まんだの読書日記

小説の感想メイン。た~まにビーズやペパクラも。
放置しっぱなしで申し訳ありませんでした。ただいま再開準備中です。

「ダブ(エ)ストン街道」浅暮三文

2005-08-14 13:50:40 | 和書
◆『ダブ(エ)ストン街道』 朝暮三文 / 講談社文庫

▽あらすじ

誰も行き着くことができないと言われ、その呼び名さえ定かではない未開の地、ダブ(エ)ストン。
行方不明の恋人から届いた葉書を頼りにその島をさがしていたケンは、旅の途中で船が難破し、気が付くと偶然その島にたどり着いていた。

濃い霧によって足元の道さえ見えないようなこの土地で、迷いつづける住人たち。
森で出会ったアップルと名乗る郵便配達人とともに、ケンは恋人を見つけ出し島から脱出しようと歩きつづける。

▽コメント

気がついたら不思議な島に…というあらすじで 『オーデュボンの祈り』伊坂幸太郎 に似ているのかなぁと思ったら、この『ダブ(エ)ストン街道』はもっともっとフシギ系。

森をさ迷う蝶ネクタイの熊さん。
海を漂う幽霊船の、コミカルな乗組員(幽霊)コンビ。
故郷のアマゾンに焦がれる半魚人。
ドン・キホーテばりのからまわりっぷりを見せる暴走騎士。

などなど、迷い続けて苦しんで、もっと殺伐としていてもはずなのに、このダブ(エ)ストンの住人たちはどうにものほほんというかなんというか、おとぎ話的な雰囲気が漂っております。
とにかくおかしな住人たちが、出会って別れてニアミスなんかもして。
そんなバラバラな彼らが、主人公ケンに吸い寄せられるようにして、次々と彼に接触していきます。

ケンを中心に、これらいろんな住人たちの動向がパラレルに描かれているのですが、これがなかなか面白い。
フラットキャラクターというのでしょうか、キャラクターごとにお決まりの台詞や行動なんかがばっちり決まっていて、登場するとすぐに「あ、このキャラだな」と浮かんできて、とても楽しいです。
当然、そうした台詞や行動は繰り返し繰り返し現れるのだけれど、ちょっとしたヒネりが加えられたりしていて、決して単調ではありませんよ。

単調でないどころか、展開ははっきりいってめちゃくちゃ。
ツッコむべきか怒るべきか、野球盤の「消える魔球」なみの変化球が次々とおそってきます。
メフィスト賞受賞作ですが、ミステリというよりファンタジーですね。
この世界観を受け入れられるかが評価の分かれ目だと思いますが、私はけっこう楽しめました。
なにより、これだけやってそれでも最後にほろりと感動させてくれたりするのは、反則です。

クラシック音楽からとってきている章題はどうも作品の雰囲気と合わない感じがするのですが、章の扉ごとについているちょっとしたアイテムのイラスト&説明文は可愛いです♪

万人向け……とは言い難い作品ですが、不思議ワールドに浸ってみたい!という方はぜひ、手にとってみてはいかがでしょうか?

幸福の長靴(アンデルセン童話より)

2005-08-11 01:19:52 |   アンデルセン童話
せっかく夏休みに入ったというのに、全然本を読めない日々が続いております(>_<)
久しぶりの更新は、アンデルセン童話から。


◆"THE GOLOSHES OF FORTUNE" (英単語数 10,300)

▽ストーリー

Chapter.1 A Beginning

コペンハーゲンのとあるお屋敷で、晩餐会が開かれていた。
と、そこに紛れ込んだ妖精がふたり。Fortuneの名を持つ幸福の精の遣いである若い妖精と、Careという名の年老いた妖精である。

履いた人の望んだ時代や場所、状況に移動できるという「幸福の長靴」。
若い妖精は人々が幸せになるようにと、Careの止めるのも聞かずにこっそりその長靴をお屋敷の玄関においてきてしまう。

Chapter.2 What Happened to the Counsillor

晩餐会から帰ろうとした一人の議員が、自分のものと間違え、幸福の長靴をはいてお屋敷を後にした。
と、通りに出た瞬間、彼は長靴の力で300年も前の時代にタイムスリップしてしまう。
晩餐会で交わされたある議論で、彼はいかにその時代が素晴らしいか熱弁を振るったばかりだったのだ。

しかし、300年前の見知らぬ街に戸惑いながら、彼は整備のされていない街道や、無知で野蛮な人々に失望する。
そこで偶然靴が脱げたことにより元の時代に戻ってきた彼は、自らの生きる時代の素晴らしさに気付き、その夜の奇妙な体験は酔いの見せた夢であると思い込むのだった。

Chapter.3 The Watchman's Adventures

とり残された幸福の長靴を拾った夜警は、お屋敷に住む気ままな独身貴族の大尉になりたいと願った。
長靴の力で大尉の意識に入り込んだ彼だったが、大尉は目下恋の三角関係でお悩み中。すぐに考え直し、夜警は元に戻ってしまう。

次に夜警が願ったのは、月を間近で見ることだった。身体は地上に残して。
望みどおり月へ行き、月の住人と出会ってご満悦の彼だったが、地上の方は大騒ぎ。
意識のない彼の身体は死体と誤解され、病院に連れて行かれてしまったのだ。
しかし病院で長靴を脱がされたことで彼の意識は戻り、なんとか事なきを得る。

Chapter.4 A Great Moment. ―A Very Unusual Journey

幸福の長靴がとり残されたのは、高い塀と柵に囲まれていることで有名なコペンハーゲンの病院である。
偶然見つけた長靴をはき、頭さえ柵の隙間を抜けられたらなどと考えてしまった者がいたから大変。
頭だけを柵から外に突き出したまま、進むことも退くことも出来ずに身動きがとれなくなってしまった。

懲りない彼は、翌日観た劇に感化され、人の心を読めたらと願う。
人の心から心へとめまぐるしく彼の意識は移り、疲れ果てた彼の一日の終わりは風呂だという一言で、最後は風呂場にあらわれ人々を驚かせるのだった。

Chapter.5 The Transformation of the Copying Clerk

幸福の長靴が落し物として警察に届けられると、書記官が自分のものと間違えてはいていってしまった。
まじめ一辺倒だった彼は、自由気ままな詩人になることを望む。
自然を称える詩を詠みながら、詩人の心となった彼はヒバリになりたいと願った。

ヒバリに変身した書記官は少年に捕まって売られてしまい、鳥かごに閉じ込められてしまう。
なんとか鳥かごから逃げ出すも、猫に追われて命からがら窓に飛び込んだある部屋。
それは慣れ親しんだ自身のアパートだった。

Chapter.6 The Best that the Goloshes Brought

翌朝、書記官がまだ眠っている部屋に一人の若者が訪ねてきた。
前夜の雨で庭がぬかるんでいると言って、長靴を借りにきたのだった。

幸福の長靴の力でアルプスを旅した彼だったが、すっかり疲れ果て、体を持たずに心だけが自由に旅することができたら最高だと願う。
その願いは、肉体の永遠の眠りと魂の解放――死という形で叶えられたのだった。

自らの引き起こしたこの結果をみても、あっけらかんとした様子の若い妖精。
Careは長靴を若者の足から取り去ることで彼を救い、長靴とともに姿を消した。


▽コメント

これまででいちばん長いお話ですね。
構成もちょっと変わっていて、幸福の長靴が人から人の手に渡り、という6章からなる、社会や人間への皮肉が散りばめられた作品になっています。

私は、長靴の引き起こすドタバタ感を単純に楽しめる第5章がいちばん好きです。
自然に暮らすことを焦がれるカナリヤと、逆に自然に暮らす鳥たちは野蛮だと言い"Let us be men now!"と繰り返すオウム。
ヒバリとして売られていった先のお屋敷で出会った、この2羽の鳥との会話も、とても印象的でした。

時代や役職がよくわからないので、CounsillorやCopying Clerkといった単語の訳はおかしいかもしれません…。