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And This Is Not Elf Land

The Great Gatsby Ⅰ

村上春樹訳「グレート・ギャツビー」。

The Catcher In The Rye(キャッチャー・イン・ザ・ライ、ライ麦畑でつかまえて)に続いて、野崎孝氏の名訳で一般的に浸透していたものを村上氏が新たに訳したのがこれ。うん、この新訳はいいね。

The Great Gatsbyは、北米では、今でも20世紀を代表する小説として人気が高い。Fitzgeraldがこれを発表した1925年(An American Tragedyと同じ年)は、アメリカは繁栄の時代でした。しかし、戦勝国としての好景気に沸く華やかさの裏には、伝統的価値の崩壊とそれに伴なう道徳の荒廃があり、物質主義とそれに伴なう刹那的快楽主義がありました。この時代をJazz Ageと名づけたFitzgeraldも、この時代のアメリカ社会と一体化して語られる作家でもあります。

このThe Great GatsbyもGatsbyという男の波乱に富んだ短い生涯を通して、この時代のAmerican Dreamを描いたものですが、しかしこの作品からは、20年代のアメリカの夢にとどまらず、開拓者たちのアメリカ建国の夢から始まり、フロンティアが消失した19世紀後期からさらに不確実性を極める現代に至るまでの全時代と結びつき、且つアメリカ文化に根ざした夢の姿を読みとることができます。

Fitzgeraldは作家として生きた時代、またヨーロッパで執筆活動をしたスタイルなどからLost Generationの作家の1人と捉えられることが多いようですが、ここを代表するHemingwayが簡潔で修辞を最低限に抑えたハード・ボイルドな文体であるのに対し、Fitzgeraldは感覚的な手法を駆使したロマンチィックな作風です。



西部の貧農の生まれであったGatsbyは故郷を捨て、ひたすら成功の夢を追いかけます。その途上で良家の美しい娘、Daisyに出会い、恋に落ちるのですが、貧しいGatsbyは彼女の元を去らねばならなかった。そして5年。New Yorkのロング・アイランド、既に結婚したDaisyが住む屋敷の対岸に華やかな豪邸を構え、週末ごとに派手なパーティーを催し、そこにDaisyがやってくるのをひたすら待つ彼の姿がありました。

この小説は、やはり西部から東部に憧れてやってきた隣人Nickの目を通して語られます。夢を追うGatsby、冷静な観察者としてその夢の危うさを読みとり、崩壊を予感するNick。最初はGatsbyにたいして違和感を抱いていたNickですが、次第にGatsbyの「夢の本質」が見えるようになってきます。

この新訳は、その辺りが非常に魅力的に、且つ分かりやすく表現されていて嬉しい。

to be continued
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