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ペンネーム牧村蘇芳のブログ

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蟲毒の饗宴 第18話(3)

2025-04-11 19:47:27 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 イヴがケイトの家を訪れていた頃、エルは王城の会議室にいた。
 そこにはエレナ女王、室長、預言者フィアナ、ケイトの父ヴェスター、
 そしてニードルの長レオンと副官ルクターという顔ぶれ。
 ようやく出張班が帰還したのね。
 随分と待たせてくれたこと。
 待ちかねたのはエルだけではない。
 エレナ女王もそのうちの一人。
 少々不機嫌そうな女王の表情を横目に、ラングリッツ室長が声を発する。
「ではルクター殿、ご報告を。」

「はい。
 昔、魔人計画を立てた男は、城下町の西区に隠れ家を得ていただけでなく、
 マーキュリー領地にも居を構えていた事が分かりました。
 その男の日記が伯爵邸で保管されておりましたので、
 メイド長より『宜しくお願い致します。』と言われ受け取ってきました。
 まずはこの日記を読ませていただきます。

 東方資料館の資料を基に毒の選定を進めていたが、行き詰ってしまった。
 まだ俺の知らない蜘蛛がいるのだろうか。

 遠方から来た冒険者の話で、
 有名な迷宮の最奥には悪魔蜘蛛がいるという事を知らされる。
 それだ、間違いない。
 しかし、この辺の迷宮で悪魔蜘蛛が出現したなどという話は聞かない。
 城下町から東に行ったところにある廃墟レイ=スは、
 上級冒険者でも全滅する恐れのある魔のエリア。
 俺ら教団の者たちだけでどうにか出来る話ではない。
 どうすれば・・・。

 決めた、悪魔召喚だ。
 禁忌だろうが、構うもんか。
 しかし、さすがに城下町で行えば魔力の流れで異変に気付かれてしまう。
 ここでは無理だ。
 どこか、この国の者どもから目の届かない遠方でやる必要がある。
 ・・・そうだ、マーキュリー伯爵領にしよう。
 確か、領地内に過疎した村があったはずだ。

 いよいよ、悪魔召喚を行う。
 現れた、アーク・デーモンだ。
 しかし悪魔蜘蛛の毒を所望すると、
 毒1リットルに対し10歳未満の子供1人を対価に差し出せと要求された。
 対価というわけか、まぁ当然だな。
 近くにあった孤児院でいいだろう。
 孤児院の子供らを誘拐し、アーク・デーモンに差し出す。
 結果、子供10人の命と引き換えに
 毒10リットル手に入れる事に成功した。

 アーク・デーモンとはこれで終わりだと思っていたが・・・
 この野郎、また対価を要求しやがった。
 魔法陣の仕組みが甘かったのか?

『毒を与えた事への対価はしかと受け取った。
 では次に、毒を使用した時の対価を宣告する。
 1リットル使用につき10人の命を貰う。
 今度は特に子供でなくても構わんが、なるべく若い者の命を貰う。
 貢が来なければ、貴様に近い者どもの命を貰う。
 それも望めなくなった時は、この領地の領主の身体を貰う。』

 日記はここで途切れています。
 ここまで分かれば後は容易に想像出来ますが、
 メイド長より現状をお聞きしてきました。

 今のマーキュリー伯爵は、
 アーク・デーモンに身体を乗っ取られています。
 ですが精神はまだ抵抗しているらしく、
 自らを地下室に閉じ込めるようにしました。」

「それが引き籠ったと言われていた実態・・・。」

「はい。
 しかしその時、アーク・デーモンの意志が一時的に勝り、
 正妻を巻き込みます。
 神聖魔法を使えた正妻は自らも閉じ込められるのを覚悟で、
 地下室に結界を張ろうと呪文を詠唱。
 アーク・デーモンの意志で動かされた伯爵の右腕で正妻は殺されましたが、
 結界は無事に張られました。
 残された側室は、最後に領主の命を受けていたそうです。
 結界がいつまで持つか、私自身がいつまで耐えられるか分からない。
 魔人を生み出し、魔人にアーク・デーモンを討伐させろと。」

「それが、今行っている魔人計画の真相・・・。」

「アーク・デーモンを倒す為には
 魔人を生み出さねばならないと伯爵は考えていました。
 しかし毒を使えば、幼い誰かの命が奪われる可能性があります。
 そこで側室・・・今の夫人は、今の孤児院の子供たちを誘拐し、
 奴隷商を開業。
 子供たちを売りさばいて四方八方バラバラに居住地を散らせ、
 アーク・デーモンの目から外れる様に計画を立てたのです。
 ところがアーク・デーモンがそれに気付いて思念体で出現し、
 夫人の身体に蜘蛛人間の呪いをかけました。
 今の夫人は半人半妖のアラクネにされたのです。
 その場に押しかけてやってきたのが、
 子供たちを誘拐された孤児院の僧侶ライガ。
 彼も全容を知る事になりますが、アーク・デーモンの思念体に
 行動制限の呪いをかけられてしまいます。
 魔人計画を阻止する様に動け、と。
 夫人は、全てを知ってしまったライガを目の届く所に置く為、
 用心棒として雇う事にしたようです。」

 ここまで聞くと、エレナ女王は深く息をついた後、吐き捨てる様に言う。
「・・・随分と舐められたものだな。」
「は?」
「我ら王国の者ではアーク・デーモンなど倒せないと判断したという事か、
 そこの領主は。」
 ルクターは、会議室の室温が少し冷えた気がした。
 氷のような闘気が女王から溢れている。
 冷や汗も凍りそうな雰囲気の中、ニードルの長レオンが補足した。
「おそらくですが、領主は自分の領地の掃除は
 自らの手で行うと覚悟を決めたのではないでしょうか。」
「それで犠牲者が増えていたら話になりません。
 あと話に出てきませんけど、レグザとリディアの方は?」

「レグザは元々領主の右腕的な存在だったようです。
 口調は悪いですが仕事は完璧にこなすタイプ。
 ただ魔法使いだったせいか、尋常じゃない魔力を有している
 アーク・デーモン相手ではなす術が無かったようで、
 ライガが呪いをかけられた時も黙って見ているしかなかったとか。
 今は側室だった夫人に協力し、魔人を生み出そうとしているようです。
 夫人も多少の犠牲は覚悟しているようで、
 レグザのやり方には口出ししていないと。
 リディアについては、はっきりとは分かっていません。
 おそらく自分が魔人になれば強大な力を手に入れられると思い込んでいる
 輩に過ぎないと思われます。
 推察ですが、今リディアはレグザに協力していて、
 機を見て魔人になる為のネタを全て奪い取ろうとしているのではないか
 と思われます。」

「病院に入院したアメリという少女については?」

「領主が他の女との間で生まれた女児というのはどうやら嘘のようですが、
 真相はまだ分かっていません。
 ただ病院側に彼女について問いましたところ、
 とんでもない返答がきました。
 少女アメリに親はいない。
 禁忌のホムンクルスだと。
 でなければ、体内の魔力がゼロだという説明がつかないそうです。
 そして魔力ゼロの者は、
 容易に他の魔力を飲み込み我が物に出来るであろうと。」
「ということは、少女アメリが
 魔人になるべく作られたホムンクルスであり器であるという事ね。
 ホムンクルスを生み出す事は禁忌。
 だからひた隠す為に他の女との間でつくった女児などと嘘をついていた、
 か。」

 全て暴かれた事件の全容。
 想像以上の展開に誰もが息をのむ内容であるが、
 少なくともこの会議室にいるメンバーの中に取り乱す者は
 誰一人としていない。
 むしろエレナ女王は笑みすら見せていた。

「貴族エリアにあるマーキュリー別宅の方は?
 事情聴取は済んだのか?」
「・・・いえ、王国側の動きを察知してか、既にもぬけの殻でした。
 メイド一人すらいません。」
「そういえば、今の夫人はアラクネになったと言っていましたね。
 仕方ありません、おそらくは彼女の能力によるものでしょう。
 但し、逃がしてしまったお咎めは無しで良いが、必ずや見つけ出せ!」
「御意。」
「マーキュリー邸に伝達を出せ!
 アーク・デーモンは我ら王国が倒すとな!!」
「は!」
「ヴェスターはライガを探し出し、魔人計画阻止に助力!
 魔人になる為のタネが、少女アメリ以外にもう一つ何かあるはずだ。
 見つけ次第、国に差し出すよう請求しろ!!
 従わなければ力ずくで奪い取れ!!」
「はい。」
「ニードルは冒険者カイルとケイトに加担せよ!
 夫人とリディアを見つけ出し拘束!!」
「御意。」
「星界の陣はマルコシアスを使ってレグザを取り押さえろ!」
「御意。」

 エレナ女王はこれだけ言うと、スッと立ち上がった。
「これ以上、一人も犠牲者を出すな!
 以上、解散!!」

 その場にいる全員が女王に頭を下げている中、
 エレナ女王は会議室を後にした。

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