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民法総則⑲

2005年02月07日 | 民法
9 取得時効
 (1) 取得時効とは
   真実の権利者ではない者(あるいは権利を証明できない者)が、一定期間権利を行使する事実状態が継続した場合に、その者が権利を取得することを認め、その反射的効果として真実の権利者(であるとされてきた者)の権利を失わせる制度。所有権の取得時効と、所有権以外の財産権の取得時効がある。
 (2) 所有権の取得時効
 (a) 要件
   所有権の取得時効は、一定期間物を占有することにより完成する。占有の継続が必要とされる一定期間のことを時効期間といい、20年の場合と10年の場合とがある。占有は、平穏・公然の自主占有でなければならない。
 (b) 長期の取得時効
   平穏・公然の自主占有が20年間のあいだ継続した場合には所有権の取得時効が完成する(162条1項)。占有者の主観的容態(善意であるか悪意であるか、また善意である場合に過失があるかないか)はとわない。
 (c) 短期の取得時効
   平穏・公然の自主占有が10年の間継続し、かつ、占有開始時に占有者が善意無過失である(占有をしている物が自分の物でないとは知らず、かつ、知らないことについて過失がなかった)場合には、所有権の取得時効が完成する(162条2項)。占有開始時に善意無過失であることで十分であり、その後に自分の物でないことに気付いたとしても、そのことは取得時効の完成に影響しない、また、162条2項の法文は「不動産ヲ」占有した場合を規定するが、動産についても同様の要件のもとで取得時効が成立すると解されている。
 (3) 所有権以外の財産権の取得時効
   真実の権利者でないにもかかわらず、ある財産権を所定の時効期間の間に平穏・公然と継続して行使した者は、時効により当該権利を取得する。必要とされる時効期間は、権利を行使する者が、行使開始時に善意かつ無過失であった場合は10年であり、それ以外は20年である(163条)。継続して権利を行使するということの意味は、占有を内容とする権利の場合は占有を継続することが必要であり、また一般には、準占有(205条)を継続することが要件となる。
 (4) 占有の承継
 (a) 瑕疵がある占有の承継
   無権利で土地を占有している者から、その土地を買って引渡を受けた者が、引渡を受けてからの自分の固有の占有期間のみでは、時効期間が経過していない場合において、「占有者ノ承継人ハ・・・自已ノ占有ニ前主ノ占有ヲ併セテ・・・主張スルコト」ができる(187条1項)から、前者とあわせて10年以上の占有があれば、10年以上が経過していることに基づく162条2項の取得時効を主張できる。ただし、このように時効期間を通算して主張する際には、前主の占有が有していた瑕疵(悪意によるものであることや過失があること)をも承継する(187条2項)から、前者が悪意であれば、162条2項の10年の時効は成立しない。
(b) 瑕疵のない占有の承継
   Aの土地であることを知らず、かつ、知らないことについて過失なくして占有を始めたBが8年後にCへ土地を譲渡したが、Cは引渡を受けた際に、土地の真実の所有者はAであることに気づいていたという場合、7年のあいだ占有をしてきたCは、自身の占有と前主であるBの占有を合算することにより取得時効の完成を主張することができるか。
   合算をしても15年であるから、162条1項の時効は成立しないので、可能性が残るのは同案1項の20年の時効のみであるが、これが成立するためには、善意無過失の占有であることを要する。Cは、Bが善意無過失であることも承継して主張できるかが問題となるが、判例は、Cは合算して主張する占有の全体が善意無過失であることを主張できるとする(最判昭和53・3・6民集322135)。
 (5) 自己の物の時効取得
   162条は、「他人ノ」物を一定期間のあいだ占有した場合に取得時効が完成するとしているが、この法文をそのままに受け止めると、自分の物については、これを時効取得することはありえないことになるが、次のような場合には、自分の物の時効取得も認められる。
 (a) 二重譲渡型
   AとBとのあいだでAの所有する不動産をBへ譲渡する旨の意思表示がされれば、そのことによりBは所有権を取得するが、Bが登記を経由しないうちにAが重ねてこの不動産をCへ譲渡し、Cが登記を経由すれば、Bは、Aとの関係では不動産の所有権をすでに取得しているものの、そのことをCに対抗できない。この場合に、Bがこの不動産を長期にわたり占有したことを理由にCに対し取得時効を主張する余地は認められてよい(最判昭和42・7・21民集21・6・1643)。
 (b) 承継取得型
   AとBとの間の売買契約により、Aの所有する不動産をBへ売り渡すことが約され、引渡もなされたが、登記名義はAにとどまっている。この状態が長期にわたり続いた場合において、Bが契約成立の事実を証明できないときには、時効取得を理由とする移転登記請求をすることができる(最判昭和44・1218民集23・12・2467)。もっとも、この請求を受けたAが売買契約の成立を認めたうえで、しかしまだ代金を受け取っていないので、これと引き換えでなければ移転登記に応じられない(533条)と主張したときには、このの主張が認められるべきである。
 (6) 土地賃借権の取得時効
   163条にいう「所有権以外ノ財産権」には、土地を賃借する権利も合まれると解されている、したがって、たとえば、借地契約が成立し、これが有効であると信じて土地を10年にわたり占有利用してきた者は、たとえ契約が無効である場合においても、時効により保護される可能性がある。土地賃借権の時効取得の基礎となる準占有があると認められるためには、判例は、つぎの二つの要件が必要であるとする(最判昭和43・10・8民集22・10・2145)。
  ①他人の土地の継続的な用益という外形的な事実があること
  ②用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されていること

10 消滅時効
 (1) 消滅時効とは
   財産権を一定の期間のあいだ行使しないでいる状態が続いた場合に、その財産権が消滅する可能性を認める制度。
   一定の期間のことを、時効期間と呼び、これについては、起算点と期間が問題となる。
 時効期間については、次のとおり定められている。
①債権 10年(167条1項)。ただし、これは原則であり、短期消滅時効と呼ばれる例外がある(たとえば174条)。
②所有権 所有権は時効で消滅することはなく、時効期間を考える余地はない。
③債権でもなく所有権でもない財産権 20年(167条2項)。
 たとえば、地上権の設定を受けた者が、土地の使用を全く行わないで20年が経過したときは地上権の消滅時効が完成する。
 (2) 短期消滅時効
   債権の消滅時効期間は原則10年であるが、これに対する例外的な取扱いとして、10年よりも短い時効期問が定められる場合がある。これを短期消滅時効と呼び、つぎの3つに分類できる。
 (a)商事短期消滅時効
   商行為を原因として成立した債権の消滅時効期問は5年が原則(商法522条)
   例:銀行が融資をしたことにより取得する金銭消費貸借上の貸付債権
   ただし、商法やその他の法令に特別の定めがある場合には、商事債権であっても異なる時効期間に服する(商法566条、手形法70条・77条1項8号)。
 (b) 不法行為に基づく損害賠償請求権
   違法な権利侵害を受けた者が709条に基づき加害者に対し取得する損害賠償債権は、損害と加害者を知った時から起算して3年で時効消滅する(724条前段)。
 (c) 成立原因を特殊に限定された債権について法律が特別に短期消滅時効を定める諸場合
   たとえば医師が治術をなしたことにより取得した債権は、3年で時効にかかる(170条1号)。民法が定めるそのほかのものとしてほ、170条2号と171条が3年の、172条と173条が2年の、174条が1年の、それぞれ短期消滅時効を定めている。また、国が債権者または債務者である金銭債権は5年で時効消滅する(会計法30条)が、これらの金銭債権の時効については、時効期間以外の点でも、いくつかの特別の扱いがなされる(同法31条・32条参照)。
 (3) 確定判決などにより確定した権利の時効期間
   本来の権利の性質上は短期消滅時効の適用される権利であっても、確定判決などにより確定したの時効期間は10年とされる(174条ノ2第1項)。たとえば、商行為に基づいて成立した債権は、5年の消滅時効にかかるが、債務者に対し履行を命ずる判決が確定したときは、判決確定時から新しい時効が進行を始める(157条2項)。そして、その時効期間は10年となる。
   時効期間の変更を生じさせるのは、確定判決だけではなく、「確定判決ト同一ノ効カヲ有スルモノ」である(174条ノ2第1項後段)から、たとえば破産手続において届出をなした債権が異議なく債権表に記載された場合にも、時効期間が10年となる。
 (4) 一部請求による時効中断の範囲
   債権者が債権額の一部であることを明示して請求する訴の提起があった場合、債権の消滅時効の中断が生ずるのは、債権の全額についてか、それとも、実際に請求された一部にとどまるかが論じられている。債権全額が100万円である場合に、20万円の支払を求める訴の提起により消滅時効の中断が生ずるのは20万円の部分のみであるか、それとも残部の80万円にも中断が生ずるか、という問題である。
  ①説 20万円の部分についてのみ中断が生ずるとする説(判例・最判昭和342・20民集13・2・211)。
  ②説 100万円の全部について中断が生ずるとする説。
  ③説 訴提起により確定的に中断が生ずるのは20万円の部分に限られるが、残部についても、いわゆる裁判上の催告の効力が生じ、訴訟終了後6か月以内に153条の定める強い権利主張行為がある場合は時効が中断するとする説。
 (5) 除斥期間
   除斥期間という概念が、民法の法文にはないが解釈上認められている。除斥期間は、期間の経過により権利を消滅させる制度である点では、消滅時効と共通するが、①当事者の援用を要しないことと、②中断が認められないことが異なる。このほか、学説によっては、③権利行使可能時(166条1項)ではなく権利成立時から起算されることと、④遡及効(144条)が認められないことを挙げるものもある。
   民法の定める各々の期間制限が除斥期間と消滅時効期間のいずれであると解すべきかを考える基準としては、①規定の趣旨として権利関係の速やかな確定をめざすものは除斥期間であるとみるべきである、②文言上の手がかりとして「時効ニ因リテ」と書いてあるものは消滅時効期間であり、そうでないものは除斥期問である、③行使期間の制限が問題となる権利が形成権である場合は除斥期間であることが多く、請求権である場合は消滅時効期間とすることに親しむ、といった基準が挙げられるが、いずれも一応の基準であるにすぎず、個別の場面ごとに、さらに具体的な検討をしなければならない。


 (6) 時効期間の起算点
 (a) 消滅時効は、時効期間として定められた一定期間権利が行使されない状態が継続することにより完成する。そして、この時効期問は、「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」から起算される(166条1項)。どの時点をもって「権利ヲ行使スルコト」が可能になるかについては、権利の行使について法律上の障害がなくなった時点をいう。
例:1980年の5月10日を弁済期とする金銭債権は、5月10日になれば債務者に対し弁済を請求することが法律上可能になり、債務者を被告とする給付の訴えを提起することや、これに勝訴したうえで強制執行を行うことが可能になる。その頃に債権者が病床にあったなどという事実上の障害は考慮されない。したがって、弁済期到来時が消滅時効の起算点となる。ただし、時効期間の計算にあたっても「期間ノ初日ハ之ヲ算入セス」という規定(140条本文)が適用されるから、5月11日から数えて10年が経つ1990年5月10日までに時効中断事由が生じなければ時効が完成する。
 (b) 債権の消滅時効の起算点
   消滅時効は、「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」から進行し、これは権利行使についての法律上の障害がないことをいい、権利者が行使可能であることを知っているかどうかを問わない。また、消滅時効の起算点は、債務者が、遅滞に陥る時(412条)とは異なることがある。債権の消滅時効の起算点は、場合を分けると、次のようになる、
 確定期限つき債権→確定期限到来の時
 不確定期限つき債権→期限到来の時。債権者が期限到来を知ったかどうかはとわない。
   期限の定めのない債権→債権成立の時。債務者が遅滞の責に任ずるのは「履行ノ請求」があった時からである(412条3項)が、これと同じに扱うことはできない。債権者が履行請求をしない限り時効が永久に進行しないのは妥当でないからである。また、債権成立についての債権者の知・不知もとわない。
 (7) 継続的不法行為と時効の起算点
   不法行為の被害者が請求する損害賠償債権は、損害と加害者を知った時から起算して3年で消滅時効が完成する(724条前段)が、加害行為が継統して行われる場合の時効期間の起算点はいつか。
   例:Aの所有する土地をBが1992年の4月から翌93年の11月まで不法に占拠したという場合、Bによる占拠の事実を開始時から知っていたAが1995年の10月に損害の賠償を請求するとすると、いつからいつまでの不法占拠について賠償請求がてきるか。
 (a) 加害行為開始時起算説
   時効は。損害のすべてについて1992年4月から進行を始める。
 (b) 日々新しい損害が生ずるとみる説。
   日ごとに新しくBによる不法行為が繰り返されたと考え、Aは、請求時から逆算して3年の1992年10月以降で、かつ、不法占拠の終了時までの分の損害の賠償を請求できる。
 (c) 加害行為終了時起算説
   全損害について不法占拠終了時から時効が進行すると考え、1992年11月から3年は経っていないから、占拠の全期間について賠償請求ができる。
   今日において有力であるのは、(b)の考え方である。ただし、原則は(b)の考え方によりつつも、被客が累積的である場合(たとえば、Aの土地にBが毎月やってきて大量のゴミを投棄するといった場合)には、損害の発生が進行しているあいだは時効が進行しない(その場合に限り③の考え方で処理する)とする例外的取扱いを説く学説もある。
 (8) 割賦元払債権の消滅時効の起算点
   元本を割賦で弁済する趣旨の債権は、しばしば、そのような債権を生ぜしめる原因である契約において、期限利益喪失約款と呼ばれる特約が付されている。これは、一回でも債務者が支払を怠った場合は、元本残額の全部について直ちに弁済をすべき趣旨の約定により、一回の滞納という事実の発生によリ当然に元本残部の弁済期を到来させる趣旨のものと、滞納があり、かつ、債権者の側が元本残部の弁済期を到来させる旨の意思表示をした場合に、そのような効果が生ずるという趣旨のものがある。このような契約で実際に滞納が生じた場合、債権の消滅時効は、いつから進行を始めるか。判例は、前者の形態の場合は滞納時から起算し、後者の形態においては債権者の意思表示時から進行を開始する(最判昭和42・6・23民集21・6・1492)としている。