041:カステラ(今泉洋子）

愉しみは福砂屋五三カステラをさだまさし聴きて食（たう）ぶる時ぞ

040:誇(今泉洋子）

誇るべき歌ひとつだに無く言の葉の海を彷徨ふ魚かわれは

039:銃（今泉洋子）

さながらに武雄の歴史語るごと図書館にあるスペンサー銃

038:イエス（今泉洋子）

イエスさへすでに年下ジェラートの葡萄じわじわ喉（のみど）をくだる

037:恨（今泉洋子）

恨悔の過去を憶へばぱつくりと人の顔して裂けたる柘榴

036:少（今泉洋子）

少しづつ孤独に落ちる秋の夜は笑羅漢おもひて眠る

035:後悔（今泉洋子）

後悔をする余地もなく赤き糸手繰り手繰りて寄り添ふ二人

034:勢（今泉洋子）

みづからを励ますために詠む歌は勢ひのある言葉を選ぶ

033:夏（今泉洋子）

夏至のひかり花に流れて合歓の木にしんと鎮もるわたしの孤独

032:猛（今泉洋子）

脳味噌の滾る猛暑に過ぎりゆく秋老虎といふ言の葉ひとつ