Fウェイでぜんまいをみつけて買う。乾燥でも水煮でもない、生ぜんまいに挑戦。重曹をかけて熱湯をかけて五時間重石を乗せて、いま灰汁抜きの最中である。豚肉と炒めると美味しいと書いてあるが、ちょっと今豚肉はあれなので、卵とじにしようかと思っている。
Dが低くしてくれたブリッジで、町子がチェロを弾いてみると、ちょうどよかった。ほっとする反面、残念な気もする。今日また、「あー、やっぱあれ低くすぎたわ。もちょっと高くしてんか?」と、Dの店へ持って行けば、なおさら面白かったのになあ。
昨日はあまりに心苦しいことがあって、いったんNY句を書き始めたものの、途中で書けなくなった。子供たちの伴奏をお願いしていたKW先生に、去年もいったんお願いしておきながらキャンセルするという失礼があり、今年こそはお願いしたいと思ってお願いしたのにまたキャンセルしなければならなかった。不本意だが、どうしようもなかった。KW先生は事情を察してくださり、気持ちよくご了承くださった。ピアノを聴けばKW先生が頭も人柄もずば抜けてよいかたであることはわかる。そんなかたにひどいことをしてしまった。翌朝、はらもも句会の途中、満開の八重桜の下で改めてお詫びの電話を入れ、KW先生の爽やかなお声を耳にして、ようやく胸の雲が晴れた。
気を取り直して昨日のことから書く。町子のトリオの発表会。Cメンの新しい赤いドレス。Cメン、ASティン、Nアのうまさ光る。町子も人の音を聞いて、リズム感を出し、よい音でトリオを支える。
夜NYPへ、楽しみにしていたムーティー様のイタリア特集。ヴェルディ、ヴェルディ、プッチーニ、レスピーギである。リアンワンのオーボエ大活躍。ランジェヴァンさんのフルートとのからみ最高。トランペットの若い人が成長してる嬉しい驚き。「リズムに厳しく青空のように歌う」トランペッターがスミスさんだけではなくて増えていた。ローマの松は「」内要素が必要不可欠なので、NYPみたいに管のうまい、特に金管のうまいオケでないと難しい。昨夜のプログラムのほとんどは管が大事な曲であった。ムーティー様はよほど満足していたと思う。クラのドラッカーさんに最後のカーテンコールでハグしていた。クラも見事であった。ピアニシモの熱情はローゼン先生に負けない。
R先生のレッスンのない日曜。子供は朝寝。大人二人は、はらもも句会第一回目吟行へ出発。夏めくひざしのトラム駅に待ち合わす。
ニューヨークにもこんなに俳人がおられたのだ。ESさん、PPNさん、FS子さん、みな帽子かぶって準備万端。私は帽子忘れ、PPNさんに日焼け止めも借り。二時までトラムが動かないといわれ、予定を変更して地下鉄でルーズベルト島へ。川一つ越えただけで、不思議と島気分が盛り上がる。マンハッタンも一応島だが。
病院でトイレを借り、イーストリバー沿いの桜並木を五人ばらけて吟行。満開の八重桜の、その花影がゴージャスで圧倒される。うっとりする。それが島の先まで続いている。途中からソメイヨシノだろうか、散りかけの残花に変わる。白い花びら、赤い桜蘂が風に吹かれ舞う。樹に群がる鳩。芝を歩く青カケス。岩場に集う通し鴨。日本人カップルが日本酒持参で花見。ベビーシッターに連れられままごとしてる金髪の兄妹。
島の先端を回ってクィーンズ側へいくと、菫が咲いている。赤い跳ね橋。コカコーラの看板。メキシカンみたいな家族連れが、釣竿を川に垂らしてピクニックしてる。トルティーヤチップスとサルサの袋が見えた。豚フルのことをつい思い出してしまったが、欧介は、前回欧介と町子が熱を出した風邪が豚フルじゃないかと言う。私と道子も軽くかかった。それならいいのだが。学校閉鎖とかひどいことにならないよう祈る。
エイズウォークのパレードとすれ違いつつ、地下鉄で34丁目へ移動。メイシーズ地下でサラダを買い、欧介のオフィスへ。会議室で昼飯、十句投句。緑茶と羊羹。レベルが高くて迷ったあげく十句選句。選評たのし。欧介には、してやられたという句が二句ほどあった。私もこの辺りでは絶対作れない句を得た。解散後、FS子さんを見送って、会社の近くのバールにて乾杯。生ハム、ズッキーニ、マッシュルームのフライ。ピアニストのTKさんが合流するというので、指だけでも拝みたくて粘っていたが、あいにく子供の夕飯時となり私も抜け。あとの面子で二次会へ行ったかどうか。まだ欧介は帰ってこない。
火曜バレエABCへ。ABCクラスはバレエの基本を教わるクラス。今日はバーで45度ずつ向きを変えて踊る。ベテランのAY子さんたちもポワント(トウシューズ)でここに参加されている。AY子さん帰国のニュースを聞く。ロンドンに越されたYKさんに続く目に見える目標として、私はAY子さんを見て踊っていたのでがっくりである。私が来るときは必ず来ておられた、ということは私の来ないときもいつも来ておられたのだ。お別れのご挨拶をすると無性に悲しい。ただでさえ旅行が終わって悲しい気持ちがいや増す。ちょっとロンドンにも行きたくなる。MM先生がまた痩せて、引き締まっておられる。本番に向けて鍛えておられるのだ。関東に住んでおられるかた、五月三日(日)に関東におられるかた、日頃ダンスに縁のない俳人は特に! ちょっと気分を変えて夢コンサートを見に行ってください。ぜひ感想を句にして送ってください。宝塚にも四季にもこれほどきれいなダンサーはそろってません。よろしくお願いします。
次の目標。道子のPCオーディション五月十八日(月)。町子のジュリー五月十六日(土)。これが終われば、六月の欧介(指揮)コーラス発表会。それが終わると、私も合唱に参加さしてもらいたい。信長さん作曲の寺山修司の詩による6つのうた「思い出すために」を歌うために。これは素晴らしい合唱曲。どれもいい。これを歌わずに死ぬと後悔するであろう。ピアノもいい。難しい。
おっと、忘れるところだった。一番近い目標は今週の日曜。はらもも句会の吟行会一回目がルーズベルト島にて行われる。
「夏のおもちゃ」
ペットショップで、箱に印刷された写真の子猫がTEAにそっくりなので買った。金魚鉢に見たてたボールに水を満たし、魚の絵のついたボールを浮かべて、手ですくって遊ぶもの。
「嫉妬」
一週間預けていたリンデンを抱っこすると、女の香水の匂いがぷんぷんする。首の後ろから背中にかけて特に。TEAとメープは匂わない。TEAのように足にすりつくだけでは、あれほどの移り香はない。メープルは私以外誰にも触らせない。ナースや受付の女の子に抱っこされ顔をすりすりされ、モミモミさしてもらって、口を半開きにしているリンデンを想像するとおかしいやら腹立つやら。
「ミスターRの日曜レッスン」
R先生は、その場でおみやげを開くタイプである。一つ一つ見ては面白いことをおっしゃる。道後温泉で買った温泉の素を見て、「ふうむ。ハーバルバスだね。これで素敵なレディを誘って、ぼくも一緒に入ろうっと」。伊予絣の眼鏡ケースについて。「ぼくにはこれが必要だったんだ。母に昔一つもらったんだがなくしてしまってね」。海老煎餅を渡すとき、「これは海老です。海老を食べないジューイッシュもいますが、先生は?」と欧介が聞くと、「なに、ぼくは平気だ。明日、飛行機にもこれ持って乗ることにするよ。客室内を海老の匂いで満たしてやるんだ」。その場で開けてばりばり食べ、道子と町子にも一枚ずつくれた。道後商店街で先生の名前を彫ってもらった箸をさっそく使って、おかきの袋をつまんで見せた。「これは僕だけの箸にするつもり。決して家族で使いまわさないことにするよ」。
釣りをしたとか、刺身を食べたとか、日本の土産話をしていて、R先生がふと、「シコクアイランドが舞台の小説があるね」とおっしゃった。欧介が、「H・Mラカミ? Kフカ・オンザショアでしょ?」と言い、R先生が「そうそう」とうなづかれた。「彼女は彼が嫌いです」と欧介が私をさして言うと、先生はちょっと困って、「おどろおどろしいからね」と言った。私は、「自己愛を守り、劣等感を持たぬために現実を100%見つめず、人の話を100%聞かず、自分に理解できる現実や会話だけを受け入れるシステムをそれと気づかせぬくらい巧妙にスタイリッシュに採用して生きてゆく主人公を書くのです。それを読んで癒される人が世界中にどれだけいてもいいですが、R先生のような本物の天才にはまったく不必要な本です。真実を100%追求するR先生や私とは正反対の考え方なのです。だから嫌いなのです」と言いたかったが、英語でとっさに言えなかった。今ゆっくり考えてみたら言える。焦ってパニックせずに言えば、どんなことでも言える。
レッスン後、夕飯を食べに降りると、向かいのカレー屋の前でチェロを背負ったままR先生がメニューを真剣に見つめておられた。一緒に食べようかと迷ったが、一人で食べるほうが気楽でいいだろうと思い直し、声をかけず通り過ぎた。シティグリルへ行き、マッシュルームラヴィオリを食べた。どうしてもこれが食べたかった。トワイライトシリーズを読んでいるので。トワイライトの翻訳は、あまりにティーンエイジャー向きすぎる。日本語訳を読んだ道子が、「まるで子供向けじゃん」と怒っていた。ステファニー・マイヤーズの原語は一語一語が金色に輝いてシルクの手触りだそうだ。