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ウェイの中国語翻訳メモ

日本語と中国語の通訳・翻訳を勉強しているウェイ。言語の奥深さにも興味あり。

◆「当たり前」の範囲

2004年10月13日 | 通訳の現場
「当たり前」とは、
(1)だれが考えてもそうであるべきだと思うこと。
  当然なこと。また、そのさま。
(2)普通と変わっていない・こと(さま)。世間なみ。なみ。
                     三省堂提供「大辞林 第二版」より
とのこと。

でも、その「だれが考えてもそうであるべきだと思う」のは、
住む地域や生活習慣、考え方によって全く異なったものになりますよね。

「当たり前」ってどこまで通用するのかなぁ。
これは、私が常日頃から考えていること。

<OEM仲介通訳の現場にて>
日本企業が中国で生産委託工場を探しているシーン。

日本企業が中国の食品原料工場に対して
「貴工場の衛生管理についてお聞かせ下さい」と質問してきました。
そのまま中国語に訳して
「請介紹一下,工場内産品生産的衛生管理情况」と中国側に伝えました。

中国側から返された答えは、
「作業者に健康診断を実施し、健康状態が良好な者だけを採用しています。作業者は必ず白衣を着用し、帽子をかぶって、靴を工場用の物に履きかえた後、工場内に入ります」
とのこと。

……ううう~ん。
これって、かなり「当たり前」のことのような気がするんだけど…。
どこの食品原料工場行ってもそうじゃないの? 
そーじゃなくってぇ! 普通、自社工場の強みを積極的に言わない?
なにか特長はないの? 特長は!!

案の定、日本側は、工場内に二重扉を設置しているかどうか、
設備の消毒はどのようにしているか、など他工場と違う点を聞きたかったようです。

「中国の工場ももっと積極的に自社のPRをしてよね!!」と思うが、これも又私の中の「当たり前」がそう思わせてるのね。

こんなとき、気の効く訳者だったら、
「具体的に、どのような衛生管理について聞きたいのか、質問形式で聞かれた方がいいですよ。その方が中国の工場も答えやすいと思いますし」と予め日本側に簡単なアドバイスをするでしょう。

聞き手の求める回答に持っていきやすいように、
訳者が双方に助言していけば、よりスムーズ且つ無駄のない会話になります。

ただ、あまり介入しすぎると、訳者ではなく、
アドバイザーになっちゃうので、その辺の塩梅には注意しなきゃね。

◆「上海ドリーム」は「上海夢(shang4hai3meng4)」か?!

2004年09月15日 | 通訳の現場
<通訳の現場にて>
上海で事業を成功させた上海出身の青年実業家・李社長。
成功の秘訣などを聞き出そうとする日本人インタビュアー。

 日本人「李社長はこうして実際に成功されている訳ですが、
      李社長は『上海ドリーム』って存在すると思いますか?」

 通訳者「像美国那様,在自由、平等等的理想下,・・・」
     (アメリカのように、自由・平等といった理想のもと・・・)

はて? はて? 訳者は何を言ってるんでしょうか?!

インタビュアーは「上海ドリーム」について聞きたいのに、
訳者は、いきなりアメリカのことを言い出したのです。

実はこれ、訳者が「上海ドリーム」という日本語をそのまま
中国語に置き換えて「上海夢(shang1hai3meng4)」と訳しても、
相手には通じないということを察したからなんです。

訳者は、まず「上海ドリーム」の意味を説明しだしたのです。
その為に「アメリカンドリーム」の説明をしているわけです。

【言葉】をそのまま置き換えることが通訳ではなく、
【意味】を相手に分かりやすく伝えることが通訳なんです。

◆「これは川魚ですか?」

2004年09月06日 | 通訳の現場
<通訳の現場にて>
中国のとある河。河に浮かんだ船の上に沢山の魚があります。
中国人の漁師が日本人インタビュアーにそれを見せています。

 日本人「これは川魚ですか?」
 通訳者「今天捕到的魚ma?」(今日捕れた魚ですか?)

訳者は全く違ったことを漁師に聞きました。
「これは川魚ですか?」を訳すと、「這是不是河里的魚?」とでもなるでしょう。

しかし、訳者はなぜインタビュアーの言葉に忠実に訳さなかったのでしょう?

それは、訳者が日本語の『質問の仕方』『話の切り出し方』を知っていたからです。
訳者はインタビュアーが『言ったこと』自体に着目しているのではなく、『聞きたいこと』に着目しています。

インタビュアーの発話は、本当にこれが川魚なのかどうか知りたかった訳ではありません。
ただ、これをきっかけとして魚の話や漁師生活の話をしていこうとしただけのことなのです。

けれど、この発話をそのまま中国語訳にして漁師に伝えると、
中国語環境で育っている漁師に、インタビュアーの意図は通じません。

訳者は、表面上の言葉だけを訳すのではなく、
話者の意図を掴んで訳さないといけないのです。
訳者は、中国人である漁師にとって分かりやすい『質問の仕方』『話の切り出し方』をしたのです。