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ペンネーム牧村蘇芳のブログ

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蟲毒の饗宴 第22話(1)

2025-04-24 21:05:36 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 素材採取とは冒険者にとって基本の基。
 植物から魔物に至るまで何でもOK。
 特に魔物は解体の手間が発生するが良い値で買い取ってくれるので、
 皆目の色が変わる。
 最も高価な素材は龍と悪魔。
 武器や防具の素材に最適で、製造業は常に品薄状態なのはいつものこと。
 という事は、悪魔の軍勢が来ると聞いて喜ぶ者がいるのも当然だった。
「フ、フフ、明日の朝には高級素材がご到着とはね。」
 冒険者ギルドのマスターであるシャディは愉悦に満ちた表情。
 狩れば狩るほどギルドの資金が潤沢になるこのチャンスを
 逃すわけにいかないわ。
 国はもちろん、実力のある一般国民も出張ってくるはず。
 冒険者ギルドも負けてはいられないわね。
 悪魔の軍勢と言われたら臆するのが普通のはずだが、
 この国の城下町は常識がどこかおもいっきりズレているようだった。
 本気で恐れているのは王城区域で身を震わせている
 貴族くらいなものだろう。
 悪魔にとっては非常に舐められた現実であるが、悪魔は基本、強い。
 少なくとも銅等級以下の冒険者に太刀打ち出来る相手ではない。
 ましてその上の鋼級でも下級の悪魔を相手にするのがやっとなのが実情だ。
 そうなると冒険者では銀等級以上が出るという事になる。
 しかし今冒険者ギルドですぐに動ける銀等級の冒険者はいなかった。
 皆、商隊の護衛などで出払っていたのである。
 では、どうするか。
 そんな事、決まりきっていた。
 ドウッ。
 シャディの拳が部屋にあったサンドバッグを殴る。
 逆手の左拳であるにも関わらず、サンドバッグがくの字に曲がった。
 近くにいた秘書が思わず息をのむ。
「久しぶりに良い運動が出来そうね。」
 ギルドマスターをしているが、本人は現役の金等級冒険者でもあった。
 戦闘狂がまた一人、悪魔狩りに名乗りをあげる。

 とある地下室。
 コー、コー、と荒かった息を整えようとしている呼吸音が聞こえる。
 その部屋にゆっくりと入ってきた巨漢に、レグザがニヤリとした。
「来たか、魔人は出来上がったぜ。」
「馬鹿なことをしたものだ。」
「どっちが?」
「どっちもだ。
 貴様も、リディアもな。」

 魔人と化したのはリディアだった。

 魔力の無い者が魔人になれる条件だったはず。
 いったいどうやったのだ・・・?
 巨漢ライガの睨みつけるような目線にレグザが片手をあげる。
「どうやったかってか?
 リディアの魔力を吸い取ったんだよ、気絶するまでな。」
 そう言って瓶に入った蛭を見せた。
「ドレイン・スラッグか。」
「その通りだ。
 普通の蛭は血を吸うだけだが、こいつは魔力のみを吸い取る亜種。」
「魔法の使えないリディアの魔力をゼロに出来る手段がそれだったわけか。
 それは迂闊だったな。」
 ライガは言いながら2mの錫杖を構える。
「おい、まさかやる気か?
 よせよせ、俺はお前を敵に回したくねえ。
 あのアークデーモンを殺せる唯一無二の存在だぞ?
 ・・・いや、唯一無二は“言い過ぎ”か。
 リディア、行って実力を示してきな!」
 ドン!と大きな衝撃音がし、白煙が上がる。
「ぬう!?
 逃げるか!!」
「逃げるんじゃねえ。
 預けたものを返してもらいに行くんだよ。」
「な・・・に・・・?」
「アークデーモンも、
 まさか魔人が2人いるとは思いもよらねえだろうなあ。」
「まさか、貴様!!」
「じゃあな。」

 白煙が収まると、レグザとリディアの姿は消え失せていた。

 まずい、奴の最初の狙いはアメリか!
 まさか生み出した魔人を利用してアメリを奪還する計画だったとは!!
 このままだと、最初に遭遇するのは鉄仮面のジンだ。
 あいつには荷が重すぎる。
「急がねば。」
 するとその声に答えるように
「どこに?」
 と声がした。
 ケイト、ドール、フランソワ、フィルの4人が姿を見せる。
 ふーん、冒険者のカイルが言ってた巨漢の僧侶ってこの男のことね。
「初めまして、冒険者のジンから依頼を受けた魔術探偵のケイトです。」
「拙僧はライガ、魔術探偵の話はジンから聞いている。
 さっそくで悪いが、ソルドバージュ寺院まで転移出来るかね?」
「え、出来るけど・・・どういう事?」
 ライガは現状をケイトに伝えた。
 もちろん、どうやってリディアを魔人にしたのかも。
 ケイトが思わず天を仰ぐ。
「気絶するまで魔力を吸い取るって、非常識にもほどがあるわ。
 下手すれば気絶だけじゃ済まなくなるからね。
 リディアの意識は残ってるの?」
「それは分からぬ。
 レグザの声には応えていたようだったが。」
「そう・・・とりあえず事情は分かったわ。
 行くわよ。」
 ケイトが転移の魔法を詠唱する。
 しかし、魔法は途中で打ち消された。
「え、なんで!?」
 ドールが周囲を見渡す。
「ケイト様、この周辺は魔法を無効化する結界が張られているようです。」
 走るしかないのかと思っていると、
 フランソワがにこりと笑みを見せてケイトの腕を抱き寄せた。
 鳥肌になりそうな感覚を必死で抑え込む。
「心配無用ですわ、お姉さま。
 私に任せて下さい。」
「え、ええ・・・。」
 そしてフランソワがケイトから離れると、
 複雑な印を両手で作り無詠唱で召喚魔法を作り出す。
 花魔術だ。
「ポートジェリル召喚。」
 大きな6枚の葉を持つ植物が地中より出現。
 時と場所に干渉する植物として有名で、
 転移に関係するアイテムを制作する素材にもなるという。
 だがこの花そのものに転移の能力がある事など誰も知らない。
 また仮に知っていても行使出来ない。
 この花で転移出来るのは、花魔術を使える者のみ。
 ケイトにとっては少々不本意なのだが、
 とりあえずフランソワの実力の一端に感謝である。
 ああ、また1つ貸しが出来ちゃうわ。
「ソルドバージュ寺院までお願い。」

 大きな葉の1枚1枚が1人1人を包み込む。
 そして葉が再び開かれると、ここにいた全員が消え失せていた。

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