
最近はまた乙一ブームが再燃し、今回読んだのが『失踪HOLIDAY』だ。このタイトルにもなっているこの話は、全体の4/5を占めていて、作者自身も「やればできる」と書いているように今までよりいくらか長めの話となっている。そして、もうひとつ、『しあわせは子猫のかたち』も収録してある。というわけで早速感想など書いていきたい。
・しあわせは子猫のかたち ~HAPPINESS IS A WARM KITTY~
大学へ進学し、一人暮らしをはじめた主人公。その新しい住まいには、不思議な住人が住んでいた……。名前は、雪村サキ。彼女はすでにこの世にいない。姿も見えず、声も聞こえないが、彼女の取る行動や、その気配に主人公は彼女の存在を感じていく。主人公には見えない雪村の姿を唯一見ることができるのは、彼女が飼っていた子猫、ただ1匹だった。"2人"と"1匹"の奇妙な生活が、始まった。
暗い性格の主人公が、その正反対である雪村と生活することによって、徐々に変化してゆく姿が描かれている。前半はほのぼのとした展開が続くが、後半から彼女の死とつながる事件の核心に主人公は知らず知らずのうちに近づいてゆく。後半の意外さは『夏と花火と私の死体』にも通じるところがあると思ったが、乙一作品を読んでいると、主人公と近しい友人も何か臭いなあ…と半分疑いを持ってしまうので、実際のところそうでもなかった。初めて読む人にはやはり切なさを感じずに入られないと思う。特にラストあたりは。
・失踪HOLIDAY しっそう×ホリディ
14歳の冬休み、わたしはいなくなった――。ボロアパートで暮らしていたナオは、母の再婚によって一気に贅沢なくらしをし放題の「お嬢様」になった。裕福な家に来て2年後、母は亡くなった。その後父の再婚相手であるキョウコとは折り合いが上手くいかず、ある日、キョウコと大喧嘩をしてしまう。止めに入った父はなんとキョウコの肩を持ち、いたたまれなくなったナオは衝動的に家を飛び出した。
家出と見せかけ、『母屋』の隣にある使用人達の住まい、『離れ』にある使用人のクニコの部屋に居候し、家族達の反応を観察していたが、事態は思わぬ方向へ進んでいくのだった……。
ナオとクニコのちくはぐした、それでいてほほえましいやり取りが面白いが、結末はかなり意外だった。してやられたと思った。個人的に、ナオの性格なら、人を騙しても騙されることは絶対許さない性格なんじゃないかなと思うのだが、実際自分がそうであることが分かった時も、怒りの感情はほんの一瞬だけしか感じなかったいうことがなんだか腑に落ちなかった。まあ、小さな謎が解決したり、キョウコとの仲も良くなりそうな兆しを見せているところで少し救われたような気分になった。あまり書くとネタバレしそうなのでこれくらいにしておく。
この本には羽住 都さんのイラストが挿絵として入っている。作者も羽住さんのイラストのおかげで買ってくれたのだと思うと書くくらい、この人のイラストは話にピッタリと合っていると思う。というかこの本を読んで以来、私は羽住さんのファンになった。自称だが。
とにかく、初めて乙一氏の本を読む人にとっては割と読みやすいのではないかと思った。私のように乙一作を読んだことがあり、期待して読むと少々肩透かしをくらわされるかもしれない。まあ、読んで後悔はしないと思う。