風がヴギウギ

自由気ままな風の様に毎日を切り取っていく

親父の自作本・・・青春の詩<耳鳴り>3

2020年11月06日 | 自作本

<蝉>

-亡友小口兄の霊に捧ぐるの詩-

蝉が鳴いてゐる

渇ききった空気の中で

緑色の帳(とばり)をゆるがせて蝉は鳴いてゐる

その声は あの白い 円やかな ふんわりした夏雲の去来する

炎熱の空を恋ふるかの様だ

縁石に座って

かすかな空気の流れに身をさらしながら

私はその声に耳を傾ける

そして油蝉がジイジイジイと陽を恋ふて鳴きつづける

亡き友よ

私は君の声をその中に探し

そして はぐれてしまふ

君の声は聞こえない

君は遙かな白蓮の匂ひ世界へ旅立ってしまったのだ

明方の筑摩の森にしんしん深く沈んで行ってしまふ

ただ蝉の声だけがかしましく響く

蝉が鳴いてゐる

青いオ-ロラの中を鳴き移り

泣き続け

時の無限にさまよひながら

動かない酷熱の大気を恋ふるかのやうに

昭和20年8月19日

 

※何とも言えない詩である

筑摩出身の友だったのかもしれない

 

帳(とばり)⇒室内や外部との境などに垂らして区切りや隔てとする布帛

筑摩⇒長野県の地名で 昔は「つかま」と読んだが

明治時代以降は「ちくま」と読むことが多いようです 


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