安藤先生の月刊ブログ 「きらめき」

何気ない毎日に"きらめき"を感じていますか?

「夏は来ぬ」

2020年05月25日 | 月刊ブログ

 桜の季節から一気に新緑の季節になりました。立夏が過ぎ、間もなく梅雨の時期となります。日中はもうすっかり初夏の陽気です。さわやかな風と、目に眩しい新緑を見ているとある歌を思い出します。「夏は来ぬ」です。ゆったりとしたメロディは心が透き通っていくようです。

「夏は来ぬ」は「夏が来た」の意味です。作詞は万葉学者で歌人の佐々木信綱です。明治から昭和を生きた人で、この歌から日本の古き良き時代の古典も学ぶことができます。

卯の花の匂ふ垣根に
時鳥[ほととぎす]早も来鳴きて
忍音[しのびね]もらす夏は来ぬ


五月雨[さみだれ]のそそぐ山田に
早乙女[さおとめ]が裳裾[もすそ]ぬらして
玉苗[たまなへ]植うる夏は来ぬ


橘[たちばな]の薫[かを]る軒端の
窓近く蛍飛びかひ
おこたり諌[いさ]むる夏は来ぬ

楝[あふち]ちる川[かは]べの宿の
門[かど]遠く水鶏[くゐな]声[こゑ]して
夕月[ゆふづき]すずしき夏は来ぬ

五月闇[さつきやみ]蛍飛びかひ
水鶏[くゐな]鳴き 卯の花咲きて
早苗[さなへ]植ゑわたす夏は来ぬ

 ちょうど今の季節の田園風景を想像することができます。五月雨は梅雨のことなのだそうで、これから一月以上続く梅雨を表しています。この時期に行われる田植えや、ホタルが心を癒してくれる様子が伺えます。今は見ることのできない季節の生き物や風景がこの歌の歌詞とメロディーを通して、私たちに郷愁を抱かせます。このような感情を継承していくことが歌い継ぐということなのでしょう。亡き父が好きだったこの初夏の歌はこの季節になるたびにいつも思い出してしまいます。

 

 この歌には出ていない初夏を代表とする花に「あやめ(菖蒲)」があります。5月5日の端午の節句(子供の日)には「菖蒲湯」に入るのが習わしです。我が家では今でも菖蒲湯を立てています。あやめと菖蒲は同じ読み方ですが生息場所が違うそうです。

 あやめは、「いづれあやめかかきつばた」と美女の風姿に用いられるように、あでやかな美しい花を付けます。あやめ、菖蒲草(あやめぐさ)といった形で万葉時代から歌に詠まれてきた花です。『伊勢物語』には同種のカキツバタが詠まれたり、尾形光琳のように屏風に映したりしたということです。

 

 新型コロナウイルス感染予防で緊急事態宣言が発令され、何気ない日常を失うことになりました。会いたい人に会ったり、行きたい所に行ったりすることができなくなると、今までの当たり前の毎日は本当に幸せなことだったのだと感謝しなければならないことを感じざるを得ません。

 学校では、5月初旬の長期の自粛を除いては、今は皆、公務員試験合格の目標に向かって勉学に励んでいます。ただ、遠足やスポーツが延期中止となり、学生たちは、ストレスがたまっているのではないかと心配しています。教室内で従来のようにグループワークを行うこともできず、一定の距離を保ったままの授業を行っています。

 高校生も休校の中、部活動が中止となり高総体も3密の要素が高いため中止の報が出されています。先日の甲子園高校野球大会の中止の報道で、高校生の泣き崩れる姿がテレビで放送されていました。高校球児の夢である甲子園を目指してこれまでやってきたのに、と悔しい涙を流していました。3年生は、このメンバーでは二度と試合をすることができないと思うと残念でならないと唇を噛んでいました。そんな様子をみて、大人たちは、自分たちも通ったその青春の一時期を思い出して、県大会だけは実現させてあげようと尽力してくれているそうです。全国のいくつかの県ではその決定がなされました。

 高校生たちにも本校学生たちにも「夏は来ぬ」です!

 

 Photo by mizutani


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