めもっち

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グリーンツーリズムと東北の自立

2012-11-29 23:26:35 | 思ったこと
現在、国を挙げて観光の振興に取り組んでいます。ただ、観光名所が少ない地域にとってその果実はあまり享受できないようにも感じてしまいます。そんなことを考えながら、日本ではそれほどメジャーではない農家民宿について調べてみました。

山崎光博「ドイツのグリーンツーリズム」2005はザックリと以下のとおりの内容になっています。
■ドイツの農家民宿の現状
・バイエルン州だけで農家民宿が7000戸ある(1996年時点)。日本全体では1500戸あまり(2005年農林業センサス農林業経営体調査)。
・都市住民や定年退職者が農家を買い取り民宿経営という副業を行うケースも顕在化してきている。ポピュレーションミックスが起き始めている。

■ドイツの農家民宿の形態
・形態としては、休暇用ボーヌング(寝室、居間、キッチン、トイレ、シャワーがあり、自炊可能)、朝食付き貸し部屋(寝室にバスシャワーがついた程度で自炊できないことが多い)の2種類が主であり、前者が最近は一般的になってきている。
・農家民宿を始めるにあたって、自宅外の建物を改築しているのが4割、自宅に隣接して増築が2割、自宅とは別棟で新築が15%、残りはその他。
・農家民宿の創業時のベッド数は9以下が65%で、創業後に徐々に増やしている傾向がある。
・バイエルン州では農家民宿の6割程度は畜産農家がやっている。動物がいることも魅力的なアトラクションとなっている。

■農家民宿の経営面
・バイエルン州での平均投資額は約20万マルク(1400万円)。
・開業理由は「補足的収入を得るため」が9割近い。日本では、「人との交流が楽しみだから」、が高い傾向がある(その理由はドイツでは1割以下)。
・民宿経営の位置づけが、小遣い程度(25パーセント)は年6000マルク(42万円)、副業的経営(65%)は年15000マルク(105万円)、民宿が主(残り)は年60000マルク(420万円)の収入。
・農家民宿経営主は9割が主婦。
・農家民宿を始めたことで加工品の製造や直販に力を入れるようになった。

■農家民宿の周囲の関係
・農家がサービス業に進出することについて農村社会では批判的なことが多い。現在は、理解は進みつつあるにはある。
・農家民宿、農家レストラン、バカンス施設、農産物加工品所が地域で密接に連携している。例えば、農家民宿が、農家レストランやバカンス施設を紹介したり、農産物加工品所から加工品を取り寄せたりしている。

■農家民宿への行政の支援
・ドイツ農業協会が農家民宿の品質管理を行い、優良民宿のみを掲載したガイドブックを発行している。
・食料農林関連評価及び情報サービス協会が農家民宿の経営の基本的なノウハウを提供する研修を行っている。必要な法的知識や建設コストや運営経費などをまとめた小冊子も発行している。
・日本の農業改良普及センターにあたる農業相談事務所は、各州の主要都市に拠点を持ち州政府からの派遣者が農業経営、農業技術、農村環境計画、「農村で休暇を」事業、などに分かれて相談に応じている。
・開業時に行政の金銭的補助あり。1~3万マルクの補助を受けている農家民宿が4割程度、5万マルク以上の補助を受けている農家民宿が3割ある。
・農家民宿を始めるにあたっての行政への手続きはベッドが10以下の場合は届け出のみ。
・行政の補助対象は農地整備だけでなく景観改良、緑地整備、散策道、自転車道、広場なども含まれている。
・MEKAプロジェクトと呼ばれる農家の景観や環境に配慮した取り組みを点数化し、点数に応じた補助金を支給している。

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上記のことから何を感じるのでしょうか。
●日本とドイツの農家民宿の数から考えると、日本でも増加の余地はありそうで、また、農家民宿には農業収入の減少を補うという点で農村地域の維持に有効であるから、もちろん取り組む必要があります。

ただ、その際には創業のハードルを低くすることが重要でそのためには、ドイツでは、農家民宿の規模が一定以下であれば法令で求める設備や行政への手続きを少なくすること、経営相談をアクセスしやすくて専門性の高い内容とすること、評価による広報を行政で行うことがなされています。

さらに、誘客のためには宿泊、食事、レクリエーションなど一式揃えることが重要ですが、一か所で宿泊、食事、レクリエーション全てを担うことは創業のハードルを上げることになるので、それぞれ一つでも創業できるようにして、不足するものを行政として積極的に掘り起こすことも必要になります。そして創業後は各施設が連携できるように情報の共有の機会や手段を提供する必要もあると思います。

●ただし、農家民宿といっても、日本にもないわけではないし、競合しそうなペンションという形態でもあるので、それほど大きな需要が見込めるわけではないと思います。ただ農家民宿を含むグリーンツーリズムは経済的な地域の維持の手段以外にも、東北がグローバルな中で自立するための手段の一つとなりうると思います。

東北がグローバルに自立するには特徴が必要です。特徴がある地域にこそ自立した人が集まり、特徴のない地域からは自立した人が外に出ていきますし、残った人も他地域に依存した人になってしまうのではないでしょうか。

東北の特徴とはやはり自然とか環境とか農業とかいったものだと思います。日本でも環境先進都市と言われるところが度々紹介されますが、そういった地域でも現実には工場が誘致できれば、あっさり農地がつぶされたり、自転車や歩行者が優先される交通も実現できないなど、日本では欧米のような環境に配慮した政策決定がなかなかできていませんし、民間レベルでも環境に取組む運動も欧米に比べて活発ではありません。

その原因は自然環境に選好のある人が少数であることだと思います。

そこで、始めは収入の補填という経済的理由でも農家民宿を始めることによって、グリーンツーリズムという市場や観光という市場での競争の中で自然環境に触れるためのサービスの質が向上し、より多くの人が自然環境に触れ魅力を感じるようになり、また、それほど数は多くはないだろうが活動的な自然環境に選好のある人が転入してくるのではないでしょうか。地道で超長期的な話になってしまいましたが、そうやって自然環境に選好のある人を他地域と比べて増やすことで、何らかの形で政策に反映し、自然環境を重視するということを東北の特徴とし、それが東北の自立につながるのではないでしょうか。

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