷えていた手が、彼女の体温で温められていく。押してみたり引いてみたり。時には摘み、弾く。
「あああっ」
彼女がせつない声を出した。
手を滑らせて彼女の女の部分に手を触れた。初めて触るそこはなんとも不思議な感触だった。指が1本、ナカに挿る。彼女の腰が艶めかしく揺れ出す。
「天使、さま」
余裕のない彼女の声に耳を傾ける。
「あんたのを舐めさせてよ。69、知ってるでしょ?」
聞いたことは、あった。彼女はそれをウィだととらえて身体をずらし、僕自身をまたくわえ込んだ。彼女が僕の男の象徴を舐めている間に、僕は彼女の女の部分を弄ぶ。初めての経験ではあったが、ゆっくりナカに2本目の指を挿れた。
「んあっ」
彼女の声が艶を増す。
彼女の舌が、指が、僕自身を弄ぶ。僕も知らなかった快楽という感情を引き出しているかのようだ。
僕の指が彼女のナカで快楽の源を発見したらしい。声の色がまた変わった。指が濡れている。女性が快楽を感じるとこんな風になるのか。
反対に男が快楽を感じると……

――突き破りたい

自分の中の衝動に戸惑う。

「天使、さま」
彼女の声がした。
「なんだ」
「……あんたが欲しい」
僕は一瞬躊躇した。こういうとき、傷つくのはいつも女性だ。
「……後悔するぞ」
「してもいい。あんたと一つになりたい」
彼女はまた僕自身にキスをして、僕に向き直った。
それから僕の上に覆い被さる。というより、僕の腰の辺りに座った。
何かを確認したあと、ゆっくり腰を沈めた。
「あっ……あっ……」
彼女の声は僕の理性も揺さぶる。
……全部挿ったようだ。彼女はそれ確かめてから腰をゆっくり揺らす。
ナカで僕自身が締め付けられ、感じたことのない波が押し寄せてくる。
彼女のナカで僕自身は少し大きくなった気がする。内壁がぎゅっと締め付ける。
「はあっ……くっ……」
思わず息を漏らした。艶を帯びた声は自分のものとは思えない。
彼女が僕の手を取って胸に当て、激しく動かした。同時に腰も揺らす。勢い、彼女のナカを何度も突くかたちになる。
「天使さま……っん」
「ん……あっ……」
彼女が恍惚とした表情を浮かべる。不思議な色気が醸し出された。
少しだけ、動いてみた。途端に彼女の声に色が増した。
「天使さ……っあん」
腰を動かして彼女が反応するところを突く。彼女のナカも僕を締め付ける。
一際高い声を出すところを何度か突いた。
「ああ……っ」
今まで一番甘く、一番せつない声を彼女が出した。
僕は自分の中の衝動を感じ、彼女から自身を引き抜こうとした。だが、彼女は逆に僕を締め付けてきた。
熱い精が、彼女のナカに飛び散った。





この行為は汚れていると思っていたが、そうでもなかった。ただ、不思議と満たされた気分になった。
「あんたは天使?」
彼女が問う。僕は答えない。
たとえ僕が天使だったとしても、彼女は僕を汚したわけではない。勝手に堕天したのは僕の方だ。
雨が止んでいた。
「あたし、もう行かなくちゃ。お代はいらないよ。その代わり、たまにあたしを抱いて」
「……断る」
「なんで」
彼女以上に、僕を満たす女――あるいは男がいるとは思えなかった。
「どうしてもだ。……その代わり、僕はこれから、誰も抱かないし、誰にも抱かれない」
「天使さま……」

「――」

大天使と同じ名前を口にした。
「え」
「僕の名だ」
「そう。……あたしはポニーヌ。エポニーヌだよ」
「覚えておく」
ふと見つめ合う。





どちらからともなく微笑みがこぼれた。





「じゃあね、ムッシュウ」
「ああ。マドモアゼル」
「……アデュウ」
「アデュウ」
彼女は僕の家を出た。





ベッドの中に潜り込む。
すぐそばまでそこにいた彼女の匂いと温もりが残っていた。

自由。

もしそれが人のかたちをとったとしたら、あんな風だったかもしれない。
僕は目を閉じて眠りに落ちた。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 今日の一言 | トップ | 今日の一言 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事