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ペンネーム牧村蘇芳のブログ

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蟲毒の饗宴 第28話(2)

2025-05-15 20:16:16 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 レグザが爆炎系の魔法を詠唱する中、
 対峙していたフランソワが素手の状態で至近距離に近付く。
「沈黙の魔法だけが対抗手段でない事を教えて差し上げますわ。」
 すると、フランソワは近付いただけなのに、
 レグザの詠唱していた魔法の魔力が消え失せていった。
 レグザが歯ぎしりする。
 マジックドレイン(魔力吸引)か!
 この女、詠唱してもいないのにどうやって発動させた!?
 驚きのまま、レグザは早くも討たれる事になる。
 フランソワの袖口から金色の蛇が姿を現す。
 蛇の身体が全て出たところで尾の辺りを握り、鞭のように扱う。
 使い魔を手にした、生きた鞭。
 蛇の牙がレグザの身体を切り裂く度、レグザの身体が薄くなる。
 この蛇、まさか・・・!
「私の使い魔コアトルは、アストラルボディーすら喰らいます。
 塵も残しませんわよ。」
「ち、ちくしょおおお!」
 我儘なレグザの哀れな叫びが、最後の断末魔となり消え失せていった。

 暗黒騎士は黒いフルプレートメイルの重装備。
 必然、動きは遅くなる。
 これで大きな楯を構えていれば立派なタンカー(囮役)だが、
 こちらはクレイモアのような大型の剣を手にしていた。
 間合いでは槍の方が上手だが、完全防備の鎧を相手にどう戦うのだろう。
 何度突こうが硬い装甲で弾かれ、その度に大剣の一振りがライガを襲った。
 辛うじて躱すも擦り傷が増えていき、徐々に出血が目立ち始める。
 明らかに圧倒的不利に見えたライガであったが、
 暗黒騎士の容態が突如急変した。
 バキッと音がしたかと思うと、鎧の継ぎ目が次々に割れていき、
 重装備の鎧が剝がれていく。
「ようやく効きよったか。
 我の技も使えるという事かな。」
 穂先を震わせ振動を相手の防具に送り込む破壊技。
 これが身体に伝わると身体がもたない筈だが、
 フルフェイスの鉄仮面が割れた時、その正体が明かされる。
「骸骨の騎士、スケルトンウォリアーか。
 輪廻に従い、成仏せい!」
 鋭い最後のひと突きは、骸骨の身体を粉々に打ち砕いていた。

 サリナ大司教とアークデーモンの一騎打ち。
 サリナの圧倒的なパワーに屈するかと思いきや、それは外れていた。
 アークデーモンから間合いを詰め、
 上から振り下ろすようなローキックを放つ。
 サリナの倍の身長はある悪魔からの直接攻撃は、重く鋭い。
 それが数回続いたかと思うと右拳のストレートパンチを
 ジャブのごとく連撃。
 本当に右腕1本の動きなのかと思わせる技に、
 サリナがたまらず後退した。
 このアークデーモン、どこで仕入れた知識なのか知らないけど、
 空手かキックボクシングの技を熟知しているわね。
 アークデーモンは後退したサリナを見て軽く挑発する。
「聖女であるそなたは柔術が得意だと聞くが、
 我にその技が簡単に使えるとは思わぬ事だ。」
 聖女であるこの私の身体に打撃を与え、
 尚且つ聖属性の気に触れても意に介さない上級悪魔がいるなんて。
「フ、フフ、これは神に感謝すべきかしらね。」
「なにぃ?」
 すると徐々に青白い闘気が湯気のように上がっていくのが
 肉眼で見えてくる。
 そして、ドゥッとアークデーモンの左脚に、
 サリナの鋭いローキック。
 先ほど攻撃を喰らっていた脚とは思えぬ強い打撃に、
 アークデーモンの膝が折れそうになった。
「馬鹿な!?きさまぁ!!」
 続けて放つストレートパンチをアークデーモンは両腕でブロック。
 しかし腕は腫れ、打撃のダメージをまともに受けていた。
 アークデーモンと同じ攻撃技で、格の違いを見せつける。
「私は柔術しか使えないと言った事は一度もありません。
 勝手な勘違いは困りますので、徹底して教えてあげましょう。」
 ブロックされても構わずにジャブを放ち続け、
 両腕のガードが緩くなったところに鳩尾を打つ。
 よろめき倒れそうなところを左拳で顎をアッパー。
 アークデーモンの身体を無理矢理起こして直立させる。
 そしてまた右拳のジャブ、右脚のローキックと、
 単調だが細身で小柄な女性とは思えない重い連撃に、
 アークデーモンの身体はボロボロだ。
 フィルに敗れた鬼女が凝視する。
 この娘といい、あの聖女といい、何なんだこの国の人間どもは。
「・・・凄まじいな
 ・・・まさか、早くもこれを使う事になるとは・・・。」
 アークデーモンは腰に帯剣していた長剣を鞘から抜いた。
 サリナの拳を弾き、右手で剣を構える。
「聖女の聖属性防壁を無効化させる長剣だ。
 私の纏っている服とセットの武具でな。」
 言いながら片手持ちを両手持ちに変え、ゆるりと構えた。
 サリナの連撃が止まったからか、
 アークデーモンの身体が徐々に回復していく。
 自己再生能力が高い。
 それを遠目で見ていたヴェスターが、訝し気な表情をする。
「あの剣は・・・まさか・・・。」
 フランベルジュのような大剣を大きく振りかぶり、
 サリナに向けて振りぬいた。
 見え見えな動きの剣戟など容易く躱せる。
 その躱せたという思い込みが、意外な展開を招く。
 ザン!と空を斬ったかのような勢いと共にサリナが血を流し、
 地に伏した。
 ・・・完璧に躱したはずなのに何故・・・!?
「終わりだ。」
 もう一度大きく振りぬこうとすると、
 突如割って入ったヴェスターの剣に弾かれ、
 アークデーモンが数歩引き下がる。
「フ、まさか堕天使の剣を弾き返す者がいようとはな。」
「その魔剣・・・どこで手に入れました?」
 ヴェスターの声に、いつもの陽気な声色は欠片として感じなかった。

 ヴェスターは問いながら間合いを詰めようとするが、
 アークデーモンの脚捌きも素早く、ある一定の距離を保ったままだ。
 おそらくはこの間合いがあの魔剣の最大距離。
「まさかこの魔剣を知っている者が人間界にいようとはな。
 これは魔界で作られた魔界に2本しか存在しない魔剣。
 貴様こそ、何故この魔剣の存在を知っている!?」
 アークデーモンが急に間合いを詰め、鋭く振りぬく。
 するとまたも一撃でヴェスターの鎧が裂け、血飛沫が舞い倒れた。
「父さん!?」
 そして短距離転移魔法を使い、
 シャディ、キャサリン、エル、イヴと次々に倒していく。
 それを見ていたケイトがカタカタと震えだした。
 堕天使の剣・・・何故あの悪魔が手にしているの!?
 フランソワはレグザと、ライガは暗黒騎士と対戦していて手が離せない。
 皆が倒れていってるっていうのに・・・!

 すると、今までの光景を全て見ていたにも関わらず、
 特に恐怖心も感じていないかのような三つ編みの美少女は、
 スタスタとアークデーモンに歩み寄っていった。
「フィル!」
「ケイトさん、いつものサポートお願いします。」
 ・・・フィルは、あれを見てもやる気なんだ。
 波のようにうねった形状の刃をしている魔剣の攻撃は、
 あの刃先から繰り出されるかまいたちにある。
 あの剣を封じるには父さんのアンチマジックしかないが、
 それを使わせる間もなく父さんを倒したあの悪魔の動きは侮れない。
 いつものサポートで足りるのか・・・
 とにかく今はフィルを信じるしかないわね。
「分かった。」
 そのケイトの声を合図にしたのか、
 フィルが縮地で一気にアークデーモンの傍に移動した。
 フィルの手にしているドラゴン・トゥースは短刀。
 長剣と比べて極端に短い為、
 間合いを詰めねば攻撃が届かないのは分かるが、
 無謀ではないのか。
 そう感じたのは束の間だった。
 懐深くもぐりこんだフィルは、間合いを詰めたまま連撃を繰り出す。
 アークデーモンは長剣の根本で受けるのが精一杯だ。
 先ほどのような大きく振りぬく余裕が無い。
 しかしアークデーモンはニヤリとしていた。
 所詮は人間。
 この機敏な動きがいつまでも続くわけがない。
 攻撃を受け続け、力尽きた時がチャンス。
「その動き、いつまでもつのかなぁ?」
 するとフィルはニコリと笑みを見せ
「その台詞、そのままお返ししますね。」
 と言った。
 言った直後、アークデーモンの手にしていた堕天使の剣が
 根本から折れ、地に刺さった。
「な、なにいぃぃぃぃ!?」
 そして素早く薙いだフィルの短刀は、
 剣を手にしていた両腕を斬り落とす。
「ギャアアアアア!
 な、何故だああああ!
 何故俺の剣が折れるうううう!」
 鬼女や、遠巻きに見ていた暗黒騎士、
 そしてレグザも呆然としていた。
 あれだけ優勢だったのに、何が起きたのだ!?
 しかし、これを見ていたケイトはため息一つ。
「やっぱ、悪魔って馬鹿だわ。
 あたしが解魔術師だって事、分かってたはずよね?」
 ケイトのサポート。
 これに全く気付かなかったのがアークデーモンの敗因。
 悪魔はガクリと膝をついた。
「・・・なにを、した?
 我の防具は、他の魔力を入り込ませない。
 貴様のハッキングすら無効化するはずだ。」
 この馬鹿悪魔、言わなきゃわかんないの?
「今もその力を防具から感じ取れる?」
 ケイトに言われ、ようやく気付いた。
 魔剣からも、防具からも、魔力を何一つ感じない。
 アークデーモンが愕然とした様子でケイトを見る。
「魔力を込める前の、初期状態にしたのよ。
 解魔術の1つでフォーマットというの。
 少しは勉強になったかしら?」
 ・・・・・。
 沈黙するアークデーモン。
 魔の理を根底から覆す解魔術と封魔術は、
 上級悪魔の武具すら容易く打ち破る。
 でもこれが出来たのは、
 長時間アークデーモンに攻撃し続けてくれたフィルのおかげ。
 フォーマットの欠点は時間がある程度かかる事だ。
 これがばれて術者が攻撃されると、
 フォーマットは簡単に中断されてしまう。
 やっぱりフィルは凄いわ。
 そのフィルが降ろした最後の一振りは、
 アークデーモンの首を斬り落としていた。
 それを見ていた暗黒騎士とレグザは、
 皆の視線がアークデーモンにいってたのをいいことに逃走。
「あーっ!逃げられますわー!」
 フランソワの声に、ケイトが放っておけと言いたげに手をブンブン振る。
「・・・宜しいんですの、お姉様?」
「アークデーモンの手下2人なんてどうでもいいわよ。
 それより倒れている皆を救助するわ。
 ギルを呼んできてもらえる?」
「はい、お姉様。」

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