翌日-44 コージ

　「コージは明日からまた仕事だな」と言って、お父さんはお茶を飲んだ。お母さんは豚汁を温めなおしながら、刺身を大皿に盛り付けている。
「久しぶりの仕事、楽しみだよ」と僕は言って、やっぱりお茶を飲んだ。木村さんたちが口コミで宣伝してくれた効果にも興味があるし、配達先でお客様に会えるのもうれしい。
あずと話したりキスしたり抱き合うのももちろん大好きだけど、仕事は別の意味で楽しい。毎日同じ繰り返しでも、ホントは毎日ちがう。お客様にほめられたり怒られたりいろいろあるけど、みんな何かを教えてくれる。

　「コージはホントに幸せそうだな。すぐに結婚するのか？」お父さんは僕の顔を見て、満足そうにうなずいた。「新居はどうする？２階を改築するんだったら半年かかるな」
　「部屋を」と僕が言いかけたところで、テーブルのうえに晩ご飯が並んだ。お母さんは最後にビールとジョッキをテーブルに置いた。お父さんが立ち上がった。「話はあとにしよう。コージもビール飲むか？」

　「お茶でいい。ビールは話しながら」と僕も湯飲みを持って立った。「部屋を探す」というコトバが宙ぶらりんになって、僕はなんだか落ち着かない。
　「一言だけ聞いてあげて」とお母さんが言った。「それからだってご飯は食べられるわよ」