まさおレポート

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外資系通信会社 第一話 日米の争い その2 (すべてフィクションです)

2008-02-08 | 通信事業 NTT・NTTデータ・新電電


大野さんは葉巻の吸いさしを口に加えて、マッチで火をつけた。
「ダビドフが好きでね。やめられない」といいながら話を続ける。
大野さんは「クレージ」といいかけてすぐに「クラークはね」と言い直した。ちょっと言い間違えただけなのだろうか、それにしても「クレージ」と言い間違えたのには斉藤も思わず笑ってしまった。

クラークはこの会社のCOOで米国のタイムわーナー社から一年前から出向してきている。米国のタイムわーナー社系列のケーブル会社で数年間、経営チームとしての経験があるという。40代前半で、米国のどこかの州立大学のMBAを持っているというふれこみだ。彼と大野さんの間がどうもうまくいっていないことを既に聞き知っていたので、大野さんの無意識の言い間違いに思わず笑いで反応したのだ。

「クラークはトーシバからきている技術屋さんの機器選定を片っ端から反対して、ひっくり返して、米国製の高いものを買っている。斉藤さん、日本のケーブル関連の装置例えば電源装置などは品質があまり良くないのですか」と話し出した。ケーブルテレビのケーブルは、電話の銅線と異なり、センターからいきなり電力を送ることができない。電話の場合は電話局から48ボルトの電圧を掛けて電流を各家庭の電話機まで流し、ベルを鳴らしたり電話機を機能させることができる。ケーブルテレビの場合は、ケーブルの途中に電力を供給する設備を設置しなければならない。その電力供給装置は小型の冷蔵庫くらいの大きさがある。サービスエリア全域に置かなければならないので相当数に上る。

斉藤は話を聞いて、電流を送り込む電源装置の選定で一悶着あったらしいことが分かってきた。
「日本の電源装置も優秀ですよ。とくにトーシバは得意中の得意分野でしょう」としか答える外無かったが、どうやら日米互いに出向元の製品あるいは息のかかった製品を使うために争っているらしい。それが単なる好みの違いか、あるいは愛国心のなせる故か、あるいはもっとどろどろした理由によるものかはこの日着任したばかりの斉藤には全く分からない。

この会社はイトウチュウ、トウーシバ、タイムわーナー、ユーエスうぇストが25%づつを出資し合って作った会社で、そのため最大株主が存在せず主導権が明確でない。大野さんが社長といってもクラークのCOO(チーフ オペレーティング オフィサー 最高運用責任者)とどちらが経営のリーダシップを取るかの明快な合意が無いままに出発している。もっと言えばトーシバのCFO(チーフ フィナンシャル オフィサー 最高財務責任者)、ユーエスうぇストのCTO(チーフ テクニカル オフィサー 最高技術責任者)がいるが、リーダシップが明確でないので4社代表の4人の社長がいるようなものだ。日本人からみれば社長がリーダシップを取るのは当然と考えるが欧米流の感覚では単にCEO,COO、CFO、CTOの関係でしかない。この間に上下関係は無く、権限規定の定め方次第ではいかようにでもなるとの考え方があるようだ。あるいは、そのように意図的に持っていこうとしているのかもしれない。極端に言えば取締役会の合意によりCEOを名誉会長のように祭り上げ、棚上げすることも可能なのだ。

現にその1年後、大野さんは棚上げされたも同然の会長職の立場に置かれることになるのだがその時点では知るよしもない。入社早々に社内を構成する4社のせめぎ合いのほんの少し、におい程度をかいだだけだが、それでも主導権の確立していない会社での経営の難しさをかいま見た思いだった。

トーシバは自社の電源装置やセットトップボックスと呼ばれるケーブルテレビの端末機器をこの会社に売りたいという思惑が強いのだが、通信事業そのものを伸張して積極的にキャピタルゲインを得ようとは考えていないようだ。タイムわーナーは経営の実績と新技術の確立をして米国本社に凱旋したい。ユーエスうぇストは日本で実験的に成功させその方式を欧米に広げることに野心を燃やしている。米国内での他地域への進出を狙っているといってよい。イトウチュウは商社らしく新電電への投資で得たキャピタルゲインの旨みを再度得られればそれで良しとしているようだ。

それぞれの思惑から会社のポジションも割り当てられる事になる。トーシバはがっちりインフラ系の技術部門と財務・購買を押さえる。ユーエスうぇストは通信系の技術部門を押さえる。残る経営中枢をタイムわーナー社とイトウチュウのどちらが押さえるかで両社は激しいつばぜり合いを演じているようだ。その日の勤務を終えて帰途についた斉藤は小田急線の中で、これから勤務する事になる会社の印象を以上のように総括してみた。






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