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ペンネーム牧村蘇芳のブログ

小説やゲームプレイ記録などを投稿します。

蟲毒の饗宴 第30話(3)完

2025-05-24 08:31:30 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 シャディは準備運動とか言って
 インプ(小悪魔)バンバン倒してたっけ。
「インプの羽根集めていたみたいだったけど、
 特におかしいところは無いわよね?」
「あれね、国からの依頼だったのよ。」
「あのリヤカーいっぱいに積んだ大量の羽根が?」

 ここからエルは念話を使いだす。
 大衆には聞かれたくない話を淡々と話す為に。

『ケイトとドールのおかげで、
 失われた蟲毒バーグラウトの残回収に成功したわ。
 元々今回の一件で国の本質的な狙いはそこだったのよ。
 奴隷商アラクネの対策、魔人の対策、
 悪魔群の対策を公に見せつける事で、
 国は見事に蟲毒の存在を隠しきってみせた。
 なんとしても手に入れる為にね。』
『それとインプの羽根に何の関係が?』
『悪魔すら一瞬で絶命させる究極の猛毒“デスサイズ”。
 それを精製する為よ。』
 !
 ケイトは思わず地声が出そうになるのを必死で抑え
『あれって、使用禁止薬物の中でも最悪のヤツじゃないの!
 女王は何考えてそんなモノ・・・!
 まさか・・・。』
『・・・気付いた?』
『武器商人エギルを暗殺する為・・・?』
『正確には、人間に化けた悪魔を暗殺する為、ね。
 人界に来て人化してる悪魔が
 まさかエギル一人だけって訳ないでしょ。
 西の帝国や真っ黒山羊が悪魔と
 どんだけ契約してるか知らないけど、
 それなりの数はいると思う。』
『・・・まさか、うちの母さんに精製させるの?』
『もう世の中から消えたって言われている蟲毒が原料なのよ。
 存在がそっちにバレているとはいえ、
 表向きに出来る仕事じゃないのは分かり切ってるでしょ。』
『王城内で誰か錬金術師いるの?
 あたしは聞いたこと無いんだけど。』
『ケイトね、王城で何人の人間が働いていると思ってんのよ。
 全員のツラ把握してるわけじゃないでしょ。』
 ・・・美少女顔でツラって言うのがエルよねー。
 なんでこんなに口悪いかなー。
 ここでようやくエルのおかわりご飯がやってきて、
 お食事再開。
 でも念話は食べながら継続する。
 側から見れば、食事に没頭して黙食している
 美少女としか見えない。
『・・・でもさ、うちに母さんみたいな錬金術師がいると、
 それなりに名の知れた人の名前は耳に入ってくるのよ。
 それでもこの城下町に母さんと叔母さん以外の錬金術師が
 いるとはとても思えない。
 まして“デスサイズ”なんて、母さんぐらいの実力がなきゃ
 精製なんて無理でしょ。』
『・・・相変わらず鋭いのね。
 でもこれは機密情報よ。
 対価があれば話してもいいけど。』
『対価?』
『タラのフリッター2枚追加で手を打つわ。』
 タラの切り身2枚程度の機密情報なのかしら。
 人形娘の感覚って、やっぱどこかズレてるわ。

「すいませーん!
 タラのフリッター6枚追加!!」
「そんなに食べないわよ。」
「あたしとイヴも分も込みで頼んだの、一人2枚ずつ。
 イヴも食べるでしょ?」
「も、もちろん頂くわ。」
 店の店員は、この小さい身体のどこに入るのかしら
 と言いたげな目つきで6枚置いていった。
 ケイトは、うん、その気持ちよく分かるわ
 と言いたげに無言で頷く。
 するとエルがフォークでフリッターを
 ブッ刺しながら念話を再開。

『いつか出会う機会があるかもしれないから教えておく。
 王宮護衛団王城区域班、通称“御庭番”の序列9位、
 デスサイズのレイっていう女性が錬金術師よ。
 普段は“死神の斧”を振るう女戦士。
 だから“デスサイズ”なんて二つ名が付いているけど、
 その裏の顔はラフィンローズ家の生き残り。』
『・・・母さんの家に次ぐ錬金術の家系・・・!
 あの家は途絶したんじゃ・・・!』
『西の対戦で両親と兄が亡くなったって話は聞いているわ。
 レイは家で錬金術を習得していたけれど、
 西の帝国にその事を知られるのを恐れて戦士で通している。
 この国が帝国に対立する事を知って、
 王宮護衛団の入団試験を受けたそうよ。』
『・・・そういう理由なら普通は騎士団じゃないの?』
『騎士団の入団試験なんて、
 何かのコネがなかったら門前払いされるでしょ。
 護衛団ならそんなの無いから。』
『なるほど。
 死神の斧なんてユニーク・ウェポンを敢えて装備して
 二つ名にしているあたり、帝国への当てつけとも感じるわね。
 フィルより序列1つ上だけど、実際の実力はどうなの?』
『・・・正直な話、序列5位から10位の実力はダンゴ状態よ。
 フィルのズバ抜けた実力に目が行きがちだけど、
 実際は誰もかれも一騎当千の猛者揃い。
 正直な話、レイが戦士以外に錬金術の実力も加えて戦闘しても、
 序列はそれほど変化しないわ。
 序列1位から4位までの4人は、
 正真正銘の化け物しかいないから。
 心配するだけ損よ。』
『ニードルで序列1位のエルにそこまで言わせるなら、
 実力は申し分ないか。
 ・・・情報ありがと。』

 イヴは二人の念話に参加出来ていたが、
 黙ってただモクモクと食べていた。
 ・・・この国って、どんだけ化け物がいるのよ。
 ケイトはそんな猛者揃いでも、少々驚く程度である。
 どんだけ化け物がいようが、エレナ女王一人に
 絶対敵わないと分かっているからだ。
 蟲毒に踊らされた今回の一件ですら、
 女王にとっては掌の上の出来事に過ぎない。

 日常の平凡な光景がいかに幸せなものか、
 フリッターを食べながら肌身に感じているケイトであった。
 出来るなら、この手の国がらみの依頼は二度と受けたくないわ。
 そう感じているが、世の中そんなに甘くない。

 究極の猛毒デスサイズ。
 人化した悪魔エギルという武器商人の存在。
 その背後に影を見せる西の帝国とブラックシープ。

 これらの存在が、今後の物語に大きく関わっていく事になる。
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蟲毒の饗宴 第30話(2)

2025-05-23 20:45:12 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 王国承認暗殺ギルド“ニードル”の副官ルクターが
 マーキュリー伯爵領地に着いた時は、辺り一面焼け野原。
 生というものの存在を許さぬような重々しい空気と、
 草木と肉が焼け焦げた異臭がした。
 それでもこの優男は少しも動じる事なく伯爵邸へと足を運ぶ。
 邸内で死んでいる者たち全員を生き返らせる為に。

「女王様も随分と甘くなったものねえ。」
 ケイトは事の顛末をイヴから聞いていた。
 城下町南部にある巨大な貿易センターの近く、
 定食屋ラヴィで夕食をとりながらの会話である。
 イヴの隣ではエルが無言でフライ定食Sをお食事中。
 なんでも期間限定のスペシャルメニューだとか言ってたけど、
 どこでそんな情報仕入れていたのかしら。
 四六時中仕事で動き回っているのに。
 イヴはエルを横目で見ながら話を続ける。
「結局のところ、城下町北門から王国国境の北端まで
 街らしい街がそれほど無いでしょ。
 魔獣や妖獣の類にウロつかれて治安が悪化しても困るから、
 マーキュリー領地を放置する事は国の損失にしかならない。
 かといってマーキュリー伯爵以外に領地を任せられる者もいない
 となればね。」
「生き返らせたマーキュリー伯爵や捕らえた夫人に街の復興を託すのが
 一番って事か。
 実質無罪みたいな感じ?」
「子供たちから嘆願書が山のように来てたって話だし。
 詳細聞かされた時はあたしもエルも何も言えなくなって
 黙り込んじゃったわ。
 まあ悪魔が散らかしていった後の復興だから
 簡単ではないと思うけどね。
 街は一面焼け野原にされていたみたい。」
「元々住んでいた人たちは全滅・・・?」
「伯爵の使用人たちが必死で北端の街に避難させたんだって。
 だからあの街での死者は、邸内の関係者のみ。
 夫人を含めて全員生き返ったそうよ。
 ケイトのお母さんが薬用意してくれたんでしょ?」
「あーうん、国から仕事もらってたみたいだったから、それの事かも。
 そういえば、こっちで捕らえられた夫人は側室だったんだっけ。」
「ええ、夫人から後を託されて夫人と呼ばれる事にしたみたい。
 側室のままじゃ貴族としての力が発揮されないから、
 夫人と呼ばれる事を受け入れたんだと思う。」
「なるほどねー。」

 話が落ち着いたかと思うと、
 無言で食べていたエルがピタリとナイフとフォークをおいた。
「ケイト、フランソワなんだけど、
 お姉様に会わせる顔が無いって落ち込んでたわ。」
「は?」
「あとで慰めに行きなさいよ。」
「は??」
 何がどうしてそうなった???
「何かあったの?」
「自己中リッチのレグザのアストラルボディーを
 フランソワの使い魔が食いはぐったそうよ。
 倒された時をトリガーにして
 リィンカーネーション(転生魔法)を発動させていたみたい。」
 ・・・マジで?
「ん?
 でも転生魔法って事は、もうこの時代には現れないって事?」
「戦闘中に発動させた魔法なら、時空系の移動は無理でしょ。
 どこかその辺で生まれ変わってんじゃないの。」
「しぶとくて面倒な奴ねー・・・。
 フランソワに言っといて。
 あんな骨の存在なんて、気にするだけ損だって。」
「・・・直接言いに行かないの?」
「ベッドに引きずり込まれそうになるからヤメとくわ。」
 真顔で語るケイトにイヴは吹き出していたがエルは無表情。
 いつもの事なので気にしていないのだろう。
 しかし別件を思い出したので、
 ご飯のお代わりを店員に叫んだ後で口を開く。
「そういえば、シャディの事で何か聞いた?」
「え、悪魔討伐に参加して素材収集していたくらいしか
 聞いていなかったけど?」

「なら、ついでに教えておいてあげるわ。」
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蟲毒の饗宴 第30話(1)

2025-05-22 20:48:07 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 冒険者が寺院を頼る理由に、
 治療、解毒、麻痺・石化の解除、精神の鎮静、
 そして死亡からの復活がある。
 但し、老化した、または体力の無い者は生命力が極端に低い為、
 復活は出来ない。
 また、防腐処理を施していない死体も復活は不可だ。
 だが、何故か灰からの復活は可能。
 魂さえ現存すれば、灰から肉体が再構成されて復活するという。

 そんな理由から、アークデーモンの肉体を
 マーキュリー伯爵の身体に戻すべく一度灰化されていた。
 灰を浄化すると悪魔の魔素は完全に消滅、
 後は復活の呪文を唱えるのみであったが・・・。
 そのまえに

 ガツガツガツと勢いよく丼飯をかきこむ。
 屈辱的だと語っていたデストロイヤー・・・
 もとい聖女サリナは、体力不足だ、血が足りない、
 などと言いながら出前で注文したかつ丼の大盛を
 食べまくっていたのである。
 この後の予定ですがと語ろうとする司祭たちを
「腹が減っては何も出来ないでしょ、朝食まだだったんだから。
 食べ終わってから聞くわ。」
 とバッサリ言い放って口止め。
 清楚な雰囲気など欠片も無い聖女は、
 工事現場の昼休みのおっさんの昼食タイムといった感じの
 雰囲気全開で食事に没頭中であった。
 最後にお茶をグイッと飲み干すと、
 フーッと一息ついてようやく立ち上がる。
「予定はマーキュリー伯爵の復活でしょ。
 行くわよ。」
 ようやく祭壇に向けて歩き出した中、
 共に右後ろを歩く司祭から嫌な一言が。
「バージュ大聖堂から視察団が来るという通知が
 書面で来ております。
 書面を発行した日付を考慮しますと
 今回の悪魔の件とは無縁かと思われるのですが、
 タイミングが良すぎるのが気になりまして。
 出来れば本日の午後に打ち合わせを行えればと。」
「・・・分かったわ、
 午後イチで会議出来るように幹部に声掛けして。」
「分かりました。」
 総本山直轄の三大聖堂院の一つ、バージュ大聖堂。
 南西の隣国マハラティーニに居を構えているから、
 近日中に来訪される話になるでしょうね。
 ついでだから今回の悪魔の件について報告してしまえば、
 私が出向く必要は無くなるから楽でいいのだけれど・・・。
 確かにタイミングが良すぎるわ。
 大聖堂のクソ爺ども、何を嗅ぎつけたのかしら。

 考え事をしながら祭壇の部屋に来ると、
 寝台に灰を入れた壺と魂を入れた壺が置かれていた。
 これらの壺の保存期間は短い。
 もって数日から一週間程度と言われ、
 復活の費用が前払いされないまま期日が過ぎれば、
 行先は共同墓地となる。
 寺院はボランティアではない。
 対価に見合った癒しを提供する場なのだ。
 従って、灰からの復活となると
 かなり高額な費用を請求されるのだが、
 サリナは羊皮紙に金額を書いて捺印した。
「この請求書を王城の“皇王の陣”へ渡すように。」
「はい。」
 今回は特例で後払いのようである。
 相手が国だから許せる状況なのだろう。
 寝台の四隅に蠟燭が灯り、復活の魔法が詠唱された。
 灰から身体が再構成されていき、
 2つの壺が音を立てて割れていく。
 そして、マーキュリー伯爵はうっすらと目を開け、
 息を吹き返していた。
 全裸で復活する為、予め用意していたローブを着せる。
 身体が思うように動かせない。
 話したいけど声が上手く出せない。
「灰化からの復活は身体機能の回復に数時間要します。
 とりあえずそのまま寝ていて下さい。」
 サリナと司祭たちが祭壇の間から立ち去る。
 マーキュリー伯爵は何も考えられぬまま、
 静かに目を閉じて眠りについた。
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蟲毒の饗宴 第29話(3)

2025-05-21 20:07:17 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 捕らえられたマーキュリー伯爵夫人とリディアに対する判決は、
 情状酌量の余地ありとしたものであった。

 リディアは、スラムの子供たちの中でも
 餓死しそうな衰弱した子供ばかりをさらっていた。
 孤児院は元々貧しいところが多く、
 餓死寸前の子供の命を助けるほどの栄養を即座に得るのはほぼ不可能。
 それを見透かした上で、自分が悪人になる事も承知の上で、
 奴隷商を頼ったという。
 一人でも多くの命を助ける為に。
 強い力を求めたのは、弱い子供たちを守りたかったから。
 昔の自分を見ているようで、
 居ても立っても居られない気持ちに駆られたらしい。
 レグザの実験台にされても構わないと思うほど、
 力を渇望していたようであった。
 
 夫人は領地の孤児たちが悪魔に狙われている事を知った後、
 できるだけ遠くに、バラバラにと、伝手を頼って
 子供の欲しい貴族に声を掛けた。
 だがこの剣と魔法の世界は血筋を重視しており、
 養子といった言葉は存在せず、他人の子供を
 家族として迎え入れる事は禁忌とまで言われている国もある。
 この血も涙もない現実に抗うかのように、
 夫人は奴隷商を開いたのだ。
 奴隷とはいえ、酷い仕打ちをするような
 極悪貴族になぞ託したくない。
 小間使いでも家政婦でもいい。
 仕事と食事と寝床を与え、生きる価値を
 子供たちに見出してくれそうな貴族たちにのみ声掛けしていた。
 願わくば、愛情も・・・。

 その結果、貴族たちの元に行った孤児たちから、
 夫人とリディアを死刑にしないでほしいという
 嘆願書が山のようにきたのである。

 本件の報告書を読み終えると、エレナ女王は
 グシャグシャに丸めてゴミ箱に捨てたい気持ちを抑えながら
 深くため息をついた。
「子供をさらって奴隷商に引き渡すリディアという女がいる。
 その裏付けをして、その通りだと分かって、
 暗殺対象にした結果がこれでは情けないわ。
 情報管理している“幻惑の陣”と“闇夜の陣”には是正・・・
 いえ改善命令すべきね。」
 女王のコーヒーカップが空なのに気付き、
 室長がコポコポと2杯目を注ぐ。
「真実は事実の奥底にある、という事でしょうか。
 これを知ったニードルのエルとイヴは沈黙してしまったようで。
 それを考えますと彼らに是正と令するのは精神的に酷でしょうから、
 改善という言葉は確かに妥当かと。」
「2人には悪い事をしたわね。
 特別手当でも出した方がいいかしら。」
「そうですな、それでしたら城下町限定で使えるお食事券が宜しいかと。」
 は?
 何急にボケたこと言ってんのよ、この室長は。
「お食事券?
 1割お得に使える地産地消推進委員会で出してるあれ?
 さすがに馬鹿にされるでしょ?」
「エルですが、かなりのグルメだという噂です。
 確かお食事券でないと食べられない裏メニューが
 今週末から始まりますよね?
 普段忙しくてお食事券を買う余裕も無いそうですから、
 喜んで受け取ると思いますよ。」
 冗談じゃなくてガチで言ってるのね。
 それにしても
「・・・エルって、本当に人形なの?
 言葉遣い荒いけど一番人間らしいわよね?」
「人形ですよ。
 ハイエルフなどの亜人種でもないのに
 200年生きているんですから。」
 見た目15歳の女の子だから、
 なかなか信じられないのよね。
 ケイトの家にいるドールもそうだっていうけど、
 どの辺が人工的に作られたのか全く分からないし。
 うーん、人形娘にお食事券ってどうなの?って思うけど、
 まあ本人が喜ぶならそれでもいいのかしら。
「・・・お食事券ね、分かったわ。
 特別手当に見合う額で渡してあげて。」
「かしこまりました。」
 エルとイヴはそれでいいとして、あとは夫人とリディアの刑。
 夫人の人身売買罪とリディアの誘拐罪という事実は揺らがない。
 嘆願書で死刑は回避出来るとしても、
 刑を無くすというのは実質無理がある。
 ま、今回も強制労働の刑が妥当ね。
 “あれ”をやるには人員が圧倒的に足りない状態だし。

 夫人とリディアは、女王の策略に利用される事が
 確定済みのようであった。
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蟲毒の饗宴 第29話(2)

2025-05-20 21:00:33 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 DNA、遺伝子組み換え、クローン等の技術を
 神の領域と語る者がいるように、
 解魔術と封魔術も
 魔法の世界においては神の領域と言われている。
 魔法の成り立ちから発動に至るまでの全工程を解析し、
 新たな技術として確立させた魔術だ。
 禁断の魔術とも言える技術を世に認めさせた目的は
 “邪悪なるもの”の完全抹殺。
 魔法を無効化し、強大な攻撃魔法を使役する
 悪魔、妖魔、邪神、邪龍どもをこの世から消し去る為の、
 必要不可欠な魔術と言われていた。
 しかし悪魔とて馬鹿ばかりではない。
 人間に化け、人間界のみに伝わる知識を学び、
 より凶悪な存在へと成る悪魔もいる・・・。

 昔から黒い羊や山羊は悪魔崇拝の象徴として
 最もポピュラーな存在。
 闇組織ブラックシープの紋章は
 “この世界に魔法が確立していなかった頃からの”
 非常に古い時代のものであった。
 今では西の帝国の組織の一部と言われているが、
 それも本当の事なのかは分からない。
 巨大な組織故に一枚岩ではないのだが、
 利害の一致でとりあえず共に行動しているだけとも噂されている。
 そもそも、その組織を肌で感じ目にする者はごく少数。
 存在自体が不明瞭で雲を掴むような話であった・・・。

 まさか、そんな彼らが国内に存在しようとは。

 城下町南門から南に数キロ行ったところにある森の中の屋敷。
 そこに彼ら2人の気配があった。
 紺のスーツ姿の男性と、黒いドレスを着た女性。
 距離をとってお互い古めかしい椅子に座り、
 コーヒー片手に話し合っている。
 仲間という雰囲気ではなさそうだ。
「オリジナルの2本が行方不明のままですから、
 見本の無い状況で簡単に成功とはいきません。
 しかしながら、聖女サリナと白銀の騎士ヴェスターの2人を
 一撃で倒すくらいの真空刃を発動させる事は出来ました。」
 自信あり気な男の声。
 それでも返ってきた女の声は手厳しい。
「・・・それでもフィルには簡単に封じられ、
 挙句折られたのでしょう?
 現役引退間近のロートル2人を一撃で倒せたからといって、
 鼻を高くしないでもらいたいわね。」
「王国の御庭番を倒せば信用してもらえると?」
「・・・そうね、御庭番の序列10位以内の者か、
 手出し厳禁の5人のどちらかなら少し信用してもいいわよ。」
「倒しても少しですか。」
「悪魔相手に全面的に信用する人間がいると思って?
 私は貴方と契約しているわけじゃない。
 利害一致の元に協力しているだけよ。」
 かなりしたたかな女性のようだ。
 ブラックシープの幹部の1人らしい。
「この関係が終われば、私を殺しますか?」
「今のところ殺す理由は無いわ。
 悪魔だから必ず殺すという事はあり得ない。
 それはどの国にも言える事よ
 もちろんあの王国にも・・・ね。
 殺すか殺さないかの天秤は、
 人に害をなすかなさないかで決まっているだけ。
 邪なるものの存在を滅せよ。
 太古の昔から掲げられてきた教義は、
 我らブラックシープの中にもあるわ。
 ・・・せいぜい邪な存在ではない事を証明してみせなさい。」
「さて、それは人間側の受け取り次第ですから、なんとも。
 私はあくまで、ただの武器商人ですので。」
「ただの武器商人が、闇組織と手を組むの?」
 すると男はニコリと笑みを見せる。
「商人ですから、お客様と接しているだけですよ。」
「喰えない男ね。」

 西の帝国に付いている闇組織の者が、
 王国を滅ぼす為に悪魔と手を組んでいる。
 非常に分かりやすい図式がここにあった。
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