めもっち

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合議制と稟議制

2012-09-24 06:00:00 | 思ったこと
 組織として仕事を行う上では、常に個人の判断を組織の判断と転換するための仕組みが必要となります。その仕組みの一つの例として、集まって決定を下す合議である多数決やコンセンサスがあります。亀田達也「合議の知を求めて」ではその合議について以下のことが指摘されています。

◆まず、「(民事陪審での評決形成のように)解の正しさが必ずしも自明でないような課題についての合議では、初期多数派の主導する方向で結論が決まりやすい。」と統計データ分析の結果を用い示しています。

 その背景としては、
 ・合議で行われる議論の内容が多くの人が共有している情報の交換が主になり、あまり共有されていない情報の共有化はあまり図られない
 ・正しい解についての情報が合議の場に外部から供給されたとしても多数派の意見に沿う解釈に収束しがちになる。
 ・いわゆるバンドワゴン効果、沈黙のらせん、と言われるように、特定の立場が優勢になったとき、勝ち馬に乗るように、さらにその立場へ の賛同者が多くなったり、その優勢な立場への同調圧力が強まる(つまり、多数派に対して反対しにくくなる)。

 つまり、一般的に、合議の中での発言により、多数派が変わっていき、最終的にはそのメンバーの中でのベストな結論が得られるように思いがちですが、実際は合議において多様な情報の交換が行われず、合議開始時点での多数派の結論がそのまま最終的な結論になる傾向があるということです。

 また、多数派とはメンバー全員の考えを平等に反映したものとは限りません。声の大きな者がいれば、たとえその者の意見が数の上で多数派でなくとも、その場では多数派に見えてしまうこともあります(社会的リアリティ)。

◆上記は多数決による場合であってコンセンサスによる場合はどうでしょうか。

 コンセンサスはすべてのメンバーに拒否権を与えるわけだから、多数派に流されないようにも見えます。しかし、日本の全員一致は全員が賛成でなくて、全員が反対しないことを意味することが多いですが、その状況で反対するのは心理的に難しいです。そういう意味では多数決の方が反対しやすいとも言え、多数決よりコンセンサスの方が受け入れがたい結果をもたらす可能性があります。

◆その一方で、解の正しさが自明の課題については、合議のメンバーの中に正しい解を持った者が一人でもいれば、その自明の度合い上がるにつれて、客観的に証明できるようになるので、その者が合議開始時点で少数派でも全体の結論となることが多い。

◆階層的な構造を持つ組織の場合、組織全体から見た多数派(全体的多数派)と特定の下位集団における多数派(ローカルな多数派)に区別されます。組織としての決定を、二段階手続き(例えば部局会議→全体会議)で行う場合は、一段階手続き(全体会議のみで決定)で行う場合よりも全体的多数派の勝利確率を下げてしまいます。ある提案が全体会議では多数派でも、部局会議では少数派となり、そもそも全体会議に挙げられないことがあるからです。

 このことは手続きを変えることで決定内容自体も変えてしまうことができることを意味します。例えば、全体会議の議長が自分の立場が少数派と判断すれば、全体会議の前に部局会議を踏ませることで、自分の立場が勝利する可能性を上げることができます。

◆合議の特徴として損失のプロセスがあります。損失のプロセスとは、宣教師の河渡りのような頭の体操系の課題について、グループの一番優秀な人個人の達成度よりグループとしての達成度の方が劣るというものです。

 損失のプロセスの発生する要因としては次のものが考えられています。
 ・個々のメンバーの課題への動機づけグループでは一般に低下する。(個人の達成や貢献度に匿名性が存在する場合には、自分は手抜きをし て他のメンバーの遂行にただ乗りをしようとする誘因がメンバーに生じやすい。)
 ・メンバー間での行為の相互調整の問題が生じる。(合議だとある時点では一人しか発言できないため、自分が思いついたアイデアをすぐに 発言できないし、話の流れもあるので、そのアイデアを述べる機会を逸することでてくる。)

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■行政では基本的にルーティーンワークは稟議制で決定が行われ、特に重要で新しい事項については合議制で決定が行われます。参考として、西尾勝「行政学」。

■合議制については、同調圧力を下げる取り組みが必要です。すでに期限が迫っており議論する余裕をなくすること、コンセンサスを求める・異議のないことを求めること、は反対意見を述べにくくしているので改めるべきです。

 また、同調圧力に加えて、合議ではプロセスの損失もあるので、その両方を減ずるために合議の前でも合議の中でもブレインストーミングのような機会をもつことが必要だと思います。

 さらにそもそも論にはなりますが、職員が関わる場合特に、関わる課題についての職員の知識を深めるシステムが必要です。本書でも言及されていますが、合議の場では新たな情報は確かに共有されにくいが、合議の前に新たな情報を得ることができればそれが多数派の情報となり合議開始時点での多数派がよりよい多数派になることができます。

■稟議制について考えると、稟議制とは上記した二段階手続きの段階が承認が必要な人の分だけ増えた超多段階手続きと言えるのではないかと思います。ですから、ある提案も全ての段階で反対されないことが必要になり、結果、承認が必要な人たちの中で一番保守的な人でも承認するような保守的な結論になりうる、ということになると思います。

 現実的には、ルーティーンワークが稟議制となることがほとんどで、ルーティーンワークは法令マニュアルどおりに行うだけで裁量が出てくる余地が少ないし、裁量があったとしても了解を得なければならない人に合わせた起案をするし、その内容も保守的なものですから、稟議制の悪い面が表だって出ることは稀だとは思います。しかし、現在の地方自治体の状況の中で、多くの改善が望まれる中で、稟議制のこの性質はしっかり認識すべきだと思います。

 このような稟議制の弊害を減らすためには、決定過程を簡素化し、権限を下すという考えがあります。つまり、より少数、または個人に権限を与えるということです。実際に自治体によっては行政改革の一つとして、決定過程の効率化を目的として組織の階層の段階を減らし、フラット化を行うところもあります。

 また、権限を下すことは、上記したプロセスの要因のグループでの動機づけの低下を減らし、職員のやる気向上にも繋がりますし、西尾勝「行政学」で稟議制のデメリットとして指摘されている責任の所在が曖昧になることも軽減されます。

 もちろん、権限を下すことで、誤りが増えることもあるだろうとは思いますが、今の稟議制にもデメリットはあることも考えることが必要だと思います。

以上デストラーデ。


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