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第七 罪数

2005年01月25日 | 刑法
一 本来的一罪

1 単純一罪
  構成要件に該当する犯罪事実が一回発生した場合をいう。ただし、何がこれにあたるかについては規範的評価を必要とする(例:常習犯、営業犯)。
  単純一罪は、一罪性に争いのないものをいうと理解しておけば足りる。

2 法条競合
 (1) 特別関係→特別法は一般法に優先する
   例:業務上過失致死罪が成立するときには、過失致死罪は成立しない。
 (2) 補充関係→基本となる構成要件に該当しないことを前提として定められた補充の構成要件
   例:殺人罪が成立するときには、殺人未遂罪は成立しない。
   例:現住建造物放火罪が成立するときには、家具を燃やしたという建造物以外放火罪は成立しない。
 (3) 択一関係 一つの行為に適用可能な複数の構成要件が存在するが、それが相互に両立し難い場合
   例:横領罪が成立するときは、背任罪は成立しない。
 (4) 吸収関係
   例:殺人罪が成立するときには、その際に服を破いたという器物損壊罪は成立しない。
 (5) 不可罰的事後行為(吸収関係に入るとする説あり。また、包括一罪とする説もある。)
例:窃盗罪が成立するときには、既遂後の盗品の処分については犯罪は成立しない。

3 包括一罪
  数個の行為があり、それぞれ構成要件に該当するように見えるが、包括して一罪と評価されるもの
 (1) 常習一罪(単純一罪とする立場も強い。)
   例:常習賭博罪、常習累犯窃盗罪
 (2) 同一の法益侵害に向けられた数首の行為を構成要件が予定している場合
   例:逮捕して、引き続き監禁すれば、逮捕監禁罪一罪
 (3) 接続犯(接着した数個の行為が同一の目的で同一の犯罪的結果に向けられている場合)
   例:倉庫から物を盗もうとして、単一の意思で何回も倉庫から物を盗み出した場合は窃盗の包括一罪

二 科刑上一罪
  複数の犯罪が成立するが(一とは根本的に異なる)、刑を科す上で 一罪として取り扱われる。

1 観念的競合(54条1項前段)
  1個の行為が数個の罪名に触れる場合
  行為が、時間的場所的に同一であると認められるか否かによって判断する。

2 牽連犯(54条1項後段)
  数個の行為が、それぞれ、互いに手段または結果の関係にある場合
  手段、結果の関係は、「犯罪の性質上」「通常手段または結果の関係がある」ことが必要である。たまたま手段、結果の目的が認められる場合(放火と保険金詐欺)、行為者が手段、結果として認識している場合(殺人に使うために凶器を盗んだ場合)には牽連犯にはならない。
  例:住居侵入→殺人、傷害、強姦、放火、強盗、窃盗
    文書偽造→偽造文書行使→詐欺

三 併合罪
  本来的にも、科刑上も一罪とならない複数の罪。
  定義は45条を参照。

四 (狭義の)共犯の罪数
  共犯従属性説を採用するので、共犯は正犯に成立した犯罪の個数に従うことになる。ただし、観念的競合における「一個の行為」の要件は、教唆行為、幇助行為の個数で判断する、というのが通説てあり、判例も、黙示的ながら同様の結論を採用している(最判昭46・9・28刑集25・6・798)。しかし、その一方で、判例は、牽連犯の教唆、幇助については、一個の行為で教唆、幇助した場合も、教唆犯、幇助犯の牽連犯が成立するとしている(教唆犯につき大判大4・2・16判決録21・107、幇助犯につき大判大6・10・1、判決録23・1040)。
  なお、共同正犯の場合は、原則として単独犯と同様に罪数を考えれば足りる。

第六 共犯④

2005年01月25日 | 刑法
六 共犯と身分

1 身分の意義
  一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位または状態
  性別、国籍、親族関係、公務員の資格などの関係に限られない。
  →「目的」なども身分

2 真正身分犯(65条1項)
  その身分により、初めて犯罪が構成される場合
  例:収賄罪の「公務員」、偽証罪の「宣誓した証人」、強姦罪の「男性」、横領罪の「占有者」等

3 不真正身分犯(65条2項)
  その身分が、刑の軽重に影響を与える場合
  例:常習賭博罪の「常習者」、業務上横領罪の「業務者」等

4 業務上横領罪のように、不真正身分(業務性)と真正身分犯(占有)とが複合している犯罪については、65条1項、65条2項の双方が適用になる。(判例は、業務上横領罪に非占有者かつ非業務者が加功した場合、その者にも業務上横領罪が成立し、委託物横領罪の刑で処断されるとする。)

七 共犯と錯誤

1 具体例
  甲が乙に、「Aを傷つけろ」と教唆したが、
 (1)乙がBを傷つけた場合
 (2)乙がBを殺した場合

2 処理→単独犯の応用である。注意が必要なのは、正犯にとっての客体の錯誤が、共犯とっては方法の錯誤となる場合があることである。
 (1) (1)の場合
   錯誤について法定的符合説の立場をとれば、甲には傷害教唆罪が成立する。
 (2) (2)の場合
   原則として過剰責任は負わない(個人責任の原則)。
  →甲に殺人教唆罪は成立しない。
   しかし、結果的加重犯においては、因果関係があれば、故意・過失がなくても重い結果について責任を負うので、教唆者も責任を負う。
  →甲には傷害致死罪が成立する。

3 異なる共犯形式間での錯誤
 (1) 間接正犯の意思で客観的には教唆犯にあたる行為をした場合
   実質的にみた場合、間接正犯の故意は教唆犯の故意を包摂する→教唆犯成立
 (2) 教唆犯の意思で客観的には間接正犯にあたる行為をした場合
  →教唆犯の成立

八 予備と共犯
 (1) 予備の共同正犯
  ①肯定説(判例、通説)
   修正構成要件である予備罪自体にも、その「実行行為」は考えうる。60条の実行を43条の実行と同義に解する必要はない。
  ②否定説
   60条にいう「実行」は、実行行為のことであり、修正構成要件たる予備はその実行行為には含まれない。
 (2) 予備の教唆犯、幇助犯
  ①肯定説(判例、通説)
   修正構成要件である予備罪自体にも、その「実行行為」は考えうる。
  ②否定説
   62条の「正犯」は、実行の着手を前提とする。実質的にも、予備罪の処罰が例外的であるのに、さらに間接的な予備の従犯までを処罰するのは不当。

九 未遂と共犯

1 共同正犯の未遂
 (1) 意義
   共同正犯者の共同実行行為によって、全く結果が発生しなかった場合
  →一部の者の行為が未遂に終わっても、他の者の行為が既遂に至れば、既遂犯が成立する。
 (2) 中止犯
  ①自己の行為を中止し、かつ、他の共同者の行為も未遂に終わらせなければならない。
  →他の者の行為が既遂に至れば、既遂犯が成立し、中止未遂とはならない。
  ②中止未遂は、責任の減少と刑事政策的理由から刑が必要的に減免される。したがって、中止した者のみが中止未遂となり、他の者は障害未遂が成立するにすぎない。
  →a全員が合意の上で中止した場合
   →全員について中止未遂
   b一部の者が中止し、他の者の行為も未遂に終わらせた場合
   →中止した者は中止未遂、他の者は障害未遂

2 共同正犯からの離脱
  →離脱が認められれば、離脱の後の行為には責任を負わない。
 (1) 意義
  共同正犯者のうちの少なくとも一人が実行行為に着手した後に、他の一人が翻意し、犯罪遂行を中止したが、他の共同正犯者の以後の行為によって結果が発生した場合、生じた結果について中止した者が刑事責任を負うかにおいて最も問題となる。
 (2) 要件
  ① 離脱の意思を表明し、他の共謀者が明示的または黙示的に了承したこと
    他の共謀者に気付かれないうちにやめても、他の共犯者への影響、犯罪への因果性は断ち切られていないから。
  ② 離脱は既遂前ならば可能。
   →実行着手後に離脱した場合は、未遂犯は成立する。そして、この場合は、さらに中止犯も考え得る。
 (3) 共同正犯からの離脱と中止犯との関係
  →離脱を先に検討し、次に中止犯を検討するとよい。
  ①実行着手前に離脱した →無罪
  ②実行着手後結果発生前に離脱した →未遂罪→中止未遂の成否を検討
  ③離脱はなかったが、結果は発生していない →未遂罪→中止未遂の成否を検討
④離脱なく結果発生 →既遂罪

3 教唆犯、従犯の未遂
 (1) 意義
   正犯が未遂に終わった場合
   →教唆したが、被教唆者が決意しなかった場合や被教唆者が実行に着手しなかった場合は、不可罰(共犯従属性説)
 (2) 中止犯
   教唆者、幇助者が、被教唆者、被幇助者の行為を既遂に至らせなかった場合



第六 共犯④

2005年01月25日 | 刑法
五 幇助犯

1 意義
  実行行為以外の行為(=幇助行為)により、正犯の実行行為を助け、その実現を容易ならしめるもの

2 成立要件
 (1) 幇助行為
   実行行為以外の行為によって、正犯が特定の構成要件に該当する実行行為をするのを援助すること。
  ・幇助の手段、方法には制限がない。
  →物質的援助、精神的援助をとわない。作為、不作為をとわない。
  ・幇助者が被幇助者の知らないうちに幇助行為をする場合にも幇助犯が成立する(片面的幇助も可罰的である)。
 (2) 被幇助者の実行行為
  注:実行行為後の幇助行為(事後従犯)は幇助犯とはならない。

3 処分
  正犯の刑に照らして減軽される(62条1項)
  従犯を教唆した者も、従犯に準じる(62条2項)
 ※間接従犯
  →幇助行為の定型性は緩いので、正犯を幇助した者=「幇助犯そのもの」というべきである。ただし、判例は「間接従犯として可罰的である」としている(最決昭44・7・17)

4 承継的従犯
  承継的共同正犯と同様に考えるのが理論的である。
  ただし、幇助行為は定型性が緩やかなので、関与後の行為だけに責任を負うとしても、関与前の行為も含めた全体の犯罪についての幇助罪の成立を認めることができる場合が多い(例:詐欺罪で、欺罔行為後に加わり、財物受領行為のみ手助けした者に対しては、承継的従犯の肯定、否定にかかわらず、詐欺罪の幇助罪が成立すると思われる)。

5 過失犯に対する従犯
  否定(多数説)→ただし、他人の過失行為を、それと知りつつ幇助する場合は、その行為を利用して自ら犯罪を実行する間接正犯とされる可能性がある。

6 片面的従犯
  肯定(判例、通説)←「共同して実行」することが要求される共同正犯と異なり、単に「正犯を幇助」することが要件であり、意思連絡は要求されていない。また、全部の責任を負う共同正犯と異なり、従犯は必要的に減軽され、もっぱら幇助行為に即してその責任を問われるだけであるといえるから、片面的従犯を処罰することが実質的にも妥当である。

第六 共犯③

2005年01月25日 | 刑法
四 教唆犯

1 意義
  人を教唆して犯罪を実行させるもの

2 成立要件
 (1) 教唆行為
   他人に、特定の構成要件に該当すべき実行行為に出る決意をさせること
  ・特定の犯罪であることが必要だが、日時、場所、方法までの特定までは不要。
  ・明示、黙示を問わない。
  ・命令、脅迫、嘱託、哀願、欺罔、誘導などでもよい。
  ・相手(正犯)の意思を抑圧すると、間接正犯である。
  ・過失による教唆、過失犯の教唆はない。
  ・既に決意している者に教唆しても、教唆にはならない(幇助犯の成立はありうる)。←「決意」させることが必要。
 (2) 教唆に基づく正犯の実行

3 処分
  正犯に準じて処罰される(61条1項)
  教唆犯を教唆した場合(間接教唆)も同様(同条2項)
 ※再間接教唆
  →間接教唆者の教唆者も「教唆者」といえ、また、実質的にも処罰するのが妥当(大判大11・3・1)

4 教唆の未遂
  教唆行為は行われたが、正犯者が何もしなかった場合
 →共犯従属性説からは、不可罰

5 未遂の教唆
 (1) 意義
   初めから未遂に終わらせる意図での教唆
 (2) 学説
  ①共犯独立性説→不可罰説
   教唆は教唆行為そのものが単独犯の犯罪行為と同視される。したがって、教唆の故意は単独犯と同様、結果発生の認識、認容が必要である。
  ②共犯従属性説
   a不可罰説
   教唆犯の処罰根拠は他人をそそのかすことによって違法な行為を実現することにある。したがって、「違法な行為の実現」という故意の面では教唆犯は単独犯と異ならない。そして、単独犯の場合、未遂犯の故意は、未遂で終わらせる意思では足りないとされており、教唆犯において未遂で終わらせる意思にある以上、故意が欠けることになる。
   b可罰説
   教唆の故意は、被教唆者に犯罪を実行する決意を生じさせる認識、認容で足りる。
   正犯者を未遂で処罰する以上、共犯処罰もそれに従属させる。

6 過失犯の教唆
  否定(多数説)←教唆は、人に犯罪実行の決意を生ぜしめる行為であるから、理論上過失犯の教唆犯は認め難い。

7 片面的教唆
  肯定(多数説)←教唆は他人に犯罪を決意させ、実行させれば足り、被教唆者の主観的態様まで要求しているわけではない。


第六 共犯②

2005年01月25日 | 刑法
三 共同正犯

1 意義
  2人以上共同して犯罪を実行した者(←犯罪共同説)

2 処分
  共同正犯者は、他人の分担行為についても責任を負う。
  =一部実行、全部責任の原則

3 本質
  共同正犯者間の相互利用補充関係

4 共謀共同正犯
 (1) 意義
   直接実行行為を行っていないが、暴力団等の組織犯罪において、背後で指示、煽動している大物について、教唆犯、幇助犯として処罰し得るのみで、正犯として処罰できないのは不当ではないか、という価値判断から、謀議に加わっただけで、直接実行行為を行っていない者について、共同正犯の罪責を問うことができないかが議論される。
 (2) 否定説
  (根拠)
  ①60条は、「共同して犯罪を実行した」と規定しているのに対し、謀議に参加したに過ぎず、犯罪を「実行」したといえない者を処罰するのは、罪刑法定主義に反する。
  ②これを認めなくとも、「背後の大物」は教唆犯、幇助犯として処罰できるし、また、これを認めると、教唆犯、幇助犯との区別が曖昧になる。
  (批判)
  ①刑法の規定は、実質的に解釈する必要があり、形式的に犯罪を「実行」したと言えなくても、実質的に「実行」と言える場合もあり得るのであって、そのような解釈は、罪刑法定主義に反するとはいえない。
  ②「背後の大物」を教唆犯、幇助犯としてしか処罰し得ないのは、やはり、国民の法感情に反する。
 (3) 肯定説
  ①共同意思主体説
  (根拠)
  数人の犯罪の共謀によって、犯罪実現の共同目的のための「共同意思主体」が形成され、その中の一部の者が行った行為は、「共同意思主体」の活動にほかならないから、その構成員全員が、共同正犯としての罪責を負う。
  (批判)
  この説によれば、本来責任を負うのは「共同意思主体」であり、各構成員に責任を負わせるのは、一種の転嫁罰を認めることになり、個人責任の原則に反する。
  ②間接正犯類似説
  (根拠)
   共謀の結果、互いに他の謀議者の行為を利用し、足りない部分を補完して、各自の意思を実行に移すという相互利用補充関係が生じる。この関係は、他人を道具として利用して自己の意思を実現する間接正犯に類似した関係であると言える。そこで、間接正犯が正犯として処罰されるのと同様に、謀議に参加したのみの者についても、共同正犯としての罪責を問いうる。
  ③行為支配・優越的支配説
  (根拠)
   謀議者が、単に謀議に参加したというだけでなく、直接実行行為者の意思に現実に作用し、それをして遂行せしめる場合、あるいは、他人の行為を支配して自己の犯罪を遂げる場合には、自己の犯罪と言いうるのであるから、正犯としての罪責を問いうる。
 (4) 判例ー最判S33・5・28(練馬事件)
   いわゆる共謀共同正犯が成立するには、2人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をし、これによって犯罪を実行した事実がなければならない。((2)の②説あるいは③説に立っていると理解されている。)
 (5) 検討 
   いずれの説もモデル論として理解しておくべきである。この問題は、最終的には、共同正犯の処罰根拠に帰する。共同正犯の処罰根拠は、「相互利用補充関係」により犯行を容易にするという点にあり、形式的な実行行為の分担にのみあるわけではい。実行行為を分担しなくても、実行行為以外の行為や、心理的影響等により「相互利用補充関係」が認められるならば、正犯として全部について責任を負わせることが可能である。(60条の「実行」は価値的な「実行」と理解されるのである。)
 (6) 成立要件
  ①共同実行の意思
  ②共謀者のうちの1名以上の者の犯罪の実行


5 承継的共同正犯
 (1) 意義
  先行行為者が、既に実行の一部を終了した後、後行行為者が共同実行の意思をもって実行に参加すること。
 (2) 肯定説
  ①一罪説
  →犯罪が不可分の一罪である以上、その一部に関与した場合には、全体について責任を負う(犯罪共同説を強調する。また、判例にはこれを強調するものが多い)。
  (批判)「一罪」はなぜ「不可分」なのか、説明がない。罪数論と犯罪が不可分とは別のものである。また、犯罪として不可分であれば、関与以前の行為であっても責任を負うというのは、個人責任の原則に反する。
  ②先行行為の積極的利用説
  a先行行為者の行為を認識し、利用する意思があれば、関与前の行為についても責任を負う。
  (批判)利用する意思だけで処罰するのは不当であるから、利用行為がなければならないはずである。
  b先行行為者が作り出した状態がなお効果を持ち続けている場合は、関与前の行為ついても責任を負う。
  (批判)この説は、関与以前に発生した「結果」には、責任を負わないとするが、「結果」と「状態」が何故区別されるのか。
  ③結合犯説
   結合犯で、両罪の結びつきがゆるやかなもの(例:強盗傷人=強盗+傷害)は、分解可能であり、行為者の関与以前に行われた分解できる行為については承継しないが、結合犯で、両罪の結びつきが密接なもの(例:強盗=暴行、脅迫+窃盗)は、分解不可能であり、行為者の関与以前に行われた行為についても、これを承継する。
  (批判)結びつきの強弱は何で決まるのか、明確な基準がない。
 (2) 否定説
   共犯においても、個人責任の原則は維持されるべきであり、また、自己の行為と因果性のない結果については帰責されないというべきである。
   そして、関与以前の行為について、後攻行為者の行為が因果性を持つことはありえない以上、後行行為者は、関与した時点以降の行為及びその結果にのみ責任を負う。
  (批判)結論が不合理である。

6 過失の共同正犯
 (1) 具体例
   甲と乙が共同で熊をライフルで撃ったところ、実は熊ではなく人を熊と誤信して射殺してしまったが、甲乙いずれの弾丸が命中したのか不明の場合、甲と乙とを過失致死罪の共同正犯とすることができるか。
 (2) 学説
  ①行為共同説→過失の共同正犯肯定説
   共同正犯は行為を共同すればよいのだから、当然過失の共同正犯は成立する。
  ②犯罪共同説→過失の共同正犯否定説
   共同正犯は構成要件該当事実を共同するものであり、不注意という無意識的部分を本質とする過失犯では構成要件該当事実の意思の連絡(共同実行の意思)が認められず、過失の共同正犯は成立しない。
  ③犯罪共同説→過失の共同正犯肯定説
    「共同の注意義務」に「共同して」違反するということがありうるが(「注意義務違反の行為」は共同でできる)、この場合は過失の共同正犯も成立する。
   例:家を建築していた大工3人が屋根の上から分担して材木を投げ降ろす作業をしていた時に、うち1人が投げ降ろした材木が通行人に当たって通行人が死亡したような場合は、共同の注意義務違反がある。
 (3) 判例(最判28・1・23集7・1・30)
   メタノール含有飲料販売の罪(特別刑法上の過失犯)の共同正犯を認めた。ただし、これは販売という故意行為を含むものであり、「共同の注意義務違反行為」を比較的容易に認めうる事案である。

7 片面的共同正犯
 (1) 意義
   例:2人以上の者が、客観的には犯罪の実行行為を分担しながら、主観的には意思の相互連絡がなく、一方だけが片面的に共同加功の意思を持っていた場合、共同加功の意思を持っていた方に共同正犯は成立するか。
   例:Aが甲女を強姦しようとしている際、偶然通りかかったAの友人Bが、Aの知らない間に甲女の足を押さえつけていたので、A女は強姦の目的を達した場合のBの罪責(Aに共同正犯が成立しないのは当然)
 (2) 学説
  ①肯定説→行為共同説と親和的
   心理的影響かなくても、物理的影響があれば共同正犯の成立は妨げない。
  ②否定説→犯罪共同説と親和的
   共同正犯の一部実行、全部責任は、共同者が、相互に他の者の行為を利用し、補充しあう関係に立つからであり、「共同実行」に対応する主観的要件の「共同実行の意思」は相互的な利用・補充の共同行為の表象・認容を内容とする。したがって、片面的共同正犯は、「共同実行の意思」を欠く。
  →なお、否定説でも、片面的従犯を認める説は多く、例の場合、従犯が成立するとする。

8 共同正犯と教唆犯の区別(考慮すべき事情)
 (1) 被告人と実行者との関係
 (2) 被告人の犯行の動機
  ・経済的利益の獲得目的→肯定方向
  ・被害者への悪感情→肯定方向
  ・組織の立場→肯定方向
  ・義理立て、報恩の情→否定方向
 (3) 意思疎通行為
  ・互いに協力して犯行を行うとの意思
 (4) 実行行為以外の加担行為役割分担あるいは犯行への寄与
  ・犯行過程の一部分担
  ・激励、協力、待機、見張り等
  ・犯行方法の教示、犯行道具の貸与、代人の紹介、資金の提供
 (5) 犯行前後の行為
  ・犯跡隠蔽行為
  ・分け前分与
  ・その他実行行為者からの事後報告等