KTEの家でサンクスギビングディナー。KTEの夫の、弁護士のBBは去年クライアントが交通事故を起こして不在だったが、今年は一緒にお祝いできる。KTEの息子、有名な料理学校に通っているBBが今年もターキーを焼き、六時間かかってソースを煮込んでくれる。KTEの義父、83歳のBBは去年と同じく「あんた年いくつ? 世界大戦に参加したかい?」と欧介に聞く。BLCEの奥さんは会うたび若返る。それも半端でなく。最初は私の母くらいに見えたが、今回は私と同じくらいにしか見えない。民話の世界のようである。KTEの家はお母さんの設計であり、日本の建築雑誌に紹介されている。 5バスルーム。ガレージの上にジム。KTEは毎朝五時半にニュースを見ながらエクササイズするそうだ。ガレージ脇の工作室には卓球台、ピンボールマシン、ボクシングのサンドバッグも吊られ、スキーやホッケーやゴルフ道具が積み重ねられている。ロングアイランドにあるサマーハウスにはカヌーや釣り用の大型ボートもある。まっとうなアメリカ人の贅沢や楽しみを味わいつくすための家だなあと思った。
KTEは自分の通勤路(五番街)を自慢し、欧介の通勤路(十番街)を「ごみだらけ、どこの馬の骨だかわからん連中が屯ってる」とけなすので大笑いになる。KTEは五番街で毎朝のように有名人(ニュースキャスター)に間違われ声をかけられるそうだが、その番組をKTEの夫以外誰も知らなかった。
部屋ごとにこれでもかというほど消火器が置かれてあるのを欧介が見つけて聞くと、KTEの夫のBBは強迫神経症的に火の用心にこだわっているそうで、マンハッタンでルームシェアを始めた娘のアパートにも消火器をプレゼントした。ルームメイトが料理中に鍋の油に引火、娘が消火器を使って火事を防いだと、BBは自慢していた。
WAG家にて恒例ワインパーティー。アルザスの葡萄でちょっぴりドイツテイスト、という白ワインが素晴らしく濃く爽やか。その後の赤もまろやかで美味。欧介が驚愕したのはワインを漉す器具(我が家通称)「じょぼじょぼ」。それを通すだけで、ほどよくすばやく空気がまわり、時間をかけてデカンタしたのとほぼ同じ効果が得られる。最初は疑っていたが、実際に全く違った味わいになった。干し椎茸と生椎茸くらい違うのである。中世仏蘭西でこれ使ってたら完全に魔女だと思われ火あぶりになったかも知らん。昨日KTEんちで飲んだ(我が家が買って持って行った)ワインより千倍美味しかったので、ついたくさんいただく。
DSNYクルーズの話。欧介はDSNYアトラクションはこの世の地獄であると思っているのだが、KJさんの話の中途で一瞬目を輝かした。
「え? 飲みに行ったらプリンセスたちがいるんですか?」
子供を寝かして飲みに行ったらバーにプリンセスたちがいる。リトルマーメイドが止まり木で話し相手、シンデレラがカクテルを振り、眠れる森の美女がお酌したりする。ちょっとそれは倒錯的でいいかな、と欧介は思ったそうだが、よく聞いてみると、「ロビーに行ったらプリンセスたちがいる」であった。
帰り際に屋上で夕日を見る。そこにもサンドバッグが置いてある。子供達はボール投げをして遊ぶ。幼稚園時代を思い出す。