木彫で、小物を仕上げるとき、左手で制作物を包み込むように持ち、右手で小刀を使う。
ときに左手親指で刃の背を押したり、右手親指に添えたりもする。
これは、あくまで右利きの場合。左利きの人はその反対になる。
で、右手は何をしているか、と言うと、柄を握りほぼ同じ角度同じリズムで小刀を動かしている。
左手は、彫り進む度合いにあわせて、くるくると制作物を回していく。
刃が制作物に当たる角度を調整し、適切な当たり方を探りながら形を作っていくのは、実は左手だ。
右手より多くの複雑な仕事をしている。
つぎに、木彫鑿について、考えてみる。
荒彫りや小造りでよく行われる、刃裏を上にして掘り進む場合。
図の茶色の部分が材だとして、実線で囲った楔型が鑿の断面、一番上の鑿の柄頭を叩いているのが玄翁。
木彫玄翁でも、こんなに柄を短くすることはないだろうけど、これは描画の都合です。
で、玄翁によってPの力で加えられたとすると、刃先には同じくPの力が加わる。(厳密にはわずかに減衰する)
これをベクトルで考えると、水平方向への力x1と垂直方向の力y1に分解できる。
この力は材にぶつかってP`の方向に刃先を跳ね上げようとする。
P'はx'1とy'1に分解できる。
刃先が跳ね上がっていては仕事にならない。なので、使用者によってy'1と反対の力が常に加えられ、y'1とy1は相殺される。
すると、水平方向x1の力だけが残る。
そして材の応力(抵抗)zがx1と逆方向に働く。
最終的に刃先に働く力はx1-zになる。
ただし、実作業では、刃元Nを支点とする回転の力=モーメントが加えられることが多いだろう。
いわゆるテコである。
これは、
鑿のほぼ全長÷刃の出の長さ
という「起こす」力となる。
このモーメントを考慮すると、さらにもう一段ベクトル分解しなければならないが、煩雑になるだけなので、ここではやりません(笑)
以上、分解して考えると、なんだかややこしくなるが、注目して頂きたいたいのは、柄を握る左手が、それら複雑な力の関係をコントロールしている、という一事。
勿論、身体全体の動きで補助されるのは確かだが、鑿を微妙に操っているのは右手ではなく左手なのだ。
木彫を造形するのは、左手である。