いくつかの集まりに参加して独学ではあるけどお経の種類や簡単なお作法などを勉強していたらあっという間に京都は桜の季節になっていた。
緊急事態宣言中の昨年とは違い、京都にも観光客がちらほらと戻り始めていた。
そんな中、お寺から春の集まりがあるとハガキが来たので返信用ハガキの『参加』に丸をつけてポストに投函した。
帰りしなに自宅のポストを覗くと『中央仏教学院』の茶色の封筒が入っていた。
「ついにきたか……」
と封筒を手にして開封すると例の入学申込みのハガキが同封されていた。
ハガキの『所属元の住職の署名』の欄以外を記載して封筒に入れ直した。
(果たしてご住職は快く記載してくれるだろうか……)
そんなことを考えていたらあっという間に月日は過ぎて当日になった。
お念仏と他の寺から招かれた住職さんからの法話が終わり、春の集まりはいつもと同じように粛々に終わった。
他の門徒さんが帰り支度や世間話をしている中、僕は住職に声をかけた。
「あの……住職、少しだけよろしいでしょうか」
「あ、はい。なんでしょうか」
「折り入ってお願いがこざいまして本日はお伺いしました」
僕の緊張がわかったのか住職も真剣な顔つきになった。
「実は前々から考えていたのですが、この先住職と同じ道を歩きたいと思い、中央仏教学院に願書を送りました」
「え?あの中仏ですか?」
「はい、あの中仏です」
「それはそれは」
「はい、前から考えたいたのですが物には順序があると思い、お寺の催し物に何度か参加してからお話をしたかったのですが願書の締切が先にあったので送ってしましました。申し訳ございません」
「いえいえ。で、ご相談って?」
「はい、入学するには所属しているお寺のご住職からこのハガキに署名を頂くことになっておりまして、お願いしてもよろしいでしょうか」
(駄目って言われたらどうしよう……帰ろ)
「あ、はいはい。いいですよ」
(はっやっ!返事軽っ!)
そう言うと住職は後ろにいた奥様からペンを借りるとさらさらさらっと必要事項に記載して、最後に捺印をしてくれた。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「どうしました?」
「いえ、断られたらどうしようかと思ってました」
「え?ははは、断らないですよ。それに私も何年か前にそのハガキ出したことありますから」
「へ?そうなんですか」
「はい、私も同じ中仏生です」
「はー先輩だったんですね」
「はい」
聞くと住職も僕がこれから辿ろうとしている道とほぼおなじ道を辿ってお坊さんになったそうだ。住職はお寺の身内だったので卒業してそのままお寺に入ったがそうではない僕は一体どうなるのだろうか。
そんなことを考えていたら本堂には僕達二人だけになっていたので僕も帰り支度をはじめた。
「ありがとうございました。早速投函します」
「はい、頑張って下さいね」
「はい。お坊さんになるのって大変でした?」
「いやぁ〜なんとかなりますよ。大丈夫!!」
「ありがとうございます。では失礼いたします」
「はい、ようこそのお参りでした」
ほっとしてお寺の門をくぐったらすっかり日が暮れていた。
(大丈夫っていってたけど、絶対に大丈夫じゃないよな……あれは。)
僕はまた不安になってしまった。
本当にお坊さんになれるのだろうか……。
おわり
次回は「西本願寺に法話を聴きにいってみた」を書く予定です。
引き続きよろしくお願いします。
南無阿弥陀仏
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