黄金色の日々(書庫)

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しあわせのパン

2012-02-11 23:41:34 | 映画感想
映画「しあわせのパン」 予告篇



チケットを頂いたので見てきました。寒い季節にぴったりのハートウォーミングで、透明感のあるお話でした。

実は始めのうちは、『かもめ食堂』以降こういうロハス映画続くなあ、どうせそんなに変わらないんだろうと思って見てた(^^ゞ
実際、かもめとその萩原監督の『めがね』、『食堂かたつむり』などを彷彿とさせはします。でも他の味もある。

水嶋夫妻が営むカフェ・マー二は、水嶋君の焼くパンとりえさんの淹れるコーヒーとお料理を味わえるパンカフェ。二階には宿泊できる部屋もあります。
これぞロハス、みたいな生活に至るまでは、りえさんは東京でせわしない生活も経てきた模様。水嶋君は札幌生まれですが、この二人の出会いや結婚に至る経由はないのですが、想像はなんとなくできる。


大泉洋をちゃんと見るのは初めて。なるほど、この雰囲気が人気だな。原田知世は変わらんなあ。


常連客や近隣のちょっと変わった人々で、いつも静かながらも憩いの場のカフェ・マーニ。
夏、秋、冬と訪れたお客の話がオムニバスのように綴られます。
正直、そう奇をてらったエピソードでもないんだけど、ありがちな一コマこそが人生なんだなと思う。
夏のお客の香織は、恋人に沖縄旅行をドタキャンされ、突発的に北海道にやってきた。水嶋夫妻と知り合いの青年トキオを交えてのひととき。
沖縄に来てる振りを携帯で職場の同僚に話したり、お土産探しをトキオに手伝わせたり。よくいる女の子だけど、誕生日旅行をすっぽかされた傷心はわかる。彼女のためにぷちパーティでお祝いしてあげる夫妻。パンを手でちぎり奥さんに渡す水嶋君。
仲睦まじい様子は、今の香織には堪えます。
でも、お祝いのケーキ替わりのクグロフを半分に切って、大ぶりのままトキオに渡すりえさん。トキオはそれをちぎり、香織にハイと。
この”分け合う”というのがこの映画のテーマで、何度も出てきます。
自分の願いや悲しみに正直な香織と、都会に憧れても北海道から出るのを躊躇してきたトキオ。初々しい二人です。

 


秋になり、周囲が実りと金色に囲まれる季節。カフェの目の前は原っぱで、その正面にはバスの停留所。制服姿の10歳前後の少女が、バスが来ても乗らずに佇んでいる。
「ホットミルク、作っとくよ」と言って家に戻る水嶋君と、少女を迎えに行くりえさん。できた夫妻ってとこですが、この二人のスタンスは”空気のように招き入れる”なんですよね。
少女は未久。礼儀正しいけれど寡黙で、何か訳ありげ。水嶋君が学校に送っていき、給食用のパンを配達しているのでその帰りに彼女を教室で見かけると、ニコリともしてなかった未久は友達と普通に笑ってはしゃいでる。ちょっと思案顔になる水嶋君。

かぼちゃのスープが得意だった未久の母親は、夫と娘をおいて出て行ったことが彼女の回想で語られ、偶然カフェにきたお父さんとも知り合った夫妻は、ある晩二人を別々に招待します。
美味しそうなコロッケプレートを黙々と食べる二人。でもそのあと、りえさんが出したカボチャのスープに、未久は部屋を飛び出します。
見に行こうとするりえさんを止める水嶋君。「未久ちゃんは、大丈夫だよ」
程なく戻ってきた未久は、静かにスープに口をつけ、それを見たお父さんも少しずつ飲み始める。
「美味しいね」「美味しいな」「でも、ママの作ったのとは違うね」「ああ、違うな」
「ママはもう、帰らないんでしょ」
少しずつ心の内を出し合う親子。子供の方が全然しっかりしてるのも世の常。でも、しっかりしている分、学校でもそれを隠して笑ってる分、孤独は深い。会社で帰り間際にカップ麺をロッカールームで食べていた父親。何も早く帰ってあげればいいのに、娘にどう話していいか、どう接していいかわからず避けていたんでしょう。自分自身の痛手から立ち直れていないから。そんな不器用な父に、自分から寄り添ってあげる未久。伝える言葉が泣かせます。ベタだけど泣ける。ほろりと来た(^^ゞ

そんな時、水嶋夫妻は静かに見てるだけ。余計な言葉はかけない。でも、必ずパンを持っていく。父と娘も、ひとつのパンをちぎり分け合いました。

 光研さんもこの手の話にかかせない。子役の女の子は雰囲気がとてもいい。

真っ白に雪に覆われる冬。ある吹雪の晩に、老夫婦が少し休ませてくださいと電話をかけてくる。車で駅に迎えに行った水嶋君。旦那さんの阪本さんはかつて来たこの地の思い出などを話してくれるものの、奥さんは具合が悪そうで気になる。
部屋を暖め、食事を用意しようとしたりえさん。でも奥さんはパンが嫌いで食べないらしい。恐縮する阪本さんと奥さんをりえさんにまかせ、水嶋君は吹雪の中、知り合いの家にお米を貰いに行きます。けれど、少し雪が収まった時に外に出ていこうとする老夫妻。月を見たいのだと。
必死に止める水嶋夫妻に、渋々と戻り食事ができるまでとどまります。

黙ってうつらうつらし、時折咳き込む奥さん。奥さんの薬を捨て、古い記念文字が刻まれた懐中時計の針を止める旦那さんの様子からだいたいの察しはつきます。ぽつりぽつりと話し出す事情。夫婦で何十年もやってきた銭湯が、かの震災で潰れたこと。月夜に添い遂げた二人の娘の名前は“有月”といい、その娘さんも失くしたこと。それでも頑張って建て直した銭湯、けれど年齢とそれに加わるもので出来なくなっていくこと、未来を見れないこと。
ようやく出来たりえさんの心尽くしのポトフと、水嶋君が貰ってきた米で炊いたふっくらご飯。すごく美味しそう。
そこにいたり、初めて奥さんの口から、「おとうさん、じゃがいも」と言葉が。けれど、なぜかご飯に手を付けずに焼きあがってカウンターに乗せたばかりの豆のパンのところへ歩き出す奥さん。慌てる旦那さん。折角・・・と戸惑う前で、奥さんは美味しそうに豆のパンをほおばります。「おいしい。お豆さんのはいったこのパン。おいしい」
そして、旦那さんにもパンを分けて渡します。「おとうさん、わたしこのパン、明日も食べたいな」
テーブルの下に落ちたスプーンを拾いながら、涙を噛み締める旦那さん。

このエピソードが一番きました。お年寄りに縁がある私。
見ればすぐわかると思うのでネタバレしますが、奥さんは余命いくばくもない病なわけです。娘も失い、その上長年連れ添った愛妻をもなくして一人ぼっちになるくらいなら、いっそ。と、阪本さんは思い出の地での心中を決意してきた。
けれども妻の様子と言葉に思いとどまり、さらにはしばらくここに居てくださいと言った水嶋君の誘いのままに過ごしたマーニでの数日間。
近隣の人たちを招いたパーティ。自分たちも形を作ったパンに、ハイジの食事のようなとろけるチーズをかけたパン、キッシュ、地ワイン、人々の笑顔、音楽とダンス。
暖かく癒され、楽しみ、笑い、そして満月を見。二人は帰ってゆきました。
そして春。

阪本さんから届いた手紙。旅立ちと決意。
“りえさんのパンを食べるあいつを見たとき、人間というものは幾つになっても変化し続けるものなのだと思いました”

そう言える旦那さんと、そうできた奥さんが素晴らしいんだよ。
そしてこのエピソードは、ファンタジーめいた映画の中で唯一、リアルな現実のかけらを見せてきます。
先の大震災。
老夫婦が残され、子供が失われた人もいたでしょう。どんなに頑張っても、若い頃のように未来を信じられない。できなくなる、なくしてゆくことばかり。そう嘆く阪本さんの気持ちに共鳴する人もいるはず。
さすがの中村嘉葎雄さん。若いキャストの中で抜群にキャリアを見せます。さらに奥さんのアヤを演じた渡辺美佐子さん!
おばあちゃんがすごい可愛いの! 嘉葎雄さんと違い、ほとんどセリフがないんですが、口を開いた時の言葉は染み入るものばかり。
先が長かろうが、わずかだろうが。生きることを楽しめる、生きたいと思うその優しい輝きが素晴らしい。

ニット帽がことのほか愛らしくお似合い


三組のお客を通して、水嶋夫妻にも少しの変化が現れてゆく。そもそもこの夫婦、「水嶋君」「りえさん」と呼び合い、堅苦しくはないけど丁寧語で話し合ってる。仲睦まじいし、他人行儀ということもないんですが。
東京で“沢山のたいへん”を味わってきたりえさんに、北海道月浦で暮らそうとプロポーズした水嶋君。どうもそれほど長いお付き合いの上ではなさそう。
りえさんはカフェの由来になった『月とマーニ』という絵本の、マーニという男の子が初恋。このマーニが水嶋君なのかと思いきや、そうではなかったんですね(笑) 
初めは。
彼と過ごし、常連さん達と親しみ、そして何人ものお客様との出会いを通した2年間で、りえさんはもういないものと決めたマーニがどこにいたか気づくということ。そして気づいたあと、春に来たお客様は。

いわばおとぎ話的なところもありますが、浮世離れはしていても現実味もあります。こんな暮らしが憧れのロハス派にも、現実の少しの厳しさ、人の孤独とそれを乗り越えるものがうまく入れられている。キャストもみな適材。

原田知世の変わらぬルックスにも驚いたけど(今年45歳?!)、雰囲気の透明感が変わらないことの方がもっと驚きですね。
彼女、りえさんの淹れるコーヒーや優しい味が想像できる料理もいい。阪本夫妻に出したポトフなど、ゆっくーり作るんですよね。早くメシ!という人には向かないかもしれない(笑) その分、優しい時間が煮込まれてる。
彼女に憧れてる郵便配達人に、「りえさん、今日も綺麗ですね」と言われると、「ありがとうございます」とにっこり。
とんでもない、とか、お上手ね、とか言わない。自信家ではなく、素直に受け取れる人。

水嶋君の焼くパンは主要キャストでもある。大泉洋、よかったですよ。カリスマ・パティシエとか見てると、えらく戦闘的なスタイリッシュな男性が多いんですが(笑) パンを焼く人ってそれとはイメージが違う。こんな感じに肩の力が抜けてて、それでいて“見る”ことができる人が味わい深いパンを焼けるんだな、と思わせてくれる。
未久のパパに、「こんな美味しいコーヒーを毎日飲めるなんて、いいですね」と言われると、「はい。いいです」
この人も素直だ。

素直で受け取ることが上手な二人は、差し出すことも自然にできる。それがまた、自然に伝わってくる二人でした。

 

パンの中でも、このカンパーニュに意味あり



見る予定がなかった作品ですが、見れてよかったと思います。人生に疲れ気味な人は是非v

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