goo blog サービス終了のお知らせ 

ペンネーム牧村蘇芳のブログ

小説やゲームプレイ記録などを投稿します。

蟲毒の饗宴 第21話(2)

2025-04-22 20:36:51 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 この剣と魔法の世界において、冒険者とはどの様な位置付けなのか。
 単に冒険者と聞くと、どこか格好良く感じられる事もあるかもしれない。
 だが現実は甘くなく、英雄譚など御伽噺のようなもの。
 仕事の多くは、国が抱えきれない仕事をこなしてもらう為の
 穴埋め役に過ぎなかった。
 だが仕事さえこなせれば、それに見合った報酬が得られるのも確か。
 更には身分証明出来るタグを発行してもらえるので、
 寒村から来た者たちには大変喜ばしい事である。
 だからなのだろうが・・・。
 冒険者は、時にかなり無茶をする。
 それこそケイトたち一般国民には、およそ考えつかない無茶をする。
 まず有りえないこと。
 それがケイトたちの思考を止まらせていた。

 翻って言うなら、冒険者カイルたちならでは思い付く事があるという事。
 だからカイルたちは迷わずレグザを探している。
 ただ、まさか足止め役に夫人自ら来るとは・・・!
 アルケニー(女郎蜘蛛)に変化した夫人は強すぎた。
 魔法攻撃は繭状にした蜘蛛の糸で弾き、
 素早い動きで剣戟や弓矢を躱しながら、手にした短剣で攻撃を繰り出す。
 前衛のカイルとゴッセンは、辛うじて盾で凌いでいた。
「畜生、攻撃する隙がねえ!」
「まさか、ここまで強いとはな。」
 正直、この夫人は殺したくない。
 事情が事情だけに、女王も死刑にまではしないはずだ。
 そんな思いを察知してか、夫人がフンと鼻で笑う。
「お主ら、覚悟が足らんのではないのかえ?
 そんな事では妾を倒す事など不可能じゃ。」
 そう言われても、カイルたちは戦闘態勢を崩さない。
「俺たちは貴女たちも救いたい。
 貴女たちも、この件の被害者だ。
 まだ間に合うと信じている。」
 夫人が歯ぎしりした。
「綺麗事は妾に勝ってから言うがよい!」
 夫人の糸が無数に襲い掛かる。
 まずい。
「皆、俺とゴッセンの背後につけ!
 鋼糸だ、切り刻まれるぞ!!」
「笑止!
 その程度の鉄の盾で何が出来る!!
 死ねぇ!!!」
 カイルとゴッセンの盾が、豆腐のように切られ崩れ落ちた。
 ここまでか・・・!

 しかし次の瞬間
「ギャアアアアア!!!」
 夫人が自らの鋼糸で斬られ、床に崩れ落ちていった。
 カイルたちが呆気にとられる。
「な、何が、あった?」
 その直後、カイルの胸元に添えられていた青い花の花びらが散り、
 床に舞い落ちていく。
「・・・森の女神の力だと・・・。」
 物理攻撃を反射する花など聞いた事がない。
 カイルたちは改めてフランソワの実力の一端に畏怖していた。
 夫人の変化が解け、人の姿へと変わっていく。
 ラナがハッとして夫人の様子を確認した。
「死んではいないけど虫の息ね。
 傷口が深いわ、ポーションや初級の回復魔法だけでは持たないかも。」
 すると夫人の手がラナの腕を掴んだ。
「妾の事はよい・・・。
 領主様も奥方殿も逝かれた中、妾だけが残るなど・・・。
 これを持って行け・・・。」
 夫人は1つの鍵を差し出した。
「この鍵は?」
「残った孤児たちを入れた部屋の鍵よ。
 ・・・リディアの事はもうよい、持っていき、孤児たちに未来を示せ。
 あとは託したぞ・・・。
 レグザ・には・・気を付けよ・・・。
 あ・・・・・や・・・・・・つ・・・・・・・は・・・。」
 夫人は、最後まで語る事なく意識を失った。
 ラナは、まだ辛うじて息がある事を確認すると、回復魔法をかける。
「カイル、どうにか息は安定したわ。」
 カイルは悩んでいた。
 レグザを止めるなら今しかない。
 しかし夫人を助けるなら、今すぐ地上に戻って
 寺院か病院に行かねばならない。
 すると突然背後から巨漢が姿を現す。
「お主らは夫人を救え。
 レグザの元には拙僧が行く。」
 まるで夫人が倒れるのを待っていたかのように現れたライガに
 カイルは戸惑いを感じたが、これ以上悩んではいられなかった。
「・・・分かった、頼む。」
「うむ、この身にかけられた呪いのままに、
 必ずや魔人の創造を食い止めてみせようぞ。」
「呪い?」
「アークデーモンにかけられた呪いよ。
 魔人創造を強制的に阻止する為のな。
 悔しいが、奴が魔人を恐れているのは確からしい。
 ・・・拙僧は、魔人を倒し、アークデーモンをも倒す!
 それが、子供たちへの唯一無二の供養となろう。」
「地下迷宮に隠すようにあった墓石は、子供たちの?」
「そうだ、運良く魂を食われずに済んだ子供らのな。
 魂にとって位牌は依り代にすぎんが墓石は違う。
 あれを悪魔の目の届かぬ所に置かねば、魂を食われてしまう。
 拙僧の仕事は、アークデーモンを倒した後、
 あの墓石を日の当たる墓地に戻す事。
 輪廻を妨げる悪魔の存在など、断じて許すわけにはいかぬ・・・!」
「分かった、レグザはライガに任せる。
 ・・・死ぬなよ。」
 そう言われ、ライガはフッと軽く笑った。
「冒険者の台詞とは似るものよな。
 鉄仮面にも同じ事を言われたわ。」
「あいつにも?
 ・・・そうか、鉄仮面に協力者がいるとは感じていたが、
 ライガだったのか。」
 カイルにそう言われると、ライガは軽く右手を挙げて走り去っていった。

「お姉様、私の花が・・・!」
「やっぱり魔人になる本命が別にいるんだわ。
 急ぐわよ!」
 ケイト、ドール、フランソワ、フィルの4人が走る。
 花が散った以上、間に合わない可能性が高い。
 それでもとにかく急ぐしかなかった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 蟲毒の饗宴 第21話(1) | トップ | 蟲毒の饗宴 第21話(3) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。

小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完」カテゴリの最新記事