
人形衣装
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素材・色彩・フォルムとも、よく工夫されていた。
ミルドレッドの緑の衣装は、人形自体のフォルムになっているようで、興味深かった。ヘアバンド(?)が髪の毛の質感とあいまって、病的な感じが良く出ていた。
現代ものの女性の衣装は、舞台衣装としてボリュームがつけ辛く難しい。そのあたりがうまく処理されていた、と思う。
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昇火士たちの作業衣、上に羽織る防火服。質感が良く出ている。
他の衣装にも言えるが、袖の部分の皴の寄せ方もうまい。
舞台上での衣類の脱ぎ・着は、とても厄介なものだが、客席から見る限り、スムーズに行われていた。衣装の側の工夫と、それをこなす演技者たちの確かな技術。
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ヘルメット・ゴーグルなどの〈着け・はずし〉も、鮮やかだった。芝居の流れを損なうことがなかった。
こういった技術は、演技の内容とは関係ないのだが、もたついてしまえば芝居の流れが滞ってしまう。神経を使うところだ。
人形に被せたりするものは、大きくなりがちで、人形自体のフォルムになじまないバランスになり兼ねないのだけど、ヘルメットもゴーグルも、不自然な感じはしなかった。かなりよく計算されている。
これだけたくさんの登場人物を製作すると、こういったところまでは、なかなか手が回り切らないものだが、よく行き届いていた。
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ロボット犬2体は、企画・制作部の田坂晴男さんが、主に美術製作に当たったらしい。田坂さんは、人形美術もできるし、からくりの技術も持っている。
人形美術の小林加弥子さんは、美術工房の専従者ではなく、ふだんは演技者として上演活動に参加している。本格的な人形美術の担当は初めてだと思う。
片岡さん不在となった現在でも、「ひとみ座」の美術製作の裾野は、担当部署を超えて広いようだ。小倉悦子さん、小川ちひろさんを中心とした「アトリエ」(美術工房)が、あればこそ、だろうと思うが。
これから、どんな人形、どんな作者が突然現れるのか、楽しみです。もちろん、小林加弥子さんには、次作のあることを期待したい。
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以前、ひとみ座がシェイクスピアのシリーズを上演していたころ、
「なぜ、背伸びしてまで大人の人形劇をやるのか」と、アマチュアの方に批判されたことがある。
日本でも、人形劇はもともと大人を対象として上演されてきたし、別に、子供が対象の人形劇だからと言って、簡単な訳でもない。市場として子供が主な対象になるのは事実だが、その市場から離れた場で活動することがあっても、悪い理由はない。
まあ、「意余って力足りず」な部分とか、余分な気負い、生硬さ、観客に対する配慮の足りなさ、などは、あったのかもしれない。シェイクスピアというレパートリーの選択も、やや、安直だったか。
「下手だ」「詰まらない」と言われたなら、力不足を反省するしかないが、批判は「人形劇なのに難しい芝居をやるな」と決めつけられたようで、後々まで私の中でしこりとなった。
今回の「華氏451度」の上演は、そうした意見に対して、この演目を選ぶこと自体が答えになっているようで、爽快だった。
「華氏451度」のような作品を、何の衒いもなく上演できる時代になったんだな、と感慨深い。上演する側の意識も、観客の側の意識も、変わってきているな、と。
企画・制作部の田坂さんによれば、今回の上演では、人形劇関連からではなく「ブラッドベリ」「華氏451度」を入口として観劇に至った方も多かったという。人形劇を初めて観る、と言う人も居たようだ。SNS社会の良い面だと思う。
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来年は、友松正人さんが南米の作家の作品を企画していると聞いた。これまた、むずかしそう。
どんな作品になるのか、楽しみなような、「観るのがこわい」ような・・・
(了)
ひとみ座「華氏451度」
川崎市アートセンター小劇場
2025年3月27日~31日
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