気腫性膀胱炎の総説
Intern Med 2014; 53: 79-82
気腫性膀胱炎 (emphysematous cystitis: EC) は稀な尿路感染症で、膀胱壁と膀胱内にガスを認めるのが特徴である。無症状のこともあるし、敗血症となっていることもある。EC はふつうコントロール不良の高齢糖尿病患者に見られる。尿培養からはしばしば大腸菌と肺炎桿菌が分離される。EC の診断には腹部 X線写真や CT などの画像検査が必要である。ほとんどの症例は抗菌薬治療と、膀胱内のドレナージ、血糖コントロールで治療できる。EC の死亡率は 7%である。早期に診断、治療することが予後を改善し、外科的治療を回避することにつながる。
1. 疫学
EC の死亡率は 3-12% と報告されている。気腫性腎盂腎炎 (emphysematous pyelonephritis: EP) を合併した場合は死亡率は 14-20%に上昇する。EC は高齢 (60-70歳) の糖尿病患者に多く、男女比 1:2で女性に多い。EC の危険因子は一般の尿路感染症と同様で、糖尿病、神経因性膀胱、尿路感染症の既往、膀胱下尿道閉塞 (bladder outlet obstruction: BOO) が挙げられる。これらの危険因子の中で最大のものは糖尿病である。EC の患者の 70%が糖尿病を合併している。EC 患者の血糖コントロールは不良であることが多く、血糖値の平均は 293 mg/dL、HbA1c の平均は 9.9% である。
2. 起炎菌
EC 患者の尿培養から分離される細菌で多いのは大腸菌 (60%) と肺炎桿菌 (10-20%) である。これらはブドウ糖や乳酸を発酵させ、さまざまなガス(窒素、水素、酸素、二酸化炭素) を産生する。他に起炎菌として報告されているのは、Enterobacter aerogenes, Proteus mirabilis, Streptococcus 属 である。
Pseudomomas aeruginosa, Candida albicans, Clostridium perfringens, Enterococcus faecalis, Staphylococcus aureus, Clostridium welchii, Candida tropicalis, Aspergillus dumigatus も分離されるが、稀である。腸球菌 (Enterococcus 属) などの非ガス産生菌は起炎菌というより、混合感染の可能性が高い。
3. 臨床所見
EC の臨床所見はさまざまで、無症状の場合から敗血症に陥っている場合まである。最も多い症状は腹痛で 80% の患者で認める。肉眼的血尿も多く、60%で認める。尿閉 (ischuria) は 10%で認める。
発熱は腎盂腎炎の合併を疑わせるが、30-50%の患者では腎盂腎炎を合併していなくても発熱する。気尿 (pneumaturia) は特異的ではあるが、気尿を訴えることは稀である。尿道カテーテルを挿入している場合は 70%で気尿を認める。膀胱炎の症状 (排尿困難、頻尿、尿意切迫) は 50%で認める。しかし、これらの所見は非特異的であり、あっても軽度である。
以上のように、EC を強く疑わせる臨床所見はない。さらに最大 7%の患者では無症状である。無症状の患者は画像検査で偶発的に発見される。
4. 診断
EC の診断には画像検査が不可欠であり、腹部 X 線写真または CT で膀胱壁内および膀胱内にガスを認める (リンク参照)。
5. 治療
多くの場合、入院で加療される。だいたい 90%の症例では内科的治療のみで加療され、10%の症例では外科的治療が行われる。内科的治療は抗菌薬投与と膀胱内のドレナージ、血糖コントロールなど基礎疾患の管理からなる。抗菌薬の選択については知見は限られるが、ふつうの複雑性尿路感染症と同様に考えて良さそうである。尿のグラム染色は抗菌薬選択に有用である。グラム陰性桿菌を認めれば、初期治療として、フルオロキノロン、セフトリアキソン、カルバペネム、またはアミノグリコシドの静脈注射は選択肢になるだろう。一方、グラム陽性球菌を認める場合は腸球菌をカバーするためにアンピシリンやアモキシシリンを選択すべきである。抗菌薬は培養結果を基に最適化されるべきである。臨床的に安定したら、抗菌薬を静脈注射から経口投与に切り替えて良い。
膀胱のドレナージについては、早期のフォーリーカテーテル留置が膀胱の負荷を軽減できるだろう。また、尿道カテーテルを留置することで、尿の観察 (尿量および性状) が容易になる。
血糖コントロールはインスリン注射(場合によっては静脈注射) で行うと良い。
EP を合併する場合は早期に経皮的腎ドレナージを行えば、手術を回避することができるかもしれない。初期治療に反応しない、あるいは重度の壊死性感染症の場合は手術が必要になる。重症度によって、デブリドマン、膀胱部分切除、膀胱全摘出、腎摘出が選択される。
6. 予後
EC の全死亡率はおよそ 7%である。EC に EP が合併した場合は死亡率は 14-20%になる。診断が遅れると膀胱破裂することもある。
気腫性膀胱炎の腹部 X 線写真および CT 所見
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm1509543
元論文
https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/53/2/53_53.1121/_article