2004-12-26
1.大流星群との戦い
これは、私が夢で見た、未来の地球のお話。
地球をおおっていた自然の大気が、環境の変化で薄まったためか、未来の地球は人工の特殊なシールドで包まれていた。
国の境界線は、やがて消え、横に広がるドーム・エリアが栄えた。
地球の温暖化や、さまざまな環境汚染が、時には地球規模の災害へとつながり、民族の紛争やエリア内外の戦争も、絶えずどこかで繰り返された。
地球の各エリアの代表が集まる会議に、月や宇宙ステーションや火星などで生活する、新しいエリアが加わった。
やがて世界中のエリアを統合する機関は、コズミック・ユニオンと名称が変わり、コズミック防衛軍が結成された。
このコズミック防衛軍は、誰でも入れるわけではない。
各エリアの警察や軍隊などで活躍している若者の中から、特に優秀な隊員が防衛軍の訓練生として推薦され、
訓練生として招集された後、どんな危険な状況でも、冷静に戦える技術を習得したことを認められた者にだけ、正式な防衛軍のバッジとユニフォームが与えられるのだ。
コズミック防衛軍の兵士は、常に宇宙の安全を優先する。
時には、トラブルに遭って宇宙をさまよう宇宙船を救出し、極悪非道な海賊が狙う宇宙船や宇宙ステーションへの救助活動を行い、激しい戦闘の中でも犯人逮捕を敢行する。
地球上でも、エリア内やエリア間で起こった紛争や戦争への介入。
その活躍が認められると、名誉の勲章の授与。
冒険心が強くて、宇宙での活躍を目指す子供達にとって、コズミック防衛軍は、エリアの警察や軍隊に入れたら、その次に目指したい、あこがれの職業なのだ。
そんなある日、突然、宇宙空間に大流星群が現れ、地球の方向へと近づき始めた。
『信じられない数の流星が、地球に衝突する恐れがある』
この情報を入手したコズミック防衛軍は、最新鋭の武器を使ってその進路を変えるよう攻撃を始めたが、飛来してくる流星の数は、軍の想定を超えていた。
どんなに撃破し続けたとしても、大きいものから小さいものまで、何千何万という星のかけらが地球へと向かい、その一部が大小の隕石となって、地上へ衝突する可能性がある。
未来は、情報の流れるのが早い。
宇宙探査船が、大流星群による最初の被害を報告し、まもなく地球の危機が広く伝わった。
宇宙を無数に航行する宇宙船から、被害に遭ったという情報が次々に舞い込み、人々をいっそう不安に駆り立て、暴動にも発展した。
地球は人工の特殊なシールドで覆われているが、膨大な数の衝突に耐えられるかわからない。
最新のドームや、宇宙に配置した最新のステーションが、隕石や暴動で破壊されることを恐れた、先進エリアの指導者や科学者や技術者達。
コズミック・ユニオンの中央議会では、どのエリアの代表も、自分のエリアを守るべく、コズミック防衛軍への協力を求め、議員の間で調整がつかず、議会場はパニック状態だ。
事態の収拾をつけるため、コズミック・ユニオンの議長ウィル・キリィは、緊急のニュースとして全エリアに向かって伝えた。
「流星衝突の恐れがある、宇宙ステーションや宇宙船の艦長は、防衛軍の指示に従い、安全な宇宙空間に早く移動すること。
被害が予想される各エリアの首長は、それぞれエリア警察や軍隊の増員を図り、エリアの住民が安全に避難場所へ移動するよう、緊急に救助隊や警備隊を組織し、指示すること。
避難場所が確保できないエリアの首長は、それぞれ独自の判断で、安全策を図ること…」
各エリアでは、大勢の若者が救助隊員や警備兵として召集され、避難場所への誘導や、暴動への鎮圧、地上への隕石の衝突を防ぐための攻撃に駆り出された。
ドームの建設が進まなかったアフカ・エリアでは、グループ同士の縄張り争いから、避難場所が確保できず、救助の人員を増やしても、難民があてもなくさまようばかりだ。
暴動の鎮圧に功績のあった、アフカ・エリア出身のエリック・マグナーが、コズミック防衛軍の臨時・最高指揮官に任命された。
エリック・マグナーは、各エリアへ暴動鎮圧のため、軍事介入する前に、全エリアの人々に向かって訴えかけた。
「我々、コズミック防衛軍は、人類のふるさと地球と、宇宙に暮らす人類を救うために、果てしなく飛来する無数の流星と戦っている。
しかし、我々がこの戦いに敗れることで、ドーム社会が破壊され、我々の得たすべての財産を失ってしまうだろうという言葉に、多くの人が惑わされている。
軍は何の理由もなく、同じ人間を威嚇する道具として、兵士を育てたのではない。
あなた方の命を守るため、数多くのエリアが誇る警察官と救助隊員、警備兵とともに、自らを犠牲にして戦って来た。どうか、自分達の力を信じてほしい。
これより我が軍は、コズミック防衛軍ルール第10条第1項にもとづき、人類の生存を優先し、正義のために戦うことになる。
これ以降エリアを混乱させ、人命を危険にさらし、軍の命令に違反した者に対しては、命の保障はない。
どうか、暗い孤独な宇宙の中で、今生きているあなた方と、未来のために戦っている、寡黙な兵士のことを忘れないでほしい」
そして、流星の爆発に巻き込まれ、命を落とした兵士達の名前と映像が浮かび上がり、愛する人達へのメッセージが、本人の声で流された…。
同じ時に、同じ苦しみを感じながら、他の人を助けるために命を落とした兵士達の冥福を、人々は祈った。
しかし、大流星群は容赦もなく、宇宙船や宇宙ステーションを襲った。
暗黒の宇宙が稲光に包まれる中、防衛軍の宇宙船に追従し、安全な場所を求め、逃げ惑う宇宙ステーション。やがて、地球にも光の大群が押し寄せて来た。
遠くで雷と地震と戦争が同時に起こったような、そんな激しい光と雷鳴が延々と続き、ドドドォーンッという、激しい爆音が鳴り響く。
避難所のせまくて暗い場所に閉じ込められ、息苦しさに耐えかねて、泣き叫ぶ子供達。
人気のないドームに入り込み、残された金品を狙って、暗躍する強盗団。ドームに覆われていない場所にも、多くの人々が取り残され、無数の生き物がそのまま置き去りにされていた。
シールドを突き抜けた大きい隕石が、海に落ちて津波を引き起こし、島のエリアを襲った。
大陸のエリアにも、砕けた隕石の雨が降り、海からの津波が、地上の人々や生き物をさらって行ってしまった。
ドーム社会の指導者の言いなりに戦うことは、ドーム社会を助けることになっても、地上に取り残された自然や、自然とともに生きている人々を失うことになる。
誰かが、その人々を助けなければ…
エリック・マグナー指揮の下、軍への出動要請のあったエリアには、指令に従順なマシン部隊を中心に配置。
一方、軍の有志を募って、ドームの外の救出活動を急いだ。大勢の若者が、進んでドームの外へ飛び出し、被災地へと向かった。
彼らの後を追うように、使命感の強い医療技師や、多くの勇気あるボランティアが、支援物資を背にして、保護された区域を離れた。
長い長い時が過ぎ、ようやく音が鳴りやんだ。
人々は、長いこと閉じ込められた苦痛に、少し背伸びをした。
大流星の衝突によって、少し地球の軌道がずれてしまったようだ。
その変化に順応するための対策と、破壊された地域の復興という、新たな苦難に立ち向かうため、人々は立ち上がった。
少しホッとしたせいか…各エリアの管理の目が行き届かなかったせいか…この年、子供がたくさん生まれた。
そして、キラシャも、この年に生まれた。
2004-12-30
2.ドームの社会
未来の地球のある時期には、理想の生活を目指すユートピア・エリア、自由な生活を目指すフリーダム・エリアという広大な2大エリアがあって、その時代をリードしていた。
また、宇宙開発に貪欲なユニバース・エリア、食料の増産や技術開発に意欲的なディヴィロプメント・エリアが、人類の未来と生活を支えているようだ。
いろんな民族が所々に共存するアフカ・エリア、多数の民族が入り混じったオリエント・エリア。
民族間の階級の厳しいヒンディ・エリア。
これら民族の違いが、また新たなエリアを生み出し、エリア内にも外にも、貧富の差はさまざまに広がっていた。
特徴を生かした小さなエリアも点在し、周りのエリアと経済や技術を提携し合って、共存共栄を図っている。
キラシャの暮らすドームは、北半球の小さなエリアにある。
何度も地震や火山の爆発などに見舞われながら、長い年月に位置を移動し、形を変えて、成り立ってきた島のエリアである。
地球上の他の場所に比べて、磁力の働きが強いのが特徴で、マグネティックフィールド・エリア、略してMFi(エムフィ)エリアと呼ばれている。
MFiエリアは、点々とした島のドームで成り立っているが、ごく微小なマシンを駆使した医療技術の発達で、先進エリアと認められるようになっていた。
もうすぐ11歳になるキラシャは、ドームのスクールで、クラスの男の子と仮想空間でのアクション・ゲームや、未来のスポーツを楽しんでいる。
クラスの中でもとびきり元気なキラシャは、冒険好きな男の子とドームから外に出たくて、ドームの外出許可資格を取ろうと、午後の厳しい訓練に参加していた。
ドーム内の澄んだ空気に慣れてしまった未来人。
特殊なマスクをつけないでドームから出てしまうと、呼吸をしても外の空気の成分がうまく身体に取り込めず、倒れてしまう人もいる。
調整された空気しか知らない子供達は、訓練しないでドームの外へ出ることを禁止されている。
スクールの行事や競技のために、ドームの外に出る生徒もいるが、訓練後の外出許可証が発行されないと参加が認められない。
見慣れた植物や動物ばかりのドームに、たいくつしていたキラシャは、まだ自分の目で見たことがない、自然に満ち溢れた広い外の世界に、人並み以上のあこがれを抱いていた。
チルドレンズ・ハウスでは、大勢の子供達が、にぎやかな日常生活を繰り広げている。
平日はチルドレンズ・ハウスで生活し、土曜・日曜の休日は保護者の所でホームステイする。
もっとも、子供の保護者は、血のつながった親ばかりではない。
休日に子供を引き取る実の親は年々減り、子供を育てることで、その成長を楽しみにする代理の保護者が多い。
キラシャは、自分のおじいさんを知らない友達や年下の子を引き連れて、自分の血のつながったおじいさんの住むオールディ・ハウスへ、休日に遊びに行った。
このドームには、子供が学ぶスクールと、寝泊りするチルドレンズ・ハウスと、病気やケガの時にお世話になるホスピタルが併設している。
スクールでの学習に役立つ博物館や歴史館、さまざまなアート・ミュージック・ダンス・ミュージカル・ドラマ・カラオケなどを楽しむ大小の施設もある。
ゲームの中に入り込んで、新たなストーリを作りながら、謎を解いたり、恋をしたり、仲間を作ったり、敵を倒して得点をゲットしたり、子供達が楽しんで遊べる仮想空間もある。
また、未来に進化した、多くのスポーツの練習場や試合会場もある。
これらの施設は子供だけでなく、大人も利用できる。仕事を終えた夕方から夜まで、多くの人に趣味を通じた出会いを提供している。
今も進化し続けているスマホは、“M(マルチ)フォン”へと進化して、ドームで暮らす人々の生活を支えている。
おしゃれや便利さを追求する未来人。
Mフォンを持ち歩かず、自分の身体・服・メガネ・アクセサリーに埋め込んで使う人もいる。
ただ、スクールの子供達は、「自分の持ち物を、責任を持って管理する」という教育目的で、事情のある場合を除いて、Mフォンを所持するように、ルールで定められている。
未来では、人が別の所へ行きたい時には、このMフォンの操作で、瞬間に移動できる。
転送装置という、とても便利な道具だ。もちろん、モノの移動もMフォンで操作できる。
ところが、ドームにはたくさんの人が通路を移動しているし、転送先が安全な場所とは限らない。
Mフォンだけでは、判別できない障害物にぶつかって、人が大ケガをしたり、送ったモノが転送ミスで大破したり、ゼンゼン違う場所へと転送されたりと、被害も多発した。
そこで、緊急の場合を除いて、Mフォンだけで転送することは禁止され、ボックスという転送装置と、そのリモコンとしてMフォンを利用した移動が認められた。
人の転送用として、ドームの各階のフロアに、大人が2、3人入れるくらいのペアのボックスが、点々と置いてある。
ボックスの右手が送り側。中に入って、Mフォンで行き先を指定すると、数秒後には希望の地点のボックス左手、受け側のボックスにたどり着く。
同じボックスに、同時に転送しようとする人が何人いても、ボス・コンピュータからの指示で、重ならないように待ち時間があり、順序良く転送が行われるのだ。
もちろん、転送が苦手な人のために、広場ではエレベーターやエスカレーターもあるが、急いでいる時は、ボックスの方がウンと早い。
エレベーターやエスカレーターの数は多くないから、移動するのに苦労する。
住宅街は同じような廊下が延々と続いているから、自分がどこにいるのかも、さっぱりわからないことがある。
しかし、そんな時だって、Mフォンが目の前に3Dホログラムを映し出し、現在地と行き先への道案内をしてくれるのだ。
ところが、Mフォンが何でも教えてくれるから、未来の人に悩みはないなんて、思ってはいけない。逆に、このMフォンの存在が悩みだったりすることもある。
MFiエリアは他のエリアよりも、管理がウンと厳しくて、大勢の人が秩序正しく暮らすよう求めている。
もちろん、人だけでなく、モノの転送にも、きちんとルールが定めてある。
製造されたモノは、製造場所・責任者・移動経路・所有者などがコード形式で表示され、ボスコンピュータにも、暗号化されたコードが、圧縮して記録される。
モノの現在の位置も、MフォンのGPS探索アプリで確認することができる。
ドームの住民の各部屋には、モノの転送用のボックスがあり、ネットで購入したモノをボックスに送ってもらえる。
食べ物などは、テーブルの上に置いた専用のボックスに、大きなものは物置くらいのボックスに送ってもらう。
ただ、人のモノを勝手に転送して、自分のモノとして使ったり、他の人に転売して儲けを企んだりする人達がいる。
そんな時、被害者は、エリア警察に被害届をMフォンで送信すればよい。
警察は、Mフォンの転送記録・製造コード・GPSで、現在の位置を特定して、犯人を追及する。
偽造したモノも、Mフォンをかざせば、製造コードを確認でき、ボスコンピュータに記録されたコードと突き合わせ、本物かどうかをチェックすれば、偽物だとバレてしまうのだ。
そうはいっても、未来にネット犯罪がなくなることはない。
日々、ボスコンピュータのAI機能で監視を行っているが、犯罪の多さと巧妙さに対して、摘発数が追いつかないのが現状だ。
スクールで犯罪を行わないよう指導を行ってはいるが、人に隠れて悪さをしたいと思うのが、人間の本性なのかもしれない。
このエリアでは、ルール違反に対して厳しい罰則がこと細かく決められ、裁判で罪が確定すると、罰則に応じたマネーの支払いか役務を終えないと、その後の生活は保障されない。
ルール違反をすると、ルールのアプリが入ったMフォンから警告を受けることもある。それを無視して違反を続けると、Mフォンが自動的に警察に通報するシステムになっている。
毎日毎日、人々はMフォンからのモーニングコールで目覚め、仕事のスケジュールを確認する。
Mフォンは、手際よく1日の予定を報告してくれるし、都合で予定を変えようとすると、こうした方が良いとアドバイスしてくれる。
ところが、そんなに親切に指導されると、かえってうっとうしいと思うのが人間というものだ。
あまりうるさいと、Mフォンの音声をバシッと切ってしまうこともある。
大事なアドバイスを聞き逃して、後で後悔することも多いが…。
それから、未来の若者は人間関係に、とても敏感だ。
恋愛に関しても、知り合った相手と仲良くなってから、結婚を決心するのも早いが、別れるのも早い。
結婚の届けを2人で管理局に出したら、2人っきりの部屋で、落ち着いた生活ができるかというと、どうもそうではないようだ。
衛生にうるさいドームでは、部屋にキッチンがない。食事をした後は、クリーニングを行うのがルールだし、それがイヤなら外で食べるしかない。
部屋で仕事をする人を除けば、寝る時だけ帰って来ることも多い。
部屋のクリーニングも、ロボットかヘルパーに任せるので、お互いに相手のことを気づかう、愛情あるコミュニケーションが取りにくいのかもしれない。
仕事で疲れた2人が顔を合わせても、相手のいやなとこばかり目につき、部屋の中ではつまらないことでケンカを繰り返し、結局別れてひとり部屋へ引っ越す人が多い。
それがイイことか、ワルイことかは、私にはわからないが、未来の人は合理的だ。
結婚した相手とは、会いたい時に会って、食べたい時に一緒に食事をして、デートしたい時に、一緒に過ごせば良いのだ。
愛を語りたい時は、ムードあふれるホテルで2人っきりに…。
ただし、ドームの中のどこにいても、今日の食事の予定は、どこでどんな食事をするか、Mフォンからの質問に答える義務がある。
この小さな島のドームでも、何万という人口を抱えている。よけいな人数分の食事の準備をするのも無駄だし、残飯を捨てるのも経費がかかるし、何よりモッタイナイ。
サプリやドリンクで済ませるときは食事はキャンセルし、部屋で食べたいときは、レストランから食事を転送してもらえばよい。
希望する場所を利用する時は、決められた時間までに予約しておけば問題はない。
こういった場合も、Mフォンは欠かせない。
未来の携帯Mフォン。
テレビ電話・ネット・マネー・カード・カメラだけでなく、目の前に3Dホログラムを映し、道先案内、転送ボックスのリモコン、あらゆる機能を持つすぐれものだ。
さらには、ルールのアドバイザーであり、仕事や生活のパートナーでもある。
ドームの大集団の生活を支える、便利なMフォン。
未来のドームに住む人々は、それがなくなったら、何もできないほど、Mフォンに依存していた。