ダイオキシンの情報がメディアで乱れ飛んだとき、
「化学物質から生まれた極めて特殊な化合物」
だと、すっかり私は錯覚してしまいました。
塩化ビニールやプラスチックを燃やすときにダイオキシンが発生する、
と刷り込まれてしまったのです。
別に違和感はありませんでした。
四大公害病を小学生の頃に教わって以来、煙突からモクモクと出ている工場の煙に恐怖心を抱いていたのですから。
近所で古タイヤが燃やされていると、真黒な煙と共に特有の匂いがしてきて頭が痛くなる、という経験もありました。
石油生成物を燃やすと有害なガスが出るのではいか、
と疑っていたところに、さらに、
ダイオキシンという得体の知れない化学物質がある、という。
それならば当然それは恐ろしい毒物であり、
体内で処理するなどできないはずだ。したがって、
蓄積され環境ホルモンともなるのも頷ける・・・
と当時は思ったものでした。
さてここで、
ダイオキシンがどのように生成されるのか、おさらいをしたいと思います。
ダイオキシンという化合物がつくり出されるために必要な条件は、
第一に、「有機物」が存在しなくてはなりません。
たとえば、植物や動物の体がそうです。石炭は植物の死骸であり、石油は動物の死骸であるからこれも同じです。
第二に必要な条件が、塩素などの「ハロゲン」の存在です。
塩素などのハロゲンは、いろいろな鉱石などにも含まれていますが、なんといっても量が多いのは海の塩です。
第三に必要な条件が、300度~500度ほどの高温です。
木材やプラスチックが燃えるときの温度がだいたいこの温度です。
つまり、
「動物か植物」・「塩」・「燃える時の温度」三つの条件がそろった時ダイオキシンは生成されるのです。
おいおい、待て待て、、、と言いたくなります。
塩化ビニールやプラスチックを燃やしたときにダイオキシンが出てくるのではなかったのか・・・
確かに出てくるのですが、なにもそのときだけではなかったのです。
残念ながら、まったくの誤解でした。
この条件であれば、人類が生まれる前の遥か太古の昔からダイオキシンは生成されていることになります。
海に近い山には、風で運ばれた塩が樹木に付着していることでしょう。そこで山火事が起こった時、そこに棲む動物たちは猛毒のダイオキシンで死に絶えてしまったのでしょうか・・・
生成過程をおさらいしたのですから、
果たして、ダイオキシンの毒性は高いのか、冷静に考えてみましょう。
身近に考えるならば「焼鳥屋」さんがいいと思います。
炭火の上に串刺した鶏肉をならべ塩をかけて焼きます。
おおよそ400~500度になります。このとき、
ダイオキシンが生成される三つの条件が見事に満たされます。
ということは、焼鳥屋の大将はダイオキシンをほぼ毎日、
少なくとも6時間は吸い続けていることになります。
皆さんにも行きつけのお焼鳥屋さんがあるかと思いますが、
癌になったり、子宝に恵まれなかったり・・・
などといった噂を聞いたことがあるでしょうか。
みなさんとてもお元気に働かれているはずです。
つまり、
ダイオキシンは、微量であれば問題にならないくらい無毒なのです。
前回の繰り返しになりますが、平成14年、厚生省(当時)の委員会の報告書を再度引用します。
「ダイオキシンは人間でほとんど毒性が認められていない。
急性毒性としてはニキビが最も重い症状であり、
それ以外には認められていない。
慢性毒性は今後の研究にもよるが、
現在慢性毒性として認められるものはない。
発ガン性とか奇形児の発生率においてもほとんど観測値はない」
当時の政府の見解は、ダイオキシンの毒性について?のままなのですが、環境庁のHPには、強い毒性があると発表されています。
とはいえ、猛毒性は低いのに規制してしまったキレの悪さを感じます。しかも、
化合物を燃やした場合にのみ、ダイオキシンが発生すると誤解させるような表現ではないか、言われても仕方のない文章だと思います。
くわえて、毒性が低いことがうやむやに書かれてあります。
要約すると・・・
発ガン性はあまり高くなく、奇形児を起こさせることも確認されていない。
一時期さかんに言われたホルモンや免疫への影響はまったくわかっていない。
しかしながら、毒性が低いとわかっていて明らかに事実を誇張した表現があります。それは、急性毒性です。
委員会では、ニキビ以外に認められていない急性毒性なのにHPでは…
(以下抜粋はじめ)
「ダイオキシンは「地上最強の猛毒」と言われることがありますが、天然の毒物には、ボツリヌス菌や破傷風菌の毒素などといったダイオキシンよりも強い毒性を持ったものがあります。ただし人工物質としては、最も強い毒性をもつ物質と言えます(図2)。急性毒性については、動物の種類による影響の差が大きいことが知られています。最もダイオキシンに敏感な動物はモルモットで、一方、ハムスターに対する毒性はその8千分の1程度です。」」
(抜粋終わり)
ダイオキシン対策でゴミ焼却炉を改造するために国が用意した予算は、年間600~1800億円に上りました。工場の焼却炉は燃やせないように規制されました。ダイオキシンが人にどのように影響するのかわかっていないとしても、政府広報として人間への毒性は高いのではないか、という表現としたいのは理解できます。そこで、急性毒性にフォーカスしているのでしょう。
それにしても、「ハムスターに対する毒性はその8千分の1程度」という一文を付け足しのように加えているのはいかがでしょうか・・・
ラットやモルモットに対して、ダイオキシンは強い毒性を示すのですが、それは以下のような特徴があります。
『1.急性の毒性は弱く死ぬことはないが、数週間で体力を消耗して死ぬ傾向がある。
2.毒性は生物の種類によって大きく違うということ。
3.免疫系、生殖系、胃腸系、皮膚、肝臓、腎臓に広く影響があること。
4.特定の蛋白の合成が早まったり、皮膚の細胞の増殖などが見られること。
5.発ガン性は直接には見られず、何か別の要因で発ガンしそうな時にそれを加速させる傾向があること。
6.体内に、「レセプター(受容体)」があり、これと結合して毒性がなくなることもあること。
(「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」 武田邦彦著 より) 』
生物の種類によって毒性が大きく違うといっても、ハムスターではモルモットの8千分の1の毒性しかない、とは驚きです・・・
なにせ私なんぞは、双方ともネズミの一種としてしか見えず、区別もつかないくらいですから。
そんな、似ている動物であっても8千倍も毒性が違う、というところにダイオキシンの特性があるとも言えます。
そして、ダイオキシンに対して最も敏感なモルモットへの毒性を根拠に、「人工物質として最も強い毒性をもつ」であったり、「青酸カリの6万倍の毒性」といった表現がなされているのです。
ハムスターでさえ8000分の1ということは、まして、有史以前より火を使うことを文化としてきた人類にとって、ダイオキシンの急性毒性が強いとはどうしても思えないのです。
日本の毒物学・免疫学の第一人者、東京大学医学部の和田攻名誉教授は、「ダイオキシンはヒトの猛毒で最強の発がん性物質か」
という題名の論文を発表されています。書き出しはこうです。
(引用はじめ)
「ダイオキシンは、環境ホルモンと並んで、新しい環境汚染物質として、最近では毎日のごとくマスメディアに登場し、必ず”猛毒で発癌性の”という枕言葉がつけられ、人々を不安と恐怖で陥れている。
猛毒で発癌物質という言葉からは、少しなめるだけで忽ち人は倒れ、またやがては癌になって死に、人類は滅亡してしまうことを想像させる。本当にそうであろうか。」
(引用終わり)
さらに本文は、以下のような主旨で書かれています。
「ダイオキシンが人に対して毒性を持つということははっきりしていない、おそらくはそれほど強い発ガン性を持っているとは思われないし、また急性毒性という点では非常に弱いものではないか。」
「ダイオキシン騒動というのはつくられたものであって、社会がダイオキシンの幻想をつくり上げる時に我々専門家が力を持っていなかったことを証明した。科学の敗北である。」
ダイオキシンは猛毒だという呪縛から、少しは解かれてきたのではないでしょうか。とはいっても・・・
「そもそもなぜ毒性があるといわれるようになったのか?」
「毒性が低いとしても、量が多ければ問題あるのではないか。焼鳥や焚き火と焼却炉とを同じように扱うのは浅はかではないか?」
「燃やしてダイオキシンができるのはわかったが、ベトナム戦争で使われた枯葉剤のダイオキシンとは何なのか?」
などのモヤモヤっとした疑問が残っていることでしょう(笑)
次回は、その辺に触れてみたいと思います。