巨大なオリーブ
遺跡に生えるオリーブの巨木は蝋化したように見える幹と荒れ地に蟠る力強い根。見ているだけで生命の力が与えられる。
シチリアの5月の太陽は、すでに真夏のような強烈さを帯びている。空には雲一つなく、照りつける光が大地を焼き付けるようだ。妻に借りて頭に巻いたスカーフでどうにかこの陽射しをしのぎながら乾いた地面を歩いていると、ふと目の前に現れるのが、一際存在感を放つ一本のオリーブの木だ。
その幹の太さには驚かされる。通常見慣れたオリーブとは全く異なり、年輪を重ねた老木の幹はふしくれだってねじれ、曲がりくねり、大地と一体化するかのように根を張っている。オリーブの木は盤石のごとく屹立している。
この厳しい大地は、人間にとっては過酷な環境だが、このオリーブにとっても同じだろう。この木は自然の力に屈するのではなく、その力を吸収して自らの強さとして化している。周囲を見渡しても、遠くに散在するのみで近くに樹木は一切見当たらない。この木は、自分のテリトリーを主張して領土内の全ての養分を吸収してそこに佇んでいる。
わたしはその姿に引き寄せられ、近づいてその幹に手を触れてみる。その表面は、ゴツゴツとした肌理があり、長い年月を生き抜いてきた証が刻まれている。この木は遺跡の精霊ではないか。何百年、あるいは千年もの間、この土地に根を下ろし、見守り続けてきたのだろうか。風や雨、そしてこの厳しい太陽にも耐えながら、ただ静かに、しかし確実にその命を繋いできたのだ。
このオリーブの木は、かつてこの地に栄えた文明や人々の記憶を、記憶の中に秘めている。遺跡が語りかける過去の物語を、この木もその静けさの中に秘めている。この木がそこにあるという事だけで、この場所は特別な意味を持つ。
歴史上幾度かの地震で巨石が散乱している。その向こうにオリーブの巨木がのぞく。
遺跡に生えるオリーブの巨木の根が巨岩を抱えこみ屈服させている。
遺跡に生えるオリーブの巨木、一本の巨木が広大なエリアを従えている。
遺跡の荒れ地に咲くたんぽぽ風の健気な花。映り込む陰はわたし。