
※ネタバレ注意
今日は「グリーンブック」を鑑賞。
この作品は実在した黒人ピアニスト、ドン・シャーリーと彼の運転手兼用心棒となったイタリア系の白人トニー・バレロンガが黒人用旅行ガイド"グリーンブック"を頼りにアメリカ南部を旅するロード・ムービー。
監督&脚本はピーター・ファレリー。
出演はヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ。
先日行われた第91回アカデミー賞で作品賞&助演男優賞&脚本賞の3冠に輝いた話題作がいよいよ公開!(アカデミー賞授賞式の翌週すぐに公開とは何というタイミング!)
舞台は1962年。
1876年から1964年まで存在したアメリカ南部の州法"ジム・クロウ法"という人種隔離政策によって一般の公共施設の利用を禁止された黒人ドライバーが利用するガイドブックが本作のタイトル。
ヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリによる鰍ッ合いが最高で、予想していた内容とは違い素晴らしいバディ&ロード・ムービーでした。
随所に登場するドン・シャーリーとトニー・バレロンガのやり取りによるコメディ要素が実にスマート。
ピーター・ファレリー監督にしては意外なほど綺麗なコメディ描写にも驚き。(代表作は「メリーに首ったけ」や「ジム・キャリーのMr.ダマー」などコメディ作品を多く手がけた人物で、いわゆる"おバカ・コメディ"を作る監督といったイメージ)
主演男優賞にノミネートされたヴィゴ・モーテンセンの作品は個人的に"ハズレ無し"と思っていて、ヴィゴの持つ"危険な雰囲気"を上手く出したキャラクターがトニー・バレロンガにピッタリ。
しかも本作の為に14kg体重を増やしての役作りにも注目。(一番好きなヴィゴ作品は「ザ・ロード」。)
※他にも危険な雰囲気を持つ俳優だと感じるのはライアン・ゴズリングなど。
助演男優賞を授賞したマハーシャラ・アリは先日観た「アリータ:バトル・エンジェル」にも出演していましたが、コメディからヴィランまで演技の幅が広すぎ!
もうすぐ公開の「スパイダーマン:スパイダー・バース」にも声の出演をしていて、ここ最近は出まくり状態!
凄すぎます…。
で、この作品。
驚いたのがトニーの息子であるニック・バレロンガが脚本と製作に関わっていて、本作はトニー視点の描写が中心で話が進んでいきます。
アカデミー賞作品賞を授賞した効果は絶大で、普段ほとんど客がいない松山の劇場も今回は8割のお客さんが埋まるほどの人気。(あんなに入ったのは「カメ止め」以来か。)
しかしこの作品、スパイク・リー監督をはじめとするアフリカ系アメリカ人にはかなり批判が相次いでいて、ドン・シャーリーの遺族までもが否定的に見ているのだとか。
それはやはりドン・シャーリーの(映画における)立ち位置。
"白人に守られている黒人"という描かれ方が否定的な要因。
この"白人に守られている黒人"という表現は映画の歴史でも度々問題になっていて、最近でも「それでも夜は明ける」で物議を呼びました。(ャXター問題やアカデミー賞授賞式での騒動など様々な問題が出た。)
これ(本作)によく似た作品が1989年の「ドライビング・MISS・デイジー」。
ユダヤ系の老婦人とアフリカ系黒人運転手の交流を描いた作品。
しかし、本作が違うのはドン・シャーリーが黒人で白人に差別を受けながらも黒人の中でも居場所がなかった点。
それを最も象徴していたのが、レコード会社から借りたキャデラックがオーバーヒートして停車していたシーン。(柵の向こう側には農作業する黒人たち。)
これまでドン・シャーリーは自分自身を封印して周りと共存していくように振る舞っていました。(ドンは本当はジャズを演奏したかったが教師に言われクラシックを学ばさせられたり、ゲイであることを隠したり、バンドのメンバーやモーテルの客に声をかけられても決して輪の中に入ろうとしなかったりなど自分の意に反して生きてきた。)
ラストではトニーと一度別れたドンが再びトニーの家に訪れます。
自分から踏み出して歩みよる勇気を気の利いたオチで締めるのですが、劇中でのトニーのセリフ「待つのではなく、自分から歩みよるんだ!」という伏線がここで綺麗に回収されます。
移民や人種、LGBT問題はどれも根深く、この作品はそれらを意識するにはうってつけの作品でした。(特に移民や人種問題に関しては意識の低い日本人にとっては。)