まんだの読書日記

小説の感想メイン。た~まにビーズやペパクラも。
放置しっぱなしで申し訳ありませんでした。ただいま再開準備中です。

「水の迷宮」石持浅海

2006-05-22 13:36:07 | 和書
だいぶんだいぶん御無沙汰でした。
お久しぶりの紹介です。


◆『水の迷宮』石持浅海 / カッパノベルス

▽あらすじ

舞台は首都圏の人気スポット・羽田国際環境水族館。
次々と水槽に仕掛けられる異物と、その都度館長あてに届く脅迫とも取れるメッセージ。
折しもその日は、三年前不慮の死を遂げたある職員の命日であった。
展示生物と来館客たちを人質にとられる形となった水族館職員たちは、緊迫の一日を過ごす。


▽コメント

表紙の写真の美しさに惹かれ手にとりました。
「水の迷宮―石持浅海」なんてぴったりとはまった名前も素敵ですね。
幻想的な水族館の様子や、職員たちの水族館への思いがとても丁寧に描写され、その実直な視線から作者の人柄がうかがえるようです。

謎解きパートは探偵&語り手の典型的なホームズ&ワトソンタイプ。
犯人当てやトリックは意外とシンプルなので、そこを楽しみにしているミステリファンにとっては少々物足りないかもしれません。
斯く言う私も、外から見ている読者としては「どうしてもっと早くそれに気付かない?」と何度ツッコんだことか…。
基本的に語り手がお人好しなので、人を疑うということを避ける傾向にあるんでしょうね。

そして気になるのが、表紙に書かれた「胸を打つ感動」という言葉。
そこまで言い切るからにはさぞすごい感動なのだろうと読み進めると、途中、亡き職員の水族館にかける夢に思いを馳せ、探偵役の男性が人目もはばからずぽろぽろと涙を零す場面にあたります。
その時には「さすがにこれはやりすぎだろう」と半ば呆れもしたものです。
しかし最後にその夢が明かされるシーンでは、その壮大さと美しさに心を打たれ、不覚にも涙があふれるのをおさえられませんでした。

ネットなどで書評を見てみると、あまり良い評価が見られないのが残念です。
確かに、犯人の動機や結末やなんかはどうもそこだけ妙に人間くさいというか、俗っぽいというか、身勝手で許せないという感情を持つのもわかる気はします。
でもそれを差し引いても余りある感動がこの作品にはある……はずです。
少なくとも私は、そう感じました。