
※ネタバレ注意
今日は「ワンス・アャ踏ア・タイム・イン・ハリウッド」を鑑賞。
この作品は、落ち目のハリウッド・スターと専属スタントマン、セレブ生活をおくる女優のそれぞれの物語を描いた作品。
監督&脚本はクエンティン・タランティーノ。
出演はレオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、エミール・ハーシュ、マイク・モー、アル・パチーノ他。
「10本で引退」と宣言しているクエンティン・タランティーノ監督による9本目の長編作品がいよいよ公開!(「キル・ビル」は2部作で1本とカウント。)
本作のベースとなっているのは1969年に起きたシャロン・テート事件。
この衝撃的な事件を知らない人と映画ファンじゃない人にはちょっと楽しめないような内容でしたが(いわゆるレオ様やブラピの共演ってだけで観に行く人)、この作品はタランティーノ監督流"映画愛"が詰まったある意味ファンタジー的な要素のある作品でした。
ビートルズ・ファンには"Helter Skelter"という楽曲でこの事件を知ってる人が多いとは思います。
まずはこのシャロン・テート事件はアメリカの女優シャロン・テートがチャールズ・マンソン率いるカルト教団の信者等により殺害された事件。
映画「吸血鬼」が縁でロマン・ャ宴塔Xキー監督と結婚、翌年妊娠。
妊娠8ヵ月だった彼女は殺害される際に「赤ちゃんだけでも助けてほしい」と懇願しましたが、これが仇となりナイフでメッタ刺しにされ殺害されました。
その後のハリウッドを変えた事件として知られ、チャールズ・マンソンを取り上げた作品も多数作られました。(実際、舞台となる1969年はハリウッドにとっても激動の時代と言われた。)
この事件を軸に落ち目の俳優と彼の専属スタントマン、そしてシャロン・テートの3人の運命が絡み合った物語を見事に描いていて、「パルプ・フィクション」を彷彿とさせます。
ちなみに落ち目のスター、リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と彼の専属スタントマン、クリフ・ブース(ブラッド・ピット)は架空の人物。
リック・ダルトンのモデルはバート・レイノルズ、クリフ・ブースのモデルはバート・レイノルズの専属スタントマンを長年していたハル・ニーダム。(後にハル・ニーダムは「グレート・スタントマン」や「トランザム7000」、「キャノンボール」などを監督)
但し、リック・ダルトンは劇中で彼が嫌悪していたマカロニ・ウエスタンに出演している描写があり、これがクリント・イーストウッドを彷彿とさせ(「ローハイド」の人気が落ち、マカロニ・ウエスタンの代表作「荒野の用心棒」に出演した経緯がある)、リックはバート・レイノルズとクリント・イーストウッドという俳優たちがモデル。(しかもバート・レイノルズとクリント・イーストウッドの二人は大の親友)
しかもバート・レイノルズは本作に出演する予定でしたが、撮影前に亡くなってしまった為、急遽ブルース・ダーンが代役を務めたという経緯があり、そのことを踏まえるとこの作品が更に感慨深く感じます。
本作を観るャCントの一つに60年代ハリウッドへのオマージュがたくさん詰まっている点があります。
まずタランティーノ監督のインタビューで語られていたのが、リックとクリフのコンビについて。
これは「明日に向かって撃て!」のブッチ・キャシディとサンダンス・キッドが元ネタ。
「レザボア・ドッグス」のMr.ホワイト&Mr.オレンジや「パルプ・フィクション」のヴィンセント・ベガ&ジュールス・ウィンフィールドといった関係もこの作品からの引用でしょう。
劇中"リックが主演候補だった"という"設定"になっていたのがスティーヴ・マックイーンの「大脱走」。
もちろんスティーヴ・マックイーンも本作に登場。
リックはその「大脱走」のヒルツ役を逃したことがトラウマとなっています。
そしてブルース・リーの登場シーン。
これはブルース・リーの描かれ方が違うということで騒動となりましたが、タランティーノ監督は「実際、ブルース・リーは傲慢な人だった」と反発。(もはや神格化されたブルースがただのスタントマンであるクリフに負けてしまう描写がファンにはショックだったのでは!?実際、ブルースは傲慢で自分の力を誇示してみせ周りのスタッフたちをうんざりさせていたことは有名。)
そのブルースをクリフは「カトー!」と呼びますが、これは「グリーン・ホーネット」のこと。
リックがゲスト出演するのが1870年代のカリフォルニアを舞台にした西部劇シリーズ「対決ランサー牧場」。
シャロン・テートが自身の出演作を観に劇場に行く際、映画館の店員と語り合うのが「哀愁の花びら」、そして映画館の店員の計らいでシャロン・テートが鑑賞してたのがディーン・マーティン主演の「サイレンサー 第4弾 破壊部隊」。
本作のタイトルはタランティーノ監督が敬愛するセルジオ・レオーネ監督の「ウエスタン」が元ネタ。(原題:「Once Upon A Time In The West」)
~等、挙げたらキリがないくらいのオマージュの数々。
60年代作品へのオマージュだけではなく、当時のスターやハリウッドの時代背景やスターとスタントマンとの関係など恐ろしく細かく描いており、個人的にはスターとスタントマンとの関係性を描いている点は見事!
現在のスタントはアクション監督がいて、場面に応じてスタント・チームを使い撮影していく方法が主流。
しかし昔は本作みたいにスターには専属のスタントマンが必ず付いていて、キャリアが一心同体となっていました。
つまりスターの出世=自身(スタントマン)の成功に繋がっていて、スターとスタントマンの関係は親友以上の繋がりがありました。(ユマ・サーマンのダブルだったゾーイ・ベルが登場しているのもスタントマンという仕事に対してのタランティーノ監督の敬意が感じられる)
有名なのがモデルにもなったバート・レイノルズとハル・ニーダム。(スメ[ツ選手だったハル・ニーダムはその後軍隊でパラシュート部隊などの経験を生かしスタントマンになる)
バート・レイノルズはその後伝説のスタントマン、ダール・ロビンソンと関わりを持ち、革新的なスタント技術を生み出していきます。
その他にもスティーヴ・マックイーンとロレーン・ジェーンズやバド・イーキンズ、チャールトン・ヘストンとヤキマ・カヌートなどスターとスタントマンの関係は親友以上だったり師弟関係だったりと様々。
そしてもう一人の主人公、シャロン・テートの数々のシーン。
特に彼女自身の出演作「サイレンサー 第4弾 破壊部隊」を鑑賞するシーンでは何と本物のオリジナル版の映像が流れています。
自分の出演シーンが登場するとお客さんの反応を見ながら鑑賞し、無邪気に喜んでるシーンなどはとてもキュートに描かれていて、マーゴット・ロビーの演技力と相まって非常に印象的なシーンとなりました。(ブルース・リーがシャロン・テートにアクション指導し、それを回想する描写がありますが、これは実話)
まだ駆け出しだったシャロン・テートは不運な女性でしたが、このシーンにより純粋に映画に憧れた魅力的な女優として表現されていることに感動。
実際にはシャロン・テートは殺される訳ですが、本作終盤ではチャールズ・マンソンに指示されたテックスたちがリックの家に侵入します。
その前に何故、シャロン・テートの家にテックスたちが侵入したのか?
その伏線もちゃんと描かれていて、劇中中盤でチャールズ・マンソンがシャロン・テートの家を訪ねるシーンがありました。
ロマン・ャ宴塔Xキーが引っ越してくる前にテリー・メルチャーが住んでいて、そのテリー・メルチャーを訪ねる為にチャールズ・マンソンが家に行ったシーンがあるのです。
実際にこのテリー・メルチャーはチャールズ・マンソンをレコード・デビューさせようとしましたが実現せず、それを恨んだチャールズ・マンソンは殺害を指示。
では何故シャロン・テートを襲ったのか?
チャールズ・マンソンが訪れた際に実際にシャロン等にひどい扱いを受けたと後に告白しています。
しかし本作ではシャロン・テートの家には行かず、リックの家に侵入してしまうのです。
そう!
この終盤の展開からタランティーノ監督流のファンタジーとなるのです。
クリフがLSDでトリップ状態だった時にテックスたちが侵入。
そして格闘の末、テックスたちを殺します。
一方、リックも突然現れたテックスの仲間の一人を火炎放射器で焼き殺してしまいます。(冒頭でリックが出演していた映画にこの火炎放射器を使いナチスを焼き殺すシーンがありますが、このカルト教団とナチスがリンクされている。そしてこのシーンは「イングロリアス・バスターズ」を連想。)
つまりタランティーノ監督はこの作品でシャロン・テートという女優を救うのでした。
騒ぎを聞いた隣人のシャロン・テートはリックを家へと招き入れ、ラストを迎えますが、このラストもリックのその後の活躍を予感させるようで何とも言えないラスト・シーンになっています。
冒頭でロマン・ャ宴塔Xキー監督が隣に引っ越してきたのを知ったリックは興奮するシーンがあります。
落ち目となり自信の無くなったリックがラストでは憧れのロマン・ャ宴塔Xキーの家に招き入れられるラストはその後の彼の成功へのメタファーとなっています。
シャロン・テート事件により暗黒の時代となるハリウッドそのものを救いあげ、全ての映画人たちへ明るい未来を残そうとしたタランティーノ監督の愛がたくさん詰まった最高のファンタジー作品でした。(映画ファンのためではなく、映画製作に関わる映画人の為の映画)
※もちろんタランティーノ作品に頻繁に登場するレッド・アップルという架空のブランドのタバコもエンド・ロールで登場。