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ボルドー展 ―美と陶酔の都へ―

2015-09-22 00:25:49 | 一期一絵


9月19日に国立西洋美術館にて鑑賞しました

ボルドーといえば、赤ワイン色をボルドー色とも呼ばれるほどのワインの名産地。友人がボルドー色のセーターの写真を見せてくれて、それがとても素敵で思わずこの展覧会を見に行こうと思い立ち開催期間終わり近くに行きました。いざ作品を見てみるとかなり見ごたえのある展覧会で、大小あわせて200点を超える作品群や解説からはボルドー市民の深くて熱い郷土愛を畳みかけられるように感じられ圧倒されました。

フランス南西部のボルドーは市の中央部に流れるガロンヌ川が蛇行した川沿いに三日月型に発展した町なので「月の都」と言われているそうです。
そのボルドーに住む人類の歴史は非常に古く、どうも、人類にとって住みやすい土地なようです。

そんなわけで、展覧会の展示も太古の遺品から始まりました。
ボルドーには近くにラスコーの洞窟があり、クロマニョン人が住んでいたのがわかってます。
その第1の部屋でとても印象深かったのは、ネアンデルタール人の遺品です。クロマニョン人よりさらに昔じゃないですかΣ(゜Д゜)))
画像が見つからずお見せできないのがとても残念なのですが、美しい透明な水晶で作った小ぶりで左右対称の美しい形をした打製石器「削器(サイドスクレイパー)」(6万年前頃)が展示されていたのです。
美しい石をわざわざ選び、持ちやすく機能的で、しかも形を左右対称に整えて作っているのです。
水晶と言えば、現代もパワーストーンとしてブレスレットやネックレス、もしくは置物として愛でる人が多いです。私もパワーストーンのブレスをいくつか持っていて、自分で組み合わせを考えて作るのが好きですが、石を削って作るまではできない・・・ネアンデルタール人すごい・・・・

そして時代が過ぎ、打製石器はやがて磨製石器へと進化します。
そこでやはり印象深かったのは、やはり画像が見つけられなかったのですが、大きな翡翠の磨製石器の「石斧」(2万5千年前頃)です。jadeiteと書いてあったので本物の翡翠です。滑らかで美しい形は目立った傷が無く、実用ではなく祭祀に使われていたそうです。
西洋もやはり翡翠は神秘性を秘めた石に感じられたようですね。

その頃の洞窟に彫られていた浮彫がこの展覧会を代表する作品の一つ

「角を持つヴィーナス(ローセルのヴィーナス)」2万5千年前頃
太古の豊満な女性像は女神とかヴィーナスと呼ぶことになってるそうですが、この女性像は見た感じが髪を下ろして小首をかしげてるように見えてポッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」を思い起こしました。
だからきっとこの女性はブロンドの髪と青い瞳の持ち主だろうなと思いました。それにスタイルもいい、足が長いです。左手は膨らんだお腹に置いていて、そこに、この像を刻んだ人の想いを感じました。
驚くことに製作した当時の体に塗った絵の具が少し残ってるのです。よく見ると向かって右の乳房の内側にオーカー(黄土色)がこすりついているのが私でもわかりました。また、オーカーの原石、その原石を削り取る道具、さらにパレットにした平たい石、そして洞窟の中で絵を描くときに明かりとして用いたランプ皿が展示されてました。
クロマニョン人グッジョブ!

その次はようやく歴史資料のある時代へ、紀元前ケルト民族の一派ガリア人が定住し、やがてローマ人が支配します。
そこでワイン作りが伝わったそうです。
いくつか展示されてましたが、個人的に印象深かったのが

「イシス・フォルトゥーナの小像」ローマ時代
頭に上に牛の角と月の円盤はイシス神。そして優雅なローマの装いをしてる運命の女神フォルトゥーナ。エジプトとローマが合体してます。
他にもドイツ、アイルランドの物品が展示されてました。ベルトのバックルの形などはまさしくケルト人のもの。いろんな文化が交流してたのね
ローマ帝国が衰退した後はアングロ=サクソン系のゴート人が支配したそうです。

そして中世時代
12世紀にボルドーの領主の娘が年下のイギリス貴族に恋をして結婚したものだから、その青年がイギリス王ヘンリー2世となって300年間ボルドーはイギリス領となったそうです。きっとイケメン貴公子だったのだろう(・ω・)ノ
それが原因でフランスとイギリスは100年戦争を引き起こしてしまったそうです。イケメン罪深し←いやイケメンは単なる予想だけど
そのころの紋章

「ボルドー市の紋章」14世紀末-15世紀初頭
人がさかさまになって紋章を支えています。紋章の下部にはガロンヌ川の流れ、そこに三日月が船のように浮かんでます。河岸には4つの塔がある建物、真ん中には鐘がつりさげられてます。その上に胴がにゅ~んと長いライオンが縦に三頭並んでます。そのライオンマークはイギリス王室を表してるそうです。こういう石の紋章がいかにも中世の空気を纏っていて見ていて楽しいです♪

イギリス支配下であってもワインの産地として、またスペインの聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の中継の街として栄えたそうです。

そして近代以降
100年戦争で勝利し再びフランスに戻ったボルドーはワインの産地、巡礼の中継地、そして海洋貿易の港町として物流が盛んに。ネゴシアン(ワインや植民地の物産を扱う卸売商人)が活躍し、おおいに栄えたそうです。

「地球儀とガルシャ張りのケース」1783年
ケースの内側はどうも天球儀となってるようです

奴隷貿易も入ってたという闇もありました・・・。ガロンヌ川は大西洋に流れていきます。そこから船はアメリカ大陸にむかったのでしょうね。
街の枢機卿はバロック彫刻を代表するイタリアの巨匠ベルニーニに肖像彫刻を注文。
富裕層は玄関に豪華なドアノックをつけて美しい磁器や銀器の食器を持ち、コーヒーやショコラを楽しみ、ワインクーラーやワイングラスクーラーをそろえたそうです。


ジャック・ユスタン陶器製作所(ボルドー)「ワインクーラー、銘々用のワイングラス・クーラー(「カルトジオ会修道院」セット)」1745-50年頃


「ボルドーの港と河岸の眺め(シャルトロン河岸とバカラン河岸」ピエール・ラクール(父)1804-1806年
本当はかなりの大画面です。この絵を見ると、川岸に船着き場が無いので船は川の中ほどで停まって小舟が物資を運んで入れ替えしてたみたいです

海運業は18世紀に衰退したけども、ワイン製造は高い評価を持ち続けたそうです

フランス革命では穏健派(ジロンド派)の拠点となり、急進派(ジャコバン派)に迫害を受けたそうです。
王政復古の時はいち早く支持し、そのためブルボン家の唯一の継承者として生まれた男の子アンリはルイ18世から感謝を込めてボルドー公と銘じました

「ボルドー公爵の肖像」アレクサンドル・ジャン・デュボワ=ドラオネ1828年 


文化も豊かに花咲きます。
3Mと呼ばれるボルドーを代表する文化人三人はそれぞれワインの地主であるシャトー城主育ちだそうです
モンテーニュ(哲学、人文主義者1533年- 1592年)シャトー・ド・モンテーニュ
モンテスキュー(哲学 1689年- 1755年)シャトー・ド・ラ・テーヌ
モーリヤック(小説家 1885年- 1970年)シャトー・マラガール

そして絵画
スペインの画家ゴヤは亡命して晩年をボルドーで過ごし、銅版画を制作

「闘牛場」フランシス・デ・ゴヤ1825年

ドラクロワは父の赴任で子供の時にボルドーで過ごす。彼はルーベンスの作品に影響を受けたそうです

「ライオン狩り」ウジェーヌ・ドラクロワ1854-1855年
筆致に勢いと迫力がありました。ゴヤの絵からも影響を感じます。
拡大した図も載せます

まるで生きて絵から飛び出してきそうな迫力!

この作品は美術館が火災にあい上部を消失。その上部がまだ消失されてない頃ボルドー美術館でこの絵を模写したのがルドン

「ライオン狩り (ドラクロワの作品に基づく模写)」1860-1870年
あの内証的な画風で有名なルドンはまたドラクロワの絵にも多くを学んだようです
そのルドンはボルドー生まれで近郊のシャトー・ペイル=ルバートで育つ、やはりワイン作りと縁の深い環境です。
ロドルフ・ブレダンから版画を学んでます。ブレダン氏もボルドー出身かと思ったら、彼はフランス東部ロワール川沿いにあるモントルレ出身でした。40歳でボルドーに移り、ルドンは彼から学びます。。


「善きサマリア人」ロドルフ・ブレダン1867年
緻密で幻想的です。そして超絶技巧・・・物語を内包している作品群でした

ブレダンの幻想的な画風を受け継ぎ、自分の絵世界に昇華したルドン版画作品

「ゴヤ頌(2)沼の花悲しげな人間の顏」オディロン・ルドン1885年
ゴヤの版画作品に影響を受けているのはタイトルを見ても明らか

更には母親の実家がボルドーのシャトー・マルロメである貴族出身のロートレックは晩年をこの地で過ごしました

新古典派の作品、シャルダン、神話の作品・・・魅力的かつ魅惑的な作品が次々と展示されてました。ボルドーで有名な動物を専門に描いた女流画家ローザ・ボヌールの作品、ボルドー出身だけど故郷に馴染めなかったアルベール・マルケの風景画などボルドーに関係する画家の絵が紹介されてました。

またボルドー美術館にはナポレオンがイタリア遠征の際に持ち帰ったイタリアルネッサンスの大画家ペルジーノの美しい作品があり、美術館の宝となっているそうです

「玉座の聖母子と聖ヒエロニムス、聖アウグスティヌス」ペルジーノ1500ー1510年頃
左右対称の構図が安定したいかにもルネッサンスらしい作品。このまま定住する運命になったようです。


ボルドーといえばワイン
ワインのラベルは「エチケット」と言うのだそうです。

ボルドーではワインの格付けを行い最高級の赤ワインを作り出す現在5か所のシャトーを5大シャトーと呼んでいるそうです。白ワインは最高級は現在1か所のシャトーが認められてるそうです。
5大シャトーのエチケットにはそれぞれのシャトーの絵が農園のバックに描かれてます。その他いろいろな意匠のエチケットが展示されてました。
他にも試飲用小皿も、ボルドーのはまるで朝顔の花びらの形になってるのですね

印象派の旗手クロード・モネも若い頃ユーモアのある漫画を描いてます

ワイン樽の上にあるワイン瓶から頭を出した酔っ払いおじさん。樽に書いてあるのはBORDEAUX。やっぱりボルドーはワインの代名詞になってるようです。

私も、ミュージアムショップで赤ワインの中瓶とブドウゼリーを買ってしまいました。

これだけワイン漬けになって過ごしてしまいましたもん。赤と白がありましたが、やはりボルドー色の赤ワインを選びました。
ワイングラスを持ってないけど、まあいいか(^_-)-☆

作品を見ているとどこからか「ボルドー、ブラボー♪トレビアン♪」という市民の熱のこもった声が聞こえてくるようでした。
豊かな土地に豊かな文化が花開いて豊穣、芳醇という言葉がとても似合う街だなと思いました。


追記
3年前に書いた映画の感想をリンクします。よろしければこちらも・・・・
約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語


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