それでは事例Ⅳについて振り返りたいと思います。
ここはボリュームが多いので何回かに分けて記述します。
問題をお持ちでない方は下記よりダウンロードできます。
http://www.nipponmanpower.co.jp/add/train/cyuushou/answer2004-02/data_files/cyu_2nd_q4_041012.pdf
《事例Ⅳ》
第1問(40点)
(設問1)
工場移転計画で特に重要と思われる問題点3つ
(a)問題点を最も的確に示す経営指標(b)経営指標値(c)問題点の内容
【再現解答】
①(a)売上高対売上原価率 (b)76.83%
(c)工場移転計画において、過大な設備投資を行ったため減価償却費が増加し経費膨張した。その結果、収益性が悪化した点が問題である。
②(a)固定資産回転率 (b)2.12回
(c)工場移転計画における設備や土地の取得額の伸び率は、売上高の伸び率を上回る。その結果、資本効率の低下を招いた点が問題である。
③(a)売上高対純金利負担率 (b)2.78%
(c)工場移転に伴う資金調達源泉を短期と長期の借入金で賄った。その結果、金利負担が増加し、収益性が悪化した点が問題である。
【今思う解答】
①(a)売上高総利益率 (b)23.17%
(c)納入先からの価格値下げ圧力が強く、新型製品と比べ粗利益率が低い従来型製品を主力とした投資計画であり、収益性が低下している。
②(a)棚卸資産回転率 (b)4.43回
(c)従来型製品の製品ラインナップの多品種化に対応するため、棚卸資産を倍増させた投資計画となっており、資本効率が低下している。
③(a)自己資本比率 (b)25.55%
(c)多額の工場移転資金と在庫投資金額の資金調達源泉のほとんどを短期・長期の借入金で賄ったことにより、財務安全性が悪化している。
*③の別解
(a)売上高対営業外費用比率 (b)3.96%
(c)多額の工場移転資金と在庫投資金額の資金調達源泉を短期と長期の借入金で賄ったことにより金利負担が増加し、収益性が低下している。
~ コメント ~
今年も経営指標から問題点を指摘したうえで改善点を書かせる問題であった。
しかしながらやみくもに経営分析し数値を導き出していても時間がない。
ここは与件から指摘できる問題点を抽出し、その問題点を的確に示す経営指標をピックアップしたほうが効率的で整合性も取れる。
(設問1)
【与件から抽出された問題点】
①従来型製品は納入先からの価格値下げ圧力が強い
②従来型製品ラインナップはさらに多品種化が求められる。
③新工場は多額の設備投資額が必要(土地1億5千万円、工場4億円)
④設備投資計画はなぜか従来型製品への投資額が大きい
⑤現在の工場は除却するも土地の売却は考えていない(借入れ依存?)
↓
結果、5年後の当期利益は現在より減少してしまう。
【問題点を3つに集約】
(1)①④より粗利益率の低い従来型製品を主力とした設備投資計画
(2)②より従来型製品の多品種化に対応するために棚卸資産が大幅増
(3)③⑤より多額の資金調達源泉を短期・長期の借入金に依存
【集約した3つの問題点を経営指標に】
(1)売上高総利益率
実はD社の損益計算書と製造原価報告書を分析すると、D社全体の売上高総利益率低下要因は減価償却費率の増加しか読み取れない。
材料費率や労務費率は悪化していないのである。【再現解答】では減価償却費率の増加を意識して「売上高対売上原価比率」と書いた。しかしこれで良かったのだろうか。
製品別売上総利益を見るとそれぞれの売上高総利益率は、従来型製品(H16年18.6%→H21年12.0%)、新型製品(H16年40.0%→H21年41.9%)である。
つまり仮に従来型製品への投資をやめて新型製品への投資のみ行っていれば売上高総利益率が向上する可能性は高い。
材料費率や労務費率も向上するかもしれない。
問題点を「多額の設備投資が減価償却費を増加させ売上高総利益率が悪化した」と決めつけた【再現解答】よりも「粗利益率が低下する従来型製品への重点投資により売上高総利益率が悪化した」としたほうが明らかに望ましい。
やはり書くべき解答は「売上高対売上原価比率」よりも「売上高総利益率」だった。
(2)棚卸資産回転率
従来型製品の多品種化に対応するために棚卸資産が大幅に増えたのだからこれについては異論はないと思う。
(3)自己資本比率 (or 売上高対営業外費用比率)
【今思う解答】では、ストック面から借入金の増加を指摘するため「自己資本比率」をあげた。ただし安全性指標の「自己資本比率 25.55%」が中小企業の経営指標として憂慮すべき数値かどうかはわからない。
ここで、多額の資金調達源泉を短期・長期の借入金に依存しているので「金利負担」の面から「売上高対営業外費用比率」などの指標を指摘することも出来ると思う。
また与件に「結果、5年後の当期利益は現在より減少してしまう」とあり、3つの指標は「費用構造や資本効率など収益面での問題」でくくり、「売上高対営業外費用比率」としたほうが良いかもしれない。
私の場合、「売上高対経常利益率」を解答としてあげてしまうと(1)であげた「売上高総利益率」とダブってしまうので、「売上高総利益率」とダブることなく借入金増加を指摘できる「売上高対営業外費用比率」とした。
*もちろんMPやTACの模範解答のように(1)(3)を「売上高対経常利益率」でくくり、残りの1つを「(有形)固定資産回転率」とするのもありだと思う。
私が【再現解答】で書いた「売上高対純金利負担率」は「営業外損益の部」がすべて金利で構成されているとは断言できないのですこし危険だったか。
問題点の集約方法によって、指摘すべき経営指標は異なってくる。
ただ指摘すべき問題点を取り違えなければ、それほど減点されないのではないだろうか。
次回も《事例Ⅳ》第1問について記述します。
ここはボリュームが多いので何回かに分けて記述します。
問題をお持ちでない方は下記よりダウンロードできます。
http://www.nipponmanpower.co.jp/add/train/cyuushou/answer2004-02/data_files/cyu_2nd_q4_041012.pdf
《事例Ⅳ》
第1問(40点)
(設問1)
工場移転計画で特に重要と思われる問題点3つ
(a)問題点を最も的確に示す経営指標(b)経営指標値(c)問題点の内容
【再現解答】
①(a)売上高対売上原価率 (b)76.83%
(c)工場移転計画において、過大な設備投資を行ったため減価償却費が増加し経費膨張した。その結果、収益性が悪化した点が問題である。
②(a)固定資産回転率 (b)2.12回
(c)工場移転計画における設備や土地の取得額の伸び率は、売上高の伸び率を上回る。その結果、資本効率の低下を招いた点が問題である。
③(a)売上高対純金利負担率 (b)2.78%
(c)工場移転に伴う資金調達源泉を短期と長期の借入金で賄った。その結果、金利負担が増加し、収益性が悪化した点が問題である。
【今思う解答】
①(a)売上高総利益率 (b)23.17%
(c)納入先からの価格値下げ圧力が強く、新型製品と比べ粗利益率が低い従来型製品を主力とした投資計画であり、収益性が低下している。
②(a)棚卸資産回転率 (b)4.43回
(c)従来型製品の製品ラインナップの多品種化に対応するため、棚卸資産を倍増させた投資計画となっており、資本効率が低下している。
③(a)自己資本比率 (b)25.55%
(c)多額の工場移転資金と在庫投資金額の資金調達源泉のほとんどを短期・長期の借入金で賄ったことにより、財務安全性が悪化している。
*③の別解
(a)売上高対営業外費用比率 (b)3.96%
(c)多額の工場移転資金と在庫投資金額の資金調達源泉を短期と長期の借入金で賄ったことにより金利負担が増加し、収益性が低下している。
~ コメント ~
今年も経営指標から問題点を指摘したうえで改善点を書かせる問題であった。
しかしながらやみくもに経営分析し数値を導き出していても時間がない。
ここは与件から指摘できる問題点を抽出し、その問題点を的確に示す経営指標をピックアップしたほうが効率的で整合性も取れる。
(設問1)
【与件から抽出された問題点】
①従来型製品は納入先からの価格値下げ圧力が強い
②従来型製品ラインナップはさらに多品種化が求められる。
③新工場は多額の設備投資額が必要(土地1億5千万円、工場4億円)
④設備投資計画はなぜか従来型製品への投資額が大きい
⑤現在の工場は除却するも土地の売却は考えていない(借入れ依存?)
↓
結果、5年後の当期利益は現在より減少してしまう。
【問題点を3つに集約】
(1)①④より粗利益率の低い従来型製品を主力とした設備投資計画
(2)②より従来型製品の多品種化に対応するために棚卸資産が大幅増
(3)③⑤より多額の資金調達源泉を短期・長期の借入金に依存
【集約した3つの問題点を経営指標に】
(1)売上高総利益率
実はD社の損益計算書と製造原価報告書を分析すると、D社全体の売上高総利益率低下要因は減価償却費率の増加しか読み取れない。
材料費率や労務費率は悪化していないのである。【再現解答】では減価償却費率の増加を意識して「売上高対売上原価比率」と書いた。しかしこれで良かったのだろうか。
製品別売上総利益を見るとそれぞれの売上高総利益率は、従来型製品(H16年18.6%→H21年12.0%)、新型製品(H16年40.0%→H21年41.9%)である。
つまり仮に従来型製品への投資をやめて新型製品への投資のみ行っていれば売上高総利益率が向上する可能性は高い。
材料費率や労務費率も向上するかもしれない。
問題点を「多額の設備投資が減価償却費を増加させ売上高総利益率が悪化した」と決めつけた【再現解答】よりも「粗利益率が低下する従来型製品への重点投資により売上高総利益率が悪化した」としたほうが明らかに望ましい。
やはり書くべき解答は「売上高対売上原価比率」よりも「売上高総利益率」だった。
(2)棚卸資産回転率
従来型製品の多品種化に対応するために棚卸資産が大幅に増えたのだからこれについては異論はないと思う。
(3)自己資本比率 (or 売上高対営業外費用比率)
【今思う解答】では、ストック面から借入金の増加を指摘するため「自己資本比率」をあげた。ただし安全性指標の「自己資本比率 25.55%」が中小企業の経営指標として憂慮すべき数値かどうかはわからない。
ここで、多額の資金調達源泉を短期・長期の借入金に依存しているので「金利負担」の面から「売上高対営業外費用比率」などの指標を指摘することも出来ると思う。
また与件に「結果、5年後の当期利益は現在より減少してしまう」とあり、3つの指標は「費用構造や資本効率など収益面での問題」でくくり、「売上高対営業外費用比率」としたほうが良いかもしれない。
私の場合、「売上高対経常利益率」を解答としてあげてしまうと(1)であげた「売上高総利益率」とダブってしまうので、「売上高総利益率」とダブることなく借入金増加を指摘できる「売上高対営業外費用比率」とした。
*もちろんMPやTACの模範解答のように(1)(3)を「売上高対経常利益率」でくくり、残りの1つを「(有形)固定資産回転率」とするのもありだと思う。
私が【再現解答】で書いた「売上高対純金利負担率」は「営業外損益の部」がすべて金利で構成されているとは断言できないのですこし危険だったか。
問題点の集約方法によって、指摘すべき経営指標は異なってくる。
ただ指摘すべき問題点を取り違えなければ、それほど減点されないのではないだろうか。
次回も《事例Ⅳ》第1問について記述します。
内容もコンパクトにまとまっていてわかりやすいので私も参考にさせていただきます。
今後ともよろしくお願いします。