◆体験談◆

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「音楽療法」について 全米公認音楽療法士

2006年10月04日 | 自閉症・障害
1997/03/05: ◆こころ 「音楽療法」について 全米公認音楽療法士 寺崎陽子さん


 *こころ/心/KOKORO/「音楽療法」について/全米公認音楽療法士/
寺崎陽子さん
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 音楽を聴(き)き、楽器を演奏して、歌を歌う――。音楽によってストレスが
解消されたり、心が癒(いや)されたり、活力がわいた経験をもつ人は多いでし
ょう。古来、音楽が人間の心にさまざまな影響を及ぼす研究がされてきました。
今回は、この数年、注目を浴び始めた「音楽療法」について、
全米公認音楽療法士の寺崎陽子さんに聞きました。
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 *心身の健康の回復、維持、促進が目的
  
 ―音楽療法とは、どういうものですか。
  
 □…多くの定義がありますが、私がアメリカで学んだ音楽療法では、「系統的
に音楽を活用することによって、心身の健康の回復、維持、促進を図るもの」と
考えています。
 身近な例では、脳卒中の後遺症などで、身体を動かしたり、話すことが不自由
になった方の心を癒(いや)したり、痴呆(ちほう)症にかかった高齢者の方に
、生きる喜びをもってもらうこと――。「生活の質」の向上を目指しています。
 また、障害をもつ子供には、社会に適応しやすくなるような療法をしています

  
 ―たしかに音楽というのは、親しみやすいですね。
  
 □…ある特別養護老人ホームの施設長から、「いままでいろいろなことをして
きたけれども、すべての人が参加できるのは音楽だと思う」と言われたことがあ
ります。音楽は年齢や立場を超えて、人々を引きつける力があると思います。
 私は、かつて中学校で音楽の教師をしていたことがありますが、学校で問題と
なるような素行(そこう)の悪い生徒が、音楽室に来ると曲を静かに聴いている
……。教師に見えなかった生徒の素直さを引き出す力が音楽にあると知ったのが
、この仕事に入るきっかけにもなっています。
  
 ―音楽の、どのような面が治療に役立つのでしょうか。
  
 □…精神科医のアルツシュラーは、「音は大脳の視床(ししょう)及び
視床下部で人の情動や感情を誘発し、自律神経を介して直接、身体の諸器官の
機能に影響を及ぼす」という趣旨のことを言っています。
 つまり、音楽は大脳を通して、人間の感情を動かすとともに、多くの器官の
働きにも影響を与える力がある、ということです。
 アルツシュラーは、音楽を効果的に使うためには、患者のその時の感情や精神
のテンポに合った音楽を使用することをすすめています。
 これは「同質の原理」と呼ばれています。この「同質の原理」をもとに、
私たちは、その人にもっとも合う音楽は何かを考えていくわけです。
  
 ―先ほど、「系統的に」と言われましたが。
  
 □…ええ。「系統的に」とは、「計画的に音楽を使う」という意味です。ただ
、音楽を聴かせ、歌を歌ったり、演奏したりすればいいというわけではありませ
ん。
 治療には、行き当たりばったりではなく、計画性をもって、患者さん(
クライエント)のために、専門の療法士(セラピスト)が音楽を使って相手の心
に働きかけていくわけです。
 ですから、セラピストとクライエントとの人間関係がどのようになっているか
で、音楽療法の効果も変わってきます。
  
 *心のつながりがあって効果もある
  
 ―具体的には、どのようにするのですか。
  
 □…例えば、老人ホームでは、二十~三十人の方々を一グループとして、
約一時間、行います。はじめに皆さんの心をゆったりとさせるために、季節感に
あふれる曲を選びます。また、集まっている方々の年齢を考慮した選曲を
しながら、歌を歌ったり、簡単な楽器で演奏をしたりします。
 ところが、好きな曲というのは個人差があるため、選曲がとても難しいのです
。概して、高齢の方は民謡が好きな場合が多く、また、十代から二十代のころに
出あった曲は、特に記憶に残っているようです。
  
 ―身体に障害をもつと、そのショックでなかなかリハビリに意欲をもって励め
ないこともあるようですが。
  
 □…人間は、大企業の部長とか、学校の教師とか、社会的な立場にかかわらず
、それぞれ一人一人が高いプライドをもって生きています。そのため、人生の
途上(とじょう)で障害をもってしまったことを受け入れるためには、長い期間
、「葛藤(かっとう)」することが多いものです。
 また、プライドを「抑制」しているので、つい「そんな簡単なことを私がやる
のか」という気持ちが出てきてしまいがちです。
 ですから、人によっては、簡単な曲を手軽な楽器で演奏したり、歌うことに、
とても抵抗感があります。その人が積極的にリハビリに励むためにも、まず、そ
の「心理的な抵抗」を取り除いていくことも必要になるわけです。
  
 ―そこで大切なことは何でしょうか。
  
 □…まず、一人一人の個性を知り、その方が心の奥で抑えている気持ちを解放
し、喜びを味わってもらうために、何が一番効果的なのかを判断しながら、自然
の流れのなかで、演奏してもらったり、歌ってもらうことです。
 しかし、そうした専門的な判断や、技術的な問題も大切なのですが、私が感じ
るのは、私たちセラピストの、一人一人に対する「明るい表情」や「親しみのあ
る言葉かけ」、相手に対する「尊敬の気持ち」が、何よりも大切になるというこ
とです。
  
 ―と、いいますと?
  
 □…セラピストとクライエントとの心のつながりができていて初めて、音楽が
心理的な効果をもつ、ということです。もしそうでなければ、一流の音楽家に来
てもらい、演奏し、歌ってもらえばいいはずです。一方的な演奏だけでは、十分
な効果が上がらないのです。
 つまり、音楽療法とは、セラピストとクライエントとの間の、音楽を使っての
コミュニケーションを図るものといえると思います。
  
 *明るい雰囲気を絶やさないこと
  
 ―皆で歌う場合に気をつけることは。
  
 □…歌うことがいいからといっても、「さあ、背筋をぴんと伸ばして、大きな
声を出してください」(笑い)――ということはしません。昔の教育を思い出す
からでしょうか、それではかえって緊張感を与えてしまい、声が出なくなります
。どこまでも、自然に歌が出てくるようにもっていくようにしています。
 「声を出す」ということは、カタルシス(心の浄化)ができるからでしょう。
 話は飛びますが、今、カラオケがはやっていますが、歌を聴いている周りの人
の評価はともかく(笑い)、本人にはストレスの解消に役立っていると思います

  
 ―緊張させない、ということですね。
  
 □…ええ。そのためにも、最初から最後まで、私たちセラピストが笑顔で
クライエントさんに接し、時には冗談も言いながら、明るい雰囲気(ふんいき)
を絶やさないことが必要です。
  
 ―先ほど言われたように、やはり「言葉かけ」が大事なんですね。
  
 □…そうなんです。相手を思う、明るく親しみを込めた言葉かけが、人の心を
動かしていきます。
 私たち日本人は、自分の気持ちは言葉に出さずとも自然に相手に分かってもら
えると考える――そういう文化のなかで生きていますが、でも、自分の思ったこ
とを話していくことが治療では大切です。
  
 ―そのほかには。
  
 □…治療は約一時間ですが、その間に、一人一人が自分が「参加した喜び」を
味わってもらえるようにすることです。「喜び」を味わうことで、「また参加し
よう」という気持ちになり、それが癒しやリハビリにつながるのです。
  
 ―ところで、障害をもつ子供の場合は。
  
 □…社会性を育てることを目標にして、五~六人のグループで四十~五十分間
行います。そこでは、あいさつをできるようにする、集中力を養う、生活の習慣
を身につけることなどを目標にしています。
 例えば、自閉症の子供さんのように、言語によるコミュニケーションが難しい
場合、音楽を通じて、声や楽器や動作による対話を繰り返しますと、徐々に自分
を表現することができるようになります。
 また、私たちが母親に信頼されるかどうかが治療の効果にも影響してきます。
  
 ―音楽療法が注目されるようになりましたが。
  
 □…音楽に人間の心を癒す力があることは、古代から多くの人が研究してきた
ことです。今は、科学・技術の発達で物質的に豊かになり、効率的な社会にもな
りましたが、かえって人間のストレスが大きくなっています。
 音楽の力は「キュア(治療)ではなく、ヒーリング(癒し)」と言われますが
、こうした時代だからこそ、私たちが音楽のもつ力を改めて認識する必要がある
と思います。