20代の頃、
「世界美術の旅1 パリ物語(上)」を買い読みました。
その本の大部分はルーブル美術館の紹介で、後ろの方に白黒でこのクリュニー中世美術館とタピスリーの紹介が書かれていて、その白黒写真にときめきました。
いつかパリに行くことがあったら、この美術館に行って、この綴れ織りの貴婦人に会いに行こうとずっと思ってました。
そのまま時間が過ぎて行きましたが、貴婦人たちの方から日本にきてくださることになったなんて。
クリュニー中世美術館の改築のため美術館はクローズしている間に海を渡って日本におでましになったそうです。過去にはアメリカのメトロポリタン美術館に行ったのが唯一の国外展示だったそうです。
ようこそ貴婦人方様\(^o^)/
ぜひとも会いに行かなくてはと思い、5月10日に国立新美術館で開催されている「貴婦人と一角獣展」に行きました。
会場に入り少し歩くとすぐに6人の貴婦人に出会いました。
赤い背景には画面いっぱいの春夏の花(ミル・フルール千花模様)が咲き、木には秋の実が成ってます。季節はなくその植物の一番生命が輝き美しい時の姿を一緒に織り込んでいます。小動物が点在し中央に少し盛り上がったような芝の上に貴婦人や侍女、とても従順な一角獣と獅子がいます。
これは日常の雅な生活や宗教の一場面を表しているのでなく”本来は見えないもの“そして”ずっと変わらないもの“を視覚化しているとわかりました。
それぞれのタピスリーは人間の感覚を表しているそうです。それも順番があり、肉体的な感覚から精神的な感覚へと五感がすすみ、最後に6番目のタピスリーで五感を超えた感覚を表しているのだそうです。
《触角》
ル・ヴィスト家(この一連のタピスリーの注文主)の紋章の旗を持った貴婦人に一角獣も獅子もおとなしく、犬や猿は首輪をされ支配されているように見えました。一方鳥やウサギは自由を満喫しています。
《味覚》
侍女がうやうやしくお菓子をいれた盃をかかげ、貴婦人はそこから一つまみとって左手にとまるオウムにあげてます。獅子は舌をだしているけどお菓子が欲しいのかしらん。
貴婦人の髪のベールが風をはらんでひらりと翻っている様子が素敵。
うしろには薔薇の垣根があります。
《嗅覚》
貴婦人は匂いのよいナデシコで花輪を作っています。
きっとあたり一面いい匂いがしていることでしょう。
《聴覚》
小型のパイプオルガンを弾いてます。
これを見て、むかし学校の廊下にあった足踏み式のオルガンを思い出しました。おなじようにふいごで空気を送って音を出すしくみなので、似た音がでたのかも。なつかしいなぁ。
そしてすごいなとおもったのがこのオルガンを乗せている台にかけている複雑な模様のクロス。ちゃんと側面は模様が斜めになっています。絵じゃなくて織物で表現していると思うとすごい技術です。
それから貴婦人の髪形もおもしろい。きっと当時のおしゃれな髪形なんだろうけど上半分の髪を二つにたばねてリボンで巻いて頭のてっぺんでまた一つに結わえて毛先をつっ立てています。柔ちゃんやじゃりんこチエみたい。
一角獣と獅子はリラックスしてオルガンの音色に聞き入っているように見えます。
《視角》
一角獣は貴婦人の膝に前足を乗せ、貴婦人は手鏡で一角獣の顔を見せています。ずいぶん貴婦人に懐いたもんです。一方獅子はそっぽをむいているけどやきもちやいてるのかしら?
なぜか貴婦人の表情が疲れていて少し年をとったように見えます。
鏡に映る姿は永遠じゃないと言っているのかな・・・。
このタピスリーは下の端部分が途中で終わってます。動物の体が途中まででおわってるのはこのタピスリーだけです。切れてしまったのかしら?
そして
《我が唯一の望み》
この絵はイタリアのピエロ デラ フランチェスカの聖母を思い出しました。
この絵です
テントから現われている様子が同じです。時代的にはこのイタリアの画家のほうが前になります。このタピスリーの原画家と何がしかの交流もしくは影響があったかどうかは知りませんが。どちらも神聖な何かを象徴しているのでしょう。
貴婦人は宝石箱にアクセサリーをしまうのか、取り出しているのか?
そのときそのときによって違って見えます。
そういえばこの貴婦人だけ豪華なネックレスを身につけてません。
そばで特別にクッションに座るマルチーズ犬は私達に眼をむけてます。
第六の感覚はなにを指すのか・・・人のより解釈が変わりそうです。作った当時はすぐわかっていたのでしょうが
どの貴婦人もため息のでるような豪華な衣装を着ています。その生地の模様も複雑で美しい。
その複雑な模様の服が襞をなしている状態までも織物で表現されてます。
そしてデザインは上半身がぴったりとして細身の貴婦人の体のラインを美しく見せてます。
そのくびれたほっそりとしたウエストを見て、いいな~、なんて思いました。
それから貴婦人も侍女も金髪の女性です。フランス美人の典型の色なのでしょうか。
私はカトリーヌ・ドヌーブを思い出しました。きっとこういう服装がとてもよく似会う。
一角獣は恋する青年を象徴しているそうですが、随分と美人に弱いのね~。いえロマンチストと言うべきかな。
このタピスリーが作られたのは16世紀初めごろだそうです。イタリアはルネッサンスでしたが、フランスはまだ中世でした。フランスのルネッサンスはその後フランソワⅠ世がレオナルド・ダ・ヴィンチをフランスに招待することにより始まりました。イタリアと北方のルネッサンスが影響しあい、フランスゴシックの味わいも入ったフォンテーヌブロー派からといわれています。
このタピスリーは遠近感はおおらかです。それから貴婦人より小柄な侍女は少女なのかなと思ってみたら以外に大人っぽい顔立ちをしてます。もしかしたら、重要な人物は大きく描いて、脇役の人物は小さく描いてるのかしらと思いました。そんな主観的な描き方(タピスリーは原画をもとにして織り込むので必ず画家が下絵を描いている)がやっぱり中世の美術の手法だなと感じ、ルネッサンスのように厳密に遠近法を考えていないところにむしろ自由な楽しさを感じます。
ルネッサンスで人間回帰といわれているけど、中世末期の美術はもう随分と現実世界を楽しんでいるように思えました。
ここでは小さな写真しか載せてませんが、本物をみたら是非貴婦人のブルーの眼を見てほしいです。ほんのり憂いを帯びてるのです。それは経糸か横糸の折り目がひとつで違うと表情が違ってしまっていたでしょう。これだけの織りの技術があるのですから原画の表情そのままに織り込んでいるに違いありません。
この貴婦人には想う人がいるのではと想像しました。その相手はもしかしたら16世紀当時の貴族の青年かもしれません。妄想をたくましくさせてもらうと、きっと深い栗毛色の髪をした素敵な人だったのでしょう。今も鮮やかに美しいタピスリーの貴婦人は今もその青年を想っているのでは、もう土に還っているであろうその人を。
千花模様には実際にある花がたくさん描かれています。(ボッティチェッリの「春」にも女神たちの足元に様々な花が描かれていますね。)私にもスミレやナデシコやマーガレットなどがわかりました。知っている花を探してみるのも楽しいです。展覧会には植物や動物の詳しい解説のコーナーもあるのでわかりやすいです。
この6つのタピスリーを展示している部屋にはずっとアロマの香りがしてました。
誰かがアロマの香水でもつけているのかなとも思いましたが何度戻って来ても香りました。ユーカリみたいな匂いと花の匂い・・・匂いスミレみたいな・・・。
もしかしたらタピスリーの保護のため消毒系のアロマをたいていたのかも・・・そして織り込まれた花園に私達も入っている気分になる演出かも・・・と思いました。
ほかにも素晴らしいタピスリーが展示されています。彫刻では当時の女性のファッションをうかがえます。
国立新美術館では7月15日まで開催されてます。
追記
このブログは昨日で321日目になり
これまでのアクセスが20002、訪問者がきっちり9000人となっていました。
これまで訪問してくださりありがとうございます。
これからもよろしくお願いします(*^_^*)
入場者が一張羅を引っ張り出して着て来たと思われる
パラジクロルベンゼン(防虫剤)の香りが目に沁みる美術館しか
私は縁が無い
鑑賞者が一張羅を着ていく展覧会とはなかなかの格調高い内容だったのではと推察します♪
勝手に予想すると日本美術の展覧会だったのかしら?
そういえば、去年の今頃根津美術館に行ったら、きちんとした服装の鑑賞者が多かったです。素敵なワンピースを着たご婦人と紳士の二人連れがいて素敵だな~ああいうワンピースの似合う体型(そこかい)になりたいな~なんて憧れました。
いつもズボンとぺったんこ靴で見に行っちゃうけど、ときには展覧会の内容に合わせたおしゃれをして鑑賞するのもいいなあなんて思ってます。
遵命さんはかなり展覧会に行かれているとお見受けしてます。ゆっくり展覧会の話をしてみたいです(*^_^*)
たしかに格調高い内容でした♪ 防虫剤の香り高い会場でした
展覧会に行くと、高確率で買ってきてしまうモノ…一筆箋、クリアファイル(爆)
「ボストン美術館 日本の至宝」展は私も去年見に行きました。
最初に点心・・・じゃなくて岡倉天心氏の小さい像が展示されていて、その後ろに奈良や平安時代の仏画がずらっと並び、さらに快慶の菩薩像まであって、こんな重要な文化遺産がアメリカに持って行かれたのか、と驚きました。・・・でも、考えてみれば・・・当時廃仏毀釈の嵐の中だったこと、そしてその後の震災や戦禍で棄損することなくアメリカで守ってくれていたのかも、と思いなおしました。
他にも刀や能装束など多岐にわたる濃い展示でしたね!
展覧会でつい買ってしまうもの・・・私はなぜか記念のお菓子です♪
高めだけど、ちょっとしたプレゼントに重宝してます。
これまでの記念お菓子で一番のヒットは、2年前BUNKAMURAで17世紀オランダ絵画の展覧会で静物画のなかに描かれてあったケーキをそのまま再現したケーキです。まさに絵の中の餅を取り出して食べちゃった気分でした♪
で、『貴婦人と一角獣』展。
blueashさんとちがって、本展の告知を見るまでこのタピスリーの存在を知りませんでした。
でもテレビで特集しているのを観て、シンボリックなものが大好きなものですから、俄に行きたい気持ちになり。
大きなホールを仕切り無しで360度使って展示するという方法が、非常に効果的だったと思います。第一から第六まで、順を追って「感覚」を辿っていくという鑑賞の仕方も官能的で良かったです。それぞれのタビスリーにあしらわれた花や樹、動物、貴婦人の服装や持ち物などにも膨大な意味がこめられていそうで、時間があればじっくり探っていきたい気持ちになりました。
第六の「我が唯一の望み」という言葉が謎多きものとされていますが、ピエロ・デラ・フランチェスカの「出産の聖母」と同じ構図ということは、やはり妊娠・出産を表しているということでしょうか。
多産のシンボルであるうさぎちゃんがたくさん登場するのも、同じく多産や豊饒をあらわす貴婦人のドレスの柘榴文様も、そのへんと関係がありそうな……。
本展はグッズのプロデュースがまた素晴らしくて!
タビスリーのなかのモチーフがいちいち愛らしく美しいということも手伝って、グッズも企画し甲斐があったろうなあと(笑)。釣られておもわずあれこれ買い込んでしまいました。ミルフルールをあしらったバンドエイドなんか、どうしてくれようってぐらいかわいいです。うさちゃんの深紅のクッションカバーも、ちょっとお高かったので結局諦めたんですが、ものすごくかわいかった!
blueashさんは今回はどんなグッズを買われましたか?
その後お加減はいかがですか?
レッドさんもこの展覧会を見られたのですね!
タピスリーが廊下みたいな細長い展示室でなくぐるりとひとつの広い部屋でゆったりと展示していたのは私も良かったなと思いました。うす暗くほんのりアロマの薫りがするひんやりとした部屋で貴婦人もほぼ等身大なのでタピスリーの世界に入り込んだような気分になりました。
第六の「我が唯一の望み」は見たときすぐにこの「出産の聖母」が思い付き、テントつながりだわ、と単純に思ってブログに並べて載せたのです。そして並べてみてあれ、これってもしかして・・・と私も気づきました(遅(^-^;)。クッションの上に鎮座するマルチーズ犬も気になります。安産のシンボル?
パンフレットの解説を読むとこのタピスリーの注文主アントワーヌ2世は父から家督を受け継いだわけではなく親戚の先代当主から勝ち取ったようで、そうすると跡継ぎの誕生は切望していたのでしょう。でもそれだと何だかロマンの香りがしなくて・・・。
いえいえちがうわ
愛する人がいて二人のイニシャルの間に「我が唯一の望み」となってれば、それは自然に二人が望むことですね。妙な思惑で憶測しているのは私のほうでした(自分に拳固)
もう一つトルコの王子様がフランスを去るとき愛するフランスのお姫様にこのタピスリーをささげたといういわれもロマンチックで素敵♪
画家は美しい下絵を描き、工房は心を込めて繊細で見事なタピスリーを作り上げタピスリー自体が物語を内包しているように思います。
幕から現れいでた貴婦人はマリア様と同じく神聖な存在なのだろうと感じました。
フランス美人の典型は500年前も今もほとんど変わらないのだなぁとも思いました。
グッズ売り場はもう買っちゃいけないと自分に言い聞かせてあまり見ないで出て行っちゃったのです。でもあとからせめてパンフレットだけでも欲しくなって、ずっと会いたかった貴婦人たちなのにこれで多分一生会えないだろうし、家でもじっくり鑑賞したくて、悩んだ末思い切ってパンフレットだけ買いにいきました。
なんだか無粋で恥ずかしい(;^ω^)