また二人で行く。田酒のカラフェだけにして、鮨を十ばかり食べて帰る。私はお腹一杯、一つ分食べすぎたくらいだが、板さんは、「物足りないくらいで止めといたほうがまたすぐ来たくなりますからね」と言う。お腹一杯でもまたすぐ来たくなる。なかなか飽きない。日本酒と鮨以上に美味しいものがこの世にあるとは思えない。ようやくその心境に至る。欧介はNYに来た頃からそう言っていた。去年まで私はフレンチのサラダとスープが一番美味しいと思っていた。食を書いた作家で一人あげるなら岡本かのこ。「鮨」の冒頭の町の描写に脱帽。「食魔」のアンディーブ・サラダ。口惜しいけれど、おいしいわよ、という名台詞。この二作を読んでない人は人生の楽しみを二つミスしている。青空文庫で両方とも読める。昨夜は、鮨のほかに海老の頭揚げに、蕗の薹味噌胡瓜を添えた皿、さよりの骨も頂いた。
「Vivaldi Concerto in Gminor For Two Cellos and Piano」
土曜PC。ミスターEのマスタークラスに道子デビュー。新アリスタリーホール上の四階の部屋。町子と二人でヴィヴァルディを弾くチャンスをもらった。ミスターEの秘蔵っ子ピアニストのMニーが、「三楽章は難しいわね」と言って、楽譜の上に素早く手を走らせる。町子は自分の得意な三楽章を弾きたがり、道子も自分の得意な一楽章を弾きたいと言い、結局一楽章になる。早いテンポ。一回弾いて、ミスターEの駄目だしを受けてまた弾く。最後にみなが拍手。ブラボー。道子に感想を聞くと、あまりに生徒がふざけてだらだら喋っているので、こんなところで弾くのは嫌だと最初は思ったが、道子たちが弾き始めると、全員顔が変わってシリアスになった。ぼくも小さい頃に弾いたなあ、と男子生徒に言われて悔しかった、ということである。私がロビーで待っているとき、NYフィルのチェロのWU君が入って来て、ピアニストのMニーが帰るところにすれ違って、二人が立ち止まって談笑するのを見た。その後ろを、娘さんを迎えに来たNYPのバイオリニストHYHさんが通って行った。