一 概説
1 問題の所在
2人以上の者が同一の訴訟手続で併合審理され、同時に被告人となることがある。この場合、これらの被告人を共同被告人という。共同被告人甲・乙間に共犯関係がある場合には、甲の自己の犯罪事実に関係する供述は、同時に乙の犯罪事実にも関連する供述であることが多い。このような場合に、甲の供述をもって乙の犯罪事実を認めることができるか、という問題が、共犯者たる共同被告人の供述の証拠能力の問題である。この場合、甲の供述が公判廷における共同被告人としての供述として現れた場合と、甲の公判廷外の供述が供述書又は供述録取書の形をとって現れた場合とを分けて、その証拠能力が検討されなければならない。そして、その場合、基本的に問題となるのは、甲の供述は、乙からみれば他人の供述であって、それが乙の犯罪事実についての証拠となるためには、当然、乙の反対尋問を経なければならないわけであるが、前者の場合には甲の被告人たる地位に基づく黙秘権との関係において、後者の場合には伝聞法則との関係において、それぞれどのように考えるべきかが問題となる。次に、共犯者たる共同被告人の供述の証明力の問題とは、証拠能力のあることを前提に、憲法38条3項、法319条2項との関係において、共犯者たる共同被告人の一方(甲)の供述(自白)によって、他方(乙)の犯罪事実を認定するためには補強証拠を必要とするか、また、共犯者たる共同被告人の供述(自白)は互いに補強証拠となりうるか、という問題である。
二 共犯者たる共同被告人(甲)の公判廷における供述を、他の共同被告人(乙)に対する証拠とする場合の証拠能力
1 問題の所在
甲の供述が公判廷で現れる場合には、大きく2通りの場合が考えられる。1つは、共同被告人のままで、被告人質問での供述として現れる場合であり、他の1つは、証人として証言する場合である。証人として証言する場合には、一応反対尋問権の保障は満たされていると考えられるが、共同被告人の証言を得ることについては問題がある。第1に、共同被告人に証人適格はあるか、第2に、手続を分離して証人として喚問した場合にも、証人拒否権を認めるべきではないか、という問題である。
2 共同被告人に証人適格はあるか
(1) 共同被告人は、共同被告人のままで、証人とすることはできないとする説(通説)
理由:利益であれ不利益であれ、およそ供述を拒否しうる地位にある被告人に、同じ手続で供述義務のある証人としての地位を与えるのは、特に、被告人の心理に混乱を引き起こすおそれがあり、妥当でない。手続を分離した後、証人として喚問することによって、この混乱を避けうる以上、その方法によるべきである。
(2) 他の被告人のみに関する事項については手続を分離しなくても証人たりうるとする説。
理由:①被告人たることと証人たることの間には何ら矛盾がない。
②従来被告人が証人たり得ないとされているのは供述の義務を負わない地位とこの義務を負う地位とが両立しないという点にある。これは自己に関する事実についての問題であるから、専ら他人に関する事実については上記の理論は妥当しない。
③共同「被告人」といっても、各被告人は自己の事件についてのみ被告人であって、専ら他の者に関する事件については本来の被告人ではない。
3 手続を分離した場合に、証人拒否権を認めるべきか
(1) 無条件で喚問しうるとする説(通説)。
理由:喚問されても。自己に不利益な事実については証言を拒否できるから(146条)、喚問すること自体は差し支えない。
(2) 被告人の申し出がない限り、強制的に証人として喚問することはできないとする説。
理由:被告人が真に無罪を主張して争っているのであるなら、証人として喚問されたとき、無罪の事実を証言するのが当然であって、有罪判決を受けるおそれがあるという理由で証言を拒否するのは、自己の罪を認めるに等しい。しかし、そこで拒否しないで証言すれば、偽証の罪の制裁の下に、反対尋問によって自白が強要されることになる。このような進退両難の地位に陥しいれないことこそ、憲法が被告人に黙秘権を認めた真の理由である。
4 手続を分離せずに、被告人質問での供述として現れた場合
(1) 乙は甲に対し、311条3項によって任意の供述を求めることができるから、反対尋問権の行使はともかくも確保されているというべきであり、したがって甲の供述を乙に対して証拠とすることができる(判例)。
批判:反対尋問権の行使の機会が与えられているというだけで、すべての場合に証拠能力を与えるのは問題である。
(2) 甲の公判廷での供述は、乙の事実上の反対質問(311条3項)が十分に行われたとき、つまり乙の反対質問に対して甲が黙秘権を行使することなく十分に供述したときにだけ乙に対して証拠とすることができるとする説。
三 共犯者たる共同被告人(甲)の法廷外の供述、つまり供述書又は供述録取書を他の共同被告人(乙)に対する証拠とする場合の証拠能力
1 問題の所在
この場合にも伝聞法則が適用されるが、321条以下のいずれの規定によってその証拠能力を認めることができるかの問題である。甲は自ら被告人であると共に、乙に対する関係では第三者でもあるという共同被告人の地位の二面的特殊性から見解が分かれる。
2 学説の状況
(1) 322条によるべきとする説。
理由:①共犯者たる共同被告人は他の共同被告人に対し純粋に第三者の立場にあるものではなく、その供述書・供述録取書は共犯者として自己の犯罪と共に、他の共同被告人の犯罪についても不可分に供述したものであり、全くの第三者の供述録取書等とは異なる性質を有する。
②共犯者である共同被告人については、事実の合一確定の必要が大きい。
③共同被告人の供述は被告人(被疑者)としての供述であるから任意性の点を厳格に解する必要がある。
④共同被告人は黙秘権を有するから、これに対する他の被告人の反対尋問権をそれほど重くみる必要はない。
(2) 321条1項各号の適用によるべきとする説(通説・判例)
理由:共同被告人(甲)は、他の共同被告人(乙)から見れば第三者であり、その供述書・供述録取書はすべて通常の伝聞証拠にほかならない。乙の反対尋問を経ない甲の供述書・供述録取書を322条で証拠能力を認めることは違法である。
(3) 321条と322条の競合適用によるべきとする説。
理由:共犯者である共同被告人(甲)は、他の共同被告人(乙)に対して第三者であり、乙の反対尋問権を確保するためその供述書・供述録取書に321条1項の要件を充足することを求めると共に、甲もまた被告人であることから、任意性も要求されるべきである。
四 共犯者たる共同被告人の供述の証明力
1 問題の所在
憲法38条3項は、「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。」と規定しており、法319条2項もこれを受けて同趣旨の規定を置いている。ここにおける「本人の自白」が、単独犯の場合の被告人自身の自白を指すことはいうまでもないし、共犯事件の場合に、共犯者の一人が自己の加功事実について供述するとき、当該供述が、当該共犯者に対する関係で「本人の自白」に含まれることも当然のことである。ここでの問題は、共犯者の一人(甲)が自己の犯罪事実を供述(自白)する際、他の共犯者(乙)の加功部分について同時に供述している場合(それが通常の供述の仕方であろう)に、それは乙についても「本人の自白」として補強証拠が要求されるか、という問題である。本来、「自白」とは、「自己の犯罪事実を認める旨の被告人の供述をいう」と定義されており、甲の自白を乙の有罪証拠とする場合には、乙自身の供述を用いるわけではないから、言葉の本来の意味では決して「本人の自白」とは言えないはずである。この問題は、「本人の自白」の中に、被告人本人のそれと並んで、共犯者の供述をも含めて解釈できるか(あるいはそれを「本人の自白」に準じて考えることができるか)という問題である。
2 共犯者の自白に補強証拠は必要か
◇団藤説
本人の「自白」には共犯者の自白も含まれる。
理由:①自白偏重を防止する趣旨からいって、本人の自白と共犯者の自白との間に差異はない。
②反対の見解を採るときは、共犯者の一人が自白をし、他の一人が否認した場合には、他に補強証拠がない限り自白をした者が無罪となり、否認した者が有罪となるという非常識な結果になる。
◇平野説
本人の「自白」には共犯者の自白は含まれない。
理由:①自白強要の危険があるのは「共犯」の自白に限らず、およそ広義の自白も同様である。
②自白に補強証拠を要するのは、自白が反対尋問を経ないにもかかわらず証拠能力を認められるからであり、共犯者に対しては被告人は反対尋問を行い得るから、これと同一視することはできない。
③本人の自白は安易に信用されるが、共犯者の自白はむしろ警戒の目をもって見られるのであって、証拠評価の心理にも差異がある。
④共犯者の供述の危険性は、実は共犯でない他の者をも引っ張り込むおそれがある点にあるが、共犯者の自白を本人の自白だとしても、補強証拠をこの点について必要としないのであれば、この危険を防止することはできず意味がない。
◇渥美説
共犯者の自白に補強証拠は必要である。
理由:本人の自白は真実であると裁判官に安易にとられやすいので補強を求められるのに対し、共犯者の供述は他人を引っ張り込み、責任を他に転嫁するおそれが高く、したがって信用されえないので補強が求められる。二つの補強法則は根拠を異にする。したがって憲法が、本人の自白に補強を求めることで、共犯者の供述にも補強を求めているとは解しえない。憲法は求めていなくても経験則が共犯者の供述に補強を求めていると考える。この経験則は裁判所の認定行為を規律するものであるから、訴訟法規である。判例、通説は反対尋問の保障があり、裁判所が疑ってかかっているから、共犯者の自白に補強は不要というが、補強証拠による供述の吟味ほどの効力を反対尋問は持ちはしない。とりわけ、犯行の詳細を知る共犯者に対する反対尋問は奏功しないのが原則である。
◇田宮説
いわゆる共犯者の自白は公判廷のものには補強証拠を要しないが、公判廷外のものは、「本人の自白」に準じて補強証拠を要求する。
理由:補強法則は訴追側の証拠の収集に対する規制であり、主として捜査機関に対する制約であって、公判での規制ではない。
◇判例(最判S33.5.28)
共犯者の自白をいわゆる「本人の自白」と同一視し又はこれに準ずるものとすることはできない。
理由:共同審理を受けていない単なる共犯者はもちろん、共同審理を受けている共犯者(共同被告人)であっても、被告人本人との関係においては、被告人以外の者であって、被害者その他の純然たる証人とその本質を異にするものではない。
◇検討
各説それぞれ説得力があり、どの説を採るかは、各自で考えてほしいが、判例が無難であるとは思う。なお、平野説は、補強証拠の要否の点で判例と同じ結論を採るが、共犯者甲の自白の証拠能力については、判例と異なり乙の反対尋問権保障の観点から厳格な態度をとっていることに注意してもらいたい。
3 共犯者たる共同被告人の供述は相互に補強証拠となるか
(1) 問題
(1) 甲、乙がそれぞれ自白している場合に、甲の供述(自白)を乙の自白の補強証拠に、また乙の供述(自白)を甲の自白の補強証拠にして甲、乙それぞれ有罪としてよいか。
(2) 甲、乙、丙が共犯者たる共同被告人である場合に、甲と乙とが三人の共犯事実を認めたが丙が否認しているとき、乙の供述(自白)を甲の自白の補強証拠として丙を有罪とすることができるか。
(2) 検討
共犯者の供述(自白)の補強証拠能力の問題である。共犯者の自白は「本人の自白」に含まれないと解する説は、当然、補強証拠能力を認める。他方、共犯者の供述(自白)のみによっては有罪を認定できないという立場をとりつつ、(1)の例では、これを肯定する説が多い。
理由:本人の自白以外に証拠があれば、それが共犯者の自白であっても、法の予想する定型的な誤判の危険性は一応解消したとみてよい。
(3) 最判S51.10.28
共犯者2名以上の自白で被告人を有罪にしても憲法38条3項に違反しない。
1 問題の所在
2人以上の者が同一の訴訟手続で併合審理され、同時に被告人となることがある。この場合、これらの被告人を共同被告人という。共同被告人甲・乙間に共犯関係がある場合には、甲の自己の犯罪事実に関係する供述は、同時に乙の犯罪事実にも関連する供述であることが多い。このような場合に、甲の供述をもって乙の犯罪事実を認めることができるか、という問題が、共犯者たる共同被告人の供述の証拠能力の問題である。この場合、甲の供述が公判廷における共同被告人としての供述として現れた場合と、甲の公判廷外の供述が供述書又は供述録取書の形をとって現れた場合とを分けて、その証拠能力が検討されなければならない。そして、その場合、基本的に問題となるのは、甲の供述は、乙からみれば他人の供述であって、それが乙の犯罪事実についての証拠となるためには、当然、乙の反対尋問を経なければならないわけであるが、前者の場合には甲の被告人たる地位に基づく黙秘権との関係において、後者の場合には伝聞法則との関係において、それぞれどのように考えるべきかが問題となる。次に、共犯者たる共同被告人の供述の証明力の問題とは、証拠能力のあることを前提に、憲法38条3項、法319条2項との関係において、共犯者たる共同被告人の一方(甲)の供述(自白)によって、他方(乙)の犯罪事実を認定するためには補強証拠を必要とするか、また、共犯者たる共同被告人の供述(自白)は互いに補強証拠となりうるか、という問題である。
二 共犯者たる共同被告人(甲)の公判廷における供述を、他の共同被告人(乙)に対する証拠とする場合の証拠能力
1 問題の所在
甲の供述が公判廷で現れる場合には、大きく2通りの場合が考えられる。1つは、共同被告人のままで、被告人質問での供述として現れる場合であり、他の1つは、証人として証言する場合である。証人として証言する場合には、一応反対尋問権の保障は満たされていると考えられるが、共同被告人の証言を得ることについては問題がある。第1に、共同被告人に証人適格はあるか、第2に、手続を分離して証人として喚問した場合にも、証人拒否権を認めるべきではないか、という問題である。
2 共同被告人に証人適格はあるか
(1) 共同被告人は、共同被告人のままで、証人とすることはできないとする説(通説)
理由:利益であれ不利益であれ、およそ供述を拒否しうる地位にある被告人に、同じ手続で供述義務のある証人としての地位を与えるのは、特に、被告人の心理に混乱を引き起こすおそれがあり、妥当でない。手続を分離した後、証人として喚問することによって、この混乱を避けうる以上、その方法によるべきである。
(2) 他の被告人のみに関する事項については手続を分離しなくても証人たりうるとする説。
理由:①被告人たることと証人たることの間には何ら矛盾がない。
②従来被告人が証人たり得ないとされているのは供述の義務を負わない地位とこの義務を負う地位とが両立しないという点にある。これは自己に関する事実についての問題であるから、専ら他人に関する事実については上記の理論は妥当しない。
③共同「被告人」といっても、各被告人は自己の事件についてのみ被告人であって、専ら他の者に関する事件については本来の被告人ではない。
3 手続を分離した場合に、証人拒否権を認めるべきか
(1) 無条件で喚問しうるとする説(通説)。
理由:喚問されても。自己に不利益な事実については証言を拒否できるから(146条)、喚問すること自体は差し支えない。
(2) 被告人の申し出がない限り、強制的に証人として喚問することはできないとする説。
理由:被告人が真に無罪を主張して争っているのであるなら、証人として喚問されたとき、無罪の事実を証言するのが当然であって、有罪判決を受けるおそれがあるという理由で証言を拒否するのは、自己の罪を認めるに等しい。しかし、そこで拒否しないで証言すれば、偽証の罪の制裁の下に、反対尋問によって自白が強要されることになる。このような進退両難の地位に陥しいれないことこそ、憲法が被告人に黙秘権を認めた真の理由である。
4 手続を分離せずに、被告人質問での供述として現れた場合
(1) 乙は甲に対し、311条3項によって任意の供述を求めることができるから、反対尋問権の行使はともかくも確保されているというべきであり、したがって甲の供述を乙に対して証拠とすることができる(判例)。
批判:反対尋問権の行使の機会が与えられているというだけで、すべての場合に証拠能力を与えるのは問題である。
(2) 甲の公判廷での供述は、乙の事実上の反対質問(311条3項)が十分に行われたとき、つまり乙の反対質問に対して甲が黙秘権を行使することなく十分に供述したときにだけ乙に対して証拠とすることができるとする説。
三 共犯者たる共同被告人(甲)の法廷外の供述、つまり供述書又は供述録取書を他の共同被告人(乙)に対する証拠とする場合の証拠能力
1 問題の所在
この場合にも伝聞法則が適用されるが、321条以下のいずれの規定によってその証拠能力を認めることができるかの問題である。甲は自ら被告人であると共に、乙に対する関係では第三者でもあるという共同被告人の地位の二面的特殊性から見解が分かれる。
2 学説の状況
(1) 322条によるべきとする説。
理由:①共犯者たる共同被告人は他の共同被告人に対し純粋に第三者の立場にあるものではなく、その供述書・供述録取書は共犯者として自己の犯罪と共に、他の共同被告人の犯罪についても不可分に供述したものであり、全くの第三者の供述録取書等とは異なる性質を有する。
②共犯者である共同被告人については、事実の合一確定の必要が大きい。
③共同被告人の供述は被告人(被疑者)としての供述であるから任意性の点を厳格に解する必要がある。
④共同被告人は黙秘権を有するから、これに対する他の被告人の反対尋問権をそれほど重くみる必要はない。
(2) 321条1項各号の適用によるべきとする説(通説・判例)
理由:共同被告人(甲)は、他の共同被告人(乙)から見れば第三者であり、その供述書・供述録取書はすべて通常の伝聞証拠にほかならない。乙の反対尋問を経ない甲の供述書・供述録取書を322条で証拠能力を認めることは違法である。
(3) 321条と322条の競合適用によるべきとする説。
理由:共犯者である共同被告人(甲)は、他の共同被告人(乙)に対して第三者であり、乙の反対尋問権を確保するためその供述書・供述録取書に321条1項の要件を充足することを求めると共に、甲もまた被告人であることから、任意性も要求されるべきである。
四 共犯者たる共同被告人の供述の証明力
1 問題の所在
憲法38条3項は、「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。」と規定しており、法319条2項もこれを受けて同趣旨の規定を置いている。ここにおける「本人の自白」が、単独犯の場合の被告人自身の自白を指すことはいうまでもないし、共犯事件の場合に、共犯者の一人が自己の加功事実について供述するとき、当該供述が、当該共犯者に対する関係で「本人の自白」に含まれることも当然のことである。ここでの問題は、共犯者の一人(甲)が自己の犯罪事実を供述(自白)する際、他の共犯者(乙)の加功部分について同時に供述している場合(それが通常の供述の仕方であろう)に、それは乙についても「本人の自白」として補強証拠が要求されるか、という問題である。本来、「自白」とは、「自己の犯罪事実を認める旨の被告人の供述をいう」と定義されており、甲の自白を乙の有罪証拠とする場合には、乙自身の供述を用いるわけではないから、言葉の本来の意味では決して「本人の自白」とは言えないはずである。この問題は、「本人の自白」の中に、被告人本人のそれと並んで、共犯者の供述をも含めて解釈できるか(あるいはそれを「本人の自白」に準じて考えることができるか)という問題である。
2 共犯者の自白に補強証拠は必要か
◇団藤説
本人の「自白」には共犯者の自白も含まれる。
理由:①自白偏重を防止する趣旨からいって、本人の自白と共犯者の自白との間に差異はない。
②反対の見解を採るときは、共犯者の一人が自白をし、他の一人が否認した場合には、他に補強証拠がない限り自白をした者が無罪となり、否認した者が有罪となるという非常識な結果になる。
◇平野説
本人の「自白」には共犯者の自白は含まれない。
理由:①自白強要の危険があるのは「共犯」の自白に限らず、およそ広義の自白も同様である。
②自白に補強証拠を要するのは、自白が反対尋問を経ないにもかかわらず証拠能力を認められるからであり、共犯者に対しては被告人は反対尋問を行い得るから、これと同一視することはできない。
③本人の自白は安易に信用されるが、共犯者の自白はむしろ警戒の目をもって見られるのであって、証拠評価の心理にも差異がある。
④共犯者の供述の危険性は、実は共犯でない他の者をも引っ張り込むおそれがある点にあるが、共犯者の自白を本人の自白だとしても、補強証拠をこの点について必要としないのであれば、この危険を防止することはできず意味がない。
◇渥美説
共犯者の自白に補強証拠は必要である。
理由:本人の自白は真実であると裁判官に安易にとられやすいので補強を求められるのに対し、共犯者の供述は他人を引っ張り込み、責任を他に転嫁するおそれが高く、したがって信用されえないので補強が求められる。二つの補強法則は根拠を異にする。したがって憲法が、本人の自白に補強を求めることで、共犯者の供述にも補強を求めているとは解しえない。憲法は求めていなくても経験則が共犯者の供述に補強を求めていると考える。この経験則は裁判所の認定行為を規律するものであるから、訴訟法規である。判例、通説は反対尋問の保障があり、裁判所が疑ってかかっているから、共犯者の自白に補強は不要というが、補強証拠による供述の吟味ほどの効力を反対尋問は持ちはしない。とりわけ、犯行の詳細を知る共犯者に対する反対尋問は奏功しないのが原則である。
◇田宮説
いわゆる共犯者の自白は公判廷のものには補強証拠を要しないが、公判廷外のものは、「本人の自白」に準じて補強証拠を要求する。
理由:補強法則は訴追側の証拠の収集に対する規制であり、主として捜査機関に対する制約であって、公判での規制ではない。
◇判例(最判S33.5.28)
共犯者の自白をいわゆる「本人の自白」と同一視し又はこれに準ずるものとすることはできない。
理由:共同審理を受けていない単なる共犯者はもちろん、共同審理を受けている共犯者(共同被告人)であっても、被告人本人との関係においては、被告人以外の者であって、被害者その他の純然たる証人とその本質を異にするものではない。
◇検討
各説それぞれ説得力があり、どの説を採るかは、各自で考えてほしいが、判例が無難であるとは思う。なお、平野説は、補強証拠の要否の点で判例と同じ結論を採るが、共犯者甲の自白の証拠能力については、判例と異なり乙の反対尋問権保障の観点から厳格な態度をとっていることに注意してもらいたい。
3 共犯者たる共同被告人の供述は相互に補強証拠となるか
(1) 問題
(1) 甲、乙がそれぞれ自白している場合に、甲の供述(自白)を乙の自白の補強証拠に、また乙の供述(自白)を甲の自白の補強証拠にして甲、乙それぞれ有罪としてよいか。
(2) 甲、乙、丙が共犯者たる共同被告人である場合に、甲と乙とが三人の共犯事実を認めたが丙が否認しているとき、乙の供述(自白)を甲の自白の補強証拠として丙を有罪とすることができるか。
(2) 検討
共犯者の供述(自白)の補強証拠能力の問題である。共犯者の自白は「本人の自白」に含まれないと解する説は、当然、補強証拠能力を認める。他方、共犯者の供述(自白)のみによっては有罪を認定できないという立場をとりつつ、(1)の例では、これを肯定する説が多い。
理由:本人の自白以外に証拠があれば、それが共犯者の自白であっても、法の予想する定型的な誤判の危険性は一応解消したとみてよい。
(3) 最判S51.10.28
共犯者2名以上の自白で被告人を有罪にしても憲法38条3項に違反しない。