◆体験談◆

◆体験談◆

子どもの“心の声”聴く

2006年10月04日 | 自閉症・障害
1999/05/05: ◆こころ 子どもの“心の声”聴く 教育部教育相談総合センター長 杉野重子

 *こころ/心/kOKORO/子どもの“心の声”を聴く/
教育部教育相談総合センター長/杉野重子さん
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 5月5日は「こどもの日」。明るく、たくましい子どもをどのようにはぐくん
でいくのか――。家庭で大切なことのひとつは、子どもたちが発信する心の
メッセージを親がしっかり読みとることと指摘されています。今回は、「子ども
の心の声」をどう聴(き)き取るのか、教育部教育相談総合センター長の
杉野重子さんに聞きました。
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 *言葉や行動が伝える心のメッセージ
 ―著書『子どもの心を診(み)る』で「子どもの心音を聴くことが大事」と
指摘されていますが。
  
 □…ええ。子どもというのは心の訴えを言葉や行動などで親に信号を送ってい
るものです。
 例えば、四~五歳の女の子が「オモチャの指輪を買って、買って」とねだる。
親は「そんなものを買わなくても」と思いがちですが、その子は指輪から「心の
中の夢を育てたい」と思っているのですね。スナック菓子をのべつまくなしに
ボリボリ食べるような子もいます。それは「心の不安」を表していることもあり
ます。
 夜尿、つめかみ、落ち着きがない行動……こうしたことは「もっとかまってほ
しい」というメッセージが含まれていることも多いですね。幼稚園のお子さんの
「登園拒否」。これは「お母さんから離れたくない」という「分離不安」の表れ
の面もあります。不登校も、「不登校」という姿で親にメッセージを送っている
といえます。
  
 ―その不登校は、年々、増えているようですね。
  
 □…教育相談を始めて四十年近くになります。初めのころは自閉症など
発達障害の相談が多かったのですが、二十年ほど前から不登校の相談が増えてき
ました。
 その原因には、経済成長を中心に考え「心」を忘れた社会、学業成績重視の
教育などもあると思います。家庭を中心に考えれば、親に「ゆとり」がなくなり
、子どもの心の声を聴き取れなくなってきていることも挙げられると思います。
  
 ―と、言いますと。
  
 □…精神的な病(やまい)やひどいイジメなどによる不登校は別にして、学校
に行きたくても行けないという不登校は多くの場合、子どもたちは、「ぼくは苦
しいんだ」という心の叫びを送っているのです。「不登校」という形で疲れた心
を癒(いや)そうとしているのです。
 反対に、家の外ではいい子なのに、家庭内で暴力を振るうような子もいます。
それは、親に「もっとかわいがってほしい」「もっと認めてほしい」という
気持ちが心の奥にある。でも、こうした子どもたちの心の声を聴き取ることは難
しい……。
  
 ―「引きこもり」や「家庭内での暴力」もメッセージなのですね。
  
 □…そう思います。子どもは「苦しいんだ!」「もっとかまってほしい!」と
言葉では言いません。その代わりに、円形脱毛症などの身体症状、引きこもりや
家庭内での暴力……。自分の心を、そういう形で親に伝えていると考えられます

 *心を受け止めれば子どもは元気になる
 ―子どもたちの態度や行動から心の声を聴き取ることが大切なのですね。
  
 □…ええ。心の声が聴き取れれば、「問題の行動」も多くを解決する糸口がつ
かめます。
 ある教育熱心な母親がいました。ふだんから子どもを大事にしているはずなの
に、不登校になってしまった。子どもは「学校に行こうとするとドキドキして
心臓が飛び出しそう」と訴えていました。ところが、そのお母さんは、きまじめ
すぎるんですね。「心臓が飛び出るはずがないでしょう!」(笑い)。
 お母さんは、どうも子どものメッセージがわからない。そこで「もっと
リラックスして。ユーモアも大切に」とアドバイスしたのです。
  
 ―それで、どうなったのでしょうか。
  
 □…その子が登校しようとした時、今度は、お母さんは迎えに来てくれた
友だちに向かって、「この子の心臓が飛び出たら、口の中に入れてあげてね」と
言ったのです。その言葉を聞いて、その子は涙が出てきました。「ぼくの気持ち
がわかってくれた」と。ほどなくして、その子の不登校は直りました。お母さん
の明るさ、笑顔が大切ですね。
  
 ―心に応えてあげれば、子どもたちは元気になるわけですね。
  
 □…そうです。子どものたくましさというのは、温かい愛情によって支えられ
ています。子どもにとって親が「安心感の基地」になれば、どのような不安があ
っても親に寄りかかり、依存しながら、子どもは自分のエネルギーを出していけ
るようになるのです。
 温かな愛情があれば、子どもは間違いなくそれを感じ取ります。子どもという
のはとても敏感です。親の心の奥にあることを感じ取っているものです。
  
 ―温かな愛情が根本なんですね。
  
 □…ところが、なかには愛情について、「頭でわかっているだけ」の人もいま
す。相談に訪れたあるお母さんは、問題行動を起こしている我が子について、
自分で「愛情不足が原因です」(笑い)と分析しました。
 それは愛情という文字を知っていても、「愛情とは何か」を知らない。愛情を
具体的に示すことができないということです。例えば、子どもが部屋で昼寝して
しまった。「そんな所で寝たら、風邪をひくわよ」と言う前に、そっと毛布や
ふとんを掛けてあげるのが愛情でしょう。愛情とは、「口を出すこと」ではなく
、「手をかける」こと――行動することです。心くばりをすることだと思います

 *親自身が豊かな感受性と柔軟な心を
 ―「愛情の示し方」がわからない人もあると――。
  
 □…ええ。ですから、子どもの気持ちもよく読み取れない。どのようなことで
悩み、どんなに苦しんでいるのかがわからない親が増えている――そう感じるこ
とが、最近、増えましたね。
 不登校の場合では、親が我が子のメッセージに応えられなかったことや、「
知的な発達」を求めるあまり、無意識のうちに子どもにプレッシャーをかけてい
る。子どもの“遊びたい”という気持ちがわからない。
 子どものほうも親に応えようと親の顔色をうかがいながら頑張っているうちに
疲れてしまう。子どもは敏感だから、親が直接要求しなくても、親の心を感じ取
っているものです。
 小中学生の段階で心の疲れが出ればまだいいほうですが、高校生や大学生にな
って出たりすると……。
  
 ―その場合には。
  
 □…立ち直るのに時間がかかります。小中学生と違って、「再育児療法」とい
うわけにもいきません。親子の触れ合いといってもなかなか難しい。その場合に
は、「友だち」が立ち直りのきっかけになることが多いですね。
 私たちは「発動性」と呼んでいますが、どのような人にも「発動性」――生き
ていくエネルギーがあります。自分で立ち直っていく生命力がある。引きこもっ
て、「かまわないでほしい。ぼくは死にたい」と言うような学生でも「弱発動性
」――エネルギーがないようでも間違いなくエネルギーがあるのです。
 親が気づかなかったエネルギーを、友人が引き出してくれる。
  
 ―だれでも自分のなかにたくましく生きるエネルギーがある、と。
  
 □…人間は可能性に満ちあふれた存在です。いくつになっても伸びようという
力があることをわかってほしいですね。
 これまで多くの方々の相談を受け、感じてきたことは、人間は心の奥にあるも
のがその人の持っている「雰囲気」になっているということです。ですから、だ
れでも気軽に来られるような「家庭の雰囲気」をつくっていくことが、我が子が
たくましく生きていくエネルギーを出していくきっかけになると思います。
  
 ―まず、親自身が持っている「雰囲気」が大切なんですね。
  
 □…その通りですね。心の奥からあふれるような温かな愛情。そこから醸(か
も)し出される温かな雰囲気が大事です。
 例えば、花を見た時、「きれいだね」と子どもに声をかけるようにしていく。
そういうなかで親子ともども「情感」も育ち、感受性の豊かな心をはぐくむこと
ができる。親にそういう豊かな感受性や柔軟な心があれば、我が子の心の声も聴
き取ることができるようになる……。
 ほかの何ものにも代え難い子どもたちのかわいい顔と明るい笑い声――。
子どもの立場になって考え、ちょっとした態度や行動、わずかな言葉から心の声
を聴き取り、子どもたちの心に応えてあげてください。
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 子どもたちの“心の声”を聴き取ろう(香川県高松市内で。写真と本文は関係
ありません)