末法人言

冥土、冥界、冥境、草葉の陰、黄泉、幽冥
 歳なのか?これらの言葉が気になっってきた。

帰ってきたOさん

2014-08-11 23:18:33 | 日々の出来事


(1)

「今朝オヤジが亡くなりました」
と5月の中頃だったか?○中の長男から電話が入った。
「おおー懐かしいね、○中さんか・・・・・・?」
そういえばいたよなぁ~、あの○中かぁ~、
早い時期に野菜の無人販売所を始めたひとかぁ~、
川井村区kの○中かぁ~
電話を受けながら、かぁ~かぁ~と頭の中 を、いろいろな想いが駆け巡った。
「今、どこかにいるの?」
「埼玉の〇〇市です」「家族全員で暮らしています」
「そうかぁ~」「家族全員でねぇ」
「原因は何だったの?」
「癌です。食道癌で、摘出したけど・・・ダメで・・・・」
四十代の長男の、いろいろな話を総合すると、埼玉に墓地を確保しそこに埋葬をしたい、ということであった。が、どうゆう訳か墓地に埋葬するのが、手続きの関係か何かでややこしい、さてどしたらいいのか?と云うことであった。
結局、火葬は埼玉で納骨は、故郷の○界の兜明神の麓にある墓所の墓に埋骨することになった。
「○中さんも亡くなったのか・・・・・・!

私が、○中さんと一番最初に出会ったのは、35~6年前である。
私が、寺に帰って間もない頃であった。
寺の仕事をブラブラとしている、時期でもあった。
その仕事が、何故か私にまわってきた。
区界の自宅までの送り迎えの車の中で、亡くなった弟のことを、ブツブツ話した。
「歌手志望で東京に出奔し、色々努力したが芽が出ず、日々酒浸りになり、酔って神田川に落ちて死んだ・・・・!」
「奥さんと小さな女の子が残った・・・・・・!」
「某プロダクションの経営する喫茶店でウェーターの仕事をしていたが、ただ働きであった・・・・・・!」
「遺骨を引き取りに東京までいってきた・・・・・・!」
様々なブツブツを聞かされた。

ー亡くなった弟さんと、夢を抱き東京で暮らしていた自分と重なり妙な気分になったことが思い出される。だからよけいに、○中さんは私の記憶に残ってもいる。ー
区界の○中さんの自宅では、仏壇の前に白い布で包まれた遺骨と、その脇に若い奥さんと小学3~4年ぐらいの女の子がポツンと座っていた。
ーその時のお経は、いずれタドタドしかった。ー

○中さんとは、自分がお寺で暮らし始めてからの付き合いでもある。前の代からだともっと長い。むろん確かに、寺であるから寺壇関係というものもある、住職と檀家というようなものである。
それは社会的立場上の関係でもある。
ただ、○中さんとの関係は何かそれを超えた、もっとメンタルな面の意味合いが強いものであったのかもしれない。なぜなら、自分の中でこれ程いろいろな記憶が蘇ってくる人もあまりいない。



(2)

○中さんの墓!つい最近まで土葬だった。

二十数年前の話
「父親が亡くなったんですけど?」
○中さんから電話が着た。
「〇〇日に通夜、次の日に葬儀、埋葬ということでどうでしょう?」
「えぇ~火葬は・・・・・?」
「火葬はせずに土葬で・・・・・」ということだった。

「土葬」最初にして最後の仕事であった。

「盛岡の町まで降りて行って火葬も面倒だし・・・・・
土葬にした」と云うことであった。

通夜のお経も終わり、色々聞いた話を総合すると。
「区界には戦前に入植し、その地を開墾し、今に至った。
出身は日本海側の福井県と云っていたような?」

通夜の帰り道兜明神の麓で、焚き火の炎が一点ゆらゆらと
していた。
後で聞いた話では、「○中さんの近所の若い衆が、一升瓶をそばに置き、
直径1メートル深さ2メートルぐらいの穴を掘っていた」とのことであった。
晩秋の冷たい風が吹いていた。

翌日、住職である親父と一緒に○中家に向かった。
前日同様冷たい風に、チラチラと白いものが混ざっていた。
今では珍しい自宅での葬儀であった。

葬儀のお経も終わり、いざ埋葬である。
「和尚さん、行列を組んで墓所まで行きたいんだけど・・・・?」
「行列の順番は・・・・・・?」
「知っている年寄りがみんな亡くなって・・・・」
と、近所の住人でも、年を取っているほうの人に聞かれた。

「・・・・・・・・・」
「そうかぁ~」「それがあったのかぁ~」
またまた、かぁ~かぁ~と「かぁ~」が頭の中を駆け巡った。

「よし・・・・!風も強いし、小雪も舞っているし、歩くのも
大変だし・・・・!皆さんそれぞれ車で行きましょう」
「遺体の入っている座棺は、私の車で運びます」
と、訳の分からんことを口走ってしまった。
結局、私の運転するトヨタ・ラウンドクルーザー60(当時はま
だ1ナンバーで貨物車扱い)に棺を積んで墓所まで行くことになった。
墓所までのダラダラな上り道を、軽自動車、軽トラ、普通車、
ワゴン車等々、色々な車種の車が行列を組んで上った。

徹夜で掘ったでかい穴の前で、
「和尚さん、どちら向きで埋めればいいべぇ~・・・・・」
「・・・・・・・・」
とっさに
「いい景色が見える方へ・・・・・・!」
「んだな」
と、いい景色が見える方向へ面を向け、棺を穴におろし、土を
かけ始めた。
後で聞いた話によれば、頭面北斎と云って北側に面を向けるのが
作法であるとのことであった。