めもっち

~~~~~~~

クリエイティブな人が集まる場所

2012-09-17 23:32:05 | 思ったこと
 経済成長する地域とはどんな地域でしょうか。市場が近い、産業の集積がある、人件費やエネルギーコストや輸送費が安い、豊富な自然資源や労働力がある、等が一般的に考えられている企業立地を考える上での要素ですが、リチャード・フロリダの「クリエイティブ資本論」や「クリエイティブ都市論」では少し視点を違えた見方が示されています。

◆まず、現在の世界経済は2極化していて、一方の極は付加価値の低い単純労働による製造業やサービス業で、もう一方の極はイノベーション、デザイン、金融等の付加価値の高い経済活動であるとします。そして、前者は地理的にグローバルに分散してますが、後者は特定地域に集まる傾向があるとしています。

 この後者の経済活動を担う者達をクリエイティブクラスであるとし、現在、新しい技術、新しい産業、新しい富など世界経済を牽引するもの全てがクリエイティビティから生じています。

◆クリエイティブクラスの価値観は、個人志向(個性や自己表現を強く好む)、実力主義(やりがいのある仕事を好み、目標達成を求める)、多様性・開放性(人種・民族・性別・性的指向・外見で区別されることを拒む)であるとします。

◆では、クリエイティブクラスは特定地域に集まるとしましたが、それはどのような場所に集まるのでしょうか。以下のことについて言及されています。
・多様性
  多様性とクリエイティブクラスが集まることの関係を証拠づけるものとして、統計分
 析により、外国籍住民やゲイやボヘミアンの多さがハイテク産業(ソフトウェア、エレ
 クトロニクス、バイオメディカルなどの成長産業を指す)の立地と相関関係あることを
 挙げている。つまり、外国籍住民やゲイやボヘミアンのようなアウトサイダーが多くい
 るような地域は文化的な障壁が低く多様性に富む地域であり、人種や民族などの垣根を
 越えて、様々な才能や人材を惹きつける地域である。(ただし、非白人比率とハイテク産
 業の立地にはマイナスの相関があったことには注意が必要で、これは白人と非白人でデ
 ジタルデバイドがあるせいであろうとしている。)
・経験
  野球観戦をするとか受け身の経験ではなく、チェーン展開しているレストランのよう
 なパッケージ化された経験でもなく、自分が参加することのできるアクティビティやス
 トリート文化に触れる経験をクリエイティブクラスは好む。ストリート文化とは、その
 土地に根を張った文化であり、音楽や絵画や小説などとレストラン、バーなどが合わさ
 ることで近い距離で芸術に触れ、またそれらの芸術について製作者や同じ客同士などと
 交流できる場があることである。それに最も急進的で興味深いものはストリートのよう
 な文化の周縁で生まれることもストリート文化の魅力を高めている。
・社会的流動性
  シリコンバレーがガレージで始まったように創造的な活動には安価な空間を必要であ
 るとする。安価な空間であることで、入ってきやすく、成功したら出ていくことで人の
 流動性が高まる。また、流動性という意味からその空間も賃貸が望ましい。持ち家にな
 ってしまうと流動性が減少してしまう。実際、住宅所有率の高さと失業率の高さは相関
 しているとする研究もある。

 上記のほかにも、時間や服装などが自由で、自分の個性を発揮でき、給与ではなく、やりがいのある職場環境があること、転職が容易な厚みのある水平的労働市場があること、都市の美観などもクリエイティブクラスが集まる場所として挙げられている。

◆上記のようなクリエイティブクラスが集まる都市は大都市でなければならないわけではない。例えば、ボルダー(人口9万人のコロラド州の都市)やサンタフェ(人口6万人のニューメキシコ州の州都)のような小都市でもクリエイティブクラスが相当集まっている。

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

■それで、クリエイティブクラスを集めるためにはどうすればいいのかについては本書のとおりですが、勝手に、特徴的なものとして一つ選ぶと、文化芸術かなと思います。本書でも文化芸術を担うボヘミアンを多く受け入れるような文化的障壁の低さを「多様性」とし、経済的障壁の低さを「社会的流動性」とし、それらによりボヘミアンが多くなれば「経験」ができることでクリエイティブクラスが集まる、と整理することができます。

 このことは、後藤和子編「文化政策学」においても、ニューヨークのシリコンアレーにIT産業が集積した要因として、ソーシャル・アメニティー、安価なスペース、「アーティストの集積」、関連教育機関が重要になっているという研究成果を紹介し、文化芸術への投資の外部性として、新しいアイデアや創造のために文化的刺激を必要とする人を惹きつけ、先端な産業を創出するための条件を形成すること、を挙げていることにも同じように表れています。

 また、同書では文化政策における国と地方の役割分担として、国はすべての人が文化芸術を享受することを保障する役割が優先され、前記の外部性なるものは地方で、それを評価し支援していくことが求められる、としています。

 そこで、県でも、クリエイティブクラスを惹きつけるという効果も評価した予算配分をしたうえで、中心部に新進の芸術家が集まるような政策を考えてはいかがでしょうか。

 その際には、その新進の芸術が風紀や公序を多少、乱すものであっても、(程度問題でもありますが、)許容することが重要だと思います。それでこそ、多様性に富み、自由で、クリエイティブクラスを惹きつける地域になれるので。

■最後に、この著書の意義のある点は、一般に地域の経済成長を考えるとき、企業の行動について考えることが多いですが、この著書では経済成長を支えるクリエイティブな個人の行動について考えていることにあると思います。工場が海外に出ていく中で、国内では付加価値の高い製品・工程に集中しなくてはならないということが言われて久しいですが、付加価値の高いことは、まさにクリエイティブクラスが担うものですから、クリエイティブクラスを集めるために、地域としてもそのような人々が好む所を目指す必要があるのではないでしょうか。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿