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第三 公判③ 伝聞法則 2

2005年01月29日 | 刑事訴訟法
4 公判調書(321条2項前段)
(1) 意義
   同一手続の公判手続更新前の公判調書、公判準備の証人尋問調書、公訴棄却・管轄違いを言い渡された手続の公判調書、差戻前の手続の公判調書
 (伝聞の例外とされる理由)
   上記例のような場合、被告人には公判調書が作成された当時、反対尋問の機会が与えられていたが、事実認定を行う裁判所の面前での反対尋問という要求は、必ずしも満たされていない。法は、裁判所又は裁判官の面前でなされた供述であること、被告人には当時反対尋問の機会が与えられていたことを根拠に、無条件で証拠能力を認めた。しかし、少なくとも証人尋問を不便とする程度の必要性は要求される。
  ※同一事件の公判調書でなければならないから、共犯者の公判調書、被告人の他事件での調書等は、321条1項1号で証拠能力が与えられることになることに注意。

5 裁判所の検証調書(321条2項後段)
 (伝聞の例外とされる理由)
  裁判所又は裁判官が同一事件についてする検証においては、被告人又は弁護人は、立会権を持つ(142、113条)。立ち会って事件を指摘し説明することによって、裁判所又は裁判官の観察を正確にすることができるから、この場合の立ち会いは、実質的に反対尋問と同一の価値を持つといえる。したがって、法は無条件で証拠能力を与えた。検証をした裁判所が事実認定をする裁判所と異なるときは、直接主義の観点からして、改めて検証することを不便とするときに限るべきである。
 ※立会権が重要なのであるから、立会権を与えなかった検証調書、他事件の検証調書等は、本項によっては、証拠能力が付与されない。

6 捜査纏関の検証調書(321条3項)
(1) 検証調書の意義と取扱いの特殊性
   検証とは、場所、物又は人について、強制的に、その形状を感知する処分をいい、検証調書とは、検証をした者の検証の結果についての供述書をいう。
   検証調書も供述書である以上、伝聞証拠となり、本来は証拠能力を有しない。したがって、本来は検証の結果を法廷に提出しようとすれば、検証した者に対し、まず主尋問に答えさせて、検証の結果を報告させ、しかる後に、被告人の反対尋問にさらさなければ、証拠とできないはずである。
   しかし法は、公判準備又は公判期日において、供述者(検証をした者)が証人として尋問を受け、その「真正に作成された」ものであることを供述したときには、検証調書そのものに証拠能力を付与した。
 (伝聞の例外とする理由)
  ①強制処分として、令状を要するところから、観察が意識的である。
  ②叙述もその直後に詳細になされており、口頭で主尋問に答えさせるよりも、調書を提出させた方が正確で、理解しやすい。
(2) 「真正に作成された」の意味
 ◇A説 作成名義が真正であるとの趣旨である。
  批判:特にこの点を確かめるために、証人として尋問する必要はない。署名・押印があれば足りるはすである。
 ◇B説(判例) 作成当時には正確に観察し、正確に記述したものであるということをいう。
  批判:この説は、英米法のメモの理論を参考としたものであろうが、メモは、記憶を喪失したときのみ証拠能力が与えられるのに対し、この場合は、記憶喪失が要件となっていないから、同一に取り扱うことはできない。
 ◇C説(実務の運用) その内容が、真実であるか否かについて、被告人の反対尋問に応じて答えたとき、という意味である。
  理由:検証調書が伝聞の例外とされる理由からして、A説やB説の程度で足るとするわけにはいかない。捜査機関の検証は、当事者の一方がするものであり、被告人の立会権もないから、その観察が、訴追の意識でゆがめられているおそれもある。内容についての反対尋問が不可欠であるとするのが、反対尋問を保障した伝聞法則の趣旨に最も適合するものと言える。

7 実況見分調書の証拠能力(実況見分調書は321条3項の書面の中に含まれるか)
  実況見分調書とは、任意処分として行われた検証の結果を記載した書面をいう。
 ◇肯定説(多数説、判例)
  理由:実況見分調書と検証調書とは、任意処分か強制処分かという手続上の差異はあるが、事物の存在、性状を五官の作用によって直接体験し、認識するという点では共通であり、両者に本質的な差はない。
 ◇否定説(少数説)
  理由町:①検証は、裁判官の令状によって行うという形式をとるが、令状は、観察、記述を意識的にし、正確にする機能をも営む。
  ②321条1項は、供述録取書について、手続の厳格さの相違にしたがってそれぞれ証拠能力の段階性を認めているから、同様に手続の実質的な機能の差を重視すべきである。
  ③実況見分調書も321条3項に含まれるとするなら、私人がその見聞を記録したものも、同様に取り扱わなければ論理一貫しないはずであるが、このような結論は是認できない。したがって、限界を明確にするためにも検証に限るべきである。

8 鑑定書(321条4項)
  鑑定書とは、鑑定の経過及び結果を記載した書面で、鑑定人の作成したものをいう。
  取扱いの特殊性→検証調書と同様に取り扱われる。
 (伝聞の例外とされる理由)
  ①裁判所又は裁判官が命じた鑑定人は、人選が公正である。
  ②宣誓の上鑑定する。
  ③鑑定の複雑な内容は、口頭で述べるより、文書にする方がかえって正確である。

9 鑑定受託者による鑑定書の証拠能力(321条4項の準用は認められるか)
  捜査磯関から嘱託を受けて鑑定をするものをいい、当事者の補助者であり、鑑定をするに当たって宣誓を行わない。
 ◇肯定説(多数説、判例)
  理由:321条3項において、捜査機関の検証調書に証拠能力が付与されるのは、検証調書は、供述録取書などと異なり、見聞したままの客観的事実を記載するのが通例であり、主観的判断の入り込む余地がほとんどなく、計測その他の方法により複雑詳細な記載がなされるため、口頭による証言よりも正確を期しうることにあると解される以上、これと同様の性質をもつ鑑定受託者の鑑定書を、321条4項から除外する理由はない。
 ◇否定説(少数説)
  理由:①裁判所又は裁判官が鑑定を命じた者に限定することが字義上も無理がない。
  ②鑑定受託者は、単なる一方当事者である捜査機関の補助者にすぎず、宣誓もしていない。
 ◇判例:実況見分調書における判例(最判S35.9.8)は、実況見分調書も321条3項の書面に「含まれる」と判示したのに対し、鑑定受託者の鑑定における判例(最判S28.10.15)は、鑑定受託者の鑑定書に、321条4項の「準用」を認めた。文理解釈からは321条4項の「鑑定人」の中に鑑定受託者を含めることには無理があると判断したためと思われる。
   なお、実況見分調書及び鑑定受託者の鑑定書の証拠能力について否定説に立っても、321条1項3号によって所定の厳格な要件の下に、証拠能力が付与されることに注意。

10 私人である医師の作成した診断書の証拠能力
 ◇321条4項の準用説(多数説)
  理由:専門家である医師の診断の結果を記載した診断書は実質的に鑑定人の作成した鑑定書と翼ならない。
 ◇321条1項3号説
  理由:①診断書は、鑑定受託者による鑑定書の場合と異なり、一般私人の依頼による場合も含まれる(そこでは宣誓も、虚偽の記載に対する制裁も存在しない)。
  ②診断書は、単に結論のみを記載するのが適例であり、321条4項の鑑定書の中に含ませるのは文理上からいっても無理である。
 ◇判例(最判S32.7.25)
  鑑定受託者による鑑定書と同様に解し、321条4項の準用を認める。

11 被告人の供述(322条、324条1項)
(1) 被告人の供述は伝聞証拠か
   被告人は黙秘権を持つから、これに対し反対尋問はできない。反対尋問を経ない供述を伝聞証拠というのであるから、被告人の供述は伝聞証拠である。
(2) 被告人の供述が法廷に現れる三つの場合
 ・その1 供述録取書又は供述書として現れる場合
   証拠能力付与の要件(322条)
   ①被告人の不利益な事実の承認→任意性
   ②被告人に利益な供述→特信情況
 ・その2 公判廷における被告人以外の者の供述が、被告人の供述を内容とする場合
   証拠能力付与の要件(324条1)→その1を準用
 ・その3 被告人が自ら公判廷で供述する場合
   明文はないが、無条件で証拠能力を与えられる。
   理由:利益な供述は、必ずしも特信情況があるともいえないが、裁判所が直接にその供述態度を観察しうるから、証拠能力を認めてよい。


12 特に信用すべき文書(323条)
  伝聞の例外とされる理由→信用性の情況的保障が極めて強いため。
(1) 要件
  無条件
(2) 323条3号の書面(「前2号に掲げるものの外特に信用すべき情況の下に作成された書面」)
   323条1号、2号に準ずる程度の信用性の情況的保障の高いものをいう。321条1項3号の場合よりも信用性の高度でかつ類型化されたものでなければならない。判例(最判S3113.27)は心覚えのための手帳の記載は323条3号ではなく321条1項3号であるとしている。

13 同意書面(326条)
  伝聞の例外とされる理由=同意は反対尋問権の放棄ないし証拠能力の付与を意味するから。
(1) 法は、当事者が「異議を申し立てなかった」ときではなく「同意」したときに初めて証拠能力を認めた。したがって、この同意は積極的なものでなければならない。黙示でもよいが、反対尋問権の放棄ないし証拠能力付与の意思が十分に表れたものでなければなりない、
(2) 退廷命令と擬制同意
  326条2項は、「被告人が出頭しないでも証拠調を行うことができる場合において、被告人が出頭しないときは」被告人の同意が擬制されるとする。この条項による擬制同意が、284条、285条1項の場合に肯定されることにつき争いはない。しかし、341条による退廷命令がなされた場合については、その肯否につき見解が対立する。
 ◇肯定説
  理由:①退廷を命ぜられた被告人は、自ら反対尋問する機会をその不当な挙動等により放棄したものであるという意味において、書証の同意があったものとみなしてよい。
   ②被告人が退廷を命ぜられたときは、証人尋問権から剥奪することができるのに、証拠書類等の取調べはできないとすることは、被告人の恣意的な行動によって国家の正常な活動が阻止されることを容認する結果となる。
   ③341条に「退廷を命ぜられたときは、その陳述を聴かないで判決をすることができる。」とあるのは、「証拠調べをすることもできる」ことを意味しており、したがって、退廷命令の場合も326条2項の「被告人が出頭しないでも証拠調べを行うことができる場合」に当たる。
 ◇否定説(多数説)
  理由:①326条2項は、同意が、合理的に推定される場合の規定であり、被告人の不出頭から同意が合理的に推定される場合でなければならないが、退廷命令により出廷できない場合には、これが欠ける。
   ②肯定説による場合には、退廷命令の時にすべての書面を提出すれば、全部の書面が許容されることになってしまい不当てある。
   ③事件の審理そのものと、被告人の不当な態度に対する制裁は厳に区別して考えるべきであり、326条2項は制裁的意味を持たないから、被告人の不当な挙動に対しては法廷等秩序維持の制裁を科するにとどめるべきである。
   ④326条1項の同意は、積極的に証拠能力を付与する行為であるから、不当行状を行ったということから同意という積極的行為を推定することはできない。
 ◇判例(最決S53.6.28)肯定説
  理由:326条2項の同意の擬制は、1項の同意の意思が推定されることを根拠にするのではなく、被告人不出頭の場合は、同意の確認方法がないばかりか、訴訟の遅延を来すおそれがあるので、その真意いかんにかかわらず同意があったものと扱う趣旨の規定である。
(3) 同意を反対尋問権の放棄と理解すると、同意をした者は、その証明力を争うために、その証人の喚問を請求することはできないが、証拠能力の付与と解すれば証人請求は許される。実務は証拠能力付与説による運用である。

14 合意書面(327条)
  自ら実験した事実として述べるわけではないから、厳格な意味での供述証拠ではないが、法は、訴訟経済上、このような書面にも証拠能力を認めた。

三 伝聞証拠に関連する諸問題
1 写真に伝聞法則の適用があるか
 ◇否定説(判例、多数説)
  理由:写真は、機械的方法で、一定の事実の痕跡がフイルム及び印画紙に残されたものであるから、その性質は非供述証拠であって、供述の要素を含まない。→したがって、関連性がある限り証拠能力が認められる。
 ◇肯定説(少数説)
  理由:撮影者の報告文書に代わるものであるから、伝聞法則の適用を受けるが、321条3項の検証調書に準じ、撮影者を公判期日において証人尋問し、それが真正に作成されたものであることを明らかにした場合には証拠能力がある。
 ※肯定説が撮影者の尋問を要件とするのは、その者に撮影の状況を説明させることにより、写真に修正が加えられたかどうかを確かめ、かつ、それが事実と異なった印象を与える結果となることを防止する点に狙いがある。しかし、それを唯一かつ不可欠の方法であるとする理由はない。基本的に否定説に立ち、慎重な配慮の下に、関連性の判断をすることにより、肯定説の狙いとすることを満足させることができる。

2 録音テープに伝聞法則の適用はあるか
(1) 現場録音と供述録音
 ・現場録音→犯罪の現場で暴行に伴い発した言葉その他の音響的状況が直接に証拠となるもの。
 ・供述録音→被告人や目撃書らの捜査機関などに対する供述を、書面に録取する代わりに、録音テープに収録して証拠とするもの。
(2) 供述録音と伝聞法則の関係
 ①伝聞法則の適用あり→原則として証拠能力なし。
 ②321条以下の例外規定の類推適用があるか→肯定すべき。
  理由:供述録取書との違いは、形の相違だけであり、本質的な差がなく、両者を区別する実質的な理由がない。
 ③供述者の署名又は押印がなくとも、声や録音の状況についての証言によって、供述者の供述であることが認定できれば、供述録取書に準じて証拠能力を認めうる。
(3) 現場録音と伝聞法則の関係
 ◇非供述証拠説(多数説)
  理由:録音テープは、音声を機械的に録音するのであるから、非供述証拠である。したがって関連性さえ証明されれば、無制限に証拠能力を認めてよい。これに無制限に証拠能力を認めても、人の説明的供述が加わって初めて証拠価値を持つに至るのであり、その人に対する反対尋問は保障されているのであるから、格別の弊害も生じない。
 ◇供述証拠説
  理由:録音テープも、作成者が観察したことを作成者に代わって記憶し、表現する手段にすぎず、その意味で作成者の作成した報告書と同じ性質のものである。したがって検証調書に関する321条3項を類推適用すべき。
 ※写真の場合と同様の議論になるが、科学技術の進歩により、今までの偽変造の概念を超えた修正等の危険性にいかにして対処すべきかが根本的な問題である。供述証拠説は、証人尋問を必要不可欠の要件と考えるのに対し、非供述証拠説は、証人尋問も必要不可欠とまでするのは疑問とし、他の方法で関連性が証明できればそれで足るとする。

3 再伝聞の証拠能力
(1) 例外的に証拠能力を獲得した伝聞証拠が、更にその内容として伝聞証拠を含む場合、後者の伝聞部分は、果たして証拠として許容されるか。
(2) 再伝聞が問題となる場合
 (イ) W(被告人又は被告人以外の者)の供述をXが聞き、XがWの肯定・確認のないまま(供述録取書の署名・押印を欠く)、それを書面に記載して提出した場合
    W→X(書面)
 (ロ) Wの供述をXが聞き、XがそれをYに話し、Yが更にその内容を法廷で証言した場合
    W→X→Y(口述)
 (ハ) Wの供述をXが聞き、Xからそれを聞いたYが更にその内容を書面に記載して(Xの肯定・確認を経て)提出した場合
    W→X→Y(書面)
 ◇肯定説(多数説)
  再伝聞の各々の過程に、321条ないし324条の要件が備わっているなら再伝聞についても証拠能力を認めるべきである。
  理由:320条は、「公判期日における供述に代えて」証拠とすることができないと規定しており、したがってその例外規定によって証拠能力を認められる供述は、公判廷における供述に代わることになる。その中に含まれる伝聞(再伝聞)は、公判廷における伝聞と同じく取り扱わなければならない。
 ◇否定説
  再伝聞については、たとえ各々の過程に321条ないし324条の要件が備わっていても、その性質上、証拠能力を認めるべきではない。
  理由:①再伝聞はその存在自体が疑われる場合である。
   ②仮に、一次伝聞を公判廷の供述と同視するとしても、再伝聞は、その信用性の状況的保障を調査することがほとんど不可能である。
   ③再伝聞は、一次伝聞に比べて、関連性が一層希薄であり、したがって、証明力も極度に低いとみなければならない。
 ◇折衷説
  前の不一致供述が321条1項1号、2号各後段を通して公判に提出される場合についてのみその供述に含まれる再伝聞部分の証拠能力を肯定すべきである。
  理由:①再伝聞につき規定を欠き再伝聞の場合には信用性の吟味が困難になることを考えれば、伝聞証拠が実はほとんど機能的に公判での供述と変わらない場合に限って再伝聞を認めるに止めるべきである。
   ②321条1項1号、2号各後段の場合には、法廷において事後的ではあれ、反対尋問が可能であるから、伝聞証拠を機能的に公判での供述と同視しうる。