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素晴らしき20代

文学部出身の社会人が書くエッセイ評論ブログ。

連載小説「まだら色の林檎」3(完結)

2006年01月27日 17時31分31秒 | オリヂナル駄小説
 拓也は俺からみて、あまり将来の事を真剣に考えていない。彼は普通のリーマンは嫌だという。でも特別な才能があるのかどうかは疑問。典型的なフリーター予備軍だ。俺も偉そうなことは言えないが、俺の場合は普通の就職をしても別にいいと思っている。何よりも無事に生きていることが重要だと考えている。
 
 拓也は喫茶店で気だるげに言う。「俺たち10年後何してんのかな。」俺は「さあな、お前は今と変わってなさそうだな。」と答えた。その日は拓也んちで良さそうなCDを何枚か借りて帰った。その帰りだ、地域限定チェーンのショボいスーパーで陽子と偶然出会ったのは。

 陽子と学外で二人っきりで会うのは初めてで、なんか緊張した。食料を入れた買い物カゴを持ったまま、俺から話し掛けた。陽子もはるさめヌードルと苺ジャムを入れたカゴを持ったまま返事をした。「あー(高い声)、小田くん(言い忘れたけど、俺の名字は小田だ。)。偶然だねー。」

 俺は拓也んちに行ってた事とかを話し、陽子もよくこのスーパーで買い物をするという事実を聞き出した。陽子との話題は拓也についてになった。
 陽子は「拓也くんはなんか芸大生っぽいよね。どんな部屋だった?」と聞いた。
 俺は答えた。「なんか片付いてスッキリしてて、カッコいい服とか上手く飾ってあって渋い部屋だったよ。あと面白そうな雑誌はいっぱいあったな。いいセンスしてるわ。」
 「拓也くんは将来、なんか面白い仕事してそうだよねー。羨ましいよ。私は弾けきれないってゆうか、堅実な仕事に就いてしまいそう。」
 俺も堅実派なので陽子とは気が合うはずだったが、話題に上る拓也の特殊性が輝いて思えた。
 結局レジで買い物を袋に入れたあと、店の前で別れるまで俺たちの雑談は続いた。

 その後、俺は色々考えた。今のまま何もオモシロイ事をせずに生活していていいのかを。失敗してもいいから、自分の個性を確立してみたい、そう考えるに至った。

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すみません、この小説は今回で打ち切ります。

これを書き始めたキッカケってのが去り行く大学生活を惜しむためであり、そして刺激的な夢のキャンパスライフを例え仮想空間(インターネット)上であれ創り上げてみたかったからです。

下手に期待感持たせてしまったならすみません(そんなヤツぁいねえか)。
なんかずっと書き続ける気力が無くなったので終わります。

自分は趣味のことゴチャゴチャ語る方が筆が進むことに気が付きました。

この後のお話は、主人公が幹夫の所属する新聞部みたいなのに入って活動し出し、ちょこちょこ下らない学生イベントを経験します。
そしてある時、大学の旧学生寮が左翼運動にハマる学生の根城になっていると知った主人公は、好奇心に駆られて単身そこに乗り込みます。
主人公は左翼学生に捕われ絶対絶命になりますが、運と機転で脱出します。
その後、主人公がこの経験を陽子に話し、二人は世の中の事や人生について語り合います。
やがて二人ともそこそこの結論に達して大学生活は終りを迎えます。別に二人はデキないです。

ちょっとした冒険とちょっとだけ熱い思想を調味料にした「スッキリしない」青春文学になる予定でした。

小説もブログも、人生と同じで上手くいかないもんすね。
(あああああまた俺のブログに新たな汚点があああああ)


連載小説「まだら色の林檎」2

2005年11月30日 16時15分08秒 | オリヂナル駄小説
 幹夫はそのサークルを結構楽しんでいるようだった。なんでも新聞部というか哲学サークルというか、小難しい集まりだそうだ。月に一回、新聞形式の同人誌を発行していて、部員が記事を書く。政治、経済、文芸、音楽、ファッション、スポーツ、何でもありの内容だ。
 ただ、その同人誌を見ると、政治に関しては多少頑固な雰囲気が感じられた。どうやらサークル内に強い政治信条を持った数人の「実力者」がいて、毎号、自分の主張を記事にしているようだった。幹夫はこのサークルの何に惹かれたのだろう。何より、こいつがココで馴染んでいるのかどうか疑問だった。

 「で、このサークルどうなのよ?」と俺は聞いた。
「おもしろいよー、記事は書いても書かなくてもいし、みんな個性的だからどんな変なヤツでも馴染めると思う。部室にいると落ち着くんだよ。」
「へえ、まあお前に居場所ができてよかったな。」
「俺、そんな浮いてるかな?」と幹夫は少し心配顔だ。
「いや、大学生らしくていいんじゃないの。」と俺は曖昧に答えた。

 それからしばらく、幹夫は時々俺と遊び、それ以外の時間はそのサークルで活動しているらしかった。例の同人誌が発行されるごとに俺の部屋に持ってきてくれ、自分が書いた記事を見せて解説してくれた。幹夫は音楽と社会問題に関して書いていた。記事のタイトルは「現代サイケデリック・ミュージック考」「人気テレビ番組に見る社会の階級化」「大手新聞の大衆志向」といった感じで、そこそこ面白い記事を書いていた。
 幹夫は誇らしげに「見てくれよ、俺の記事、前より大きくなっただろ?」「初めて先輩の記事と同じ列に並んだぜ。」と言った。だんだんサ―クル内で地位を高めていってる様子だ。彼は充実した大学生活を送っているようで何よりだ。

 その頃、俺は拓也とよく近所の喫茶店で喋っていた。大学の近くに少々古いが居心地のいい、柔らかい革椅子の喫茶店があった。店内は薄暗く、流行の「カフェ」というほどオシャレではないが、講義の空き時間の学生らがよく来ていた。俺と拓也は水曜4限「東洋美術史」のあと、2人でこのサ店(喫茶店)に来るのが習慣化していた。
 拓也は常にファッションやサブカルに関する雑誌を持ち歩いていた。テカテカしたコゲ茶色の革のショルダーバッグから雑誌を取り出し、俺と二人でなんやかんやダベるのだ。俺もときどき、最近買った面白い本やCDを持ってきて披露した。
 俺たちの会話は盛り上がるのだが、ある程度話題を消化すると、自分達の人生や、将来の生活について不安と不満混じりのローテンショントークが始まるのだった。
 












連載小説「まだら色の林檎」1

2005年11月29日 18時20分15秒 | オリヂナル駄小説
不定期連載小説「まだら色の林檎」 決してストーリー性や完結を期待してはいけないと思われる連載小説のスタートです。

 それはそれは偏執的に、がむしゃらに勉強したものだ。これさえクリアすれば、バラ色の人生が待っていると自分に言い聞かせて。Z会の教材は今思えば恐ろしいほどの量が届いたが、俺はそれを消化した。まあ、その結果この3月はこれまでの人生で最も輝かしい瞬間となった。家族は狂喜乱舞するし、クラスの友人は俺を神様のように見るし、親戚からは合計22万円もの入学祝いが届いた。俺もとても満足だった。
 ただ、大学生活(特にこの街のこの大学)にはとんでもない落とし穴があるってことには、とても気が付かないでいた。

 とりあえず学校近くの学生アパートに下宿し、新たな生活が始まった。俺の専攻は日本文学で、小集団クラスの仲間もいいヤツばかりだ。4月は友達と一緒に色んなサークルを見て回った。音楽、文学、新聞、映画、フットサル。しかしどのサークルも活動内容が地味で、ダラダラした雰囲気がどうも好きになれなかった。俺は何か刺激的なものを求めていたんだ。
 下宿の部屋には生協で1割引で買った本が山と積まれることになった。もともと思想に興味があり、大学生になったらマルクスやらドストエフスキーやらユングやらを読破してやろうと思っていた。実際読んで見ると、始めは気合が入っているので難解な文章もスポーツ感覚で楽しめたのだが、だんだんとスタミナが切れてきてどの本も読みたくなくなってしまった。次第に読む本が簡単になっていき、エッセイや娯楽小説にハマっていった。ただ、どんな簡単な本を読む時でも、自分の脳みその肥やしとなるようその本から何かを読み取って学ぼうという姿勢ではあった。

 新しい友人の中でも面白いと思えるやつは一握りだった。
 長髪でガリ勉風だがユーモアのある幹夫は、とても物知りで俺に色んな事を教えてくれた。特にテクノやサイケデリック音楽に詳しく、いいCDを沢山貸してくれた。こいつの尊敬する人物はジョン・レノンで、ドラッグについても凄い知識を持っていた。いつか警察に捕まりそうな雰囲気をもったナイスガイだ。
 ファッションセンス抜群でスタイルもいい拓也は、口数は少ないが一言一言が深い。いつも自分の美意識と照らし合わせて物事を考える。性格は優しくて付き合いのいいヤツだ。知り合いの中で一番女にモテそうだった。一度彼の部屋に行ったことがあるが、インテリアや本、洋服、どれもイカしてて俺の興味をそそるものばかりだった。将来はデザイナーになりたいそうだ。
 陽子は一見おとなしそうだが芯を持った女の子だ。好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと言って憚らない。しかし笑顔が人懐っこいので愛されるべきキャラだった。飲み会で最終的に一番ウケをとるのは彼女だった。芸術の知識が豊富で、好きな画家を聞くと俺が知らない名前ばかり言う。どれも中世ヨーロッパの宗教画家だそうだ。ここまでの紹介で勘のいい人はわかると思うが、俺は陽子に好意を寄せていた。俺とはけっこう話が弾むのだが、彼女には兄貴がいるらしく、単に男馴れしているだけなのか、俺とウマが合うのかはわからない。

 7月で前期が終わるまで、こいつらプラスその他の友人達と大学近辺でよく遊んだ。結局サークルには入らず、俺はヒマな時間はコンビニでバイトをし、学校に行くための服を買うことに夢中になっていた。
 前期テストの終わる頃、幹夫が言った。「俺サークルに入ったんだよ。」「え、マジで?」個性の人一倍強い幹夫が一体どんなサークルに入ったのか気になった。
 



小説の感想が返ってきた!

2004年12月07日 23時03分50秒 | オリヂナル駄小説
 以前にある講義の課題でくだらない小説を書いて提出した。その講義では他の学生の書いた作品を読んで感想を書いて提出する。私の作品も大勢に読まれて、感想が束になって先生から渡された。それがなんか読者から手紙が来たみたいで感動した!
 いろんな感想があるもんで、好き嫌いが分かれるようだ。
 読者の感想(及びアドバイス)を一部公開する。「なんか小説というよりエッセイみたい」(うむ、この時期本ブログにハマってエッセイ風ばかり書いてたからな。)「中盤ダラダラしてる」「文章があっさりしすぎ」「文章が装飾過多」(どっちだろう?)「地の文ばかりで読みづらい」「登場人物にセリフはないのか」「結局主人公が何の解決策も得てない」(ごもっとも。)
 うれしい感想もたくさん有った。「主人公の行動が続きが気になってワクワクした」「表現がきれい」「主人公にとても共感できる」「比較的サワヤカなラストで好感が持てる」(そうなんだよ、暗い小説にしたくなかったのよ、分かってくれてるなー。)

 よく漫画家とかが言う「読者の手紙がエネルギーになる」って言葉の意味がよくわかった。どんな感想でも自分のためになる。皆さんも好きな作家がいたら手紙を送ってあげてはどうだろう。(作家気取りかよ自分!)

駄小説 3(完結)

2004年07月30日 22時27分12秒 | オリヂナル駄小説
 プールに面した道路は車も通らない。辺りは虫の音しかしない。この静かな闇の中、飛び込む音が立てるのは度胸がいる。3番の飛び込み台に立つ。水は最近入れ替えられた新しい水のようだった。月明かりでプール全体が照らされて幻想的な、貸し切りのプールの水面は平らである。この誰もいないプールに一人で飛び込み、水面を破るのが怖い。思い切って飛んだ。
 ドプンっ。思ったより小さな音と共に、ひんやりした水に頭から入り、全身が包まれた。冷たくてとても気持ちがいい。「うひょー、こいつはいい!」バシャバシャと音を立ててクロールやら平泳ぎやら、水の中を存分にのたうち回って楽しんだ。最近のイライラが吹っ飛んだ気がした。バチャバチャジャブジャブ、プールサイドに干してあったビート板まで借りて、子どもに戻った気分になる。しばらく泳いだ後、ハア―ッと息をついて、ビート板に背を乗せ、あお向けに水面に浮かんで休んだ。
 気が付けば、空には星がたくさん輝いていた。一面の星空が水面に浮かぶ自分と向かい合っているのだ。「うぁー、なんや、コレ」と目を細め、小さい声で呟いた。夢みたいな光景だった。このまま体が星空に、永遠に続く宇宙に、落ちていきそうだ。「あぁ、でっかいなあ・・・」。昔、何かの本でアラスカだか北欧だかの大自然の中に立つ小屋の写真を見たことがある。そんな小屋で暮らしてみたいと子どもの頃思っていた。どこか遠い国の雄大な大自然の中で、満点の星空を見てみたいという願望があった。子どもの頃は、本やら映画の中の風景に強く憧れていて、大人になったらいつかこんな場所に行けると思っていた。水に浮かんだまま自分の追憶と空想はさらに飛躍した。映画で見たアメリカの自然がいっぱいの郊外の風景。紅葉が美しく、落ち葉の敷き詰められた道を歩く少年がいる。野球帽をかぶり、赤と青と白の派手な、ワッペンがついたスタジアムジャンパーを着ている。いいなあ、スタジャンはわんぱくで、自由な感じがして。一度着てみたいけど、現実の俺には似合わないから・・・・・。「そんな事、気にしないでもいいはずじゃないか」と思った。着たければ、着ればいい。目の前の自分の願望を叶える、それを繰り返して人は生きてるんじゃないのか。大きな目標を追うのもいいけど、誰だって今を満足したいのだ。こうやって自分は今、プールに浮かんでいる。思い切ってやってしまえばスカッとする。今日まで自分の将来が見えなくて不安だった。でも今からは、自分の欲しいもののために努力をして、それを叶えるために生きていこう。仕事して、金貯めて、何かを買う。住みたい家を探す。好きな人を探して、手に入れる。
プールに飛び込んで、星空と向かい合って、俺はよくわからない先のことを、ゴチャゴチャ考えるのをやめることにした   (終)


個人的な過去、妄想が混じった、初めて最後まで書き上げた駄小説でした。

駄小説 2

2004年07月29日 21時29分23秒 | オリヂナル駄小説
 とりあえず例の喫茶店に行く。店は相変わらず地味だったが、営業していて安心した。店内の照明は暗いが、街を見晴すことのできる窓が大きいので、その窓からたっぷり光が差込み、雰囲気は陰気ではない。窓際の席に座り、クリームソーダ450円を注文した。自分以外の客は3人。老夫婦とサラリーマン風の男性が一人。こんな山の上の喫茶店は、団地の人々だけを客として経営が成り立つのだろうかと、不思議に思う。おそらくこの団地や近くの店に用事があって、山の下から登って来た人達がこの店で休憩していくのだろう。静かでゆったりした店内で、俺は美しい街と港の眺めを楽しんだ。港の水面が日光を反射して眩しい。街の建物も日が当たってほとんどが白く見えた。海の向こうには別の県の陸地が見えるはずなのだが、今日は白く霞んでいて、海の向こうに何も無いように見える。この眺めが、昔から好きだった。ただ、自分はいつまでこの街に住み続けるのかという疑問が小学生の頃から胸にあって、美しい眺めが自分を少し不安にさせていた。夜まで店でぼんやり過ごした。
 喫茶店は9時に閉店した。小学校のプールに人目につかないように侵入するにはまだ早いので団地周辺を散歩することにした。しかし、やがて散歩にも飽き、バス停のベンチに座って眠りかけていた。街の夜景が広がっているが、特に感激はしない。その時、バスが着いて客が何人か降りてきた。その中に自分と同じぐらいの年の大学生らしき男もいた。彼は黄色いプリントTシャツにジーンズという格好で、テニスバッグを抱えてやや疲れた顔をしていた。俺はすぐに小学校の頃の知り合いだと気付いたが、相手は俺には目もくれずにさっさと歩き去り、団地の中に消えていった。それほど親しい仲ではなかったが他に考える事もないので気になった。テニスやっているのか。あいつは卒業後どんな仕事をするつもりなのかな。人のことなんかどうでもいいのに、考えている自分がアホみたいだ。余計な事を考えずに、さっさと目的を遂行しよう。
 夜11時、小学校のプール前。人影は全く無し。金網に手をかけて登り、楽々と中に入った。プールサイドを靴を履いて歩くのは、少し変な感じだ。本来ならこのザラザラした地面を裸足で感じるはずなのに。目を洗う水道の脇で服を脱ぎ、水着になった。熱帯夜なので脱いでも暑い。さて、昼間からの念願通り、久しぶりのプールに頭から飛び込もう。

続く

駄小説

2004年07月27日 20時38分23秒 | オリヂナル駄小説
最近テスト期間で、しばらく更新していなかった。ある課題で小説を書いたので公開する。 

『夏の追憶』 

 仕事を探してもなかなか良いのが見つからなかった。最近なんとか一つ、自分の趣味と一致した仕事が見つかった。ホビーショップの店員の仕事だ。アメリカのフィギュアやボードゲームなどを幅広く扱っている。採用のための面接も普通に終えた。他に希望者がいなければ受かるだろう。趣味と関連した仕事ができるなんて幸せなはずなのに、なんだか嬉しくない。もっとやりがいがあって、給料の高い仕事が世の中にはあるはずなのに・・・。
 悩んでいると頭に血が上り、7月の暑さと合わさりイライラしてきた。プールに頭から飛び込みたい。冷たくてきれいな水の中で、ギラギラ輝く日光に当たりたい。友達とわけもわからず、はしゃぎたい。小学校の頃のプールはめちゃくちゃ楽しかったな。水遊びをするだけでよかった。中学高校の水泳はダメだ。50mのタイム計測なんて無粋な真似をするから。おまけに高校は男女別でサイアクだ。小学校の頃のプールが良かったのは、環境が良かったからでもある。俺の通った小学校は山の上にあった。プールから緑の美しい山が連なって見えて、山と山を繋ぐロープウェイがゆっくり動いていくのが見えた。山のプールだ。都会のプールより水も冷たくて、澄んでいた気がする。とにかくあのプールが、妙に懐かしい。最近、熱帯夜が続いていた。今夜も予定は無い。あのプールに入りに行くと決めた。
 ときどきこんなバカな事を実行に移す。自分が満足できて、人に大きな迷惑のかからないことならば、すぐにやってみるべきだ。例えば、部屋で寝ていて暑かったら、すぐに下着を脱いで放り投げる(放り投げると開放感が増す気がするからだ)とか。深夜にプールにちょっと漬かって帰るだけなら何も問題はないだろう。誰にも見つからなければ迷惑もかからない。とりあえずプール気分を盛り上げるために、ビニールのバッグを押し入れから出して、替えの下着とタオルを詰めた。後は何を持っていこうか。深夜になるまで、小学校の近くにあった喫茶店に居よう。今までその店に入ったことはない。しかし、山の上で街と港が一望できる最高のロケーションの喫茶店で、前から気になっていた。数年前、港に空港が造られ話題になった時、その店は「OO空港の見える店」と書いて貼ってあった。そこで読むための、読みかけの雑誌と漫画もビニールバッグに詰めた。
 小学校のある山の上までバスに乗っていった。日が長く、5時になっても太陽は輝いて街を照らしていた。今日は夕焼けにはならなさそうだ。山の上といっても山頂ではない。正しくは「山の中腹」の上の方である。その辺りは大規模な団地があり、団地の脇に俺の小学校がある。団地の人々が生活するため、スーパーや郵便局、銀行もある。バスから降りてみると、小学校近くの団地にはのどかな夏の夕方があった。夏休みだから下校途中の小学生はいないが、団地の公園で遊ぶ子どもがいる。自分も昔、彼ら団地ッ子とこの公園で遊んだものだ。

続く