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第三 公判③ 伝聞法則 1

2005年01月29日 | 刑事訴訟法
一 概説
1 伝聞法則の勉強の仕方
  伝聞法則は、証拠法の中でも最も理解の難しいものの一つである。難しいことを覚悟して、じっくり腰をすえて勉強してほしい。
  まず、321条以下の伝聞の例外の根拠をしっかりと把握することである。ここで重要なのは、条文を何度も読むことである。少ない条文なのだから、じっくり読むことである。
  そして、証拠がどのような形で法廷に現れるのか、具体的場面を想定しながら勉強してほしい。できれば、例外の根拠規定のそれぞれにつき、2、3の場面を想定してみるとよい。
  条文をよく読むこと、具体的場面を頭に描きながら勉強すること、この2つが伝聞法則を身につけるための必須事項である。

2 伝聞法則の意義
  伝聞証拠とは、事実認定をする裁判官の面前で、供述と「同時に」反対尋問を経ていない供述証拠であり、伝聞法則とは、伝聞証拠の証拠能力を否定する原則である。
  理論的根拠:供述証拠は、知覚→記憶→表現・叙述という過程をとるので、この過程に誤りがないかどうかを反対尋問によってテストし、その真実性を担保する必要がある。
  成文上の根拠:憲法37条2項、それを受けた法320条1項。憲法37条2項前段は、被告人に不利益な供述者に対する反対尋問権を保障したものであり、後段は、被告人に利益な証人に対する喚問請求権を保障したものである。

3 伝聞法則における注意点
(1) 伝聞証拠は、言葉が供述証拠として用いられないとき、すなわち、言葉それ自体が証明の対象であるとき(例えば、名誉毀損の言葉、猥褻な文書等)、あるいは言葉が非供述証拠として用いられるとき(例えば、被害者の「お前は馬鹿だ」という言葉を、被告人が被害者を傷害する動機を抱くに至ったことを証明する証拠として用いるとき)は、伝聞の問題は起こらない。
(2) 供述は、口頭でなされると、文書でなされるとを問わない。事実を直接に見聞した甲が、その状況を文章で述べた場合、それはいわゆる「伝え聞き」ではないが、甲に対する反対尋問がなされない点では、乙が甲から伝え聞いて、公判廷で証言した場合と異ならないから、やはり伝聞である。
(3) 反対尋問は、供述と同時になされなければならない。以前の供述を録取した書面について、その供述者を、証人として喚問して公判廷で反対尋問しても、必ずしも供述直後の反対尋問のような効果をあげることはできないから、この書面は、やはり伝聞証拠である。伝聞証拠の意義を参照。
(4) 反対尋問は、事実認定をする裁判所の前で行われなければならない。反対尋問は、尋問を受ける供述者の態度をも考慮に入れたとき、初めて、十分にその効果を判断することができる。したがって、事実認定をする裁判所以外の者の前で反対尋問の機会が与えられても、やはり伝聞証拠である。

4 伝聞法則の例外
(1) 憲法37条2項も、(イ)反対尋問に代わるほどの信用性の情況的保障があり、かつ(ロ)その証拠を用いる必要があるときにまで、必ず審問の機会を与えなければならないという趣旨ではない。被告人の反対尋問権の保障といっても絶対的なものではなく、伝聞証拠の信用性が合理的に認められる場合で、かつ、その証拠が真実発見のために必要である場合には、真実発見という観点から、一定の範囲で譲歩を迫られる。英米法においても古くから例外が認められていた。
  ①信用性の情況的保障→供述が信用できるような外部的情況。この保障には程度の差がありうる。
  ②必要性→その証拠を使用する必要があること。この必要性にも程度の差がありうる(他で代替できるか否か、重要な証拠であるか否か等)。
  ※伝聞法則の例外は、①②の強弱の兼ね合いによって、相互に補完的に相対的に考慮されて、許否が決せられている。
(2) 例外の3分類
 ①反対尋問が不可能な場合
  その1 証人喚問不能の場合
  その2 被告人の供述
 ②不完全なから反対尋問の機会を与えた場合
  その1 供述が以前になされ、公判廷で事後的に反対尋問の機会を与えた場合
  その2 以前の供述のときに反対尋問の機会を与えた場合(しかし、それは事実を認定する裁判官の面前ではない場合)
 ③ 反対尋問を必要としない場合(次表)

     条文      要件          反対尋問
裁面調書 321条1項1号前 証人喚問不能      不可能
     321条1項1号後 自己矛盾供述      事後の反対尋
            単に異なった供述をした 問ゆえ不完全
            ときをしたときにも可

検面調書 321条1項2号前 証人喚問不能+ 不可能
321条1項2号後 自己矛盾供述+     事後の反対尋問
            特信情況        ゆえ不完全

3号書面 321条1項3号後 証人喚問不能十必要不可 不可能
            欠十特信情況

公判調書 321条2項前  証人尋問を不便とする程 以前の反対尋問
            度の必要性       ゆえ不完全

裁判所の 321条2項後  改めて検証することを不 以前の反対尋問
検証調書        便とする程度の必要性  ゆえ不完全

捜査機関 321条3項   公判廷での真正に作成さ 以前の反対尋問
検証調書        れたものである旨の供述 ゆえ不完全
          
鑑定書 321条4項   公判廷での真正に作成さ 以前の反対尋問
            れたものである旨の供述 ゆえ不完全

被告人の 322条1項前  被告人の不利益事実承認 不可能
供述書供        +任意性
述録取書 322条1項後  不利益事実承認以外+  不可能
            特信状況

被告人の 322条2項 無条件(裁判所が直接   不可能
公判調書 供述態度を観察する)
323     無条件(特信状況強)    不要

同意書面 326     裁判所が相当と認める時  不要

合意書面 327     両当事者の合意及び書面  不要
           に記載しての提出  (訴訟経済)

注 表にするため多少不正確・不十分なところがあるが、あくまでも整理のためのものと思ってほしい。


二 個別的検討
1 供述書・供述録取書
(1) 意義
 ・供述書 供述者自らが作成した書面→署名又は押印を必要としない。筆跡・語法などにより、供述者自らが作成したものであることが認められれば足りる。
 ・供述録取書 録取者が、供述者から聞いたことを報告するために、録取作成した書面→供述者の署名又は押印を必要とする。
(2) 供述録取書には供述者の署名又は押印が必要である。
  理由:供述録取書は、録取者が、供述者から聞いたことを書面で報告するものであるから本来再伝聞に当たる。ところが、供述者の署名又は押印によって録取の点の伝聞性が除去され、単純な伝聞証拠となる。
(3) 供述者の署名又は押印の欠如した供述録取書の証拠能力供述者の署名又は押印がなくとも、他の方法(供述に立ち会った信用できる第三者の証言等)により、真に供述者の正確な供述であることが証明された場合には、その署名又は押印を求めた趣旨から、証拠能力を認めてよい。ただ、真に供述者の正確な供述であることの証明があったか否かの判断は慎重にすべきである。少なくとも、署名又は押印ができなかったことにつき、合理的な理由が必要である。

2 証人喚問不能の場合(321条1項1号前段、2号前段、3号)
(1) 321条1項1号前段(裁面調書)
  ①裁判官の面前における供述とは、捜査中の証人尋問(228条)、又は証拠保全による証人尋問(179条)などをいう。
  ②少なくとも、宣誓がなされていることを前提とする。
  ③証拠保全のときは、当事者には立会権があり(157条)、228条の場合は、被告人に立会権はないが、裁判官が被告人に変わって、公正な立場から被告人に利益な面についても十分に尋問しているものと考えられる。
  ④このように宣誓と職権尋問という、かなり強い信用性の情況的保障があることか、伝聞の例外の根拠である。
(2) 321条1項2号前段(検面調書)
  特信情況必要説(判例、通説は不要説)
  理由:①裁面調書の場合と異なり、宣誓も、被告人の立会権もない。また、検察官は裁判官のように公正な第三者的立場にあるのではなく、当事者的地位にあるのである。
   ②検察官は、公益の代表者として真実の発見に努めるものであり、必ずしも、被告人に不利益な点だけを追及するものではないが、他方、常に被告人に代わってその利益な点まで十分に問いただすことは期待できない。したがって、裁面調書と異なり、信用性の情況的保障は強いとはいえない。特信情況なしに証拠能力を認めることは憲法違反の疑いがある。
(3) 321条1項3号(3号書面)
  ①裁面調書及び検面調書以外の書面であり、司法警察官の面前での供述、弁護人の面前での供述等がある。
  ②これらの書面は、裁面調書や検面調書の場合と異なり、それ自体としては、必ずしも信用性があるとはいえない。
  ③したがって、特に信用すべき情況があり、かつ、犯罪の存否の証明に欠くことができない場合に限って伝聞の例外となる。特信情況と必要性の両者の判断についてより厳格となる。
(4) 証人喚問不能の事由は制限列挙か、例示列挙か
   厳格な制限列挙ではないにしても、憲法に保障した被告人の反対尋問権の例外を認めるための要件であるから、その解釈は慎重でなければならない、
(5) 例示列挙として、次のような場合はどうか。
 ・その1 強姦の被害者である証人が号泣して証言できない場合
  結論:否定すべき。
  理由:これらの要件は、一時的なものではなく継続的なものでなければならず。合理的な期日の延期によっても、出頭を望みえない場合でなければならない。号泣した場合には。期日をあらためることによって、証言の得られる可能性がある。
  (「身体の故障」に当たるとする判例→札幌高裁函館支部判S26.7.30。しかし、「身体の故障」の通常の意味の解釈ではないであろう。)
 ・その2 証人が証言拒否権を行使したとき
  結論:判例は肯定説(最判S27.4.9)。ただし、学説は否定説が有力。
  理由:①証言を拒否することは、前もって予想できないことではない。
   ②作為的に拒否させる可能性も大きい。
   ③もともと、証言拒否権を与えたのは、法が、その者の証言は得られない場合があってもやむを得ないという意思を表示したものと考えられるから。
 ・その3 証人が記憶を失った場合
  結論:判例は肯定(最決S29.7.29)。ただし、学説は否定説が有力。
  理由:①証人が真に記憶を失ったか、記憶を失ったと称するだけであるかは、判別が困難であり、証言拒否との区別があいまいである。また、作為の入り込む余地も大きい。
   ②記憶喪失の場合は訴訟促進によって喪失した記憶を取り戻しうる。
(6) 前の供述の当時、将来喚問不能となることが予想され、かつ相手方を供述に立ち会わせる可能性があったにもかかわらす立ち会わせなかった場合証拠能力を認めうるか。
  結論:否定すべき。
  理由:このように、殊更に尋問の機会を奪った場合にまで証拠能力を認めるのは、憲法の保障する尋問の機会を十分与えたものとはいえない。

3 自己矛盾の供述(321条1項1号後段、321条1項2号後段)
(1) 自己矛盾の供述の意義
   自己矛盾の供述 許容されるべき(証拠能力のある)一定の証拠を基準にして、これと内容的に一致しない同一人の法廷外の供述。
(2) 328条との関係
   328条は、証明力を争う証拠、すなわち弾劾証拠としては伝聞証拠も許容されるという趣旨の規定であるのに対し、ここでいう自己矛盾の供述は、実質証拠、すなわち犯罪事実の存否の証明に使用する証拠として証拠能力が与えられる場合の問題である。
 ★321条1項1号後段、321条1項2号後段で自己矛盾の供述が伝聞の例外とされる理由
  ①321条1項1号後段の場合
   裁面調書が自己矛盾の供述として法廷に現れる場合としては、捜査中の証人尋問(228条)、証拠保全による証人尋問(179条)、更に、他事件の証人尋問等が考えられる。これらの場合には、仮に反対尋問がされていたとしても、事実認定をする裁判所の前で反対尋問したのではないから、伝聞証拠である。
  ②321条1項2号後段の場合
   検面調書が自己矛盾の供述として法廷に現れるのは、検察官が自己矛盾の供述である旨を示して証拠請求する場合である。
  ③以上の場合、証人喚問不能の場合と異なり、
  (イ) 自己矛盾の供述をした証人が現在でも利用できる状態にある。
  (ロ) 供述時ではないが、法廷で、前の自己矛盾の供述に対する反対尋問をさせうる状態にある。
  (ハ) 同一証人がAと非Aという不一致の供述をしているので、供述だけを考えても、反対尋問を有効にする材料が、当事者双方にあることが明らかである。
  ④以上の理由から、自己矛盾の供述は、事後的ではあるが、有効な反対尋問が期待される場合である。すなわち、かっての供述に対する反対尋問という意味で不完全な反対尋問ではあるが、一応反対尋問がなされうるということが自己矛盾の供述に証拠能力を与えた根拠である。
  ⑤更に321条1項2号後段では、「前の供述を信用すべき特別の情況の存在」が要件となっているのであるから、反対尋問の行われた結果、前の供述の方が信用できるとの心証が得られたときに初めて、前の供述(自己矛盾の供述)に証拠能力が与えられる。
  馥したがって、自己矛盾の供述が許容されるためには、証人尋問の請求段階から、当該書面があらかじめ相手方に開示されることが要件となる。
(3) 321条1項1号後段と321条1項2号後段との違い
  ①321条1項1号後段→反に異なった供述をしたとき、既に証拠能力が与えられる。
   321条1項2号後段→前の供述と相反するか、若しくは実質的に異なった供述をしたときでなければならない。
  ・判例(最決S32.9.30)は、「検察官に対する供述が公判廷における供述に比し、大綱においては一致していても、より詳細であるときは、右供述書は、実質的に異なった供述をしたときに当たる。」と解している。
   批判:321条1項1号後段の裁面調書の場合なら「単に異なった供述」で足りるからより詳細なときでも自己矛盾供述といえるが、検面調書の場合にはそれだけでは足りない。321条1項2号の「相反する」とは、一見して正反対の供述の場合であり、「実質的に異なった」とは、符合する点もあろうが、他の証拠とあいまって異なった認定を生ずる場合を意味すると解されるから、大綱において一致している以上、自己矛盾供述として許容することは許されない。
  ②321条1項2号後段→特信情況不要
   321条1項2号後段→特信情況必要
 ※①、②の違いは、法が裁面調書の方が、検面調書よりも一般的に信用性が高いと判断している結果と思われる