変人技術士の備忘録(別称:すいりき板改)

技術士の日々の思いつきを列記。
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Remembering Everything(ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由)

2015-09-12 10:44:12 | 読書
"ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由"
を図書館から借りて読んだ。

著者が記憶術に魅せられて、記憶力に関する取材を続けるうちに、全米記憶力チャンピオンになるという話し。
記憶の宮殿を使えば、誰でも記憶力を磨くことは可能と書かれている。
人間が記憶することの重要性を再認識する機会になった。
重度の健忘症の人に書かれていたのが、印象的で、これにより内容に深みが増している。
プラトー状態からの脱却方法が、実際には役立つように思う。

印象的だったの点を列挙しておく。

・記憶力が良すぎると忘れてことができずに不幸になる。
(素晴らしい記憶力がある小説の登場人物)フネスは、大切なこととそうでないことを区別したり、
優先順位をつけたり、一般化したりすることができない。
(第2章 記憶力のよすぎる人間,P.53)

・専門技術の正体:「その分野の経験に関する長年の経験の中で得た膨大な知識とパターンに基づいた情報検索、
そしてそれをまとめる力」のことである。
言い換えるならば、優れた記憶力は専門技術の副産物ではなく、その”本質”なのだ。
(第3章 熟達化のプロセスから学ぶ,P.86)

・EPに対する記述が何とも言えない印象を与えている。
(ウイルスによりEPが重度の健忘症になったことを受け)
ウイルスは彼の記憶を奪ったのかもしれないが、彼の人間性までを奪うことは出来なかった。
ウイルスの攻撃のあとには空洞と、成長もしないし何も変わらない止まったままの自己が残ったのだった。
(第4章 世界で一番忘れっぽい人間,P.110)

・"ヘレンニウスへ"の著者が述べているとされている内容も大事なので記しておく。
教科書を学ぶことに価値があるのは、その内容が簡単だからではなく、難しいからだと述べている。
「面倒や苦労なく簡単なことをしたいと思う人間は、もっと困難な状況に身を置いて鍛えられるべきである」
(第6章 詩を憶える, P.141)

・プラトー状態から脱して上達する方法も引用しておく。[基本的な考え方はNLPや七つの習慣と同じように思う。]
達人は方向性を定めた訓練を集中して徹底的に行う(これが素人との違いである)。
(中略、エリクソンによるそのパターンは以下の通り)
彼らは訓練するとき、自分の技術に集中する、目的を持ち続ける、パフォーマンスについて常にすみやかにフィードバックを
得るという3つを実践し、自律的段階を意識的に排除している。
つまり、自ら「認知段階」にとどまるようにしているのだ。
例えば、アマチュアの演奏家は曲の練習に時間を割くのに対し、プロは反復練習や特定の難しいパートの練習に時間を割く
傾向が強い。集中的訓練を続けるのはもともと難しいものなのだ。
エリクソンは自律的段階を逃れてプラトー状態にならないための最善の策を発見した。
それは実際に失敗してみることである。そのためには、習得したい課題について、自分よりはるかにレベルの高い誰か
特定の人物になったつもりになり、その人ならどうやって問題を克服するだろうかと想像するのも1つの方法である。
実は、チェスの腕前を予測する最も確実は判断材料は、対戦相手とのゲーム数ではなく、過去の優れたゲームの再現に
取り組んだ時間なのだ。
(第8章 プラト―状態,P.213~215)

エピローグ(P.330のあたり)が一番の教訓だろうか。
記憶力が向上したと言いながらも、車を止めた場所は覚えていても、車で出かけたことを忘れることも
あるようだ。とはいえ、「訓練に勝る才能なし」の重要性を学んだと書かれている。

"(訓練には)集中し、常に自分を厳しく見つめ、徹底して取り組むことが必要だ。
集中すること、高い意識をもつこと、そして何より時間をかけることによって、脳は訓練しだいで、
とてつもないことができるようになるということを私は身をもって学んだ。
著者は、テストをして行動を見ていたエリクソンに対して、著者と同じくらい時間をかけて練習すれば、
誰でも同じように記憶力を向上できるかと訪ねた。
その回答は、
「君ほど没頭して取り組む人はそういない。(中略,このような)レベルまで上達できた理由はわからない」
だった。"

訓練や努力も重要だが、何やら別の要素も重要のようである。

記憶に対する重要性は、EPから教わったと書かれている。
世界をどう認識し、その世界でどうふるまうかは、何をどう記憶したかによって決まるということを、
EPが教えてくれた。(エピローグ,P.333)

とはいえ、第2章に書いてあったように、覚えるだけでなく忘れることも重要だと思う。
記憶力を維持するのにも、大変なので、著書は記憶力の鍛錬から離れいこうとしたのも、ある意味当然だと感じた。

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