今回は今治市の北に位置する、そして瀬戸の島々を眼前に臨む波止浜公園に来ました。
波止浜公園の説明板

上の方が不鮮明ですが、中ほど以降に、ここを訪れた著名人として吉井勇の名前があげられています。

「小林一茶が来遊し、河東碧梧堂(桐)、澄宮殿下、吉井勇、高浜虚子も訪れています」
勇の名がありますが、この時のことを勇は次のように書き残しています。
「今治から波止浜に往き、この公園から来島海峡を眺めながら、今言ったやうな私達の祖先の英雄的な心持ちを偲んで、事実懐旧の念に堪へなかった。丁度春のことで、日はうららかに照る渡ってはゐたが、目の下に見える海峡に潮は、今が丁度最も流れの急な時と見えて、凄まじい響きを立て、渦を巻きながら流れてゐる。」(「内界点描 来島海峡」)
公園の上にある展望台へ



山頂に着いたのですが…

伸びた雑木が展望のじゃまをしています。

勇が来島海峡を眺めたのがこの展望所だったかどうかは分かりません。。
勇は波止浜に着くとすぐ船に乗り、来島海峡を横断して小島に渡ったと「歌行脚短信」に書かれています。
波止浜の塩田の竈の夕けむり見つつ海越す旅人われは (歌集「旅塵」)
海岸の船渠の鉄の槌の音ひびきかつ消ゆ瀬戸の潮に (歌集「旅塵」)
勇には船で横断したという来島海峡が強烈な印象で残ったようです。来島海峡は日本三大急潮に数えられる海の難所ですが、その時のことを歌に詠んでいます。
夕されば潮をはやみ来島の荒瀬鳴瀬を船くだちゆく (歌集「天彦」)
瀬戸落つる大渦潮の狂い潮見る目くるめく眼ふさぎね (歌集「旅塵」)
われやただ南無八幡を念じ居り大渦潮に船を任せて (歌集「旅塵」)
そして小島で一夜を過ごしていますが、枕元まで聞こえてきた来島海峡の潮の音も詠んでいます。
夜をこめて歎くがごとき潮の音この水底に鬼やゐるらし (歌集「旅塵」)
潮の音に屡(しばしば)目覚め枕辺に置きたる昨夜の冷酒を酌む (歌集「旅塵」)
来島海峡大橋

来島海峡や小島は、翌日、大島の亀老山より眺めましたが、さすがに渦までは見られませんでした。
さて、私の歌行脚の足跡を辿る旅ですが、伊予路は別の機会にまわすことにして、このあとは瀬戸の島々を訪ねます。
―続く―