気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Gotta Be You

2018-12-03 13:56:00 | ストーリー
Gotta Be You






ーーー 5年前


25歳の俺は一人

50日間の予定で北欧、ヨーロッパへと旅に出た



今日で旅は10日目






カフェでコーヒーを飲みながら
一眼レフカメラに視線を落とす



納めた画像の一枚を眺める

フィンランドのオラヴィ城 
良かったな…



オラヴィ城が気に入り
次も湖城に行ってみようと決めた


そして気になったリトアニアのトラカイ城に向かった



遠くに見えるトラカイ城

俺はトワイライトタイムを待った



次第に太陽が沈んで 街には街頭が灯り始める


トワイライトタイムが来た


ぼんやりと美しく浮かびあがってきたトラカイ城




夢中でシャッターを押す

完全に太陽が沈んだ後もライトに照らされて浮かびあがる姿も美しい



ここも来て良かった


言葉にできない心が拡がっていくような不思議な感覚


食事を済ませ事前に取っていた宿に向かう


ーー だいぶ旅慣れしたな、俺も



疲れが一気に出たのかベッドに沈むように眠りについた


翌朝、チェックアウトを済ませ街を出るため列車に乗り込んだ

車窓から見える景色をしっかり覚えておきたくてずっと窓の外を見ていた

すると日本語で誰かに話しかけられた


「おにいさん、もしかして日本人? 」


通路を挟んだ隣の席にいた女性だった


「はい… あなたも?」


「ええ。仕事でこの国来ているの。」



30代なかばのナチュラルな雰囲気の女性


「仕事って何の仕事をしてるんですか?」


その問いかけに彼女は鞄の中からカメラを取り出した


「これ!」


彼女は女性向けの旅雑誌の写真と記事を書いていた

一般的な観光ブックには載っていない所を中心に

一人旅する女性に実際に見て欲しい素敵な所を紹介するためらしく

いろんな雑誌社から依頼があった時だけ仕事で旅に出るフリーのライターらしい




俺は知らなかったが

彼女はその道では名が知られている人物だった



彼女は俺の知らない世界を沢山知っていて

彼女の話を聞いているだけで行ってみたくなった


話の中に出てくる街並みや食べ物、出会った人達の話を聞いている内に


まるで彼女と一緒に体験したような気になってくる…



もっと彼女が見る世界を一緒に見たくなり
旅の同行ができないかを尋ねてみた



「かまいませんよ。ただし、旅費は別ね。私は雑誌社の経費だから(笑)」



彼女は微笑んで快諾してくれた






彼女は咲希


35歳で独身
東京で一人暮らし


年に数回 何週間かかけて世界中を飛び回るらしい


移動中はメモを見ながらパソコンで原稿を書く


目的地に着いたらまずは高い建物に登る

そこから見える街並み、次に向かう場所を決めることもあるそうだ


移動はできるならタクシーは使わず徒歩


徒歩だと車では見落とすような良いスポットが見つかるそうで

あえて回り道しながら目的地に行く時もある



これがプロなんだなと感心しながら彼女に魅力を感じていった




彼女は何をしている時も楽しそうで一緒にいるだけで俺は幸せな気持ちになっていた



「ねぇ、ハルくんはいつ日本に帰るの?」

「あと半月ぐらいかな?」


“あと半月でお別れか…”

寂しさが湧いてきた





「そう。私もそのぐらいには帰国予定だよ。一緒に旅した写真送ってあげるよ。」



写真容量が大きいからと言うのでPCのアドレスを教えることにした



宿泊している宿に着き
一緒に食事をしていたある夜ーー




「ハルくん。私、彼と別れちゃった(苦笑)」

苦笑いをする彼女



「え?いつの間にそんな話したの?」



彼氏がいるとは聞いていたけど

本当にいたんだ…




胸がぐっと苦しくなった



「彼から電話があったの。」


長く海外に出かける彼女と彼の心のすれ違いのようだった


「こういう仕事してると恋愛なんて無理だね(笑)」

明るく振る舞う彼女を見ていると余計に胸が痛む


「無理なんかじゃないよ!俺はそんなことないと思う!」

「そうかなぁ(笑)ハルくんありがと。なんか前向きに生きていけそう (笑)」


彼女と食事を終えて俺は自分の部屋に戻った



しばらく時間が経った

どうしても彼女が気になる




もう寝てるかな…


メールを打ってみると直ぐに返事が返ってきた



『眠れなくてまだ寝てない』


やっぱり…
別れたばかりだもんな


傷ついてて当然だ…



俺は酒を片手に彼女の部屋のドアをノックした


「俺。開けてくれない?」

「今日はもう寝よう…」



ドア越しの彼女の声が少し変だ


「酒持ってるからさ。一杯だけ俺に付き合ってよ(苦笑)」



何とか扉を開けてもらおうとした




するとゆっくりドアが開いた


目が真っ赤なのをメガネと前髪で隠そうとしながらドアから離れた


「やぁだな〜恥ずかしいな(笑)」



…やっぱり泣いてたんだ



「あーうん、咲希さんごめんよ〜(苦笑)なかなか眠れなくてさ!一杯だけ付き合って(笑)」



ーー俺は彼女の涙に気づかないフリをした



彼女が少しでも笑顔になれるなら

少しでも今の悲しみを忘れられるなら



昔の俺の失敗談やしょうもない話まで

彼女と笑いながら沢山の話をした



それからも彼女はいつも通りの明るい笑顔で旅をした


そしていよいよ俺が日本に帰国する日の朝になった

フライト時刻は現地時間で夜18時30分発


残りの時間までは俺が彼女の写真を撮らせてもらう約束をしていた


朝、彼女の部屋の扉をノックする



ーーー返事がない…


そっとドアを開けてみると

もうそこには彼女の姿はなかった





一瞬 時が止まった


なんで…!



電話をしてみても電源が切れている

慌ててチェックアウトを済ませ街中を探した




なんで!?

なんで何も言わずにいなくなったんだよ!




胸が痛くて苦しくなる


俺は… 
俺は咲希さんに

恋をしていたんだーーー




彼女にその想いを告げようとしていた

好きだという一言を…





もう街を出てしまったのかもしれない…


空港に向かう列車の車窓から見える景色かぼんやりと目に映った



ーー“おにいさん、日本人?”ーー




とっさに隣を振り向く


彼女はいなかった…




次第に視界が見えなくなってきた


なんで俺もっと早く咲希さんへの想いに気がつかなかったんだろ…


なんでもっと早く想いを伝えなかったんだろ…



溢れる涙が止まらなくなった




もしかしたら彼女が空港にいないかと目を凝らして見渡しても

やっぱり彼女はなかった





そして俺は

飛行機に搭乗し日本に帰国した




東京は悲しいくらい 
良く晴れていた



久しぶりの自分の部屋

こもっている部屋の空気を入れ換えるために窓を開けたら

清々しい風が入ってきてカーテンが揺れた


PCに写真を送ってくれると約束したことを思い出し

慌ててPCの電源を立ち上げた




しばらくぶりに立ち上げたPCの受信ボックスは未読メールが溜まっていた


彼女からメールが来ていないか見落とさないよう慎重に探した



ーーー 見つけた‥!!



出発する前日の夜に送信されていた



そのメールの添付画像を開いてみた


写真は一緒に旅した様々な街並み

そして 俺が写った写真…




“ハルくん

あなたと一緒に旅ができて本当に楽しかった。

いつも優しくて誠実なあなたと一緒にいろんな素晴らしい景色を見られて

一人では感じられない幸せを感じることができた。

そして私の心はあなたに救われ優しさや誠実さに触れられて

あなたに出会えて本当に幸せだった。

心から ありがとう。”




そしてもう一通

メールが届いていた




そのメールの文面と一枚の写真に涙が溢れ出た


「なんだよ… 嘘だろ…」





その写真は




うたた寝している俺の頬に

キスをしている咲希さんの自撮り写真だった



“旅している内に

いつの間にか私はあなたに恋してた。

ありがとう。 咲希”








窓から吹き抜ける春の風と共に

彼女の想いが僕の中を駆け抜けていった






"Gotta Be You"






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