感想日記

生活の感想を書き綴る場所。
日常の感想とか、本の感想とか。

「あなたのための物語」(著者:長谷敏司)

2009-09-13 18:38:18 | Weblog
 読了。面白かった。読み終えたとき、三度ほど流した涙で頬がべたついていました。えーい。気色悪いなぁ。気色悪い男だなぁ、俺。

 あらすじは・・・・・・
 『西暦2083年。研究者のサマンサは経験や感情を直接伝達する言語ITPを開発したが、ITP移植のための検査で余命半年だと判明。ITPテキストによる仮想人格「wanna be」は、彼女のための物語を語り始めるが…。 』(オンライン書店ビーケーワンの内容説明より)

 長谷敏司さんという作者は、私にとってはラノベ「円環少女シリーズ」の作者として馴染んでいる人です。逆にいうと、その作品しか今まで知らなかった(笑
 ただ円環少女という作品が中々に私と波長があっており、戦闘描写の中に挟まるお笑い要素や社会描写、そして人間ドラマが非常に好みであったため、今回この作者さんがSFで新作を出すと聞いて、どんな作品を書くのかと興味を持って購入した次第でした(普段私はSFを読みません)。

 そして読んだ感想としては……面白い! 正直、このあらすじからは、ここまで面白い作品になっているとは推測できなかった。

 面白さを分析してみると、コレは一人の人間……主人公サマンサの発症から死までを、余すことなく書き綴ろうと試みた点にあるでしょう。
 病から来る身体や精神の変化を、正面から描こうとした。人間が人間らしさを失い、そして人間らしさを得て、そこからまた動物的な死を迎えるまでを、シーソーのように主人公の揺らぎとして克明に描き出した。
 題名にある「あなたのための物語」。コレはあらすじではまるで「wanna be」がサマンサに宛てて書いた小説のことをさしているように錯覚させますが、作品を読んだ読者には容易にわかるように、フェイクです。作中で盛んに比喩される“物語”という言葉。それは出版物だけでなく、人とのコミュニケーション、自分自身とのコミュニケーション、そして取り巻く社会のみならず、過去と未来をも含めた知覚し想像しえる、未知を包括した全世界のことである。それを実感するために、主人公は全ての基準点足りえる零に向かって、死の道を歩む。その死に向かう主人公のありのままの心を見つめるのは、主人公の物語を読む我々読者と、研究室のITP人格「wanna be」である。「wanna be」の誕生から死までを見つめるのは、サマンサと読者だけである。そして「なりたい」という感情から端を発した物語は、何もかも捨て去った動物的な死へと還元されてしまう。最後に「wanna be」とサマンサの物語を知るものは読者だけになる。
 題名の副題は「A STORY FOR YOU」。物語は一つだけ。それは「wanna be」の物語をさしているのかも知れず、サマンサの物語かも知れず、サマンサがサマンサ自身へ宛てた“物語”かも知れず、サマンサを取り巻く全世界を指したものかも知れません。そして読者が読み終えた、この一冊の本なのかも。
 wanna beとサマンサ、二人の生と死。本の中で物語りは完結し、完結したが故に外へ語りかけてくる。いい作品だったと思います。

 ただまあ、欠点もあったと思います。一つは含めるものが多すぎたこと。「なりたい」とか「物語」とか肉体の既得権利とか、キーワードに込めた象徴が多すぎて、作品全体像がぼやけてしまっていると思う。何を最も強く描写したかったのか? それが不鮮明になっている。
 単に死の情景を描きたかっただけとは思えません。そして死が全てのゴールなのだとしても、そこにまさに「全て」を抱え込まれてしまっては、答えが無いのも同じ。読者としては混乱してしまう。カフカ的な万華鏡的メタ作品を目指したのだとすると、逆に不満が出てしまうしなぁ。
 正直、そういった点ですっごく感想が書きにくい作品です。色々と考えさせられて心動かされる情景はあるんだけど、それらは本当にこの本の主題にあっているのか、「紹介」として扱っていいものなのか悩む作りになってしまっています。実際読み終えた現在では、感傷を味わっただけで、内容は理解できていないんじゃないかと不安を抱えています(笑
 でもその確かな感傷という点では、感動の涙を流したという点で良作に間違いないでしょう。
 ちなみに泣いた三箇所は、一つがサマンサが故郷に帰ってきてからの母親との対面シーン。そして両親からのビデオレター。そして最後が、サマンサとwanna beの最後の会話後の、4章。お約束、スタンダードなものに弱いなぁ、私。

 個人的にオススメの本です。この作者さんの内世界や、死生観を扱った物語に興味がある方は是非ご一読を。

 あ、それと。
 SFに疎い私には判断つかなかったけれど、有名SF作品へのパロディというか御遊びもおそらく要所要所に含まれているんではないかと思います。ちなみに私にはハインライン(だっけ?)の夏への扉しかわからなかった。
 それとこの作者さん、読者をも含めて「物書き」という職業に対して結構自虐的なのかな~なんてのも思いました(作者は同時に読者)。でも同時に物書きの力も信じているんでしょう。
 作者と主人公の年齢が同年齢に設定されているので、多分そこら辺も自覚的に書いているんだろうな~、なんて楽しみ方もしながら読んでました。
 ではでわ。

 
 あ、最後にもう一つ追記。というか補足かも?
 上記の「シンボルを詰め込みすぎて全体像がぼやけてる」という感想は、実はちょっと冗談的に「平板化してる」と書こうかと思ったりしてました。ITPテキストを紙面で再現しようとしたんじゃないかとか……
 別に読み難い文体などではなかったです。むしろ読みやすかった。ただし、冗談っていう事はちょっと本気も入っているということです。
 そういった、優先順位が付けられていないような印象は確かに受けました。それが狙ってのものなのか(平板化ではなく、万華鏡的カフカ的作品を狙ってのことなのか)、それとも単に失敗している点なのか、判断つかなかったんですけどね。
 個人的にはちょっと失敗していると思いますけど。

8 コメント

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Unknown (makkamaka)
2009-09-23 13:01:37
 コメント欄ですんません。当ブログ管理人まかです。
 現在モデムが678エラーを起こしていて、関連知識に乏しいせいもあって回線復旧の目処が立ちません。
 もしこの日記を読んでくださる方々がおられるのであれば、申し訳ありませんがしばらく日記の更新は行われないということで御了承ください。
 なお、読んだ本に関しては、メモ代わりにこのコメント欄で簡単に書いていこうと思っとります(現在仕事場から書き込み中)。
 ということで、早速。

 「這いよれ、ニャル子さん」40点。
 設定、台詞、全てがパロディ。二時創作じみたパロディオリジナリティや創作性のない作品が楽しめるなら、かなり笑えるかもしれない。ただし、ネタは全てかなり古い。独自のギャグは全て寒かった。
 「這いよれ、ニャル子さん2」50点。
 前作よりは少しマシな程度。パロディ的なネタが好きな人は、逆にパワーダウンに感じるかも。
 以上。
Unknown (makkamaka)
2009-10-20 19:53:07
「ペンギン・サマー」55点
 中盤のクビナシ物語だっけ? あれは本来物語りとして伏線を張るべきことのはず。いただけない。それが象徴的にあらわしている様に、全体として伏線にばかり気を使いすぎて、小説的表現に気が向いていなかったように思う。構成力ってーのは、伏線などロジックな面だけを言うのではなく、それが如何に表現力の一部となり魅力を感じさせるのか、という面も含んでいると思うのですよ。

「ヴァンパイアノイズム」65点
 惜しい。思わず長文感想を書きたくなるくらい。互いの気持ちを確認し合う詩歌と主人公の会話などは素晴らしかった。ただ惜しいと思ったのは、ラスト50ページ。発作発症から取り合えずの落ち着きまで、50ページで語るのは性急過ぎる。この流れに持っていったこと自体は非常に評価したいが、それだけに扱いはもっと慎重にすべきだった。後天的な理由があるとはいえ無気力のどん底にいた主人公が、死に囚われ、さらにそこから生へ目覚める、その流れに説得力をもたせているとは言い難い。少なくとももう50ページくらいは必要だったと思う。ちょろちょろとしか書かれていない他者との繋がりを大切に見つめ直す心。それをその50ページを使ってもっと丁寧に描写すべきだった。そうすれば名作にも成り得たかもしれない。ああ長文で感想書きて~っ!
 あと、何気に主人公は狙った女性を全て落としてるね(笑
Unknown (makkamaka)
2009-10-24 16:34:28
「ぷりるん。」70点
先日読んだ「ヴァンパイアノイズム」と同じ作者の本。作者に興味がわいたので読んでみました。
この作者の構成力や表現力にはかなり欠点があると思うんだけど、その欠点を補って余りあるほど魅力がある本でした。なんか「ライトノベル」というジャンルの利用方法に、また幅が出来たように思う。
なぜならこの本の内容をラノベ以外のジャンルで行おうとすると、とんでもなく重くするしかなくなるのです。場合によってはサイコホラーやグチャドロ愛憎劇、あるいは官能恋愛小説のようになってしまう。
しかしラノベという軽い設定の上にこの題材を乗せると、ちょうどよい感じに、こなれる。落としどころの不自然さ・ご都合主義感に上手く煙幕が晴れるのです。だって読者はそもそもラノベとは「キャラクタはおかしな言動をして当然」と考えているんですから。
ファンタジーの世界を描写しつつ、現実の味付けを加える。現実と空想の配分具合を間違えると凡百のラノベと変わらなくなるんだろうけど、この2冊は上手いさじ加減ではないかと思いました。
特に今巻で肉体関係に価値観をおいている二人の女性に対する主人公のカウンターが、イ○○○○○とは、切実だけどちょっと笑った。なかなか説得力があったと思います。そういう事例がないか、思わず検索かけたくなった。上手いさじ加減なんですよ、ええ、ええ。
読者層も中高生が多いことを考えると、題材的にもいいんじゃないかと思う。ただし知人には勧められないし、商業的にも伸び悩むと思うけど(笑)。少なくとも主人公や男性キャラクタたちはもう少し魅力的に表現するよう努力したほうがいい。特に台詞は、男性キャラ全員がうじうじした喋り方しかしなくて気持ち悪い。ヴァンパイアノイズムを読んだときには、そのような表現をわざと用いているのかと思っていたけれど、多分この作者はまだそういった書き方しか出来ないんだろうな、と感じてしまった。
それとこの作品は、おそらくヴァンパイアと二巻セットで読んだほうが読んだほうが面白いと思う。ある意味で対になっている。この作者さんは、書くことによって思考を進めていくタイプの書き手なのかもしれない(ぷりるん。の作品中で出てくるある主人公の自殺願望が、そのままヴァンパイアノイズムを書くきっかけになったのではないかと思える部分があった。同じキャラクタが出てくるし)
まあ何にせよ個人的に面白い本でした。書き手の実力としてはまだまだ発展途上だと思うけれど(ヴァンパイアではちょっと表現力が上がってたかな?)、今後に期待したい作者さんです。まる。
ああ、長文で感想書きたいなぁ、もう。
Unknown (makkamaka)
2009-11-16 20:38:46
「とある魔術の禁書目録17」30点
酷い出来。このシリーズはもともと小説としては酷い出来なのだが、その中でも最低ランク。商業作品として「シリーズ物だからぎりぎりで許してやろうか」ってな感じ。
Unknown (makkamaka)
2009-12-05 13:17:45
「まさかの結末」50点
 関西で一番売れてるショートショートという触れ込みで、近くの本屋に山積みされていたので読んでみた。……退屈な内容だった。
 確かにきらりと光る要素や部分はある。しかし構成や内容はまさに「入門書」的なオーソドックスのものしかなく、小説をある程度読みなれている読者にとっては容易に想像できるものでしかない。展開や帰結こそがショートショートの肝要な部分なのに、そこがまったく面白くないんだもんなぁ……(一つ二つは面白いものがあったが)。読書に展開や帰結を想像させて、その上でその想像を上回る、それが良質のショートショートだと思うのです。残念。


 それはそうと、先日の重力ピエロの感想。コメントを投稿する場所を間違えまてました。あはは。
 いっそのことラノベ系とそれ以外の本の感想コメントの位置分けをしようかとも思ったけど、面倒なのでやめ。
 まあぼちぼち行こう。
Unknown (Unknown)
2010-03-12 18:45:25
すっかり御無沙汰ですが、管理者makkamakaです。
いろいろ本を読んでいるんですが、ここに書き込みそびれていました。とりあえずラノベの円環少女の「新世界の門」と戦う司書の最終巻を読んだことだけはここに書いておこう。
感想はごめんなさい。今の状況では書き込めません。最近仕事がめちゃくちゃ忙しかったのです。
でも少し余裕が出てきたぞ。心にも余裕が。そろそろ自宅にネット環境が欲しくなってきたかな~?
ではでは。
円環12巻読んだ (makkamaka)
2010-09-27 19:19:03
 いろいろ言いたいことがあるのだけれど、とりあえず次巻で完結という事実には・・・・・・残念だ! めっさ残念だ! このシリーズが終わったら何を楽しみにして生きていけばいいんだ・・・しくしく。
 感想を書きたいのだけど(世界を憎めるようになって生き生きしはじめた仁とか、舞花が仁にとって「神」だと指摘されてたこととか、まあ主に仁に関して。それと、ケイツが仁の到達できなかったヒーローであることとかもね)、仕事の合間にそこまでは書けないので、予想だけを。
 次巻で、メイゼルが螺旋の化身で再演の神を撃破。地球世界は地獄に戻る(複数神が存在していたから円環と違い時間凍結は起きないかな? それとも起きて、仁たちは時間凍結から免れ、九位が円環世界の時間凍結から逃れていた理由が判明するかな?)。それによって協会と神音大系から抹殺されそうになるが(それぞれ地獄復活と再演神消滅のため)、再演大系の排除を重要視していたアリーセたち連合に保護されて、身の置き所は確保される、といったところでしょうか。問題はその後の仁・メイゼル・きずなの三角関係と、舞花の処遇かな。舞花を殺すことは、仁には絶対に出来ません。普通の物語ならば仁に舞花を殺させて「主人公の成長」を演出できるんだろうけど、今までの流れは主人公が「ヒーロー」であろうとすることを肯定しようとしてるから、絶対に出来ない。と、思う。
 また、世界が凍結したら、凍結が解けるまでの間に仁が円環世界に行って、「真なる悪鬼を連れてメイゼルが帰還する」という形にすることも出来るんだろうけど、公館組織や公館関係者との人間関係を清算させるには、凍結させてしまったら難しそう。このあたり、「予言」を無視するのか、それともこだわるかで構成が変わってきそう。きずなに関しても、再演の神を殺せば魔術師でなくなるのか、それとも今までどおり威力は弱まっても魔法は使えるのか、その場合は「未来からの再演」をどう扱うのか、とか分かりません。物語り当初から使われていた「最後の魔術師」のキーワードは最後まで意味を持ちそう。メイゼルときずなの魔術師的今後は、そのまま三角関係の今後に影響してくるので、三角関係の結果になるとますますわからない。まあ、そのまま三角を続けるという結果もありだろうけど。
 物語的にまだまだ明らかにされていない点は数多く残っていて、それらを解決しようとすると再演の神を螺旋の化身でぶっ殺すのは確実だと思うんだけど、それ以外は結局なにも確定していないような気がする(極星を追う者の周囲の謎が一番分からん)。最終巻が非常に待ち遠しく、そして最後を迎えてしまうのがとっても悲しいですよ。ではでわ。
ブラックロックシューターのブルーレイ (まか)
2010-12-17 22:54:07
を買った。見た。面白かった。その後ネットで評価を知ったが、何で評価が低いのかわからんかった。
最近みたアニメの中では一番いい出来だったと思う。というのは、ブラックロックシューターが何なのか全く知らずに見た私の評価であるけど。
魔法少女なのは劇場版よりずっとよかった(一応、私はなのはのファンである。念のため)。
携帯からの書き込みなので詳しくは感想書けないけれど、2100円の価値は十分にある。はじめの戦闘シーンを目にした時は、ハズレだと思ってしまったけど。
メニューでチャプター選択出来たらよかったのになあ


ちなみに本当はハルヒの消失を買いに行ったついでの衝動買いだったのよん。ハルヒはまだ見てなかったり(笑