一条きらら 近況

【 近況&身辺雑記 】

マンション大規模修繕工事

2012年07月06日 | 最近のできごと
 長い4か月だった。これほど、4か月間が長いと感じたことはなかった。今年3月から6月まで、住んでいるマンションの大規模修繕工事が行われたのである。築14年にして、初めて行われる大規模修繕工事。数年前からマンションの理事会で修繕計画案が話し合われたり、アンケートが取られたり、管理会社の意見を参考にしたりと、検討を重ねたあげく、数々の決定事項が通知された。
 年が明け、いよいよ今年ということで心の準備はあったものの、始まってみると、落ち着かない日々が、もう延々と、4か月どころか永遠に終わらないのではというような気分に包まれた。以前に住んでいたマンションでも大規模修繕工事を経験しているが、歳月の流れの変化か、規模の大きさのためか、その比ではなかった。
 事前に、工事日程表が配布され、近くの区民会館で工事説明会が開かれた。作業は原則として月曜から土曜、午前8:00~午後6:00。工事期間中はマンション敷地内に現場事務所を設置、現場代理人が常駐管理。下地補修工事、タイル工事、シーリング工事などなど。
 バルコニーの高圧洗浄、下地補修、壁塗装、床防水工事の時は、危険防止のため、バルコニーに出ないようにとか、バルコニーに置いた物を片づけて下さいなど、具体的な工事の日程や、お願い事項の連絡が、チラシの配布とエントランスの工事用掲示板で通知される。何かの連絡の時のために、現場代理人の携帯番号も知らされた。
 騒音は、最初の足場組立中の外壁にドリル使用の時は、かなり大きくて驚かされたが、その後は、予想していたより少なかった。とは言え、さまざまな物音は、毎日ではなく1日中ではないが断続的に続いた。
 騒音の日時は前もって知らされるが、ドリル使用時の日はもう、どの部屋にいても轟音に感じられる凄さで、
(一体、どこにいればいいの)
 と、あちらこちらと移動したあげく、ドアを閉めた洗面所で携帯メールを作成送信した時もあった。
 それは数日のことだったが、落ち着かない気分にさせられたのは、作業内容やお願い事項の連絡のチラシ配布&エントランスの工事用掲示板での通知が、数日ごとや連日の時もあり、かなり頻繁なことだった。ビニールが張られたエレベーター内にまで通知の紙が貼り付けてある。
 足場出入口に人感センサー付き照明が設置されて、恐るおそる歩いたり。タイル貼り換え工事で、バルコニーに職人が入ると、サッシの施錠とカーテン閉めの連絡で、その日は食事しながらのテレビも見られないし、落ち着いてパソコン操作もできない。本も読めない。家事もできない。
(今日は出かけようっと)
 特に予定のない日は、徒歩圏内の新国立劇場へ、ワクワクしながら出かけた。新国立劇場は、大好きな場所。久しぶりに5階の情報センターへ行ったら、ビデオ・ブースの機器が新しくなっていた。過去の新国立劇場公演ビデオは、ビデオ・ブースの機器で観られるが、DVDは『資料閲覧証』が必要である。健康保険証を提示して作った『資料閲覧証』と、貸し出しのDVD申込書を受付で提出して、DVDと小型プレイヤーを受け取り、ビデオ・ブースへ。
 午後から行くと、6時の閉館時刻前までオペラのビデオを2本観られる。ビデオ・ブースの機器に内蔵された、過去の新国立劇場公演のビデオを1本と、貸し出しのDVDを1本。午前から行くと、オペラのビデオを3本観られる。
 そこで、運命的に素晴らしいビデオに、めぐり会ったのである。
(こんな素晴らしい公演があったなんて……!)
 その衝撃で、胸が熱くなり、頭も熱くなった。
『椿姫 新国立劇場公演 2002年9月5日 指揮 ブルーノ・カンパテッラ 演出 ルーカ・ロンコーニ 主演 アンドレア・ロスト マッシモ・ジョルダーノ 東京フィルハーモニー管弦楽団 新国立劇場合唱団』
 携帯の〈テキスト・メモ〉に、そうメモして、ワクワクしながら帰宅し、ネットの通販サイトでDVDを探したら、ない! どこにもどこにも、ない! こんな素晴らしい公演なのだから、DVDになっているとばかり思い込んでいたのである! が~ん、とショックで泣きたい気持ちで眠れなくなりそうだった。ビデオ・ブース画面より大きなテレビの40インチ画面で、もう1度あの陶酔と感動を味わえる──と、楽しみに帰って来たのである。
 そのソプラノ歌手の来日リサイタルに、昨年、行きそびれたことが悔やまれたが、そのビデオの素晴らしい公演は10年前のソプラノ歌手なのである! さらに、アルフレードを歌うテノール歌手は、私のイメージの甘さと弱さより、力強くてたくましい青年と感じられる新鮮なアルフレードなのだった。
 DVDがない新国立劇場公演だから、情報センターのビデオ・ブースの機器でしか観られないとわかった。そこで、行くたびに1回は観て、何度観ても全く飽きないほど素晴らしい公演で、
(10年前にオペラと出会いたかった)
 つくづく、そう思った。まだ生では観ていない演目だが、テレビやDVDで4回か5回観ている。感動のDVDもあったが、その公演を超えたと感じられるほど、私のイメージどおりどころかイメージ以上に素晴らしい『椿姫』の公演に、もう深く深く魅了されてしまったのである。
(もし、この公演を生で観たら、終演後、陶酔と感動のあまり、身動きできなかったかも……!)
 毎回、そう呟くほどのその公演や、他の公演のビデオ・オペラの世界に浸りきって……。頭の中が熱く浮遊したような心地で歩きながら帰宅すると、修繕工事中のマンションを眼にして、現実に引き戻されるような思いがした。
 洗濯物干し情報が、各階各戸ごと○と×で通知される。雨天の場合は屋内工事。階段シート貼り工事中はエレベーター使用など、通知と規制のオン・パレード。執筆は、その4か月間に、雑誌の短編が3本と、アプリ版電子書籍のハウ・ツー書き下ろし120枚。物音が聞こえると集中できない私は、時々、耳栓をして書いた。
 バルコニー側の壁塗装工事前に網戸を取りはずして自宅内に保管しておく通知に、網戸のはずし方の紙が添えられているのを見て、思わず、「ええっ」と声をあげたのは、何と1枚の網戸に2箇所のロックがあるなんて、この14年間、全く知らなかったのである。はずし方の紙には図解付きで、2箇所のネジをドライバーで緩め、小さな金属板をカチッと下に下ろすとはずれるという、ややこしさ。翌日、たまたま遊びに来た友人にドライバーでロックをはずしてもらい、2枚の網戸を取りはずして室内に入れてもらった。
 また、玄関扉枠塗装の日は在宅の通知。塗装後、乾燥2時間、扉を閉めないためだった。希望の日時の連絡はしたが、当日、時間を早めてもらった。
 そんな落ち着かない気分の日々、20代30代の爽やか青年作業員たちが、顔を合わせると、いつも明るい声で挨拶してくれた。
 若い作業員たちが一生懸命働く姿は、素敵で、頼もしくて、たくましくて、格好良くて、
(日本は大丈夫ね。若い男性たちが、あんなに汗して一生懸命働いているもの)
 そんな気分にさせられた。自宅を出入りするたび、若い作業員たちが働く姿を見るのは、修繕工事中で唯一、精神衛生に良かったことである。その姿を見たくて、用もないのに出たり入ったり……しなかったけれど。
 エントランス床の夜間工事で夜10時から朝6時まで通行止めになり、それが最後の工事で足場解体。大規模修繕工事がようやく終了して、あちらを見てもこちらを見ても、きれいになったマンションは気分がいい。
 騒音や物音などの通知の日、新国立劇場の情報センターへワクワクしながら出かけては、オペラのビデオを観て感動のひとときを過ごしたことも、楽しい思い出となりそうである。



                           



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